第520話 一般の意味
なんか、妙に鼻がムズムズするというか……背筋が寒いと言うか……なんだろうか?
風邪でもひいたか?
そういえば、俺を含めてうちの子達がこっちに来て一度も病気になってないのは……フィオの儀式の効果による物か、それとも皆がただひたすら頑丈なのか……。
……儀式の効果で頑丈だからかもな。
まぁ、それはさて置き、この鼻がムズムズする感じは……虫の知らせというヤツだろうか?
面倒事があるとすれば……やはり午後イチのリズバーンの訪問か。
帝国東部の状況について意見交換、情報共有とのことだったけど……何故かうちに来るのはリズバーンだけではないと言う話だ。
帝国先代皇帝ドラグディア=フィンブル=スラージアン。
現皇帝であるフィリアの親父さんにして、帝国を大陸最大の国へと広げた戦帝と称される大人物。
戦術と戦略に長け、部下を惹きつけるカリスマ性を有した人物で……中々破天荒な人物でもあるようだ。
なんか以前、ソラキル地方のいくつかの集落で道の敷設や治水工事の作業員募集に実名で応募して来たらしいからね。
いや、流石に家名込みのフルネームではなかったらしいけど……御年輩とは思えないくらいの働きっぷりで真面目に稼いでいったらしい。
傍から見る分には面白い人みたいだけど、そんな人物がなんでリズバーンと一緒にやってくるのやら。
死んだことにしてたん違うの?
いや、もしかしたらエルディオン対策でフィリアが動けないから、その代理として来たって可能性も……いや、それこそ死人が来たらダメだよね。
うちには生存がバレてるからいいやって事なのかもしれないけど、帝国の内部的にはバレたら色々マズいんじゃない?
うーん、まぁ一応公式に訪問って訳じゃなくあくまでお忍び……今回のメインはリズバーンってことだから……もしかしたら楽隠居の観光って感じかもしれない。
……ソラキル地方は自分の足で回ったみたいだけど、飛行船に乗ってみたかった……とか、そんな理由かもしれない。
帝国にも飛行船の発着場を建設する予定だけど稼働するのはまだまだ先の話だろうし、一足先に体験してみたいって可能性は十分あり得る。
そのくらい常識外れなことを押し通しそうな人物みたいだしね。
そう考えたら少し気が楽になってきたな。
タイプ的には、多分フレギスのグラハムみたいな豪快系のおっさんって感じみたいで、ヒューイみたいなツンデレおじさんよりは付き合いやすいタイプだ。
ただまぁ……同時に油断のならないタイプでもある。
そういう意味ではヒューイの方が付き合いやすいかもしれんな。
あれは……ツンデレてるだけで裏表のない……いや、分かりやすい男だしね。
帝国先代皇帝ドラグディアか……フィリアとは結構交流させて貰っているし、良い関係を築けると良いのだけど。
View of ドラグディア=フィンブル=スラージアン スラージアン帝国先代皇帝 戦帝
飛行船で移動する事約三日。
儂は目的地であるエインヘリアの王都へと到着した。
予めリズバーンから聞いてはいたが、エインヘリア王都は非常に小さい……いや、発展途上といった感じだった。
帝都の十分の一程度の広さしかないのではないかと言うくらいこじんまりとした姿は、事前の知識一切なしで見れば……そして、思慮の浅いものであれば侮ってしまうかもしれない。
無論それは遠目から見れば……だが。
その者が飛行船に乗っていれば、自分の立っている場所を思い出すだけでその気持ちは消え失せるだろう。
馬車を使いここまでエインヘリア国内を移動して来たのであれば、国内の様子を思い出すだけでその気を引き締めるだろう。
……まぁ、それが出来ず目の前の事だけでいっぱいいっぱいなのが浅慮な者と呼ばれる者達なのだが。
エインヘリアの王フェルズ。
リズバーンの話では、政治にしろ軍事にしろ……常に先頭に立ち自ら全ての指揮を執り、国を導く王らしい。
多才かつカリスマ性を有した王なのは間違いない。
そもそも王自身が英雄らしいしな。
なんというか……この世界を作った存在がいたとしたら、その者のえこひいきを感じる様な詰め込みっぷりじゃないだろうか?
いや、それは今更か。
このエインヘリアという国そのものが、この大陸に存在……いや、過去存在した国を含め、いかなる国の流れも受けていない様に感じられる。
まるで突然この場所に、エインヘリアという完成された国が飛び出して来たかのような違和感。
本当に……面白いな。
飛行船……それに魔物の存在そのものを消し去る様な魔力収集装置という魔道具。
湯水のごとく公共事業に投資しながらも、尽きることがないと言わんばかりに次々と新しい事業を生み出す財源。
高まった消費に負けない供給。
リズバーンを圧倒するという英雄とそれを率いる王。
こんな国と正面切って戦うのはどう考えても不可能だ。
間違いなくこちらが先に破綻する。
儂が皇帝をやっていた当時の帝国であれば、最初の一撃を受け止めるなりいなされるなリされたら……もう終わりだろうな。
あの頃の帝国は、勢いはあったがちょっと突っ走り過ぎて体力が尽きる寸前だった。
一度失敗してしまえば、後方ですぐに火の手が上がったに違いない。
だからこそ、儂よりも遥かにバランス感覚……内政方面に強いフィリアに跡目を譲り俺は姿を隠したのだ。
まぁ、厄介事を押し付けただけとも言えるが、あのまま儂が居座っていれば帝国はバラバラになるか、下手をすればスラージアン帝国そのものが地図上から姿を消していたかもしれない。
ならば、今の帝国ならどうだ?
今の帝国は、儂の時代よりも遥かに頑強だし、蓄えた力もある。
フィリアはこれ以上ないくらいに完敗したと言っていたが、儂が指揮を執っていたとすれば……いや、ダメだな。
開戦当時、情報戦で遥かに上を行かれていてエインヘリアに関する情報は殆ど無かったらしいし、そんな状態では戦略はおろか現場での戦術すらまともに機能しなかった筈。
エインヘリアとの付き合いの中で手に入れた情報を使ったとして……リズバーンよりも強い英雄が五十人以上。
その上敵方の兵は英雄には及ばずとも、それに近い能力を有していると言う。
……そんな一般兵おる?
『至天』者達なら一般兵は問題ないらしいが、対軍の最終兵器とも呼べる『死毒』が完全に無力化されたらしいからな……なんでも兵の一人も倒せなかったとか。
『死毒』の毒は、呼吸をしなかったら防げるとかそういうレベルのものではない。
彼女が全力を出せば、無味無臭の毒が一軍を包み込むくらいの範囲でまき散らされ、その毒に指先だけでも触れようものなら全身が焼き爛れた様になり絶命する。
そんな、厄災とさえ呼ばれた女が何も出来ずにあっさりと一般兵に押さえつけられたらしい。
……そんな一般兵おる?
一般とは……?
フィリアに限らず、リズバーンも二度とエインヘリアとは事を構えない方が良いという考えのようだが……これは二人だけではなく帝国上層部の総意と見てよさそうだ。
軽く聞いただけで勝ち目がないと言いたくなるのも分かるが、端からその道を一切考えないのは間違っている。
今日友好的な相手が明日も友好的とは限らないのだ。
いや、フィリア達もそれを重々承知している筈だが、それでもどうする事も出来ないというのが本音なのだろう。
だが手をこまねいているだけではない……恐らく何か帝国とエインヘリアの今後について計画があるはずだ。
まぁ、この件に関しては隠居の身である儂があれこれ言うのは間違っている。
俺は全てをフィリアに放り投げた訳だからな。
だが……こちらの件に関しては放置するわけにはいかない。
エインヘリアの誰かにフィリアちゃんが懸想している。
父として……そこは絶対に確認せねばならん。
結局リズバーンの奴は口を割らなかったからな……いや、直接名前を出さなかっただけでほぼ漏らしたようなものだったがな。
しかし、あり得るのか?
フィリアちゃんの懸想相手は……エインヘリア王フェルズだ。
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