第450話 事後
「ってな感じで、魔力収集装置の設置範囲を四か国分広げることが出来た訳だ」
「相変わらずとんでもない侵攻速度じゃな。いや、お主の目を通して見ておったから分かっておるが……本当に、相変わらずとしか言い様がないのう」
いつも通りフィオに夢の中に呼び出された俺は、早速最近の成果を報告する。
まぁ、本人も言っているが、俺の目を通して外の事を見ているフィオには、わざわざこういう風に報告をしなくても伝わっているのは理解している。
だけどまぁ、気分の問題だ。
「東進の始まりにしては中々順調だろ?」
まぁ、設置可能になっただけで設置していくにはまだまだ時間が必要だけど。
「まぁ、順調であることに文句はない……というか感謝しかないのじゃが。後は南東部の小国と魔法大国エルディオンじゃな」
「魔法大国か……フィリアとかから話は聞いているが、あまり良い印象はないな。妖精族を奴隷として集めたりとかな」
「ギギル・ポーの魔道具の件もあったしのう」
「まぁ、あれは作った可能性が高いだけで、魔法大国自身が仕掛けたかどうかは分からないけどな」
流石に目撃者ゼロだとウルル達でも簡単には調べられないしね。
しかしまぁ……全力でキナ臭い国だよね。
「今回の小国にいた三人の英雄。彼らは魔法大国の英雄なのかのう?」
「どうだろうな?なんか、どいつもこいつもちょっと変というか……『至天』や商協連盟にいた英雄とはちょっと感じが違うよな」
「そうじゃな。狂気的というかネジが外れておるというか……正気とは言い難い感じじゃな」
「今は尋問中だが……あの連中からまともに聞き出せるのかは謎だな」
っていうか、まともに会話になるのだろうか?
なんか、ラ・ラガの英雄はバーサーカーって感じだったし、エーディン王国の英雄は人の話聞いているようで全く聞いていないし、ゼイオット王国の英雄はなんかずっとキヒヒって感じで笑ってるだけだし……。
三国に魔法大国があの英雄達を送り込んだとして……よくもまぁあれだけ不思議な連中ばかり見繕ったものだ。
「しかし、あれが魔法大国の英雄だとして……何が狙いだったのかのう?連携することもなかったようじゃし……ただ各国の指示に従って暴れておっただけじゃろ?」
「偶然三人の英雄が各国に仕官したって可能性もゼロじゃないが……英雄の希少性を考えたらまずありえないよな。帝国があれだけ積極的に人材登用や戸籍を作って、やっと二十人くらいを見いだせたレベルだ。流石に三国が同時期に英雄を確保出来るとは思えんな」
帝国と三国じゃ人口が違い過ぎる。
帝国は大体六千万人の人口を有しているけど、今回の小国は三か国合わせても五百から六百万ってところだろう。
確率的に言えば……えっと、六千万の二十三人……で六百万なら……あれ?
十分の一だから二人と三分の一人……あれ?
ワンチャンあるか?
「数字上はあるかもしれんが、戸籍だなんだとやった上でのその人数じゃからな?しかも同時期に登用されたとみて良いタイミング……ありえんじゃろ?」
「いや、知ってたけどね?」
ふっ……いかんな。
知略を上げたせいで数字に強くなった分……そこに囚われ過ぎていたようだ。
「アホの子はさて置き……相手の狙いはさっぱり分からんのう」
「魔法大国とは仲良くやれそうにないよな……」
魔法大国がやったと仮定した上での話だけど……。
「英雄を貸し出す必要性も分からんし、英雄を貸し出しておいて方針はその国任せというのも謎じゃな」
「……黒幕がいると仮定するなら、当然狙いがある。だとしたら、その狙いは……英雄を貸し出す事そのものってところじゃないか?」
「ふむ?利点があるように思えんが……」
顎に手を当てつつフィオが首を傾げる。
「英雄のアウトソーシングとか?」
「そんなことするより自軍の戦力に組み込むべきじゃろう?」
「そりゃそうか……」
他国に戦力を貸す様な余裕のある国は、帝国くらいのものだろう。
それに魔法大国は血統主義らしいけど、どう見ても魔法使いタイプじゃない英雄だったしな。
ん?
魔法使いタイプじゃないから放逐したのか?
でもな……それだったら三人揃って他の国に行く方が好条件で雇われるよな。
それこそ、小国に行くよりも中堅国であるブランテール王国に行く方が条件が良いだろうし、北に向かえば帝国がある。
間違いなく雇用条件は小国より良い……っていうか比べ物にならない筈。
普通に考えれば小国で働くよりもそちらを選ぶだろう。
……いや、あいつら普通に考えるってことを放棄してそうな感じだったけど。
「しかし、そうじゃな……貸し出すことが目的というのは、ありかもしれんのう」
「そうなのか?」
「じゃが、その辺りはあの三人の尋問が進んでから考えた方が良いじゃろうな。全くの見当違いという可能性もあるしの」
「……それもそうだな」
フィオの言葉に俺は頷く。
あやふやな情報と推測で、他国についてマイナスイメージを固めるのは良くない。
勿論推測をしていれば咄嗟に対応出来る可能性もあるけど、予想と大きく違っていた場合逆に動けなくなる可能性もある。
それくらいなら余計な先入観は持たずに相対するべきだろう。
そう遠くない内に魔法大国とは接触することになるだろうしな。
その時にうっかり疑心とか敵意とか出たらマズいしな……覇王はそういうの表に出ちゃいそうだし。
「まぁ、あの外交官達なら、意思の疎通が困難な相手であったとしても、さして時間をかけずに情報を吸い上げてくれるじゃろう」
「そうだな。そういうのが一番得意そうなのはクーガーなんだが、今は出張中だしな……」
「ふむ、確か……教会で色々と裏工作をして居った奴につけておるんじゃったか?」
「あぁ、まだ目的地は教えてもらっていないらしいが、それなりに信頼されているようだな。今は帝国内を東に向かって移動中らしい」
「東のう……」
何やら言いたげな表情で東と呟くフィオ。
「言いたい事は分からんでもないが、決めつけは良くないぞ?帝国内の裏組織って可能性も十分あるしな」
「それはそうじゃがのう……」
そりゃぁまぁ……この流れで東に向かわれたら……疑うよね。
「まぁ、それはさて置きだ。なんでブランテール王国の王様や王太子は、三国を統治下に収めなかったんだ?」
「いや、三国を落としたのはエインヘリアじゃろ?常識的に考えて、ブランテール王国が領地にするわけないじゃろ」
「いや……でも、ほら……戦争してたのはブランテール王国じゃん?俺は援軍として落としてやっただけだから、ブランテール王国の領土にすればいいじゃん?俺が持って行っていいよって言ったんだし」
流石に俺も、ブランテール王国自ら三国の領地寄越せと言ってくるとは思ってなかったよ?
だから戦後賠償も兼ねて、三国の領地は全て持って行けって伝えたわけよ……だというのに、中毒から回復した王様も王太子も全力で首を横に振ったからな。
あれは……統治するのが面倒って考えたんだろうな。
この辺りの国は領土拡大こそ正義って考えの所が多いから、てっきり二つ返事で受け取ってくれると思っていたんだが……おもくそ当てが外れた。
ならせめて一国だけでも……と思ったんだが、それさえも固辞されてしまった次第である。
「また国境線が書き換えられたよ。いつになったらうちの国境沿いは安定するんだ?国境に魔力収集装置を設置するたびに、そこが国境じゃなくなっていくんだが……」
「他人事みたいに言っておるが、全部お主の差配じゃろ?」
「解せぬ」
パールディア皇国の時も援軍ってていで行って、領土は増やさないつもりだったのに……パールディア皇国もシャラザ首長国も、国内が不安定だから今は自国に集中したいという理由で、ヤギン王国領とスティンプラーフ領をこっちに押し付けて来たし。
今回は、中堅国であるブランテール王国ならば余裕があるだろうと思って、張り切って助けてみたら、全力でお断りされてしまったし……。
「攻められてかなり被害が出ている訳だから、戦後賠償は必要だろうに……」
「金は出してやるんじゃろ?」
「まぁな。でもさ、王家とか貴族とかを潰して財産没収して、それをブランテール王国に渡したら……なんか俺達が賠償金払ったみたいな感じがしないか?」
「まぁのう。じゃが、没収した以上の金額を支援するんじゃろ?」
「それはそうだが……」
所詮小国である三国には碌な資産がなかったし、なけなしの資金をはたいて今回の戦争にかけていた感じで……正直、中身はかなりボロボロだった。
英雄という切り札があったからこそ踏み切った戦争だったんだろうけど、三国揃ってボロボロって……それもう完全にブランテール王国の勝ちだよね?
「三国には、英雄という大駒を使いこなすだけの器量がなかったというわけじゃ。戦場で敵を倒すことは出来ても、金を生み出せそうな連中ではなかったしの」
「暴れられれば良いって感じのタイプだったしな。三人が三人とも」
アレは正直……戦争か魔物退治や野盗退治くらいにしか使い道が無さそうだ。
しかも部下を率いたり出来そうにないから、ただの兵卒として……はっきり言って使い勝手が悪すぎる。
中々三国が英雄という切り札を切らなかったのは、その使い勝手の悪さもあったのかもね。
「まぁ三国上層部の尋問も進めているし、現時点で見えていない事もその内分かるだろうけどな」
「そうじゃな。因みにこの後はどう動くのじゃ?」
「情報次第だけど、俺としては魔法大国は後回しだな。エーディン王国が手に入ったから、そこから大陸南東部に手を出そうかと。エルフの国……という程規模が大きいわけではないらしいけど、分類的には国があるらしいからな。早いところ顔を出しておかないと、大変な事になっていそうだしな」
「なるほど。とすると、またバンガゴンガが忙しくなりそうじゃが……」
最近は部下を育成して仕事を割り振ったりしているバンガゴンガだけど、相変わらず超忙しそうではある。
しかし、それはそれとして、バンガゴンガはそれ以上に大事な仕事が待っている。
「忙しくなる前に結婚式だな。準備はしっかり進んでいるしな」
「リュカーラサが乗り気で良かったのう」
「あぁ。やっぱ結婚式の主役は花嫁だよな」
見た目は美女と野獣って感じの二人だが、あの二人以上にお似合いのカップルはいないと言えるくらい良い感じの二人だからな。
どこぞの禿は見習うべきだと思う。
「……お主も人の事は言えんじゃろう」
「なんか言ったか?」
フィオが何やら苦虫を嚙み潰したような表情で呟いた気がしたが……。
「何でもないわい」
そんなフィオの言葉を最後に、俺はベッドの上で目を覚ます。
今日はいつもよりも少し時間が早いのか、まだルミナは俺の脇の下で丸くなって寝ている。
とはいえ、二度寝する程早い時間という事もなさそうだ……カーテンから漏れて来る日の光が、既に外が明るい事を知らせて来ているしな。
とりあえず、今日の仕事はもう決まっている……正直そのこともフィオに相談したかったのだが……その事に触れてこなかったという事は、問題ないということだろう。
俺が目を覚ました事を感じ取ったらしいルミナが起き上がり、伸びをする。
その背中をゆっくりと撫でながら、俺は今日の予定について考え、気合を入れた。
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