第456話 次回『オスカー死す』



「もうそろそろ結婚式だな」


「お、おう」


 俺が軽い様子で声をかけると、若干ぎこちない返事をバンガゴンガがする。


「今から緊張していたら流石に身が持たないぞ?そろそろとは言っても、まだ一ヵ月は時間があるんだからな」


 バンガゴンガの結婚式は個人として納まる範囲の規模……よりもちょっと派手な感じで行われることが決まった。


 あまりに豪華すぎると、一般の民からすれば天上の出来事といった感じになってしまうし、個人の範疇で収めてしまうと、参列者が招待した者達だけとなって上手く流行させることが難しい故だ。


 個人的には、友人の大事な結婚式をそんな打算塗れでやりたくはなかったのだが……うちの子達に話をする時に、今後冠婚葬祭を事業として展開していきたいという話をしたら、宣伝のためにも一般の民が出来るものよりもワンランクかツーランク上げた結婚式を開催するという運びになってしまった。


 まぁ、エインヘリアの民が裕福になったとは言っても、全員が大富豪って訳じゃない。


 他所の国からみたら信じられない程裕福だと思うけど、それでも他所の国の貴族や豪商辺りと比べれば慎ましい生活をしていると言える。


 他国から言わせれば、見せかけの裕福さは確かにそう言った者達の方が上かもしれないが、精神的な裕福さで言えばエインヘリアは群を抜いているとのことだけど。


 やはり、国が率先してインフラ周りを向上させまくっているのが大きいらしい。


 現状……普通に生活できてしまっているが故、その質を国庫を使って向上させるというのは、やはり相当余裕がないと出てこない考えのようだ。


 勿論そう話している彼らもインフラの重要性は理解しているが、現状不便はあれど不自由はしていないというところで中々踏み出せない部分なのだろう。


 しかし、覇王的には他国もインフラ周りは物凄く頑張ってもらいたい次第である。


 まずは衛生面。


 これは非常に大事だと思う。


 街や村の匂い的な事もさることながら……一番怖いのは疫病だ。


 うちには万能薬というとんでもない代物が存在する。


 よろず屋で購入すればいくらでも薬をばら撒くことは出来るけど、当然購入には魔石が必要だ。


 万能薬はよろず屋でも高額商品なので、いくらうちの収入が増えたとしても街や村一つくらいなら問題はないけど、小国一つに蔓延したら……流石に手が付けられないだろう。


 小国の人口を大体二百万と考えれば……うん、絶対魔石が足りないし、人手も足りない。


 その辺り一番危ないのは……北方諸国か?


 帝国とブランテール王国も危険だけど、北方諸国は間違いなく危険地帯だ。


 うちの属国は、エインヘリアの方針で強引にインフラ整備を行っていることもあり、衛生面もエインヘリア国内並みにばっちりと言える。


 だけど、それ以外の国は流石に俺達が口を出して良い相手ではない。


 帝国とブランテール王国はそれなりに裕福なので、大きな街では環境整備も進んでいるけど、地方の街や村は似たり寄ったり……北方諸国に関しては王都であっても結構状態はよろしくない。


 しかもその状態で魔力収集装置による転移を使えるようになったからね。


 基本的に転移が使えるのは一部の人間だけだけど、有事の際には軍規模で転移したりするわけで……人が集団で長距離を移動すれば、それだけキャリアーが増えるという事。


 どこかで疫病が発生すれば……それが爆発的に広がりかねない。


 下手をすれば大陸規模でのパンデミック……うん、大陸が滅びかねないな。


 そんなことになれば当然万能薬は間に合わないし、数も足りない。


 ……うん、やはり他国の衛生面は大事だ。


 何かあってからでは遅い……北方諸国に関してはクルーエルを通して支援すれば行けるだろうが……問題は帝国とブランテール王国だな。


 特に帝国は……支援してやるから綺麗にしましょう、とか言ってもダメだろうし。


 疫病に関する恐ろしさを両国の上層部にレクチャーするか?


 あ、留学生を通じてってのはどうだ?


 ……うん、やりようはありそうだな。


 ちょっとこれに関しては、キリク達と真剣に話し合った方が良さそうだ。


 それと……道路整備も頑張ってもらいたい。


 正直他国に行った際の馬車移動が辛すぎる。


 今回もブランテール王国で短い距離だったけど馬車移動して……大変辛う御座いました。


 地面からダイレクトに来る衝撃でお尻は痛いし、がったんがったん揺れて気持ち悪くなってくるし……王太子さんと二人で馬車に乗ってたのに、殆ど無口で遠くの景色を眺めてたっての。


 まぁ、あそこで話をしてたら舌も嚙みそうだったし、あまり馬車では喋らないものなのかもしれないけどね。


 ……って他国のインフラや生活水準はどうでも良いな。


 今は、バンガゴンガの話だ。


「リュカーラサに反対されなくて助かったが……」


「反対っていうか、あいつはすげぇ喜んでたからな。俺も感謝してるぜ?」


「それは良かった。主役はリュカーラサだが、バンガゴンガにとっても一生に一度の思い出だ。出来るだけ楽しんでもらえるとありがたい」


「お、おう。努力はする」


 物凄い凶悪な顔をしながらバンガゴンガは言う。


 間違いなく子供が見たら泣くだろうが、これはただ単に緊張しているだけで怒っているわけではない。


 若干照れも入っているかもしれないな。


 そしてもう一人の同席者もその事は十分理解している事だろう。


「バンガゴンガさんの奥さんって、リュカーラサさんですよね。物凄く美人な嫁さん……羨ましいです!」


 俺達と席を共にして、バンガゴンガにそう告げるのはオスカーだ。


 すっかりロン毛スタイルが板についたオスカーだが、俺の中でコイツは永遠の禿だ。


 魔道具技師として頑張ってくれてはいるが、最大のプロジェクトである鉄道……いや、列車の開発にはかなり苦戦しているようだ。


 大型の物を動かすところまでは成功しているのだが、ブレーキがかなり強度に難ありといった感じで、カーブにも弱い。


 列車事故は洒落にならないし安全性が最優先……大陸横断列車の実現はまだまだ遠いようだ。


 まぁ、基礎研究からなんだし、当然と言えば当然だよね。


 オトノハ達の手が空いて、研究開発に参加するようになったら一気に話が進みそうな気もするけど……それは言わぬが華だろう。


 たとえ開発参加者たち自身もそう思っていたとしても。


「そうか?」


「そうですよ!いやぁ、羨ましいですね!俺もあんな美人さんとお近づきになりたい!モテ……無くてもいいから、いい人を見つけたい!」


「……お前、ついこの前も浜辺で女性を拾って来ただろ」


「え、えぇ……その節はお世話になりました」


 オスカーは外を歩けば女性を拾ってくる。


 拾ってきた女性の記憶喪失率は脅威の四割……偶に記憶喪失のふりをしている人もいるが……四割はヤバすぎる。


 ところてんじゃないんだから、そんなちょっと押されたくらいで記憶をにゅるんと押し出されないで欲しい。


 っていうか、こう言っちゃぁなんだけど、今のエインヘリアってかなり治安良いのよ?


 それなのになんでコイツは、謎の組織とかお家騒動とか伝承のなんちゃらとか運命のなんちゃらとか……そういうなんかアレなイベント付きの女性ばっかり拾ってくるの?


 もうね?


 オスカーと会って二年以上……覇王が何本フラグ叩き折ったと思ってんの?


 こっちはフラグクラッシャーとか鈍感系主人公じゃないし、ギャルゲーの友人ポジションでもないのよ?


 なんで、他人のフラグを見せつけられにゃならんのよ。


 それでいてコイツの口癖が、女の子と仲良くなりたいとかだから腹立たしい。


 あれだろ?


 お前完全に俺の事、主人公と何故か仲良くなる権力者ポジにしてるだろ?


 コネ無双の物語のコネ側ポジとか何にも面白くねぇんだよ!


「確か彼女は大手商会の一人娘だったか?部下に家を乗っ取られかけてた」


「あ、はい。そうです。母親が浮気相手の若手幹部と結託して父親を殺そうとしてて、その事を偶然知ってしまった彼女が仕事で遠方にいる親父さんの元までその事を教えに行こうとしたところ、事故に巻き込まれたって事でした。兄貴の力がなかったら親父さんも彼女も大変な事になっていたと思います」


 そんなありきたりな物語、エインヘリアの力を使えば秒で解決出来る。


 母親と浮気相手は、計画を実行していたので普通に殺人未遂で逮捕。


 娘はエイシャに治療させて記憶を取り戻し、父親は普通に今でも仕事に勤しんでいる。


 この物語はこれ以上発展しない……これで終わりだ。


「流石に犯罪は捨て置けんしな……」


 こいつ自身出会いが無いわけではない……というかアホ程出会いまくっている。


 そして俺がフラグを折っているから話が発展しない訳でもない。


 現に、そういった訳の分からん犯罪関係の話以外、俺は基本的にノータッチだ。


 昔からの知り合い……隣の家のパティさんとか、そういった知り合いもこいつにはたくさんいる訳で……しかも俺が見る限り誰もかれもコイツに好意を寄せている。


 控えめに言って死ねばいいのに。


 いや……俺がそれを口に出すと、本気で洒落にならないから冗談でも口にはしないが……。


「あぁ、女の人とお付き合いしたい。正直、手に職もあるし、生活的にもお金的にもかなり充実していると思うんですけど、なんでモテないんですかね……」


 こいつぶっころしてやろうか……。


「オスカー。お前は女性と付き合いたいと口では言っているが、それは本当に本心か?」


 バンガゴンガがため息交じりに尋ねると、オスカーは真剣な表情で頷く。


 因みに俺だけじゃなく、バンガゴンガもオスカーのイベントには巻き込まれている。


 特に、妖精族関係に。


「勿論ですよ!自慢じゃないですが、俺は交際を申し出て断られたことしかないですが……それでも毎回真剣にお付き合いしたいと申し出ています!」


「……伝える相手が悪いんじゃないか?」


「そうなんですかね?」


「例えば……ほら、お前の面倒をよく見てくれているパティとか言う人はどうなんだ?」


「え?パティですか?いやいや、バンガゴンガさん、それはないですよ!アレは妹みたいなもんですから。兄貴分としては、早く嫁ぎ先が見つからないかとひやひやしているんです」


「……そうか」


 ……なんか、オスカーの全身の体毛が抜け落ちる病気とか発生しないかな?


 もしくは、コイツのアレが爆発する奇病とか……。


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