第451話 論功行賞・前



 とても堅い玉座に座り、俺の前に整列しているうちの子達を見下ろす。


 実に大げさな様子だと思うけど、まぁ……俺の立場はとんでもない事になっているからなぁ。


 なんだかんだでうちの子達だけの王から、人口五千万近くを有する大国の王様だもんな。


 いや、ほんと迂闊な事出来ないよね……。


 そんなこと考えたらお腹痛くなって来た気がする……。


 いや、寧ろそう言う立場だからこそ、唯我独尊をいっても良いのではないだろうか?


 ……とは思うけど、俺の今のこの状況は、うちの子達の働きあっての事だからな。


 せめて王として威厳を保たなくては、彼らが侮られることになる……それだけは俺自身が許せない。


 ってことは……やはりこういう雰囲気作りや儀式、儀礼的な色々は必要だろう。


 面倒だけど。


 まぁ、フィリアやエファリア達も面倒だとは言っていたし……ほんと、誰が得するんだろうね?こういうの。


 とりあえず、心の中で愚痴っていても仕方がない。


 俺は玉座の間にいる皆を見渡しながら口を開く。


「皆よく集まってくれた。ブランテール王国の件がひと段落ついたことだし、今日は皆に感謝を告げようと思ってな」


 論功行賞という訳ではないけど、頑張ってくれている皆に褒美を与えようと考えたのだ。


 まぁ、今日この場にいない子達もいるけどね。


 アランドールとかウルルとか……他にも何人か。


「まずはキリク。お前には多くの事を任せているが、そのどれもが完璧というより他ない成果を出しているな」


「はっ!全てはフェルズ様の為。非才の身ではありますが、フェルズ様の覇業を成し遂げる一助と成れますれば、これに勝る喜びはございません」


「くくっ……キリクをもって非才と言われてしまっては、この世界の全ての者が項垂れるしかなくなるな。だが、その飽くなき向上心と忠義に、俺は最大限の信頼を覚える。今後も頼むぞ?」


「は、はっ!我が身命を賭して!」


 感極まったようなキリクの返事に、俺はゆっくりと頷いて見せる。


「キリク、褒美を与えようと思うが、お前は何を望む?」


 この褒美というのがかなり厄介なんだよね。


 エインヘリアには、ゲーム的な効果を持ったものと、この世界で手に入れたものが存在するけど、ゲーム的な効果を持ったものは……この世界に来た時点で最強装備状態だから、わざわざメインメンバーの子達にあげる必要はない。


 そしてこの世界で手に入れたものは……ぶっちゃけこれは欲しい!ってなるものは、ほぼ無いと言える。


 まぁ、魔道具辺りは今後レギオンズにもないような物が開発される可能性はあるけど、現時点では下位互換……オトノハ達が魔力収集装置による忙しさを脱したら、オスカー達よりも凄いものとか開発しそうだよね。


 因みに、レギオンズにはイベントアイテムとして色々なものが存在しており、特殊な効果を持ったものも山のようにある。


 ゲームの性能的な部分とは別の……イベントアイテムもこの世界ではその効果のまま使うことが出来るので、強力無比なアイテムや個人的に欲しいものは色々あると思う。


 毛生え薬とか浮遊マント、韜晦する者等のアイテムの事だが……キリクを含め、皆が何を欲しがるか分からないしね。


 だからこうして聞くことにしたんだけど……皆の前で欲しい物言いなさいってのは……ちょっと酷いか?


 恥ずかしいとかあるよね……?


 例えば毛生え薬とか……。


 ほれ薬なんてのもあったよな……。


 まぁ、キリクはどっちも要らないだろうけど……他にも、やべーアイテムから王道なアイテムまで色々ある。


 キリクだったら何渡しても変な事には使わないだろうし、余程の物じゃなければ渡していいだろう。


「……フェルズ様。それは物でなくても良いのでしょうか?」


 一瞬、キリクが口を開く前に、何か目配せのような物をしてきた気がする。


 これは……さぁ、どういう意味だろう?


 うーん……あぁ、多分あれだ。


 真面目なうちの子達が希望を聞かれた時に、そんなもの要りませんっていうのを牽制するために、敢えて難題を突きつけます……的な奴だな。


 トップバッターであるキリクが希望を好き勝手に言ってくれれば、後続の子達もやりやすいだろう。


「あぁ、構わんぞ」


 まぁ、大抵の事は叶えてやるつもりだし……いろいろ言われた方が助かるからね。


 キリクが率先して無茶を言ってくれれば非常に助かるってもんよ。


「では、前回と同じ物を」


 キリクがそう口にした瞬間、誰も声を上げていないのに一瞬ざわりと空気がどよめいた気がするんだが……なんだろうか?


「前回……?あぁ、あれか」


 ……なんだっけ?


 いや、分かってる、あれやろ?


 あの……何の時だったか忘れたけど、何でもしてやるぞ的な事言った奴だ。


 キリクは、何を望んだんだっけ?


 駄目だ……リーンフェリアと出かけたことしか覚えてない。


 ……よし、こういう時はいつものアレだな。


「くくっ……同じで良いのか?」


「はっ!あれこそ私にとって至上のひと時……これに勝る褒美はありません」


 あれってなんぞ?


 でもまぁ……以前一回やってるんだから、そのうち思い出せるだろうし問題はないか。


 今すぐとか言われたらあれだけど……ん?


 あっ!思い出した!風呂だ!


 キリクの願いは一緒に風呂に入る事だ!


 おっけーおっけー、それならなんも問題ないね!


「……では、お前の良き時に誘うと良い。折角ならそこで軽く酒も飲むか?」


「おぉ……まさかそのようなことまで!ありがとうございます!」


 キリクが満面の笑みを浮かべながら頭を下げる。


 そんなに嬉しいのことだろうか?


 まぁ、本人がいいならいいんだけど。


 正直言って、飲みにケーションはあんまりだと思ってるけど……うちの子達は結構本気で喜ぶからな。


 まぁ、悪い気はしないが。


 さて、次は……。


「シュヴァルツ。帝国、スティンプラーフ、そして今回。お前であれば造作もない事だとは分かっているが、大事な局面でのお前の働きは実に見事。その働きに報いたい……何なりと望みを言うが良い」


「ふっ……我が主よ。何でも良いのだろうか?」


「あぁ、無論だ」


「ならば……邪眼を所望する」


「邪眼?アビリティのか?」


 俺がそう尋ねるとシュヴァルツはこくりと頷く。


 ふむ、邪眼か。


「勿論構わないが、効果は知っているのか?」


「問題ない」


 『邪眼』はレギオンズのRPGパートで使用できるアビリティで、効果は一ターンだけ相手の動きを封じることが出来るという代物だ。


 一回の戦闘で一度しか使えず、ターン制バトルなので相手より動きが遅いと邪眼発動前に敵が行動してしまい、全くの無駄打ちになるという微妙スキル。


 まぁ、ラスボス相手でも確実に動きを止められるから使い方によっては超便利だけど、シュヴァルツなら相手の動きを止めるより全力で攻撃した方が確実に強いだろう。


 俺はキャラにこのアビリティを覚えさせたことはないけど、レギオンズの固有キャラで持ってる奴はいたから使った事はある。


 残念ながら、動きが早いキャラじゃなかったからほぼ死にアビリティだったけど。


 でも現実となった今では、普通に手加減をするよりも確実に相手の動きを止められる邪眼は便利かもしれんな。


 ……まぁ、シュヴァルツが邪眼を欲している理由は……そういう実用性とかじゃないと思うが……。


「分かった。だが色々と実験をする必要があるから、アビリティを覚えたら付き合え」


「承知した」


 俺が了承すると、目をマスクで隠しているにも拘らず、明らかに嬉しそうな様子でシュヴァルツが頷く。


 確か『邪眼』を覚えるのに必要な魔石は六百六十六万個……この世界なら十倍で六千万ちょいだな。


 中々良い値段するけど……まぁ、褒賞だから別に気にしなくても良い。


 最近はその程度の金額ではびくともしないくらいに毎月入ってきているしね。


 新規雇用契約書の実験とかしているから、余裕はそこまでないけど……大丈夫だ。


 可愛いうちの子のために、そのくらいの出費は……問題ない。


「次はレンゲ。ラ・ラガでの迅速な王都制圧と捕虜の確保ご苦労だった。何か希望はあるか?」


「私も前と一緒が良い」


 レンゲのその一言は、先程のキリクの時よりも確実に大きく玉座の間の空気を動かしたが……当のレンゲは一切気にした様子を見せない。


「……ふむ」


 前と一緒……。


 お、覚えてますよ?


 前と一緒ってあれやろ?


 一緒に寝るっていう……俺が紳士じゃなかったら色々ヤバかった奴。


 覇王の覇王が覚醒して夜の覇王が爆誕……することもなくいつも通りの夜と朝を迎えられるあれじゃろ?


「楽しみ」


「……そうか」


 楽しむ要素あった?


 あの時……俺が歯磨きしてる間に夢の世界に旅立ってたよね?


 何だったら……レンゲ的には一緒に寝るってよりも、朝起きたら一緒に寝てたって感覚じゃない?


「まぁ、お前がそれを望むのであれば別に構わない。好きにせよ」


「今度行く」


 ……くっ!


 分かっている!


 レンゲは多分……いや、間違いなくこの前と同じように唐突に来て……そして普通に寝ておしまい。


 分かっている……分かっているが!


 くっ!


 覇王ももうすぐ三歳……色々妄想が滾っても……仕方ないじゃないか!


 だが、玉座でそれは真剣にマズい!


 静まれ覇王!


 目覚めるにはまだ早い!


 突如訪れた試練に、俺は一度玉座に座り直し……足を組んだりしてみる。


 特に意味はない。


 そんな緊張感を伴いつつ、論功行賞的なものは続けられる。


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