第472話 エルフの国の盟主
View of ブロントゥス=ジウロターク バゼル王国大公 ジウロターク大公国盟主
ジウロターク領を離れ北上を続けて来た馬車は、ようやくブランテール王国の王都へと辿り着いた。
ここまで長距離を移動することは初めての経験で、はっきりいって体力的にはボロボロだったが、休んで等はいられない。
数日前には、先触れの使者がブランテール王国の王都に我々の到着を知らせてくれている筈。
大公という地位にいる私だが、中堅国であるブランテール王国にとっては大した地位とは言えない。
もちろん蔑ろにされるほど低い地位という訳でもないが、国同士の付き合いという観点からみれば優先度は低めといえるだろう。
ブランテール王国とは昔から付き合いはあるが、隣国というわけでもない。
先日まで苦境に立たされていたブランテール王国を救援しなかった事もあるし、正直歓迎されるとは思えない。
しかし……我々としても引き下がれない理由がある。
私はヘルザン=ラーポリス伯爵から渡された書状を思い出す。
そこにはバゼル王国の英雄、カイ=バラゼル伯爵の推測が書かれていた。
あの書状を書いた者がカイ=バラゼル伯爵でなければ、その内容はとても信じられるものではなかったし、我々の窮状を知りながらそのような妄言を聞かせるなと憤慨していたかもしれない。
エインヘリアに狂化を防ぐ方法あり……書状にはそう書かれていた。
狂化……以前より、ごく稀にその症状に陥る者はいたが、ここ数年急激にその被害を拡大させている現象だ。
解決方法を色々探してはいるが、今のところこれと言った成果は見つかっていない。
勿論カイ=バラゼル伯爵にも相談してはいたが、それでも解決策は見つけられなかった。
にも拘らずこのタイミング……エインヘリアと国境を接し、セイアート王国がかつてない規模で攻めて来たこの時に、エインヘリアに解決の手段があると知らせて来たという事は……カイ=バラゼル伯爵は以前からその事を知っていたに違いない。
ふざけた話だと思う反面、このタイミングでしか知らせることが出来なかった事も理解出来る。
バゼル王国は海に面しているものの、長距離航海の技術が無く、遠方に船を出すことは出来ない。
そして東は敵対国であるセイアート王国、北のエーディン王国も親エルディオン派な上、つい先日までブランテール王国と戦争中……エインヘリアに向かうには、相当な危険を冒し戦争中の国をいくつか越えなくては辿り着かない。
私はエルフで、他国では非常に目立つ存在だ。
特にエルディオンの息のかかった国に向かうのは……財布を見せびらかしながらスラム街を闊歩するのと大して変わらない。
もし私がエリンヘリアの情報を得ていたら……間違いなく、危険を冒してでもエインヘリアに向かっただろう。
だからこそ、カイ=バラゼル伯爵は私にこの情報を伏せた。
全くもってふざけた男だ。
いつその事に気付いたかは分からないが、彼が情報を伏せた事で少なくない数の犠牲が出ている。
しかし、彼に話を聞かされたとしても、私自身がエインヘリアに辿り着けたかと問われると……エーディン王国やゼイオット王国が健在の間は不可能と答えるより他ない。
カイ=バラゼル伯爵に対する怒りと感謝が同居していて……はっきりいって複雑すぎる心境だ。
恐らく、カイ=バラゼル伯爵がヘルザン=ラーポリス伯爵を介して書状を渡してきたのは、私に直接その事を話していたら殴られるとでも思ったからだろう。
その推察は正解だ。
あの覇気のない顔でこの事を告げられていたら……私は問答無用でカイ=バラゼル伯爵に拳を叩き込んでいたに違いない。
しかし……本当にエインヘリアは狂化を防ぐことが出来るのだろうか?
カイ=バラゼル伯爵の書状には治療の可能性もあると書いてあったが……恐らく以前狂化について相談した時、発症した者達を殺さずに寝かせるか動けない様に拘束するように指示を出していたのは、その時点でエインヘリアと狂化の関係について把握していたからだろう。
本当に腹立たしい男だが……その優秀さが疑いないことは、ここに来るまでの道中で改めて実感させられた。
バゼル王国からブランテール王国に来るには、旧エーディン王国領を縦断しなければ来られない。
いくらブランテール王国との戦争に敗れエインヘリアに併合されたとはいえ、まだ終戦から数か月しか経過していないこの状況。
旧エーディン王国領は荒れに荒れている……私はそう考えていたのだが、カイ=バラゼル伯爵から渡された二つ目の書状に、移動の際の危険に関しては心配する必要が無いと記されていたのだ。
勿論、立場上護衛の数はかなりいるし、本格的に私を襲撃しようと計画立てでもいなければ問題ないだけの戦力はあるのだが……まさか、戦争が終結したばかりの領地がこんなにも安全に移動出来るとはな。
しかし、こうしてブランテール王国の王都まで来てしまったものの……いまだに分からない事がある。
何故、カイ=バラゼル伯爵は私をここに送り込んだのか。
確かに、ブランテール王国はエインヘリアと同盟を結んでおり、エインヘリアと何ら国交のない我々としては仲介をして貰う方が色々とやりやすくはある。
だが、旧エーディン王国領に入った時点でエインヘリアに挨拶をしていれば、少なくとも余計に時間のかかった一ヵ月半分は早く、エインヘリアの上層部に話が届いたはずだ。
ブランテール王国に話を通し仲介してもらうまでの時間を考えれば、下手をすれば三か月くらいはエインヘリア上層部に話が届くまでに差が出るかもしれない。
カイ=バラゼル伯爵が結果的に早くなると言うのであれば、それに従った方が間違いなく良いということは、バゼル王国の者であれば誰しもが知る所ではあるし、疑いはしないが……やはり疑問はある。
その辺りは書状には書いていなかったからな。
代わりというか、エインヘリアについての情報とどういう風に臨むべきかを随分と書き連ねていた。
エインヘリアについてはあくまで推測に過ぎないとのことだったが、カイ=バラゼル伯爵の推測であれば限りなく真実に近いものと言える。
「エインヘリアか……話半分であったとしても恐ろしい国だな」
かの大帝国以上の軍事力に経済力。
特に諜報関係は異常とのことだ。
書状には……私がエインヘリアに向かう事は、恐らく国を出る前から向こうは把握していると書かれていた。
それを把握したうえで、私が来ることを待っているのだと。
どこまでも底知れない国だし、何よりあのカイ=バラゼル伯爵ですら……エインヘリア王がどのような人物なのか把握しきれないと書かれていた。
その上で、私自身の目で見極めて欲しいという頼みは……カイ=バラゼル伯爵を知る者であれば間違いなく驚くだろう。
万物を見通し万象を操ると謳われる英雄、カイ=バラゼル伯爵ですら計り知れないと言わしめる王……一体どのような人物なのだろうか。
果たして私が見抜けるような人物なのか……まずは、ブランテール王国で出来得る限りその人となりを聞かせてもらうとしよう。
当面まみえる事のない人物相手に、これ以上緊張していても仕方あるまい。
私は近づいて来た王城の姿に、気持ちを切り替えた。
View of フェルズ 計り知れない覇王
「んはあああああああああああああああ!!」
ふとした拍子に身悶えしてしまう俺は、今日もルミナを抱えてベッドを転がりまわっていた。
やべぇ……次呼び出された時に、まともにフィオの顔を見られる気がしねぇ……。
しかも、こんなこと誰にも相談できないのが辛すぎる……。
普段であれば、どんなことでもフィオに相談出来たのだが……これ相談する相手としてフィオは一番あり得ない!!
バンガゴンガやオスカーは……覇王的にダメだし、フィリア達は流石にこの手の事を相談するような相手じゃない。
リーンフェリア達もあり得ないし……そうだ、キリクなんてどうだ?
幸い、今度二人で裸の付き合いをする訳だし……その時に軽い感じで聞いてみても良いんじゃないか?
キリクであれば恋愛関係と言うよりも、人付き合い的な感じでロジカルにアドバイスをくれそうな気がする!
うん、悪くない気が……いや、寧ろ……すごく……イイ……!
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