第453話 論功行賞・後

 


「……て、天使が降臨する夢を見た……気がするでござる」


 玉座の間で気絶していたジョウセンがリーンフェリアに起こされ……叩き起こされ、第一声がそれだった。


「ジョウセン大丈夫か?」


「と、殿?ここは……玉座の……間!?」


 俺が声をかけると、あたりを見渡したジョウセンが玉座の前まで進み出ていた彼の天使を発見して……再び気絶しかける。


 まぁ、よろっとした瞬間、リーンフェリアがジョウセンの脇腹に肘を入れて気付けをしたが……。


「と、殿!こ、この、これ、これは一体!?」


「ジョウセン、それとリーンフェリア。お前達への褒美は家族との再会だ」


 再会……と言って良いのか分からないけど……いや、再会だな。


 彼らはダンジョンアンドレギオンズでエディットされたキャラなのだろうが、まごう事無く一個の……独立した生命だ。


 設定上のものなのかもしれないが……彼らには過去の記憶があり、人生があった。


 そこを軽んじるつもりはなく、寧ろ尊重せねばならないところだ。


 だからこそ、家族に再会させてやりたいという思いは強かったのだが……彼らの記憶にある家族を呼ぶことはかなり際どい内容だった。


 人の人生を丸々設定することなんて当然不可能だし、かと言って別人と認識されてしまっては元も子もないどころか、彼ら自身にすら影響が出かねない。


 だがある程度設定をしてしまえば、その設定に沿った人格や人生がその子の記憶として矛盾が無いように反映されることは、うちの子達や新規雇用契約書の実験によって分かっている。


 そして、新規雇用契約書の実験では、新しい子達とその家族を呼ぶことにも成功した。


 実験として呼び出してしまった子達には申し訳ないけど、リーンフェリアやジョウセンの為にはどうしてもぶっつけ本番という訳にはいかなかった。


 万全を期した状態で挑みたい。


 その想いがあったからこそ、ジョウセンの妹たちをこういった演出で二人に合わせたのだ。


 目の前に召喚という形で呼び出してあげた方が良かったのだろうけど、リスクを避けるためにそのやり方は断念した。


 予め呼び出し、面会をして……二人の家族であるという確信が俺の中で出来てから二人に合わせるという段取りをつけ……今ここに至る。


 ジョウセン達に出来る限り細かく二人の事を聞いて、可能な限りそれを設定に入れ込んだ。


 実験も重ねていたし、それなりに自信はあったけど……そこそこ、いや、それなり……いや、なかなか……もとい、かなり不安もあった。


 しかし、ジョウセンの反応を見る限り上手くいったと見て……良いのだろうか?


 少なくともひと目見て崩れ落ちたわけだし、見た目は完璧という事だろう。


 それにしても……。


「あびだばだぼどぅ、びぶび」


 なんて?


 もうなんか……顔中から色々な液体を放出しながらダバダバ言っているジョウセン。


 ほんの数分前、俺の剣として生きる事こそ誉と凛とした佇まいで語っていた剣聖は何処にもいない。


「……?」


 ほら、妹ちゃんも何と言われているか全く理解できてないぞ?


「どべぼど、どべぼどびんばびびばば!」


「どういう事でしょうか?兄さま?」


 ほんとそれな?


 とりあえず、理解できる言語でどうぞ?


「ばんべん!ばんべんばぼ!」


「三年……?あ、あぁ、そうでしたね。フェルズ様から説明して頂いています。兄さま達はこちらで三年近くの時を過ごしておられたとか」


「びぶび?」


 ……あれ?


 妹ちゃん……ジョウセンと会話成り立ってる?


「わたくしの主観では、今朝も兄さまとお会いしております」


「ぼび?びっばびぼぶびぶぼぼば?」


「えっと……そちらに関してはわたくしが説明するよりも、フェルズ様からお聞きした方が良いかと」


 え?


 妹ちゃんここで俺に振るの?


 ……いや、大丈夫だ。


 ジョウセンが何を言っているかはさっぱり分からんが、妹ちゃんの方はちゃんと人類の言葉を発していた。


 その事から考えれば……うむ、謎は全て解けた!


「ジョウセンには……いや、殆どの者には説明していなかったか。まぁ、良い機会だから説明しておこう。だが、まずは皆に二人を紹介しておこう。皆も察しているとは思うが、彼女たち二人は俺が以前のエインヘリアから新たに召喚した。一人は、ジョウセンの妹であるイズミ。そしてもう一人はリーンフェリアの姉であるルートリンデだ」


 俺が紹介すると、二人は皆の方に向き直り頭を下げる。


 イズミはエイシャ達と同じくらいの年代で、メイドとして従事してもらう。


 一応サポート系のアビリティを少しだけ付与したけど、戦場に出ることはないだろう……ジョウセンが絶対に許しそうにないし、俺も出すつもりはない。


 ルートリンデの方は、キリクやイルミットの下につく文官として従事してもらうのだが、彼女の方はかなり魔石を消費しており、かなりの能力値とアビリティを獲得している。


 だが内政方面に特化させたので、キリク達の様に魔法や計略で戦う事は出来ない……というかそこまで出来るようにしたら魔石がいくらあっても足りない。


 その分内政関係で使えそうなアビリティは色々詰め込んだ。


 流石に知略を125には出来なかったけど、なんとか100までは設定できた。


 開発部の最低基準に比べると、キリク達の下につける文官は要求水準がどうしても高くなるからなぁ。


 といっても最近の収入を考えれば、三か月もあればおつりがくる感じだけどね。


 とりあえず、直近の目標であったリーンフェリアとジョウセンの家族を呼び出すことが出来たし……これからは魔石を溜めつつ開発部の人材を確保していこう。


「イズミはメイド、そしてルートリンデには文官として働いてもらう。元々二人ともエインヘリアの民ではあったが仕官していたわけではないからな。分からない事も多いだろうし、皆も色々と教えてやって欲しい」


 俺がそう言うと、皆力強く頷いて見せる。


 ……手加減はしてね?


 二人とも肉体的な強度は初期値だからね?


「それと、先程の件だが……イズミやルートリンデ。それに以前召喚しているケイン達も含め、全員が同じ時……同じ瞬間のエインヘリアから召喚されている。それはお前達がこの世界に来たのと同じ、統一歴8年のエインヘリアだ」


「「……」」


「ケイン達と関わっている者達は恐らく知っていたと思うが、残念ながら俺達……いや、皆が居なくなった元のエインヘリアがどうなったかは、現状知る術がないという事だ。何故召喚した者達も同じ時から呼び出されるか、理由は分からんが……こればかりは中々な」


 いや、理由は分かっている。


 ゲームのエンディングで語られているのがその年だからだ。


 そして元のエインヘリアの時間はそれ以上進むことが無い……そういう事だろう。


 だからいつ呼び出したとしても、呼び出される子達は必ずエンディングの終わったそのタイミングなのだろう。


 フィオの儀式によって取り込まれたゲームの情報なのだから、これは当然の事と言える。


「さて、今回の論功行賞はここまでだが……ジョウセンとリーンフェリア。二人にはこの後休みを取ってもらう。お前達にとっては約三年ぶりの再会だ。ゆっくりと家族で過ごすと良い」


「お心遣い感謝いたします!フェルズ様!」


 しゃきっと返事をするのはリーンフェリア。


 うん……ジョウセンに全てを飲まれて、リーンフェリアの方はなんかサラッと流れてしまった気がするけど……後ろから見ていて、リーンフェリアの方もかなり驚いていたのは分かった。


 ルートリンデの方も優しく笑っていたし、もしかしたら、俺からは見えなかったけどリーンフェリアも泣いていたのかもしれないな。


 気のせいか、背筋をピンと伸ばして礼を言っていたが……少し目が赤い気がするし。


 そんなリーンフェリア達姉妹の再会を微笑ましい感じで見られなかったのは……全てジョウセンが悪い。


「ど、どのおおおお」


 土嚢?


 こちらを見上げるジョウセンの顔は……なんかもう色々酷い。


 絶対に帝国のリカルドには見せられない表情だ。


 あの人、ジョウセンを滅茶苦茶慕ってるからな……。


 うん、いつもの飄々としたジョウセンは何処にもいない……多分皆も若干引いて……あれ?シュヴァルツが何か鼻をすすってない?


 目はマスクをしてて見えないけど……。


 ……俺が人でなしなのだろうか?


 他の皆も、引くというよりも微妙に優しい目つきになっている気がするし……うん、これは俺がクソ野郎ってことだわ。


 うちの子達の優しさと、己の狭量さに心を打たれつつ……俺はジョウセンへと語りかける。


「ジョウセン、今日までの事を色々と話してやると良い。多くの事があったからな。イズミ、お前にとっては数時間程度の再会だとは思うが……ジョウセンの事を頼むぞ」


「はい、フェルズ様」


「どのおおおおおおお!」


 土嚢ちゃうわ。


 そんなツッコミを押し殺しつつ、俺は普段通り皮肉気に笑って見せる。


 ……ゲームのエインヘリアには過去がある、だが未来は存在しない。


 しかし……今ここで生きているこの子達には未来がある。


 その事を知る俺は……彼らに未来を作り、幸せにしてやらなければならない。


 俺と共にこの世界に生み出された子達、そして俺が新規雇用契約書を使い生み出した子達。


 フィオの願いを叶えるという目的と優先度は同じくらい……いや、魔力収集装置の件に終わりが見えてきた今、彼らの未来を作る事こそ至上の目的と言えるかもしれない。


 俺がやる事は変わらない。


 自身の目的のために前に進み続けるだけだ。


 俺はフェルズ……覇王フェルズだ。


 何の因果か自国の玉座の上で過去最大のピンチを迎えたり、人として大事な何かを持っていないのではないかと突き付けられたりしながらも強く生きていく覇王だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る