第467話 大丈夫!いつもの会議だよ!
先日俺はブランテール王国に行って、大陸南東部と言われている国々についての話を聞いて来た。
一つはバゼル王国。
国内にエルフの自治区、ジウロターク大公国を抱える国で林業や木工が特産の国らしい。
もう一つはセイアート王国。
これといった産業の無い国なのだが、その実バックに魔法大国エルディオンが控えている国だ。
いや、実質的に属国のような扱いを受けているという話だから、実際の所一番可哀想な国なのかもしれないね。
とは言っても、バゼル王国からすればセイアート王国は侵略者だからな。
セイアート王国は、長年に渡りバゼル王国をエルディオンの命に従って攻めている。
その背後関係を理解していたとしても、セイアート王国に同情はないだろうね。
とまぁ、そんな感じでレイズ王太子からしっかりと情報収集をした覇王でしたが……なんかね?話も終わり間近と言ったところで、雲行きがね?おかしくなったのよね?
レイズ王太子が未だリハビリ中のブランテール王に会って欲しいと言い出しました。
それ自体は別に何の問題もない。
断る理由はないし、お見舞いがてら覇王はその申し出を了承してブランテール王と面会をして……そこで何故か……何故か……何故あんな話に……。
「フェルズ様?」
ブランテール王との会話を思い出し、思わずため息をついてしまったようで、傍に座っていたキリクに心配をかけてしまったようだ。
「いや、問題ない。始めてくれ」
「はっ!それでは本日の会議を始めます。まずはアランドール、新たに領土に加わった三地方について報告を」
今日は今後の方針を決める会議の日。
既に俺がブランテール王国で色々と話を聞いてから数日が経過しており、その時の話はキリクやイルミットに伝えており、ばっちり対応は考えてくれている事だろう。
「三地方は中々荒れておるのう。治安は以前のベイルーラ地方よりも悪い感じじゃな。今はそれぞれの地方に治安維持部隊の応援を各地から集めて送り込み、集落の外はロッズ達を巡回させておる」
アランドールはいつも通り好々爺といった感じだけど、三国は大分無理をしてブランテール王国を攻めていたみたいだからね。
英雄という最終決戦兵器を手に入れて上層部はイケイケだったんだろうけど……はっきり言って国内はボロボロ、碌な準備もせずに小国が一年近く戦争を続けるのは相当無理があったってことがよく分かる状態だ。
はっきり言って、その状態でブランテール王国に勝っていたとしても、明智のみっちーより短い天下だったと思う。
やっぱり英雄という規格外を手に入れたとしても、それを運用しきれなかったら宝の持ち腐れという事だね。
そういう意味では、やはりブランテール王国、そしてレイズ王太子の戦略は大成功だったと言える。
守り続け……一切相手国を攻撃せずに滅ぼしかけていた訳だしな。
地力の差……そして指導者の差をひしひしと感じるよね。
そして、そんな状態にあってなお戦争を続けようとする上層部の愚かさと、英雄という切り札の重さがよく分かる戦いだったとも言える。
っていうか、国としてもう成り立っていませんと泣きを入れて来たベイルーラ地方より治安が悪いって、もうそれ終わってるんじゃ……いや、確かにもう終わってるけど。
「魔物被害も相当じゃが、野盗の数が酷いのう。というか、税を納められないどころか、普通に食料が足りずに野盗となった者達が相当多いようじゃ。村ぐるみで野盗……男達が出稼ぎで野盗をするといった村も少なくないようじゃな」
末期ですやん。
っていうか野盗って出稼ぎの一種なの……?
「自分達が瀕したからといって、他人にそれを押し付けて良いわけではないからのう。当然償いは必要じゃ。じゃが、自分達の欲望の為に野盗をやっておった連中とは、少し分けて考えてやってくれんかのう?」
少なからずそういった事情で野盗活動をしていた者達に想うところがあるのだろう、アランドールが俺の顔を窺うように言う。
法整備はしっかりしてある……いや、イルミットがしてくれているけど、野盗行為は基本的にバッサリ行くからな。
いや、死刑ではないけどね?
「国によって野盗行為を強いられたとも言える状態ではな……死者を出していない事を最低条件として、情状酌量の余地があるなら刑を軽くすることを認めよう。だが、調査をする余裕はあるのか?」
外交官見習いはガンガン増やしていってるけど、流石に三国分の野盗の調査なんて人手がいくらあっても終わらないだろう。
バークスの諜報機関に関しても、これだけ治安が荒れていれば正確な情報は集まりにくいだろうし、調査は間違いなく大変だろう。
「感謝いたします、フェルズ様。調査に関してはお任せくだされ。一つの漏れもなく調べ上げてみせますわい」
「……分かった。ならこの件に関してはアランドールに任せる」
自信満々に笑みを浮かべるアランドールに俺はこの件を一任する。
彼が出来ると断言する以上、覇王としては任せる以外の選択肢はない。
とはいっても、つい先日別の仕事も降っている以上、上司として確認は必要だろう。
「はっ!」
「しかし、ブランテール王国の件もあるのだが、大丈夫か?」
「えぇ、問題はありませぬ。ブランテール王国の方は既に人員配置も終わり、治安維持活動は順調。元々、三国に比べれば治安は非常に良好と言えますし、大した手間ではございませぬよ」
「そうか。アランドールに限って手抜かりはないと思うが、ブランテール王国の方はしっかりと見てやってくれ。良からぬ輩が入り込む可能性も否めないからな」
「御意。今申した通り、ブランテール王国についても問題なく進んでおる。儂からは以上じゃ」
俺に深々と頭を下げたアランドールは、会議室にいる他の面々に向き直りそう締めくくる。
「次はオトノハ」
「あいよ。まずは魔力収集装置に関して、フェルズ様が新しくエインヘリアに呼んでくれた技術者達のお陰で、予定よりも早く設置が進んで行ってるよ。帝国の主要都市、および北方諸国の王都等は設置完了。ルフェロン聖王国を除く属国に関しては国境および主要都市への配置が完了。要所以外へ設置はドワーフ達が簡易版を設置してくれているけど、これらを転移機能付きの物に変えていくのには……まだ相当時間がかかるだろうね。それと新たに組み込んだ地方は、いつも通り国境を最優先に設置していっているけど、こちらは後三週間後には完了予定だよ」
キリクに指名されたオトノハが、現状報告を始める。
新規雇用契約書で新しく呼んだ子達の殆どが開発部に入ったからね。
人手が倍以上に増えたことで、魔力収集装置の設置もかなり順調なようだ。
ケインを始めとする新しく呼び出した開発部の人員は、最低限魔力収集装置を設置する為のアビリティを覚えさせるだけで良いので、追加費用がほとんど必要ない。
ルートリンデはおろか、イズミよりも初期費用が掛からないから実験として呼ぶには非常に良い人材だった。
「それと、魔族に関してだけど、ドワーフ達よりも魔力の扱いに長けているけど、手先の器用さはそこそこって感じだね。でもゴブリン達よりも細かい作業に向いているみたいだから、教え込めば簡易版の魔力収集装置の設置は出来るようになるよ。ドワーフが簡易版じゃない方の設置に苦戦してるのは魔力操作の部分だけど、魔族の方は問題ない感じだね。技術の方が追い付けば、ドワーフ達よりも通常の魔力収集装置の設置に向いていると思う」
魔族か。
北方諸国の方からちらほらと保護しているみたいだけど、そこまで数は多くないみたいだ。
でも、通常の魔力収集装置の設置が出来るようになるかもっていうのはでかいな。
頑張って保護するから、是非とも技術を習得してもらいたいね。
「次に、前の戦争で捕虜にした英雄の件だけど……手術痕を開いてみたら、腹の中に魔道具が埋め込まれていたよ」
「……ほう?」
体の中に魔道具……?
いや、全員同じ位置に手術痕があった辺りから嫌な予感はしていたけど……めっちゃ怖い感じやん。
「んで、その魔道具……かなり前の話になるんだけど、ギギル・ポーのミミズの件覚えてるかい?」
ギギル・ポーのミミズ……坑道の奥で見つけた魔物を生み出す巨大ミミズだな。
ギギル・ポーで狂化が一気に蔓延することになった原因だった奴だ。
確かリーンフェリアがぼこったんだったか?
「あぁ。あのミミズにも魔道具が埋め込まれていたな」
「うん。今回英雄たちの腹の中にあった魔道具、少し型は違っていたけど、ほぼ同じ物だったよ」
「あの時の魔道具は……少なくとも、技術の出所は魔法大国ということだったな?」
「あぁ、その通りだよ」
案の定って奴だね。
確たる証拠がないから魔法大国の仕業と決めつけることはしていなかったけど、ほぼほぼ間違いないとは思っていたし、今回の件もまず間違いなく魔法大国の仕業だと思っていたから驚きは全く無い。
「その魔道具を埋め込むことで、只人を英雄の領域にまで引き上げるということか」
「恐らくね。あの三人をエインヘリアに運んだ時点で魔道具は活動を停止していたみたいだから、詳しい事はもう少し調べてみないと分からないけど……」
「ギギル・ポーの時と同系統の技術というのであれば、魔王の魔力に関する魔道具なのだろうな。人族に大量の魔王の魔力を宿すことで英雄とする実験……といったところか?」
俺が考えを言うと、オトノハが神妙な顔で頷く。
「人体実験なんてあまり気持ちの良い話じゃないけど、恐らくフェルズ様の言う通りの実験だろうね。ギギル・ポーでの実験から約二年……次の段階に進んだってことじゃないかな?」
捕虜にした三人の英雄は、揃いも揃って話の通じないタイプだったけど……アレはもしかすると若干狂化していたってことなのだろうか?
妖精族や魔物の様に目が赤くなっていなかったから、もしかしたら狂化とは別……実験で色々おかしくなっていたって可能性もあるが……何にしても魔王の魔力を使って良からぬことをしている事は確かだ。
これは当然……看過できないよね。
それに……魔王の魔力について研究を進めていて……それを利用した技術を抱えているとなってくると、魔王本人が魔法大国にいる可能性も十分あり得る。
っていうか、俺達は大陸中に勢力を広げていると言っても過言ではないのに、魔王の影すら見えなかったからね……魔法大国で匿われている可能性が一番高い。
しかし……なんかくじを引き続けて、最後に残った一個が当たりだったって感じがするよな。
「この件に関しては引き続き調査を続けてくれ。優先順位は高めで頼む」
「あいよ」
俺の言葉に、オトノハがにかっと笑みを浮かべながら応じる。
オトノハの、屈託のない爽やかな笑みは非常に魅力的だ。
ドワーフに続き、枢機卿も虜にしているのは、ただ単に技術が優れているからというだけではないだろう……もしかしたら、うちで一番人気があるのはオトノハじゃないだろうか?
いや、シャイナも外交官見習い達から相当慕われているみたいだし、いい勝負だろうか?
ふとそんなことを考えながらオトノハの方をじっと見つめてしまい……俺の視線に気づいたオトノハが少し顔を赤らめながら挙動不審になる。
「た、大将?」
「いや、何でもない。キリク、進めてくれ」
「はっ!本日の報告は以上となります!では次に、今後についての話を始めます」
キリクの進行によって会議は続けられる。
とりあえず今は魔法大国は後回し……今はブランテール王国と南東部にある二つの小国……そしてエルフだ。
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