第383話 お宅訪問:挨拶まであと少し
View of マハルタ=レイリューン フェイルナーゼン神教司教 革新派
素晴らしい。
私がエインヘリアという国を見てきた感想は、その一言に尽きます。
根本的な活気。
主要な街どころか主道から外れた村であっても、まるで何かの祭りでも開催されているのではというような活気が感じられます。
勿論、大きな街と地方の村では人口が全然違うので、当然その様子は違うのですが……なんというか、地方の村であっても民の健康状態は非常に良く、生活環境が非常に整っている事が一目でわかるのです。
ぱっと目に付いたのは、彼らの衣類と住居。
私の知る地方の農村の者達であれば、着用している衣服は農作業で常に汚れ、何度も繰り返し洗った事で擦り切れてしまっているのが普通です。
大きな破損は自分達で修繕し、繰り返し使う。
子供達は成長に合わせ衣服を変えなければならない為、村全体で衣服を譲り合い、手直しを繰り返したものを着ているものです。
私達は奉仕の一環として、そんな村落に新しい衣服を提供することも炊き出しや治療等と合わせて行っております。
ですが、エインヘリアの村ではその様子が全く違います。
畑で作業をしている方々は流石に汚れた服を着ていましたが、作業が終わると公営浴場へと向かい、身体を綺麗にしてから服を着替えるのです。
……何もかもがおかしいですね。
まず、農村に公営の浴場があることが異常です。
次に彼らが着替えた服……いえ、農作業をしていない方達の着ている服が、非常に高品質なものなのです。
勿論、高級品というわけではありません。
ですが、小さな農村に住む人たちが着る服とは思えない程、高い品質の布や縫製だったのです。
街に住む中流階級程度の方が着ているレベルの、しっかりと作られた清潔感のある服を村に住む方々が普通に来て過ごしているのです。
これは言うまでもなく……彼らが……いや、村全体が裕福である事の証左でしょう。
そして最初に挙げた様に彼らの住居……これらもサレイル王国の農村とは比べるべくもない、非常にしっかりとした造りの家屋が殆どでした。
衣類、住居……そして健康状態……全てが高水準であり、下手をすれば、サレイル王国の王都の民よりもエインヘリアの小さな村の民の方が生活水準が高いように感じられました。
しかし……浴場という非常に手間も金銭も必要とする施設を農村に建設し……無料で開放する。
……維持費は一体どこから……いや、公営である以上国からなのでしょうが、その予算は……?
そもそも何故農村に浴場を……?
様々な疑問が生まれましたが……流石にそれを村人に尋ねたところで、ちゃんとした答えは返って来ません。
各村には代官と呼ばれる役人が派遣されており、その方であれば大抵の事は答えてくれるとの事でしたが、流石に面会を申し込むわけにもいかず、泣く泣く村を後にすることにしました。
そして私達は南下を続け、いくつもの街や村を通り……その様子を具に観察してきた結論は……ここは理想の国。
あらゆる賛辞で表現したとしても陳腐に思える、そう確信できる国の姿がそこにありました。
だからこそ、何度でも私は思うのです、本当に素晴らしい国だと。
それに、ただ一方的に与えるだけではないという事も、道中多くの街を見て理解出来ました。
どうやらエインヘリアでは、国から物凄い数の仕事を民に下ろしている様です。
仕事の内容も軽作業から重作業まで、多岐に渡るようです。
特に素晴らしいのは子供や年寄り、それに怪我や病気等で働くことが困難な民にも、積極的に彼らにあった仕事を斡旋しているところですね。
私達フェイルナーゼン神教においては彼らこそ救うべき存在であるという考えですが、多くの者たちにとっては違います。
弱者とは率先して切られる存在。
それらを取りこぼすどころか、他国の平民以上の水準まで引き上げているエインヘリアという国……そしてそのトップであるエインヘリア王、この国に来る前は複雑な思いを抱いていましたが……今はとにかく早くお会いしてみたいですね。
戦争を繰り返す暴虐の王なのか、それとも民を愛し導く慈愛の賢王なのか。
ここ数日は、その事ばかり考えているような気がします。
それにしても、エインヘリアに入る直前は王都に着くまで四か月はかかる見込みでしたが……明日には王都に着くというのに、エインヘリア国内に入ってからまだ二か月もかかっていませんね。
途中で寄った全ての集落で私達の出る幕が無かったこともあり、普段であれば数日滞在するところをほぼ素通り出来たからという事もありますが……それ以上にこの道ですね。
国が斡旋している仕事の一つに、街道整備があるらしく……かなり広い範囲で石畳による舗装が成されており、馬車の速度が普段よりもかなり早かったというのが大きいですね。
これは恐らく……民に仕事を与えると同時に、流通の速度を上げる為でしょう。
民は仕事を得て、その仕事の結果流通が加速し、民は更にお金を得る……何という綺麗な回り方なのでしょうか?
理想をそのまま体現……いや、本当に身震いが止まりませんね。
街道を整備すると、他国が侵略してきた際に国内の移動を容易く行われてしまうというデメリットがあります。
ですが……エインヘリアには自信があるのでしょう。
敵にこの街道を使われることは絶対にないという自信が。
それは道中の治安の良さからも見て取れます。
エインヘリア国内に入ってから、一度たりとも……野盗はおろか魔物の姿さえ見ていないのです。
この治安の良さは、圧倒的な軍事力から来るものと見て間違いないでしょう。
野盗に関しては……この好景気で普通に働いた方が儲かるという側面もあるかも知れませんがね。
既存の野盗は既に討伐され、新しい野盗が生まれにくい……エインヘリアはそういう土壌が出来ているのでしょう。
私は震える腕を押さえるように、もう片方の手で掴みながらまだ見ぬエインヘリア王へと想いを馳せます。
明日にはエインヘリアの王都へ着きます。
謁見が叶うのは……まだ数日は必要でしょうが、本当に楽しみです。
一体どのような方なのでしょうか?
理想を追い求める夢想家なのか。
現実をしっかりと見据えた現実主義者なのか。
暴虐か理性か。
年の頃は?
この国の様子を見る限り、老獪さよりも若さや理想と言った色の方が強く見えますが……その中に繊細な調整、完璧な計算が見え隠れしている気がします。
理想と深慮遠謀……高いレベルでそれを合わせていると考えるべきでしょう。
神算鬼謀という方が正しいかもしれませんね。
これ程理想だけを煮詰めた様な国を、完璧なバランスで運営しているわけですし……人知を超えている人物であることは間違いないでしょう。
あぁ、本当に楽しみです。
もしエインヘリア王がフェイルナーゼン神の信徒ならずとも、我々の理想に賛同してくれるのであれば……いえ、この国を見る限りその可能性は非常に高いと言えます。
この謁見は、当初予想していた物よりも遥かに重要な意味がある……枢機卿猊下、私はそう確信しています。
View of フェルズ 神算鬼謀と呼ばれている覇王
「お誕生日おめでとうなのじゃ!今日から二歳じゃな!」
「お、今日だったのか」
フィオが満面の笑みを見せながら誕生日のお祝いを告げて来る。
どうやら……俺は二歳になっていたらしい。
二歳か……遂にアラゼロだな。
……いや、ずっとアラウンドゼロだわ。
なんかグラウンド・ゼロみたいだな。
後三年もあればアラテンになるけど……いや、心底どうでも良いわ。
あ、でもフィオは現時点でアラテンだな。
アラウンドテンサウザンド。
「おい」
「ごめんなさい」
物凄い圧を感じた俺は、未だかつてない程謙虚な態度でフィオに謝る。
「そもそもじゃな?私は五千年生きた訳じゃないんだから、五千歳じゃないじゃろ?儀式の後は意識なんてほとんどなかったわけじゃしの?」
「おっしゃる通りだと思います」
「私が生きた時間を年齢とするのなら……私は十八歳じゃ」
「それは嘘ですね」
「……」
「……」
俺達の戦いは終わらない!
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