第499話 トップ会談・後
「例えばだけど……その魔王の魔力を使って魔物を発生させたりって出来ると思う?」
フィリアが真剣な表情で尋ねて来る。
その問いに関する答えは既に知っている……ギギル・ポーでのあれだ。
「可能だな。俺が知っているのは、魔王の魔力を限定された空間内で大量にまき散らすことで、その空間内でのみ生存することのできる魔物を生み出すやり方だが」
「限定された空間内でのみ生存可能な魔物?」
「あぁ。以前俺が見たのは坑道内に発生した魔物だな。坑道の外に出すと消えるんだ」
「……それとは別ね」
そう呟くフィリアの態度に、なんとなくフィリアが聞きたかった事を察する。
「東の方で変わったことが無かったってのは、魔物に関することか?」
例えば……大量発生とか?
「……えぇ。以前から帝国の東部は妙に魔物に関する被害が多かったのだけど、最近になってそれが酷くなって来たのよ。貴方達との戦争以降……魔力収集装置の設置を始めてから一時期は落ち着いていたのだけど、最近になってまた被害が……いえ、以前よりも酷い感じね」
「魔物被害が?魔力収集装置の設置してある場所でもか?」
「魔力収集装置の設置してある集落は大丈夫。でも、うちは主要都市を中心に設置を進めてもらっているでしょう?だから小さな村や街はどうしてもね」
そうか……エインヘリア国内以上に帝国は魔力収集装置の歯抜けが多いのか。
エインヘリア国内は魔物被害を出さない様に、簡易版の魔力収集装置も使って隙間を作らない様に魔力収集装置の設置を進めているけど、帝国の場合は基本的に人が集まる重要な街を中心に設置を進めている事もあって、効果が十分に行き届いているとは言い難いだろう。
まぁ、自国が最優先になるのは仕方ないし、設置計画を立てているオトノハ達が悪いという事ではない。
少ない人員でやりくりしているのだから、優先順位が出来てしまうのは仕方ないことだ。
「帝都があるのは帝国東側だけど、帝都以東はあまり発展してなくて……重要な街が少ないのも確かなのよ。帝国は基本的に帝都から西側に向かって領土を広げていったんだけど、先帝が退位間近に領土に加えたのが東側なのよね」
「ほう?そうだったのか」
「東側は旨みが少なかったのよ。元々貧しい国が多かったし、だから背後を突かれる心配もなかった。だからくそお……先帝も最後まで放置していたの。でも最後の最後で併合して欲しいと申し出があって、それを受けたのよ」
今クソ親父って言おうとした?
正直その事が気になって話の内容が半分くらいしか頭に入ってこない。
「そんな理由から、帝国の東部はどうしても発展が遅れてるのよ。交易拠点……というよりも交易する相手がそもそも東にはいないしね」
「エルディオンとは取引をしていないのか?」
「あの血統主義者共は帝国を目の敵にしているのよ。面倒なちょっかいをかけてくることはあっても、利益になる様な交流は一切ないわ」
エルディオンって本当にあれだな……全方位に喧嘩を売るスタイルだよね。
ブランテール王国とは交易をしているって話だったけど……なんか物凄く思うところはありますって感じだったしな。
「東部に関しては理解した。それで話を戻すが、帝国東部に魔物の被害が増加……作為的な物を感じるという事だな?」
「えぇ。もし南東部でも魔物による被害が出ている様だったらと思ったのだけど、そうじゃないみたいだしね」
「因みに先ほどの限定空間での魔物の発生だが、その原因となったのはエルディオンで作られた魔道具だ。ギギル・ポーでその魔道具の実験を行っていたと言うのがこちらの見解だ。もう三年近く前の話になる」
「それはもう、あいつらを疑うなという方が難しいわね」
表情を消したフィリアが、今にも魔法大国に宣戦布告しそうな雰囲気で言う。
いや、フィリアは戦争なんて面倒な事をしないだろうけど……。
「他人事みたいな顔してるけど……セイアート王国を併合したのなら、貴方のところもあの連中と国境を接することになるのだし、これから面倒が多くなるわよ?あ、それともすぐに潰すのかしら?」
物騒だな。
フィリアが少し嬉しそうにそんな事を言ってくるが……それだけ鬱憤が溜まっているのだろう。
まぁ、俺自身魔法大国には思うところは色々あるけどね。
フィオは魔王の魔力を利用した技術の事に感心してはいたけど、その方向性については手放しに喜び難いと言う感じだった。
まぁ、今の所軍事利用って感じだし……どう考えても他人を犠牲にするタイプの研究ばかりだ。
フィオはそこから平和的な利用に発展してくれたらと言ってはいたが……研究している国が魔法大国では、あまり期待できない気がする。
いや、俺も魔法大国に関してそこまで詳しいわけじゃないけどね?
今の所、魔法大国について知っている事は、周りからの伝聞と裏で動いていたであろう事件のみ……もしかしたら、国内でやんごとなき事情とやらがあった可能性は否定できない。
自国の利益が最優先なのは何処の国でも当たり前だしね……他国との協調だなんて、俺の記憶の中の世界であってもどこまで信じられるものかってところだ。
ましてやこの世界では無いなら隣から奪えば良いがデフォなわけだし、魔法大国があくどい事をやっていたとしても、それは間違ってはいないと言える。
無論、他国からすれば間違っている訳だから……叩き潰されても仕方ないとも言えるが。
「エルディオンについては今調べさせているところだが、協調は難しいだろうな」
「まず無理ね。魔法大国の全ての者の考えが凝り固まっているとは言わないけれど、上層部の殆どのものが純血主義。民達もそういう風に教育されているから、それが当然と考えている者が殆ど。仮に上層部だけを潰したところで協調も統治も上手くいかないでしょうね」
思想教育か……面倒な話だ。
長年刷り込まれた考え方……何より周りもそれが当然だと言うコミュニティにいると、外から見れば鼻で笑ってしまうような間違った常識が真実となってしまう。
それを解消する手立ては……正直穏便なやり方が俺では思いつかない。
魔法大国と事を構える事になったら……潰した後の方が大変な気がするな。
パルチザンとか……地下に潜ってテロ活動とか、嬉々としてやりそう……いや、偏見かもしれないけど……。
「厄介な国だな」
「……エインヘリアにだけは、あの連中も言われたくないでしょうけどね」
俺の呟きに、フィリアが皮肉気に笑いながら言う。
「うちは真っ当な国だ。厄介なことなぞないだろう?」
「そうね。とりあえず、私の愛する帝国臣民には真っ当という言葉の正しい意味をしっかり教え込もうと思ったわ」
「酷い言い草だ」
俺が肩をすくめてみせると、今度は楽しそうにフィリアは笑った。
まぁ、うちの常識が尋常でない事は百も承知だし、そう評価されても仕方はない……それよりも、帝国東部の魔物被害については少々気になるな……。
「フィリア、帝国東部の調査だが……うちも調査に参加させて貰えないか?」
「……もし魔王の魔力が絡んでいるとなったら、私達では気付けない事も多いでしょうし頼らせて貰っても良いかしら?」
「俺から申し出たことだ。存分に頼って欲しい」
「っ……え、えぇ、感謝するわ」
魔物を発生させているのか、それとも操っているのかは分からないが……少なくともギギル・ポーでやっていた実験からかなり段階が進んでいるように見える。
もし魔物を操る事が出来るようになっていた場合……人造の英雄と合わせてかなりの戦力になるだろうな。
今の所魔力収集装置の設置してある場所は被害が無いみたいだけど……魔物が操られているとしたら、集落に突っ込ませることは可能だろう。
魔力収集装置は別に結界装置という訳ではないしね……装置その物には結界はついてるけど、集落そのものは無防備。
効果範囲内で魔物の発生そのものを抑制することは出来ても、魔物が突撃してくるのを防ぐことは出来ない。
だからこそ、エインヘリアではそういった事があった際に魔力収集装置による通信機能を使い、援軍の派遣を迅速に行えるようにしているのだ。
しかし帝国では流石にうち程迅速な対応は無理だし、当然相応の被害が出ることになる。
帝国的にもそれは看過できない事だし、俺個人としても魔王の魔力を使ってそういう事をされるのは……業腹と言える。
魔法大国については調査を本格的に開始したし、そう遠くない内に魔王の魔力に関することを含め、色々と分かるだろう。
どう対応するかは集まった情報次第だけど……十中八九穏便には行かないはずだ。
「派遣する人員に関しては……明日までに連絡を入れる。調査の日程に関してはそちらに任せて構わないな?」
「え、えぇ、大丈夫よ。というか、本当にエインヘリアは動き出すと早いわね……本当に明日で大丈夫なの?」
「派遣出来る者は大体決まっているからな。明日いきなり調査を開始すると言う訳でもないし問題ない」
と思う。
……大丈夫よね?
一週間とかって伝えた方が良かったか?
いや、でも……この件はなるべく早く対応した方が良いと思うんだよね。
人的被害が出る話だし。
「……ありがとう、フェルズ。それと、無理をさせてごめんなさい」
「気にしなくて良い。他人ごとではないしな」
「……」
俺がそう言うと、何故かフィリアがむず痒そうな……なんか珍しい表情を見せる。
なんだろう……背中が痒いのか?
いくら俺でも背中を掻いてやろうか?とは言えないが……どうしたもんか。
俺がそんなことを考えていると、フィリアが口を開くが……なんかさっきまでと様子が違う。
「とりあえず……東の件はこれでおしまいね!」
「そうだな。一応研究関係で分かっている情報はその資料に書かれているが、今後は少し密に情報のやり取りをするようにするか」
この件に関しては……他の国や教会にもオープンにしておいた方がいいかもな。
ってか、教会みたいに上層部にエルディオンの間者が潜り込んでいる可能性があるよな……その辺ちょっと調査させるか。
帝国は……流石に俺達が出しゃばるわけにはいかないからフィリアに任せるとして……そんなことを考えていると、フィリアが微妙に挙動不審になりながら口を開く。
「ところでフェルズは、結婚しないのかしら!?」
……なんて?
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