第424話 暖かな午後のお茶会



 本日の覇王の予定は……午前中はいつも通り執務室で書類仕事、午後イチからは帝国でいつものメンバーとお茶会となっている。


 最初の頃はお茶会って、なんか肩ひじ張って大変そうだとか考えていたけど……参加してみれば何のことはない、ただのおしゃべり会といった感じだった。


 勿論メンバーがメンバーなので、偶に政治的な話もするけど……堅苦しいことはなく、気楽な感じでやれるので俺としてはありがたい限りだった。


 まぁ、俺以外が女性ばかりというのは色々気にならないと言えば嘘になるけど……エファリアに関して言えば、週に一回は最低遊びに来るし……ノリ的にも近所の子供って感じで気楽だし、フィリアも仕事モードじゃない時は結構話しやすいタイプなのでなんだかんだで良い息抜きになる。


 最近はリサラも参加するようになったが、彼女もプライベートな時間と考えてくれているようで肩の力を抜いて話が出来ているようだ。


 それに、三人とも甘いものが好きだからな……新しいスィーツを彼女達に食べて貰い、評価をして貰うというのも大事な要件の一つだ。


 そんな訳で、このお茶会に関しては良い息抜きとなると同時に、今後への大事な布石でもある。主に食の向上的な。


 彼女達は同盟者や属国でも重要な立場……親交を深めておくに越したことはない相手だ。


 けしてさぼっているわけではない。


 そんな訳でいつも通りお茶会へとやってきたのだが……時間より多少早めに到着してしまったにも拘らず、既に三人とも揃っており何やら真剣な様子で話しをしていたようだ。


 そんな三人に軽く挨拶をしてから俺は椅子に座り、新しいスィーツを持ってきたことを報告する。


 しかし……何か違和感が……。


 いつもであれば新作スィーツの話をすれば、皆目を輝かすのだけど……何故か今日は妙に力のこもった目で三人とも俺の方を見ている。


 ……一体何の話をしていたんだ?


「……何かあったのか?」


 とりあえず俺はフィリアの方に顔を向けて尋ねてみる。


 こういう時の仕切りは大体フィリアだろうし、彼女に聞けば分かりやすく説明してくれる筈だ。


「えっと……そうね……どうかしら?」


 ……何が?


 俺の予想に反して、めっちゃフィリアが言い難そうにしているんだけど……政治的な問題、という訳ではなさそうだな。


 もしそうであれば、仕事モードの皇帝フィリアがはっきりきっぱり内容を告げてくる筈……ということは、先程までの真剣な空気は……プライベート系ってことになるな。


「……まぁ、女同士でしか出来ない話もあるだろうからな。無理に聞くつもりはないから安心して……」


「い、いや、待って!違うの!実は……フェルズ、けっ……」


「ところでフェルズ様、先程言われていた新しいお菓子というのは?」


 物凄く言い難そうにしながらも、意を決してといった感じで言おうとしたフィリアを遮るように、エファリアが口を開く。


 フィリアは俺に義理立てしようとしてくれた感じで、エファリアはフィリアに気を使った感じか……やはり男の俺が聞くには微妙な話題だったようだな。


 よし、セクハラだなんだとなる前に、エファリアに乗っておこう。


「あぁ、ルフェロン聖王国でも作っているシュークリームに似た菓子でな、エクレアという。どんな菓子かは見てのお楽しみといったところだが……ふむ、来たようだな」


 俺がそう言うと同時に、メイドがお皿に載せられたエクレアを俺達の前に置いていく。


「これはチョコがかけられているのですね……」


「なるほど……敢えてチョコを溶かすことでこうやってかけたりする方法が……」


「……シュークリームとは形が少し違うのね」


 エクレアを興味深そうに見ている三人には先程までの雰囲気はなく、完全に新しいお菓子に心を奪われているように見える。


 いや、フィリアは若干こちらを気にしているような感じもあるけど……ここは皆に乗るようだ。


 うん、やはり新作スィーツは正義だな。


 何かあった時のために、常に携帯しておきたいほどの攻撃力がある……よく物語りとかにある、空間魔法だとかアイテムボックスだとか言うとんでもない代物がレギオンズにもあればなぁ……残念だ。


 そんなことを考えつつ、三人が真剣な表情でエクレアを見つめる姿を見ていたのだが……何故か誰も食べようとしない。


 そんなに食べるの難しくないと思うよ?


 寧ろシュークリームの方が食べにくいかと……そんなことを考えていると、三人が同時に動き出し、ナイフでエクレアを切り分けて食べる。


 流石に皆さんお上品ですね……そんな感想を抱きつつ、俺も三人に習ってエクレアを一口サイズに切って食べる。


 カスタードクリームとホイップクリームの両方を挟んだエクレアは、とろけるようなクリームとふわふわとした軽やかなクリーム混ざり、濃厚ながらもくどくない優しい甘みが口に広がる。


 俺の持ってきたエクレアは、チョコレートを半分だけかけたタイプなので、食べ進めれば味が変わり最後まで楽しむことが出来るだろう。


 因みに三人は……エクレアを一口食べた後、無言でそのまま食べ続けている。


 基本的に新作スィーツを持ってきた場合……最初の一個はお茶請けというよりも、これを食べることがメインになってしまうのがいつもの流れだが、エクレアも御多分に漏れずその流れのようだ。


 この様子ならエクレアも銘菓入りだな。


 まぁ、自信はあったけどね?


 俺はエクレアを食べる三人を満足気に見ながらお茶を飲んだ。


「そういえば、フェルズ様」


 暫く無言の時が過ぎた後……一つ目のエクレアを食べ終えて落ち着いたのか、エファリアがこちらを見ながらにっこりと微笑む。


 ちょっと口の端にチョコがついているけど……こういう時って、女の子に指摘してあげるべきなのか、ちょっと悩むよね。


「どうした?」


 俺はナプキンで口元を拭きながらエファリアに返事をする。


 俺の動きを見たエファリアも少し照れたような笑みを見せた後、口の周りをナプキンで拭う。


 やっぱり難しいなぁ……。


「フェルズ様は各国の結婚式について調べておられるとか?」


「……あぁ。相違ない」


 どうやら俺が色々と聞いて回っていたのを耳にしたのだろう。


 まぁ、今日も三人に聞いてみるつもりだったんだが。


「……結婚式にご興味があるんですの?」


「あぁ、今度やろうと思ってな」


「「っ!?」」


 三人が驚いたような反応を見せ……フィリアに至っては紅茶をひっくり返しているな。


 そんなに驚く様な事だろうか?


「あ、あの!フェルズ様!?」


 いつも余裕のあるエファリアにしては珍しく慌てているようだけど……そんなに変な事言ったか?


「なんだ?」


「その……一体どなたと……」


「あぁ、バンガゴンガだ」


「「!!?」」


 あれ?何故かもっと驚いた表情になったぞ?


「ふぇ、フェルズ様!?な、何故そのような事に!?」


 な、何故と言われてもな……。


「……なるべくしてなったとしか言いようがないが……」


「な、なるべくして……」


 驚いているというよりも、何故か三人とも物凄くショックを受けているんだが……え?バンガゴンガ好きだったの?


 いや、バンガゴンガがモテる事自体はおかしくないと思うけど……え?バンガゴンガいつの間にそんなロイヤルなハーレム形成してたの?


 え?バンガゴンガ?


「「……」」


 うーん、しかし……バンガゴンガはリュカーラサ一筋だと思うし、いや、そもそも三人とは身分差がえらい事になってるしな。


 ここは、遠回しに無理だと告げた方が良いだろうか?


「因みに、プロポーズはバンガゴンガからだ」


「「!!???」」


 リアクションが激しいな……そんなにショック?


「俺が各国の結婚式について調べていたのは、エインヘリア以外の結婚式がどのようなものか知りたかったからだ。出来ればそれぞれの良いところを参考させて貰って、取り込むことが出来ればと思ってな」


「……な、なるほど……?」


「バンガゴンガには絶対に幸せになってもらいたい。だから俺も出来る限り……いや、全力を尽くすつもりだ」


「ぜ……全力……」


「エインヘリアでは花嫁がウェディングドレスという物を着るんだが、作成には時間がかかるし、早めに作り始めないといけないんだが……まだ職人も決まっていなくてな」


「……ど、ドレスですの?それは……ば、バンガゴンガ様が?」


 エファリアの言葉に、俺の頭の中でウェディングドレス姿のバンガゴンガがブーケを持って微笑む姿が浮かび上がる。


 何このとんでもない破壊力の絵面は?


 魔王でも一撃で倒せそうな威力あるよ……?


 動揺しているのか、とんでもない事をエファリアが言い出した。


 落ち着いて……?


 流石に、バンガゴンガはイケゴブだけど純白の花嫁衣装は似合わないよ……?


「エファリア、ウェディングドレスは花嫁衣装だ。バンガゴンガは着ないぞ?」


「で、では、フェルズ様が!?」


 なんでそうなる?


 花嫁言うとるやろ?


「エファリア落ち着け、何故そこで俺が出て来る?バンガゴンガの結婚式だぞ?」


「えっと……?ですから……」


 未だかつてない程エファリアが混乱している。


 いや、エファリアだけじゃない。


 リサラは目をぐるぐると回しながらあわあわ言っているし、フィリアは一度転がしたティーカップを拾い、そのままがくがくと震えている。


 いや、何事?


「ドレスを着るのはリュカーラサ、バンガゴンガはタキシードだな」


「「……??」」


「バンガゴンガ達の結婚式だ。個人的には結婚式に出席して祝福したい気もするが、俺が出てしまっては、周りも緊張するだろうからな。結婚式の段取りはするが、参列はしないつもりだ」


「「……」」


 バンガゴンガやリュカーラサなら気にしないでくれそうだが、家族や友人達はそうじゃないだろうからな。


 まぁ、普通に考えて王様と同席して緊張しない奴はいないよね……俺が逆の立場だったら胃酸を吐く自信がある。


 バンガゴンガ達の結婚式は、エインヘリアにおける冠婚葬祭の先駆けとなってもらうつもりではあるけど、それ以上政治的な利用をするつもりはない。


 身内や仲間内だけで、大いに祝福して欲しいと思う。


「……フェルズ様?」


 一気に落ち着いた……というか、物凄い凄味のある笑みを浮かべながらエファリアが名前を呼んでくる。


「ん?」


「一つ確認させていただけますか?」


「あぁ」


 何故だろうか?


 にっこりと微笑むエファリアと同等の圧力を、フィリアやリサラからも感じる。


「バンガゴンガ様が、リュカーラサさんと結婚をするので、フェルズ様がその結婚式を取り仕切る。その為に参考として各国の結婚式について調べていた……そういう事ですね?」


「あぁ、その通りだ」


「「……」」


 俺がそう答えると、三人から一瞬……未だかつて向けられた事のないような目線を向けられた。


 お、俺なんかやっちゃいましたか?


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