第523話 諜報活動
View of ドラグディア=フィンブル=スラージアン スラージアン帝国先代皇帝
「エルディオンを教材替わりかよ。舐めすぎじゃないか?」
「見習いと言っても新人と言う訳ではないぞ?実力はそれなりにある連中だ」
そう言ってエインヘリア王は肩を竦めるが、流石に信用ならんな。
エルディオンを排他的と表現したが、アレはそんな生易しいものではない。
正面から入国するにはエルディオンで発行される許可証が必要で、それを持っているのは当然エルディオンから許可された者だけ。
何の伝手もない人間が簡単に手に入れられるような代物ではなく、譲ってもらったりすることは出来ない。
他人の許可証を使った事がバレれば即投獄、譲った者も即死刑……例え故意ではなく、盗まれたりした物であったとしても、盗まれた者は死刑だ
更に許可書の偽造は国家反逆罪が適用されるので、見つかり次第問答無用で一族郎党首が落ちる。
密入国も似たようなものだが、こちらは本人と密入国者に関わった者達の首だけで済む。
問題は、そうとは知らずに関わった者達の首も落ちるというところだが。
密入国者とは知らずにしゃべっただけでも死刑という徹底っぷりだ。
正規ルートで入国した者は許可証を首からぶら下げておかなければならないし、エルディオンの国民も国民であることを示すカードのような物を全員支給されており、買い物をする時はそれを提示しなくてはならないという決まりがある。
そうやって他国の者を警戒させるように国が仕向けているわけだ。
まぁ、そういう窮屈な暮らしを強いられるのは魔法使いではない国民に限るがな。
奴等の差別的な考え方は本当に徹底してやがるからな。
そんな危険な国だが、魔法大国と呼ばれるだけあって魔道具や魔法の薬なんかは他の国に比べると相当出来が良く、商人達にとっては非常に魅力的な国でもある。
基本的にエルディオンに出入りしている者は交易品を輸出入している商人達だけだ。
儂は資源調査部の伝手で入国許可証を発行してもらったが滞在期限は三十日となっており、それを一瞬でも越えようものなら速攻で投獄。
そのまま奴隷落ちだ。
流石の儂もあの国に入り込んだ時は大人しく過ごしたものよ……だが、エインヘリア王はそんな場所に見習いの諜報員を送り込み調査させていると言う。
正気の沙汰ではない。
それとも、諜報活動と言うものがどれほどの危険な行為なのか理解できていないのか?
それはあり得るか?
上層部……特に武官の間で諜報員の存在そのものを下に見る者は少なくない。
彼らの事を、正面から戦いもせずこそこそとのぞきのような事をしている卑怯者とでも思っているのだろう。
エインヘリア王自身が英雄であることを考えれば、そんな風に諜報員たちの命を軽く見ていても不思議ではない。
儂的にはあり得ない考え方だがな。
戦争に限らず情報ってのは事を起こす上で何より重視しなければならない代物だ。
それを命を懸けて集めてくれる諜報員たちを軽視する神経は儂には理解出来ん。
エインヘリア王がその手のタイプだとしたら……少し面白くねぇな。
「多少時間はかかるだろうが、うちの見習い達であればしっかり情報を集めてくれる。どんな相手、組織であろうとな」
「ほう?随分と信頼しているようだな?」
「当然だ。エインヘリアは人材をいたずらに死なせてやるほど優しくないのでな。徹底的に訓練を重ねてからでないと外には出さん。そして見習いというのは外に出ることを許された者達……彼らは皆、泣いたり笑ったり死んだり出来なくなるまで徹底的に鍛え抜かれているからな」
「……そりゃ凄そうだな」
死んだり出来なくなるって、どういうことだ?
若干理解出来ない説明を受けた儂が内心首をかしげていると、リズバーンが若干楽しそうにしつつ口を開く。
「ドラグディア様。以前、演習で諜報合戦というものを帝国やエインヘリア、そしてその属国に所属する諜報機関の者達でやったことがありましての?」
「……面白そうだが、それは色々な意味で良いのか?」
「ほっほっほ。まぁ、フィリア様も悩まれておられましたが、エインヘリアの力を知る良い機会ということで参加されたのです。そして、演習の結果、一位はエインヘリアの外交官見習い。二位はルフェロン聖王国の情報部。三位が帝国の資源調査部となりました。あぁ、勿論各国の組織名は公表しておりませんぞ?」
「うちの諜報機関の名前をここで言ったのもびっくりだし、それが三位だったことも驚いた。え?うちの諜報機関は聖王国の情報部に負けたのか?」
ルフェロン聖王国と言えば……建国以来外征を行わず、専守防衛に努めながらも長年大陸南部中央に存在し続けた小国だろ?
諜報機関が凄腕だったから、専守防衛でも生き延びることが出来たって事だったのか?
「負けましたな。完封でしたぞ?」
「どんな演習だったかは知らねぇが……完封か。それは相当実力差があったんだろうな」
「そうなりますのう。まぁ、そのルフェロン聖王国の情報部はエインヘリアの外交官見習いに完封されていましたが」
「……そ、そうか。エインヘリアの外交官見習いに……外交官見習い?」
なんだその謎の役職は?
あぁ、組織名は公表していないって言っていたか……それにしたってふざけ過ぎな名称じゃないか?
何で外交官?
更に見習い?
諜報活動の事を外交と言い切ってやがるのか?
思い切りよすぎだろ、それ。
「ふむ……見習いと呼ぶより何か組織名を付けた方が身が引き締まるだろうか?」
「ほっほっほ。確かに名前は大事かもしれませんな」
「何か考えてやるのも良いかもな。まぁ、今はどうでも良い。それよりも、エルディオンの話だったな。五将軍の代替わりと新設された軍か。人造英雄の事を考えると、どちらも楽観視するのは危険な話だな」
「……エルディオンは閉鎖的な国ですじゃ。だからこそ我々も注意していたつもりじゃったが……これは完全にしてやられた感じですのう。しかし、ドラグディア様は良くエルディオンの情報を集められましたのう?」
「……人の口に戸は立てられぬからな。出入りは難しいし、中に無事は入れたとしても相当旧窮屈な思いをするが、噂程度の情報なら集めるのはそこまで難しくない」
正直、エインヘリアの諜報機関や諜報の演習についての話が気になり過ぎて、エルディオンの話よりもそちらの話を聞きたかったりするが……まぁ、今度リズバーンに詳しく聞かせてもらうとしよう。
そう考えた儂は、皮肉気な笑みを浮かべるエインヘリア王を観察し続けた。
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