第554話 いつから勘違いしていた?
View of キュアン=サーレス サーレス侯爵家次男 白の軍将軍
王都を発った俺達は行軍しながら道中で兵や物資を集め、国境に辿り着いた時には七万程の数になっていた。
主力である魔法使いが白黄合わせて一万、残りは輜重隊と壁役だが演習でもこの数を指揮したことはない。
「レベト。明日には戦場に着くが、どうする?壁の連中は三万五千ずつに分けて運用するか?」
「……キュアン。普通に軍として砦を攻めるつもりなの?」
「どういう意味だ?」
打ち合わせの為に天幕に集まったというのに、相変わらずボケっとしたままのレベトに焦れた俺が尋ねると、首を傾げながらレベトが謎の質問をして来る。
レベトは頼りになる奴だが、こういう二人切りで打ち合わせをしなければならない時は本当にキツイ相手だ。
ヴェインの解説がないと、意図が全然分からねぇ。
「だから、砦を攻略するのがとりあえずの目標でしょ?」
やはりこちらは見ずに言うレベトに俺は頷く。
……せめてこっち見ろよ。
「そうだが?」
「普通に攻めるの?」
「普通じゃない攻め方ってどんなだよ?」
何が言いたいのかさっぱり分からん……いや、違う。
レベトは普通に攻めるよりも良い方法があるって言っているんだ。
多分。
「キュアンはさ、個人だと暴れまわったり好き勝手にやることを好むけど……こういう時って物凄く真面目だよね」
「……あぁ?」
馬鹿にするようなレベトの言葉に俺はイラっとするが、レベトにそんなつもりが一切ない事は百も承知だ。
しかし、イラつくもんはイラつく。
「前衛に強化魔法をかけて盾を構える。相手よりも射程の長い強弓を使って攻撃。敵の攻撃が薄くなってきたら攻城兵器を前に出して城壁を破壊。突入して白兵戦で制圧……とか?」
「……」
「他の砦を魔物に襲撃させて援軍を許さず、伝令は最優先で潰す。砦の規模から敵総数は三千程度、開発局長からサンプルを頼まれているから一定数は確保して、残りは斬首」
まさに俺が考えていた通りの流れだが……このまま頷くのは非常に癪だ。
「まぁ、概ねそんな感じで考えていたが……もう少しひねりがあるかな?……『至天』への対応とかな?」
「あぁ、うん。それも必要だね。でも『至天』の内厄介そうな『爆炎華』と『氷牙』は無色の連中が捕えて王都に連れて行ってるところだし、残っている厄介なのは現第一席と『轟天』くらいでしょ?俺とキュアンの二人が居れば問題ないよね?」
「……うん」
淡々と話を続けるレベトに俺は力なく頷く。
「でもさ、わざわざ真面目に砦を攻略する必要ないんじゃないかな?」
「だからどうやるんだって聞いてるだろ?」
「うん、キュアンの魔法で砦ごとふっ飛ばそうよ」
「……」
中空を見つめながら放たれた言葉に思わず俺は絶句する。
トリデゴトフットバス。
「……」
この子何言ってんの?
「キュアンなら出来るでしょ?」
「んーあー、ど、どうだろうな?砦に向けて魔法撃ったことないしな……」
「……じゃぁ、こうしよう。普通に砦攻めの準備をする」
「おう」
「白黄を分けずに、前面に盾を並べて主力は横並びに後方配置」
二つの軍を分けずに一塊にして布陣か。
五色の軍は何かと張り合おうとするからな……新将軍である俺達にはそういう各軍の軋轢やらプライドやらは存在しないし、幼馴染であり同士でもあるから仲は良いんだが、部下達はそうでもない。
相手を出し抜いて戦功をあげようとする奴等は、パッと思いつくだけでも片手に余るくらいだ。
そんな連中を並べて配置して大丈夫か?
いや、離して配置した方が相手を出し抜こうと勝手に動いて厄介かもしれない……のか?
部下を持つと余計な気苦労が生まれて面倒だ。
やっぱりそういうのはヴェインに任せて、俺は一人で暴れる方がいいぜ。
って今はレベトが戦術を話している最中だったな。
「砦に向かってある程度の距離まで軍を進めたら……」
「……」
「キュアンが前に出て全力で砦をふっ飛ばす」
軍のくだりはどうした?
結局最初に言ってた奴じゃねぇか!
「軍を並べて進軍させた意味は?」
「うん、キュアンはね、根本的に勘違いしているよ」
「勘違い?」
「そう。今回の戦い……戦力となるのは軍じゃない。俺達なんだよ」
「……」
「俺達がここまで連れてきた軍はね?戦力じゃなくて雑用係。敵の伝令を潰すとか、侵攻先の下見とか、俺達のご飯や寝所の用意とか……後は占領した街や村の統制とかね。戦いは俺達二人で十分なんだよ」
そうなのか?
いや、俺達は将軍だぞ?
将軍ってのは軍を指揮するのが役割だろ?
そりゃ、俺は一人で前線に立つ方が得意だが……それでいいのか?
「俺達の敵は帝国じゃなくって『至天』だよ。『至天』さえ倒してしまえば、残った雑兵なんて何万いようと何十万いようと俺達の敵じゃない。そうでしょ?」
「……確かにそうだな」
「砦だって、俺はキュアンなら余裕でいけると思う。一発でダメだったとしても単発でしか撃てない儀式魔法とは違うんだ、二発三発と撃ち込めば良いだけ」
確かに、全部レベトの言う通りだ。
俺は初陣って事で舞い上がっていたのか?
そんな単純なことにも気付かなかっただなんて……我ながらどうかしてたとしか思えない。
「……落ち着いたみたいだね」
「あぁ、初陣に少し緊張していたのかもな」
俺がそう言うと、レベトがようやくこちらを見ながら口を開く。
「うん、少しどころじゃなかったと思うけどね」
「……とりあえず、さっきレベトが言った手筈通り進めるって事で良いか?」
これ絶対王都に帰った後ヴェインたちに報告されるな。
普段通り何を考えているのか読み取りにくい表情のレベトを見ながら、皆にからかわれる未来だけは確信出来た。
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