第530話 所詮覇王



「リーンフェリア。フィオが何処に向かったか聞いてないか?」


「フィルオーネ様ですか?申し訳ありません、私は存じ上げておりませんが……探してきましょうか?」


「……いや、大丈夫だ。折角だから散策ついでに探すとしよう」


 ……べ、別に日和った訳じゃないんだからね!


 フィオも新規雇用契約書で呼び出した存在なので『鷹の声』と『鷹の耳』を使えば直接話が出来るけど、ちょっと運動がてら散策したいなって気分だっただけなんだからね!


 さぁ、そんなわけで……どこから探そうか。


 やはり……フェイルナーゼン神教の聖地かな?


 ……。


 ……いや、分かってるよ。


 フィオが絶対にそこにいないことくらい。


 とはいえ、フィオが聖地に居ない事は分かるけど……何処で何をしているかはさっぱり分からない。


 いや、フィオを呼び出してこっち、忙しそうにしているのは知ってたんだけど、なんか邪魔するのも気が引けてゆっくり話が出来なかったんだよな。


 そのせいで現在フィオの居場所が見当もつかない訳だが……まぁ、のんびり探そう。


 ……城は超広いから、下手したら数日かかるかも知れんが。


 ……いや、ホント日和ってるわけじゃないよ?


 事ここに及んで今更……ねぇ?


 誰に言い訳しているのか分からないけど、そんなことを考えつつ俺は城の中を歩いていく。


 特に目的地を決めずに歩いたせいか、通い慣れている自分の執務室へと辿り着いてしまったんだけど……まぁ、確実にフィオはここにはいない。


 俺が部屋にいない時は、許可がない限り入室禁止の場所だしな。


 フィオはその辺のルールをしっかり守っている様なのでここに居る筈がない。


 まぁ、癖で来てしまっただけである……別に時間稼ぎをしているわけではない。


 当然部屋には寄らず俺は別の場所へと向かいますとも。


 ここでフィオが俺の執務室をつかって仕事をしていたりしたらお笑い草だが、それはないと断言できるからね。


 ……フラグじゃないよ?


 そんなことを考えつつ俺は適当にぶらつき……今度は食堂へとやって来た。


 お昼はとっくに過ぎている時間帯なので食堂は閑散としており、当然フィオもここにはいない。


 あと数時間もすれば夕食で賑わう食堂も、誰もいないとなんだかもの悲しさを感じるね。


 ここにフィオがいない事もなんとなく分かっていたけど……あれよほら。


 万が一もあるからね?


 後、いる訳ないと決めつけて後回しにした結果……そこに居たりするのが探し人ってもんだから、可能性は手あたり次第潰していこうと思う所存なり。


 さて、とりあえず主要施設……いや、ゲーム時代に維持費のかかった施設でもぐるっと回るか。


 食堂、訓練所、飛行船発着場、魔法研究所、武器開発所、図書館、医務室……今も現役で大活躍している施設から、殆ど息をしていないような施設まで色々あるけど、とりあえず順番に巡ってみる。


 訓練所や飛行船発着場、医務室辺りはフィオのいる可能性は低いと思うけど、魔法研究所や武器開発所、図書館あたりにならいるんじゃないかな?


 そう思って順番に全ての施設を周ってみたのだけど……今日は来ていないとのことだった。


 因みに武器開発所と魔法研究所は隣り合わせの施設で、今はドワーフ達やオスカー等の魔道具技師が占拠して様々な研究開発を行っている。


 武器関係は一切作ってないのに武器開発所ってのも不思議な感じだけど……ゲーム時代から武器以外の道具も開発できたので今更だろう。


 フィオは研究者を名乗っているし、ここに居る可能性が一番高いと思っていたのだけど……これは捜索が難航する予感。


 その後俺は教会や魔力収集装置を周り……宝物殿や倉庫は絶対に居ないと思ったけどついでに確認した。


 ……何処にもいないぞ。


 玉座の間を覗き誰もいないことを確認した俺は、若干途方に暮れる。


 適当に歩いてたら見つかるやろ……そんなことを考えてもう二時間以上経過している。


 城が……城が広すぎる……。


 まぁ、思いつくままに歩いているから行ったり来たりを繰り返して効率が悪いってのもあるんだけど……それにしてもここまで見つからないとは予想外だった。


 なんというか、何も言わずにずっとついて来てくれているリーンフェリアに申し訳なくなって来た。


 うーん、もしかしたら城にはいないのか?


 いや、城に無数にある部屋のどれかで書類仕事をしているって可能性もあるけど、もしそうだとしたら人に聞かずに見つけるのは不可能に近い。


 フィオ用に執務室を作っておくべきだったな。


 いや、恐らくキリク達が用意しているのだろうけど……俺が指示してここを執務室にしろって命じておくべきだった。


 ここでふと……まずはフィオの私室に行くべきじゃね?という考えが頭を過ったが……敢えて、敢えてここはスルーしようと思う。


 勿論、フィオの居場所をメイドの子達に聞けば遠からず分かるだろうし、何だったら俺を隠れて護衛しているらしい外交官に聞けば一発で判明するだろう。


 でもさ……ここまで探してきて、誰かに答えを聞くってのは何か負けた感じがするじゃん?


 いや、別に誰とも勝負はしていないんだけどさ……でもなんかほら、ねぇ?


 別に日和ったり尻込みしている訳ではなく……そう!


 矜持!


 覇王としての矜持の問題なのだよ!


 というわけで、視点を変えて城下町に出てみよう。


 城の敷地内ではなくそっちにいる可能性も否定できない。


 そう考えた俺は城下町に向かう為に城の外へと出る。


 城下町でフィオが行きそうな場所って……どこだろう?


 やばいな……見当もつかないぞ。


 とりあえず時計台広場に向かって……その次に噴水広場に向かうか?


 アーグル商会の本店もありだな……後は、バンガゴンガの結婚式に使ったチャペルとか?


 ……結婚とかの話をしたし、チャペルってのはあるんじゃね?


 ここに来て覇王の知略85が火を噴いたかもしれん……!


 よし、チャペルから攻めよう!


 意気揚々と城門に向かって歩いていた俺だが、ふと時間が気になり空を見上げる。


 日が西に向かって沈みかけており、後三十分もすれば薄暗くなってしまう頃合い……エインヘリア的にはそろそろ晩御飯の支度をするかって時間帯だけど、他の国……特に農村部では晩御飯も終わり、寝床の準備を始める様な時間だ。


 エインヘリアでは街も村も煌々と街灯に照らされ、自宅でも魔道具による明かりが使われている家庭が殆どなので、まだまだ寝るには早い時間だ。


 とは言っても、農村部だと夜起きていてもやれることが殆ど無いので、多少寝るのが遅くなる程度の違いくらいしかないみたいだけどね。


 ご家庭で出来る娯楽のようなものも考えた方が良いかもしれない。


 切っ掛けさえあれば、人は色々な娯楽を自分達で生み出していくだろうけど……やはり最初の一歩は提示してあげるべきだろう。


 スポーツ、芸術、娯楽、教養……人生を豊かにするためには欠かせないものだと思うし、そのどれかがあれば、大抵の人は趣味の一つも得られるだろう。


 やっぱり趣味は大事だよね。


 俺の趣味であるゲームは……うん、まだ数百年は開発に時間がかかりそうだ。


 あれって何が開発されたら作れるんだろうか?


 テレビ……?


 パソコン……?


 電気……?


 いや、この世界だと魔力とかでいけるかもしれない。


 かと言ってオトノハ達にゲーム開発してくれとは……中々言えないよなぁ。


「フェルズ様……?」


 そんなことを考えつつ、ぼーっと沈みゆく夕日を眺めていた俺にリーンフェリアが声をかけてきた。


 その声に若干の戸惑いのような色が感じられたのだけど、もしかして一瞬のつもりだったけど結構長い間ぼーっとしてたのか?


「すまん、少し沈んでいく夕日に目を奪われてしまってな」


 夕日をガン見していたというのに目がちかちかすることもないのは……本当にフェルズの体ってどうかしていると思う。


 俺がはっきりくっきりした視界でリーンフェリアの方を見ながら苦笑すると、リーンフェリアも夕日をじっと見つめた後に微笑む。


「とても美しい光景です……あら?あれは……」


 夕陽を見ていたリーンフェリアが何かに気付いたように少し目を細める。


「どうした?」


「いえ……フェルズ様。あちらのバルコニーにフィルオーネ様が」


「む?」


 目を細めていたリーンフェリアが指で指し示した先……城の三階にあるバルコニーの手すりに、フィオが頬杖を突くようにしてもたれかかっているのが見えた。


 ……やはり、俺の予想通り城にいたようだな!


 城下町にいるはずないとか……知ってたよ!


 ……ちくせう。


「リーンフェリア」


「はっ」


「すまないが、護衛は少し離れた位置からして貰えるか?」


「……畏まりました」


「それと護衛をしてくれている者に、暫くの間バルコニーに誰も近づけさせない様に言っておいてくれ」


「はっ」


「……頼んだ」


 流石に今からすることを誰かに見られながらというのは……ちょっと難易度が高すぎる。


 人払いを命じた俺は……うん、ここは外壁を伝ってバルコニーまで行ってやろうと思う。


 三階部分とは言え、城の三階だ。


 マンションとかで言うなら、五階よりも遥かに高い位置にバルコニーはあるように思う。


 とはいえ、フェルズの身体能力であればひとっ跳び……とはいかないけど、よじ登っていくような不格好なことにはならない筈だ。


 俺のイメージの中では、覇王がスタイリッシュにバルコニーまで辿り着けているしね!


 そう考えた俺が、城に向かって一歩踏み出したところで後ろから声をかけられる。


「フェルズ様!」


「なんだ?」


 呼ばれた俺が振り返ると、リーンフェリアが真剣な顔で……しかし薄っすらと頬を赤くしながら口を開く。


「が……がんばってください!」


「……あぁ」


 両手で小さく握り拳を作りながら、そして若干恥ずかしそうにリーンフェリアが応援してくれる。


 普段はキリっとしているリーンフェリアがそんな動作をすると、なんか物凄く可愛いんだけど……俺がフィオと会って何をしようとしているのかバレバレのようだ。


 解せぬ……何故だ……。


 だけどまぁ……応援してもらえた事は純粋に嬉しかった。


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