第539話 でぇと
「初めてきたが……これは驚いたな」
「うむ、同感じゃ。まさかこんなことになるとはのう」
俺とフィオは目の前に広がる光景に唖然としながら呟くように言う。
フィオを連れて出かけると決めた俺だったが……正直お出かけに適した場所なんて心当たりは全く無かった。
でもまぁ、テーマパークに行くだけがデートではないし、折角だから俺もフィオも見たことが無い場所に行くことにしたのだ。
俺が行った事のある大半の場所は、フィオも俺の中から見ているからな。
ってわけで、俺は自身が一度も行った事のない場所。
もしくは、行った事はあるけど様変わりした場所。
そのどちらかが良いと思ったんだけど……一度も行ったことが無い場所はともかく、俺がこの世界に来て四年弱……流石にそんなに急激に様変わりすることはない。
重機とかで一気に建設とか開拓とか出来る訳じゃないし、かと言ってうちの子達が全力で開拓やら建設やらをやった場所は俺も言った事がある。
だから一度も行った事のない場所で見ごたえのある場所……そう考えていたんだけど、一か所だけ、俺が行った後に急速に発展した場所があった事を思い出したのだ。
それは、大陸南西部……かつて蛮族の支配する地と恐れられた、スティンプラーフ地方だ。
実は現在、スティンプラーフ地方はびっくりするくらい開発が進んでいる。
というのも、以前蛮族王ラフジャスが農耕地を作りたいと望んでいたあの土地は……残念ながらというか、予想通りというか、荒地……砂と石、岩の大地が広がるばかりで、農業に全く適していない事が判明していた。
まぁ、枯れ果てた大地だからこそ、周辺国は昔からスティンプラーフ地方に手を出すことなかったのだろうし……その結果蛮族たちが一大勢力を築き上げるまで放置されたのだろう。
レギオンズ産の種を使えば……多分岩の上だろうと何だろうと野菜や果物、羊は育つと思うけど、アレはセキュリティ的に色々問題があるからね。
流石に蛮族達にハイどうぞと任せるには難しいものがある。
そんな感じで、ラフジャスはめちゃくちゃショックを受けていた……本人も北の方に行かないと農業は多分無理って分かっていたみたいだけど、改めて突き付けられるとショックだったらしい……スティンプラーフ地方は別のお宝が眠っていた。
それは鉄を始めとした鉱物だ。
元の国の名前は忘れたけど、蛮族達に滅ぼされた国にも鉱山があったので、ドワーフ達に調査してもらったのだけど……ドワーフ達をここに連れて来た瞬間、目の色が変わったからね。
何処を掘ってもお宝が出て来る……そんな感じだったらしい。
特に大きいのは魔石だ。
勿論、俺達エインヘリアが集めている魔石ではなく、オスカー等魔道具技師達が使う方の魔石がそれはもう属性を問わずあちこちで採れるらしい。
普通は場所によって採れる属性が決まっているらしいんだけど、このスティンプラーフ地方では節操なくどんな属性でも採れるそうで地質学的にも大変貴重な土地だそうだ。
因みにこの地に国立の魔道具研究所を建てたいという打診があり、前向きに考えているところだけど……数十年後にはこの地に学研都市とか、エインヘリアの最高学府とかが建設されたりとかする……かもしれないね。
その頃には、ここが蛮族が支配していた土地であったこととか完全に忘れ去られてそうだ。
蛮族都市からインテリ都市への変遷……凄い変わりようだな。
まぁ、今はまだゴールドラッシュというか、鉱山都市って感じだけど。
「以前お主が来た時は、集落もあばら家の方がまだしっかりしておると言うようなレベルじゃったが……エインヘリアの城下町のようなしっかりした建物に変わっておるのう」
「うちから建築材を持ち込んでいるからな。木材は殆ど採れないし、石材は石切り場を作れば採れるんだろうが……わざわざ石材を採らなくてもいいしなぁ」
石切りはかなり危険な仕事だし……まぁ、鉱山も似たようなものかもしれないけど……いや、ドワーフ達ならどっちも完璧にやりそうだな。
まぁ、石材と魔石や鉱物じゃ利益率や用途の幅広さが全然違うし、他所でも採れる石材をわざわざここで採る必要はないということだ。
「今は石を切るより掘る方が儲かるみたいじゃしのう」
「そうだな。まぁ、それにしてもここまでスティンプラーフ地方が活気づくとは思わなかったな」
「今後は研究施設や高等教育用の学府を建設したりとか考えておるのじゃろ?」
「将来的にはって感じだな。フィオもなんか教えるか?」
「ふむ……それも面白いかもしれぬのう」
「フィオが先生か……」
面倒見は良いし、難しい内容も相手に会わせてかみ砕いて説明してくれるし……悪くないかもしれない。
「なんじゃ?似合わんとでも言いたげじゃの?」
「いや、そんなことはないぞ?結構上手くやりそうだなって思ってたんだが……ん?読めなかったのか?」
「……そ、そうじゃったか。邪推してしまったようじゃな、すまぬ」
こうやって傍で話しているのに、フィオが真逆の読みをした?
急に俺が本心を隠すのが上手くなった可能性も捨てきれないが……どちらかというとフィオの読みが下手になったと考えるべきだな。
その理由は……?
そこまで考えた俺は、もしかして体調が悪いのではないかと不安を感じ、フィオの事をしっかりと観察して……そ、そういえば……ここに来てフィオの姿をちゃんと見るの初めてだったような。
今のフィオはお忍びということで 一般的な平民女性の格好をしている。
以前もリーンフェリアが似たような恰好をしていたっけ……あれは、ルミナを助けた時だったな。
……そんな風に一瞬現実から目を逸らしてみたものの、やはり現実からは逃げられない。
いや、逃げる必要はないんだけどね?
恐らく、今現在……俺とフィオの考えている事はほぼ同じだという確信がある。
即ち……恥ずかしい。
フィオを観察しようと視線を横に向けた直後……俺は我慢できずに明後日の方向に首を向けていたのだが……いや、ほんと現実を直視しよう。
俺は顔の向きを力づくで左斜め下に固定する。
相反する方向に力を入れられた俺の首がめきょりと音を立てるが、根性で乗り越える。
そんな覇王の視線の先には……俺の左腕に掴まる、しがみついているフィオがいた。
その顔は……百八十度俺とは反対方向に向けている為全く見えないが……耳まで真っ赤になっているところを見る限り、恐らく顔も真っ赤だろう。
鉱山都市……凡そデートに相応しいロケーションではないけど、俺達からすれば初めてのお出かけだ。
まぁまぁ色々張り切ったり妄想したりしてしまうのも……無理はないだろう。
特に俺達の場合……お忍びデートが出来る機会って結構限られるし、張り切って色々挑戦してみようとしてしまう訳だ。
その結果が恋人らしく、そして一般人らしく腕を組むという行為に挑戦した訳だけど……ごらんの有様である。
「鉱山都市と聞いていたからもっとごみごみした荒涼な風景を予想しておったのじゃが中々に綺麗な所じゃな?」
大きな噴水の方に顔の向きを固定しながら、物凄い早口でフィオが捲し立てる。
「あれはうちの施設だからな。この辺りは水源の確保が難しかったから……まぁ、裏技だ」
レギオンズの施設である噴水広場。
これを設置すると治安が向上して、その都市の魔石収入が一割増えるという効果があった物だけど……魔石が増える効果は発揮されず、噴水を置いただけで治安が良くなるような洗脳電波が発せられることは無かった。
しかし、水源なんかどこにもないのに水が無限に湧き出て来るところだけはゲーム通りで……当然、噴水そのものが水源となり得るポテンシャルがあるわけだ。
だって水が噴き出していない噴水は噴水じゃないもんね?
そんな訳で、ここスティンプラーフ地方の各集落にはこんこんと水が湧く……いや、噴き出す噴水が設置されている。
勿論、ここらの大地は水をガンガン吸い込んでしまうので、水路の建設も込みだ。
「場所によっては戦争すら引き起こしかねん噴水じゃのう」
「対価さえ払えば普通に提供するぞ?魔石と建材があれば設置可能だしな」
その対価も何を貰えば良いか微妙だけど……。
「エインヘリアに支払う対価か……普通は金銭じゃろうが……」
「金は……いくらあっても困らないとは言うけど、いくらでもあるんだよなぁ」
かと言って、普段なら即座に要求する魔力収集装置の設置だが……それももうエルディオン関係以外は全ての地域で設置オッケーが出てるしな。
正直慈善事業でも良いくらいだけど、このご時世……まだまだ慈善とか、国家規模の支援とか……受け入れられないよな。
国際社会には程遠い時代区分だし仕方ないけどね。
「この大陸は……まだまだこれからじゃな」
そう言ってフィオが俺の腕にしがみついたまま顔の向きを俺の方に変えて……当然俺は気合でフィオの方に顔を向けていた為……物凄い至近距離で目が合ってしまう。
「「……っ!??」」
元々赤かったフィオの顔がさらに赤くなると同時に、俺達はお互いのけぞり……しかしフィオは俺の腕を離さなかったのでそこまで距離は空かず、往来の真ん中で俺達は金縛りにあったかのように奇妙な体勢で固まった。
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