第380話 Round.3
View of リサラ=アルアレア=パールディア パールディア皇国第二皇女
す、スラージアン帝国!?
何故大帝国の皇帝がここに!?
騙り……いえ、ありえません。
大帝国の皇帝の名を騙るなんて……極刑どころではありません。
普通に国家反逆罪で一族郎党処刑されるでしょう。
しかもここはルフェロン聖王国の王城で、私はパールディア皇国の王族です。
この場で、私達を前にしてそんなことを騙れる筈もありません。
即ち……この方は本当に、大帝国の皇帝……。
その事を確信した瞬間、突如として周囲が色づいたように感じられました。
私と同じテーブルに着きながらにこにこと微笑むエファリア様。
そして悠然とした笑みを浮かべたまま、こちらを見ているスラージアン皇帝陛下。
私は慌てて席から立ち上がり、皇帝陛下に向かって礼の形を取ります。
「パールディア皇国第二皇女、リサラ=アルアレア=パールディアと申します。スラージアン帝国皇帝陛下に御目文字叶った事、光栄に存じます」
「うむ。まぁ、そう硬くなる必要はない。今日の私はエファリアの友人として招かれただけだからな。難しいかもしれないが、エファリアに接するように私にも接して貰って構わない」
そう言って皇帝陛下は用意されていた椅子に座りますが……その御言葉は、どう受け取れば……。
「リサラ、大丈夫ですわ。フィリア様はお優しい方ですし、こうして小国に過ぎない我が国に友人として訪問して下さるような気さくな方です。不敬だなんだと面倒な事も言いませんし……私のような子供でも対等に扱って下さる心の広いお方です」
「……」
何故でしょう?
エファリア様から妙な威圧感が……いえ、表情はいつも通りにこにことしているのですが……。
「ふふ……まぁ、エファリアの言う通り、このような場で一々細かい事は気にしたりはしない。それに、言葉も軽いものにして貰って構わない。いきなり友人として、というのは難しいだろうが、良ければ皇女殿も私の事はフィリアと呼んで欲しい。恐らく……長い付き合いになるだろうからな」
そう言ってフィリア様は柔らかく微笑みます。
ここまで言っていただいたのですから、その御厚情に甘えさせていただきましょう。
「ありがとうございます、フィリア様。私の事は是非リサラとお呼びください」
「よろしく頼む、リサラ。さて、話を中断させてしまっただろう?何の話をしていたんだ?」
「今回エインヘリアが併合したらヤギン地方についてですわ」
「あぁ、大陸南西部の……あまり詳しくは聞いていないが、フェルズが面倒くさそうに言っていたな」
……フェルズ?
そ、そうですね。
フィリア様はあの大帝国の皇帝陛下……エインヘリア以上の国土を持つ大陸最大の国のトップ。
エインヘリア王陛下の事を呼び捨てても、おかしくないのかもしれません。
ですが……気のせいでしょうか?
先程フェルズと口にした時、フィリア様から優越感のようなものを感じたのですが……。
「ふふっ……まぁ、フェルズ様が時勢の読めない間抜けを誘い出すというだけなのですがね」
そしてエファリア様はエファリア様で、にこやかながら妙に迫力のある表情をされています。
なんというか……とてもエファリア様くらいの年齢の方が出せる凄味では無いような……。
「私なら後腐れない様に根切りにするところだが、フェルズは随分と甘いな」
「そうですわね。ですが、フェルズ様だからこそとも言えます。絶対的な強者にのみ許された傲慢……とでも言いましょうか?」
王の視点で語るお二人は、ただの皇女に過ぎない私とは覚悟が違います。
国を導かなければならないお二人にとって、害悪となり得ないヤギン王国の旧貴族は殺したほうが楽だという事。
勿論、私にもそれは分かります。
しかし、それを理解しているということと、現実にそれを実行するという事には大きな違いがあります。
当然このお二人であれば、国の為にためらいなくそれを実行することが出来るのでしょう。
大帝国を率いておられるフィリア様はともかく、まだ成人まで数年はあるエファリア様までそれだけの覚悟があるのですね……。
先程から鬼気迫る様子なのは……それを現実の物として考えておられるからでしょうか?
「まぁ、馬鹿の話はもういいだろう。さして面白い話でもないしな」
「そうですね。折角リサラもいるのですからもっと大事な話がありますね」
そう言ったお二人は、同じタイミングで用意されていたお茶を一口飲みました。
……大事な話というのは気になりましたが、なんとなく嫌な予感を覚えた私はこちらから話題を投げてみることにします。
「お二人は非常に仲がよろしいみたいですが、長いお付き合いなのですか?」
「いえ、半年……よりは長いくらいですね」
「そうだな。最初に会ったのは……確か私がフェルズの所で茶を飲んでいる時だったな」
「あの時は驚きましたわ。普段通り、フェルズ様の所に遊びに行ったらフィリア様……スラージアン帝国の皇帝陛下がいらっしゃったのですから」
全然驚きを感じさせない普段通りの様子でエファリア様が言うと、それを見たフィリア様は苦笑します。
私は気絶しそうなほど驚いたのですが……フィリア様の様子を見る限り、エファリア様は最初から全然動じていなかったのだと確信できます。
「……エファリア様。私を同じ状況に叩き込みましたよね?」
もう一人客がいるけど、それが誰かは後のお楽しみと言われたことを思い出した私が言うと、エファリア様はいたずらに成功したというような笑みを浮かべながら口を開きました。
「ふふっ……まぁ、フィリア様はびっくり箱より威力がありますからね」
大帝国の皇帝陛下を捕まえてびっくり箱……エファリア様、色々と強すぎませんか?
「私の事をそんな風に言えるのは、この大陸でも五人位しかいないだろうな」
苦笑しているフィリア様は全く気にした様子はありませんが……私ではどれだけフィリア様と仲良くなったとしても、絶対にエファリア様の真似は出来ません。
「まぁ、五人もいる訳ですし、そんなに珍しくはないですよ。それより、この大陸で唯一人……物凄い事をしようとした人がいますよね?」
「……あぁ、そうだな。私もその話を聞いた時は、あまりの事に思考が停止したよ」
そう言って、お二人はなにやら含みのある笑みを浮かべながらこちらを見ます。
な、なんでしょうか?
妙に圧力が……。
「リサラ。少し前にフェルズ様から聞いたのですが、貴女……エインヘリアに行儀見習いとして来たのですか?」
何処からどう見ても上品な笑みを浮かべながら、エファリア様が私に話しかけてきますが……冷や汗が止まりません。
「あぁ、私も聞いたな。というか、フェルズから直接相談された……というのが正しいな」
フィリア様がそうおっしゃると、エファリア様も頷いて見せます。
「そ、相談された……というのは?」
一瞬で喉がカラカラになりましたが、私はテーブルの上に置かれているお茶に手を伸ばすことはなくそう問いかけます。
二人から感じるプレッシャー。
それが何を理由としているのか、どれだけ鈍感な者でもすぐに理解出来るでしょう。
いえ、エファリア様がエインヘリア王陛下と一緒に居られる時の姿を見ていれば、エファリア様の想いはすぐに分かりますが……ですがまさか、フィリア様まで?
「エインヘリアには貴族が存在しないでしょう?だから、フェルズ様はそういった言い回しに疎かったのですよ」
「あぁ、それで私達に王族が行儀見習いを出すという意味について聞いて来たという訳だ。そこに他意はなく、純粋に分かっていないという様子だったよ」
「や、やはりそうでしたか。いえ、私も少し違和感はあったのですが……」
エインヘリア王陛下が私を避けているのかと思っていたのですが……本当に言葉通りの意味で取っていらっしゃったからだったのですね。
少し安心した様な……あれ?ですが、お二人が説明して下さったのですよね……?
「あぁ、因みにフェルズ様には表向きの意味しか伝えてはいませんわ。人質として……ということです」
「……そ、そうですか」
それは……ありがたいような……不本意のような。
い、いえ……別にエインヘリア王陛下から御寵愛を戴けなかったからと言っても……パールディア皇国的には最良の結果となったわけですし、問題はないのですが……。
ですがやはり……エインヘリア王陛下はとても素晴らしい御方ですし……。
「「……」」
私がそんな風に色々と考えていると、無言になったお二人がじっと見つめてきます。
その視線に気圧されてしまいますが……お二人の想いが分かった以上……気圧されるだけではいられません。
私はお腹に力を籠め、背筋を伸ばしお二人の視線を受け止めます。
「……」
「……」
「……」
暫く私達は無言で視線を交わしていたのですが、やがてフィリア様とエファリア様がふっと表情を和らげました。
「……結局、リサラは行儀見習いではなくなったのだろう?」
「はい。エインヘリア王陛下と陛下が会談をした際にその話になりまして、私は留学生としてエインヘリアにて学ぶことになりました」
「……そうきたか」
「皇女として、国に戻ってやることがあるのでは?」
「いえ、今はエインヘリアとの関係以上に重視する仕事はありませんので……」
そう言って私は、お二人ににっこりと笑ってみせます。
私では、このお二人に立場的には絶対に勝てません。
特にフィリア様には。
ですが、私は留学生としてエインヘリアにこれからも滞在することが可能です。
だからといって、エインヘリア王陛下にいつでも会えるという事ではありませんが……ですが、もう少し積極的に会えるように動いた方が良いかもしれません。
エファリア様は何かと時間を作ってエインヘリア王陛下の所に行っているようですし……。
他の事は才気あふれるお二人には足元にも及ばないと思いますが……この一点だけは負けたくありません。
私は手が震えない様に細心の注意を払いながら、すっかり冷めてしまったお茶に手を伸ばします。
「……年齢的には……」
「……後三年もすれば……」
「……」
カラカラに乾いていた喉にお茶を流し込んだ私は、ほっと一息つきました。
大丈夫……手立ては全く思いついていませんが、お二人の様子を見る限り、私でもまだ戦いの場に立つことは可能なはずです。
ミアに相談してみましょう。
きっと……自分の為にも全力を出してくれるに違いありません。
恐らく、このお二人とは今後もこうやって話す機会が多くなるでしょう。
そんな予感を覚えつつ、私達は笑みを絶やさずにこのお茶会を最後まで楽しみました。
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