第535話 軍とか英雄について



「次はエルディオンの軍事についてです。エルディオンには五色と呼ばれる軍があり赤、青、白、黒、黄を名乗っておりますが、それらを纏める将軍は全て英雄ということになっております。更に最近無色と呼ばれる軍が新設されましたが、こちらに将軍はいないようですね」


 以前、前皇帝から聞いた情報よりももう一つ詳しい情報をキリクが語る。


 無色か……前皇帝の予想が正しければ人造英雄の軍って感じだけど……。


「更に諜報機関として『風』その中でも暗殺に特化した『闇』情報操作を専門とする『水』が存在します」


 諜報機関の名前とさらにその役割までばっちりですか……まぁ、うちの子達なら当然だね。


 いや、これを調べてくれたのは外交官見習いの人達かな?


 って考えると……物凄く頑張ってくれたんだろうなって気がするな。


 犠牲とか出てないといいんだけど……。


「以前まで、エルディオンには七人の英雄がいるとされていましたが、こちらはもう既に当てにならない数字となっていますね。御存知の通り、エルディオンは人工的に英雄を作り出す技術を手に入れています。しかし、エルディオンと言う国では純血の魔法使いしか英雄と呼ばないと言うルールが存在する為、現在エルディオンに所属している英雄は十二人となっております」


「増えた五人は……新しい五色の将軍か?」


「はい。フェルズ様のおっしゃる通りにございます。元々エルディオンでは純血の魔法使いしか英雄と認めないということで、その質が疑問視されておりました。帝国のような六千万を超える人口を持つ国であっても、英雄と呼ばれているのは二十名程。それに対し、エルディオンの純血と呼ばれる貴族の数は一万どころか千にも届かない数しかおりません」


 ……確かに。


 数百人の中から十二人も英雄が出現するのであれば、帝国は英雄を何十万人と抱えていてもおかしくない。


 何それ怖い……。


 いや、新しい五人は人造英雄っぽいから天然物は七人……?


 それでもあり得ない確率だけどね。


「今回新たに五色の将軍となった五人は恐らく人造英雄。そして元々いた七人の内、五色以外の二人は間違いなく英雄でしたが、元五色の将軍は帝国で言うところの準英雄程度の実力しかありませんでした」


「ふむ……以前リズバーンに聞いた話では、五色の将軍は手ごわい相手だったと言っていたが……別人か?」


「スラージアン帝国とエルディオンが戦ったのはかなり前の事ですが、リズバーン殿と戦った事のある英雄の内二人は五色の将軍ではない人物です。後一人リズバーン殿互角の戦いをした人物は既に亡くなっており、今回話に出た元五色の将軍は全員別人となっております」


「なるほど……」


 エルディオンは鎖国状態で帝国もあまり新鮮な情報を仕入れられてないって感じみたいだから、リズバーンが将軍の代替わりを知らなくても仕方ないか。


 っていうか二人は残ってるのか……リズバーンみたいに生涯現役みたいなタイプか?


「五色の将軍はそれぞれが一騎打ちで戦って代替わりをしたみたいですが、その実力差は圧倒的だったようです」


 元将軍が準英雄級だったのなら人造英雄に負けるのも無理ないよな。


 普通の英雄より強い英雄を作り出すことに成功したのかと思ってたけど……そういう感じでもないのかな?


 いや、分からんか。


 分かったのは倒した相手が弱いってだけで、本人達の実力を測る物差しとしては不十分だ。


「ここで注目すべき点は……純血の魔法使いを人造英雄へと変えたと言うところですね。彼らは血を神聖視しているので、純血の魔法使い相手に実験を行うことはありえません」


「つまり、人造英雄を作る技術は確立したという事か」


 確立した技術でなければ、純血の魔法使いに処置なんて絶対にしないだろうからね。


 ただ、純血の魔法使い全員に処置を施さないのは……まだ実験の意味が含まれているのか、それとも一気に数を増やすことが出来ないのか……もしくは人数制限があるのか……その辺は今後重点的に調べてもらった方が良さそうだ。


「はい。新設された無色の軍……そこに所属する者達は、周辺国に送り込まれていたような者達から成功に近い者達まで、実験によって生み出された……エルディオンにとっての失敗作が集められた軍と言えます」


 本当に……エルディオンはやることなすこと業が深いというか……。


 一軍が作れる程人体実験を重ねた上での完成品が五色の新将軍ってことね。


 ……これは多分、貴族位を剥奪された魔法の使えない純血も実験台にされてるだろうな。


「軍と呼ぶには少々物足りない数ですが、英雄を三百人近くそろえた軍は機能すれば相当厄介な相手と言えますね」


「機能すれば、か……」


「無色の軍についてはまだ調査中ですが、もしこれが帝国になだれ込むようでしたらかなりマズい事になりかねません」


「中には『至天』の一部の者達のように特殊な能力を持っている英雄もいるかもしれない……『死毒』や『縛鎖』のような凄まじい能力も存在している訳だしな」


 色々な効果を持った毒を自分の意思だけでまき散らせたり、とんでもない生命力と回復力で手足がもげても数日で生えてきたりするようなびっくり人間。


 リカルドの様に、思考だけが加速して自分の体が動かせなくなってしまったと錯覚するようなデメリットだらけの能力。


 無色の連中は三百人もいるらしいし、とんでも能力を持っている奴がいてもおかしくはない。


 周辺国に送り込まれている奴等は、ちょっと頭がアレで身体能力に優れたって感じの奴しかいなかったけど、アレは最初の頃の実験成果という可能性が高そうだしね。


 バリバリの成功例をエルディオンが他所の国に送り込むとは思えない。


 いや、エルディオンに限らずか。


 帝国も……ソラキル王国に送り込んでいたのは、当時戦闘系で一番席次の低いエリアス君だったしな。


 いや、エリアス君とあの暴走英雄達を一緒にするのは失礼か。


 まぁ、仮に特殊な能力を持たない連中だったとしても、三百人もあの手の連中がいたら『至天』でもマズいかもしれない。


「フェルズ様の御懸念もっともかと……無色の者達については詳細を調べた方が良いかもしれませんね」


 キリクが考えるようにしながら言う。


 外交官見習いの方々には追加オーダーとなりそうだけど……いや、そろそろ外交官を解禁した方が良いかもしれない。


「帝国の事を考えると、無色については早めに把握するべきだろうな。見習い達では荷が重いか?」


「……ごめんなさい」


 俺の言葉にウルルがしょんぼりしながら謝る。


 まずい、そういうつもりはなかったのだが……なんかウルルを責めた感じになってしまったようだ。


 そりゃそうだ……見習いとは言え外交官のトップは外務大臣であるウルル。


 部下を役立たずと言ったも同然じゃないか。


「いや、時間があれば見習い達でも問題ないのだろうがな。しかし、強引に調べさせて犠牲が出る様な事は避けたい。少し予定とは違ってしまうが、ウルル、外交官達で調べてくれないか?」


「……了解。早急に……エルディオンの英雄……調べます……」


「すまない。見習い達はそれ以外の部分に回してくれ」


「……はい」


 コクリと頷くウルル。


 ……大丈夫かな?


 見習い達の訓練……更に激しいものになったりしないよね……?


 何か彼らにとって絶望しか与えないような選択肢を選んでしまったような……そんな気がする。


「では、エルディオンの英雄についてはウルルの報告待ちということで。今回の報告は以上となりますが、何か確認したい事がある人は居ますか?」


「エルディオンの行っている研究についてはまだ何も情報が無いのかい?」


「えぇ、そちらはまだ調査中です」


「あいよ」


 研究系はまだか……取り急ぎ、エルディオンの実情と軍についてを調べたってところみたいだね。


「フェルズ様。不躾ではありますが、願いたきことが」


「なんだ?」


 キリクが改まって俺にお願いしたい事があると言う。


 なんだろうか……背筋が伸びちゃうね。


「大変失礼とは存じますが……今後、この会議にフィルオーネ様も参加して頂くことは可能でしょうか?」


「フィオを……?」


 俺が警戒していたような無理難題と言う訳ではない……いや、寧ろ簡単な話だ。


 多分フィオであれば喜んで参加してくれると思うけど、しかしまたなんで?


 あまり血生臭い事には触れさせたくない気もするんだけど……フィオの知見は間違いなく頼りになる。


 その辺りが理由かな?


「フィルオーネ様は現在魔王の魔力の研究、それとこの世界の魔法および魔道具についての研究に携わって貰っております」


 忙しそうにしているとは思っていたけど……めっちゃ働いてるやん。


「研究以外の分野でも知識の収集において並々ならぬ意欲を持っておられるようで、様々な分野の方と意見を交わされている様です」


「ふむ」


「今後、エルディオンの研究について調べていくにあたり、フィルオーネ様の知見は非常に大きな助けとなる事と思います。ですので、不躾ではありますがその知恵をお借りしたいと」


「なるほどな。本人が承諾するのであれば、別に俺に許可を取る必要はない。フィオには俺の方から話しておこう」


「恐れ入ります。それと、フェルズ様、フィルオーネ様に護衛を付けようと思うのですが、宜しいでしょうか?」


「フィオに護衛?」


「はっ!フィルオーネ様は我々にとって大事な御方。万が一……いえ、危険が近づくことそのものを排除する必要があります」


 危険から守るのではなく、危険な状態すら訪れさせない様に……それはもう、日常から厳戒態勢ってことよね?


「そこまで仰々しいものにする必要はないが、確かに護衛を付けておくのは悪くないか。これも本人に確認してみるが、人選は任せて良いか?」


「お任せください」


 フィオは、戦闘能力はそんなに高くはしてないからな。


 技術的なことを抜きにした身体能力なら……エリアス君とタメくらいだろうか?


 元々インドア派で運動とか全然らしいから、エリアス君と手合わせしたら負けるだろうし……うん、護衛はつけておいた方が良さそうだね。


 今までは城の中にいたからその必要性はあまりなかったけど、今後は外に出る機会も多くなるだろうし、専属の護衛を付けても良いだろう。


 何だったら近衛騎士の役職を作ってもいいかな?


 ……フィオの護衛は、女の子だよね?


 ……いや、大丈夫だろう。


 俺の……アレに男の護衛を付けたりする筈がない……けど、一応確認しとくか?


 そんなことをぼんやりと考えている間に、皆が細々とした報告を終え会議は終了した。


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