第378話 小さいけれど大きな一歩



 フィオの話を聞いた翌日……いや、当日?


 俺はいつも通り食堂で朝食のきつねうどんを食べつつ、今後について決意を固めていた。


 元々やるべきことは決まっていたのだが、フィオの話を聞いて今までよりも強く魔王の魔力への対抗を考えるようになった。


 しかし、俺が決意を固めたからと言ってキリク達を急かす様な事はしたくない。


 一言俺がそんなことを言ってしまえば、キリク達は今進行中の策とかを投げ捨てでも全力で俺の言葉を叶えてくれようとするだろう。


 だからこそ、俺はそれを口にする訳にはいかない……現時点でキリク達は俺の希望に沿って最善を尽くしてくれているのだから。


 今、俺が感情のままに命令を下せば、確実にとんでもないことになりそうだしね。


 故に俺は決意を固め……気合を入れつつ、こうしてきつねうどんを啜っている訳だ。


 しかし、決意は固めたものの、そこから先の手立ては特に思いついていない。


 そもそも、国内ですらまだ魔力収集装置の設置が終わっていないわけで、今領土や設置を望む同盟国を増やしたとしても手が回らない。


 結局はそこに戻って来るんだよね……。


 領土を増やすのは……色々な建前を無視すればそんなに難しくはない。


 いや、属国や帝国との関係の事を考えれば、あまり無茶な事は出来ないけど……なんやかんや理由をつけて攻める事自体はそんなに難しくないだろう。


 このご時世だしね。


 でも無作為に設置できる範囲を広げたところでなぁ……何とか技術者を増やす方向で考えたいけど、人族は魔力感知系の適性がないし、ゴブリン達だと細かい作業が上手く出来ないらしい。


 人族の方はともかく、ゴブリンであれば手先の器用さを鍛えるか、そっち系の才能のある人材もいるかもしれないけど……魔力収集装置の設置作業は相当難しいみたいだからなぁ。


 ドワーフ達ですら簡易版の方でなんとかって感じらしいし、メイドの子達にアビリティを……いや、でも文官も欲しいし……んあああああああ!!やっぱり以前と同じところで悩むことになるだけだ!


 ……うん、焦っても仕方がないな。


 ここは……少し考え方を変えよう。


 魔力収集装置の設置に関して、ドワーフの大規模な集落でも新たに見つけない限り人員を大幅に増やすのは無理だ。


 勿論、メイドの子達にアビリティを覚えて貰うという手が、一番手っ取り早く確実な手ではあるけど……内政要員は絶対に必要だし、代わりとなるメイドの子を生み出すには魔石が五億必要だ。


 流石にぽんぽん呼び出せはしない……いや、そうでもないか?


 この前、一ヵ月の魔石収入が四億を超えたとイルミットが言っていた。


 つまり、三か月で二人のデフォルト状態の子を新たに生み出すことが出来るわけだ。


 それに、アビリティ『魔力収集装置の設置』を覚えさせるのに百万……今となってはこれは随分安く感じるけど、『開発速度上昇』もいるし……二つ合わせて一千百万だね。


 五億に比べたら可愛いもんだけど……うちも随分と収入が増えたもんだ。


 いきなり五千万使っちゃって吐きそうになっていた過去が懐かしいぜ……。


 何に使ったんだっけ……?あれ?涙が……。


 まぁ、それはさて置き……内政要員と開発要員を交互に補充するってのはどうだ?


 いや、最初の二人は内政要員、次は開発要員を二人……次にまた内政要員二人……そんなサイクルにするか。


 そうすれば一年で開発要員を四人増やすことが出来るし、他にかかる経費を考えても無理なくいける。


 何より今後はもっと魔石収入が増えていくわけだから、余裕もどんどん大きくなって行く。


 勿論、魔石の収入アップには打ち止めがあるけど……打ち止めイコール目標達成だからなにも問題ない。


 俺がこの世界に来てからもうすぐ二年。


 二年で収入が四億……つまり四千万人が魔力収集装置の傍に暮らしているという事になる。


 この大陸の総人口は二億に届かないくらいだから……これまでと同じペースで事が進めば、後八年程で大陸中に魔力収集装置を設置出来るという事になる。


 実際は人手も増えていく訳だし、もっと早く設置が終わってもおかしくはない。


 いや、ある程度人数が増えて来たら、オトノハとかヘパイには研究開発に回ってもらいたいな。


 既存の……レギオンズのアイテムとか、全く新しい道具……特にこの世界の魔道具とかを研究して貰って、新しい技術とかを生み出してもらいたい。


 この世界に魔力がある限り……それが魔王の魔力でなかったとしても、エインヘリアの魔石を使った技術は使用することは出来るけど……そもそもその魔力ってのが枯渇しないとも限らないしな。


 俺からしたら魔力って不思議パワーだし……いきなり消える可能性は否定できない。


 エインヘリアの魔石を利用した技術。


 この世界の魔石を利用した技術。


 そして魔石以外の……化石燃料でも太陽光でも風力でも水力でも、何でも良いから魔力の代替となる技術。


 これら三つを軸として、技術開発をして行くべきだろう。


 その為の第一歩として留学制度だ。


 俺は科学技術に明るくないし、農業も医療も……その他様々な知識と呼べるものが全くない。


 俺の元になった奴がしっかり勉強していなかったせい……と言いたいけど、普通にテストの為に勉強していたって感じだからな。


 身になっていなくて当然だろう。


 頭に検索エンジンか、エンサイクロペディアでも搭載してくれていれば良かったんだけどね……まぁ、無いもんは仕方ない。


 だから、出来る子達に後進を育てて貰い……その先に行って貰おうと思う。


 色々と開発してもらいたい物のアイディアだけは俺でも出せるので、そっち方面でがんばろう。


 とりあえず教育については留学生に協力してもらい、エインヘリアにおける高等教育はどれくらいのレベルのものを教えれば良いのか計るつもりだ。


 恐らくだけど、高等教育では代官やその補佐……ゆくゆくは、キリクやイルミットと共に働く文官、それから武官を育てることになると思う。


 しかし、文官はともかく武官はどうかなぁ?


 エインヘリアにおいて軍を率いるということは、召喚兵を率いるということ。


 召喚兵の召喚は、魔力収集装置によって行うことが出来るので、この世界の人でも召喚兵を呼び出すことは出来るだろう。


 転移とかが使えているしね。


 勿論実験は必要だけど、俺は多分大丈夫だと思っている。


 問題はシステムが使えるかどうかではなく、召喚兵の能力は呼び出した人物によって上下するということ。


 統率、武力、指揮、知略……これらのパラメーターと兵種、それから召喚兵強化用のアビリティによって召喚兵の強さは決まる。


 ゲームであればそれをステータス情報として見ることが出来たけど、こっちの世界の人達はそうはいかない。


 一度玉座で呼び出せる強化メニューで、バンガゴンガの能力を確認出来ないか確かめてみたけど……残念ながらステータスを見ることは出来なかった。


 一応……武力は一騎打ちの強さだから、訓練所で戦えば大体の数値は把握出来る。


 そして統率は、召喚兵を一度に呼ぶことのできる最大数で分かる。


 指揮は召喚兵の移動速度と防御力だから……大体の数値は分かるかな?


 知略だけは……計略や魔法の威力とかだから調べる方法が思いつかないけど……問題はそれをどうやって鍛えたらよいかってことだな。


 その辺は……学生たちには申し訳ないけど、試行錯誤を重ねていかないといけないだろう。


 俺達も老化するだろうし……寿命が百五十年くらいあったとしても、いつまで現役で働けるかは分からない。


 いずれは後進にエインヘリアの全てを託すことになるだろうけど……早い内からそれを見据えて色々と調べておいた方が良いだろう。


 内政に関してはキリクやイルミットの補佐に着けてばりばり鍛えて貰えばよいけど、軍事に関しては……うん、アランドールや武聖、それからカミラと相談したほうが良いだろうな。


 流石に召喚兵に関しては留学生に教えるわけにはいかんし……やはりバンガゴンガかな?


 多分妖精族とか人族とか……レギオンズ的には関係ないだろうし。


 もしダメだったら、外交官見習いに試して貰えば良いだろう。


 って……いつのまにやら随分先の事を考えてしまっていたな。


 まぁ、国を導くって言うのは現実の問題に対応しながら、同時に遥か未来の事も考えないといけないのだろうね。


 まぁ何にしても、魔力収集装置の設置完了まで後八年か……めちゃくちゃ先の話のように感じるけど、国家事業という規模で見ればあっという間って感じだな。


 実際この二年はあっという間だったし……十年ってのもそう遠くない話かもしれんな。


 そんなことを考えながら、俺はきつねうどんを食べ終えた。


 ……確実に、ちょっと前より出汁がパワーアップしてるよな。


 これは、ゴブリン漁業村のおかげだろう。


 食事の質の向上……これもこの二年の成果の一つ。


 けして馬鹿にしたものではない。


 日々に追われて色々と振り返ることなく突っ走ってきたけど、確実にこの世界に来た当初よりもエインヘリアは進化している。


 そしてこれからも……歩みを止めるわけにはいかない。


 俺はエインヘリアの王、フェルズなのだから……エインヘリアの今の為に考え、動き、そしてエインヘリアの未来の為にそれ以上に考えなければならない。


 正直自信ないなぁ……とか言ってられない。


 幸い、キリクやイルミットみたいに頼りになる子達がエインヘリアには沢山いる。


 人に頼るのも、トップに立つ者として大事な要素だよね。


 食器返却棚に器を乗せた俺は、キリク達に相談する件を頭の中で纏めながら執務室へと向かった。


 

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