第464話 南東部のお話



 全く予想出来ていなかった援軍要請を受けた俺だったが、とりあえずレイズ王太子の要請に応えることに決めた。


 こちらとしては特に損があるわけでもないし、他国とはいえ魔力収集装置設置予定場所に住んでいる民達が辛い思いをするのは面白くない。


 ……魔物やら野盗やらの襲撃で数が減っちゃうのも良くないしね。


 というわけで治安維持のために援軍を派遣することを決めた。


 なんか占領地に軍を送る時と似たような雰囲気があるけど、こちらから提案したわけじゃないし問題は無いよな?


 まぁ、恩は売れる時に出来る限り高値で売っておくに限るしね。


 ブランテール王国……それにレイズ王太子には頑張って自国を運営していってもらいたいし、その安定の為に手を貸すのは必要なことだ。


 うん、やっぱりこの判断は間違ってないな。


 そう考えた俺はそろそろ本日の本題へと入る事にした。


「さて、今日訪問させて貰ったのは南方の国について聞かせて貰いたかったのだが、話を聞かせてもらえるだろうか?」


「えぇ、勿論です。南となるとエーディン地方の南バゼル王国と南東方面のセイアート王国ですね」


 エーディン王国南のバゼル王国と東から南東にかけて接しているセイアート王国。


 隣接している国の宿命か、御多分に漏れずこの二つの国も清く正しく仲が悪いらしい。


 ほんとね……仲良くせぇよと思わなくもないけど、まぁ無理もないよねとも思う。


 この世界のスタンダードは……無ければ奪おう人の物!がデフォだからな。


 近隣の国家が仲良くなるには中々文化的に厳しいものがある。


「セイアート王国は北と東をエルディオン。西をエーディン地方、南西をバゼル王国と接した国です。特に産業等目立ったところはありませんが、この国はほぼエルディオンの意思で動いている、実質属国と言って良い国となっております」


 この辺りの情報はサラッと予習はしてある。


「セイアート王国は良くバゼル王国へと戦争を仕掛けますが、これはほぼエルディオンの意思による物でしょう。エルディオンはバゼル王国……いえ、ジウロターク大公国を目の敵にしておりますので」


「ジウロターク大公国?南東部にそんな国があったか?」


 あれ?聞いたことのない国だが……大陸南東部の国はバゼル王国とセイアート王国の二つだけと聞いた覚えが……キリク達に限って調査漏れなんて考えにくいし……どういうことだ?


「ジウロターク大公国は対外的には国とは認められておりません。バゼル王国内にある一地方、そこを治めるジウロターク大公が自治権を認められている為、ジウロターク大公国と呼ばれているのです。我が国としては一つの国として交流をしておりますが、エルディオンはそれを絶対に認めないでしょう」


 あ、あぁ、そういう事か。


「あぁ、なるほど。ジウロターク大公国というのが件のエルフの国ということか」


 小国とも呼べない様な小さな国……てっきりそれがバゼル王国の事だと思っていたけど、バゼル王国の中に存在する自治権を与えられた領土って括りだったのか。


 ……よかった、ある程度予習はしてあるとかどや顔で言わなくて。


「はい。ジウロターク大公はジウロターク大公国の盟主であると同時に、バゼル王国で大公位をもつ貴族でもあります。まぁ、大公とは言いますが、バゼル王家の血縁という訳ではありません。ジウロターク大公はエルフですが、バゼル王国自体は人族の国ですからね」


「エルフが国を形成しているという話は漏れ聞いていたのだが、そういった話だったのか」


 ジウロターク大公か……分かりやすく盟主がいるとなると交渉はしやすいな。


 まぁ、自治権があるとは言ってもバゼル王国の領土内。


 果たしてすんなりと魔力収集装置を置くことが出来るかどうか……。


 いや、エルフとしては魔力収集装置を置かないという選択肢は絶対に選べない。


 しかし、同時にバゼル王国の貴族という立場もあるし……ややこしいと言えばややこしい状況か。


「はい。バゼル王国とジウロターク大公国の関係は非常に良好で、それ故背後にエルディオンがいるセイアート王国とバゼル王国の関係は非常に悪いですね」


「エルディオンがバゼル王国を嫌う理由は……エルフか?」


「おっしゃる通り、エルディオンはエルフという種族を毛嫌いしております。彼らは純血主義かつ魔法至上主義と言いますか……エルフは魔法に長けた種族でして、エルディオンは彼らのことを憎んでいると言っても良い感じですね」


「それ故、エルフを国内にかくまっているバゼル王国を目の敵にしているという訳か」


 ……しょうもないと言ってしまえばそれまでだけど、まぁこういうのは本人達にしか分からない何かがあるのだろうね。


「とはいえ、エルディオンもそこまで本気でエルフを排除しようとは思っていないのでしょう。精々嫌がらせくらいのものです」


「嫌がらせで属国に戦争を吹っ掛けさせているのか?」


「えぇ……まぁ……」


 嫌がらせの規模がデカすぎるし、全方位に迷惑過ぎるだろ。


 大国のやりたい放題に振り回される小国って感じか。


 しかし……魔法大国は、帝国や商協連盟に比べても随分と好き勝手やっている印象があるな。


 いや、商協連盟は結構好き勝手やってたか。


 ……帝国も先代の頃ははっちゃけてたみたいだし、やっぱ国が力を持つと碌なことしないな。


 覇王なんてこんなに謙虚に生きているというのに……。


「ですが、本腰をいれてバゼル王国を降すつもりがない事は、英雄やエルディオンの主戦力を戦場に投入していない事からも分かります」


「あくまで戦争はセイアート王国にさせるということか」


 本気で潰す程じゃないけど、とりあえず嫌がらせはしておこうということか。


 いや、戦争させられる両国としては堪ったもんじゃないだろうが。


「えぇ。そしてエルディオンが本腰を入れない限り、バゼル王国が落とされることはないでしょう。バゼル王国には英雄と呼ばれる人物が居りますので」


「ほう?バゼル王国に英雄が?」


 英雄がいるのだったら小国程度の攻撃を跳ね返すのは問題ないだろうけど、それでも英雄一人送りだせばどうにでもなるという話でもないからな。


 嫌がらせとしては十分以上に効果があるだろうね。


「あ、いえ……規格外の戦闘力をもった、所謂英雄と呼ばれる存在ではなく。只人でありながらその行いによって英雄と呼ばれるようになった人物ということです」


「ふむ、そんな人物がいるのか」


 確かカルモスの部下にもそんな人がいた気がするな。


 個人の武勇じゃなくって、戦術とかで戦果を上げて英雄と呼ばれるようになった人が。


 軍師タイプの英雄か……うん、覇王的には『至天』の皆さんよりもよっぽど怖い相手だ。


 頭の良い人達は本当に怖い……フィリア達と真面目な話をするのもきついけど、英雄とか呼ばれちゃうような相手には、覇王ムーブが見破られそうで本当に怖い。


 シュヴァルツに頼んで、相手を狙撃して貰いたいくらいに怖いし会いたくない。


 でもなぁ、そういう国を代表するような人物……絶対に会うことになるよねぇ。


 これはもうフラグがどうこう言う話ですらない。


 俺はバゼル王国内のエルフと接触しなくてはいけない、そしてエインヘリアが動けば当然バゼル王国はそれに対応しなくてはならない。


 だとすると対応するのは誰だ?


 そんなもん……一番頼りになる人物に決まってる。


 エインヘリアという存在は、今更韜晦することなんて出来る筈もないくらいに強力なものになっている。


 三年前に誘い受けをしたら、ヒューイやグラハム等の周辺国がほいほいと釣られていたのが嘘のような状況と言えるね。


「バゼル王国の英雄というのはどういう人物なのだ?」


「そうですね。名はカイ=バラゼル。戦術や戦略に長け、人の心を読み操ることをまるで呼吸をするようにやってのけると言われている人物です」


 ……なにそれ、超会いたくないんですけど。


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