第363話 君に埋もれたい
なんやかんやでエインヘリアは新しく二つの国を属国にして、その倍以上の広さの領土を手に入れてしまった。
当初の予定とはなんか結構違ってしまっているけど……まぁまぁ良い形に決着させることが出来たんじゃないだろうか?
以前の会議でキリク達に言った通り、多様性は残したまま大陸南西部を組み込むことが出来たと言っても過言ではない。
流石覇王、やれば出来る……。
そんな出来る覇王は大陸南西部の行く末を決める会議を無事乗り切り、ヤギン王国への対応も確定させた。
ヤギン王国の王太子や上層部の連中については処刑の具体的な日取りも決まり、後は実行に移すだけとなっている。
それに付随して、地方を治めている貴族達を中央に集め話をする……集まるまでに二か月くらいはかかるので少し時間は空くが、その会議の後、処刑……という流れだ。
貴族達には此度の経緯とヤギン王国がエインヘリアに併合されることを話し、進退を自分達に決めさせる。
まぁ、既に貴族達の調査は済んでいるし、今回の件については外交官見習い達がヤギン王国中に噂としてばら撒いているので、貴族達もしっかり現状把握は出来ている筈だ。
因みに、王太子達に連座するもの、連座はしないけど刑に服す者、エインヘリアに取り立てられる者……その選定はしっかりと進んでいる。
集まるまで二か月掛かるという話だが、これは別にヤギン王国の王都に来るまで二か月かかるという意味ではない。
ヤギン王国は小国で、どんな遠隔地であっても王都に来るまでに、ゆっくり移動しても一ヵ月もかからない。
では何故二か月も時間を与えたかというと、その間貴族達がどう動くかしっかりと調べる為だ。
ある程度の内偵は既に済ませてあるが、この二か月どう動くかによって……彼らの未来が決まると言っても過言ではない。
領民の為に動くのか、自分の為に動くのか……東の山脈を超えて隣国に亡命する者もいるかもしれないし、港から逃げる者もいるかもしれない。
いや、俺達の調べでは、ほぼ確実にどちらかのルートを使って逃げる貴族が数名いる。
そういう奴等を追う事はしない……うちを逆恨みして亡命先からちょっかいをかけてくるようなら……逃げた先ごと潰す。
今の所うちに密偵を送り込む以上のちょっかいをかけて来ている国はいない……いないと言い切れるのがうちの子達の怖いところだ。
だけど、そろそろ何かしらの謀略を仕掛けられてもおかしくはない……そういった連中が動くきっかけとして、逃げた貴族達は利用されるかもしれない。
うちは国自体も若ければ上層部も見た目は非常に若い……実年齢は幼いどころじゃないが。
そういった若さは、老獪な連中からすれば狙いどころ……と考える事も出来るからね。
一筋縄ではないと思っていても、どこかしらに突き崩せる穴がある……そう考えて手を出してくることは十分ある。そういう連中を釣りだすには良い餌となってくれることだろう。
……いやいや、あんまり領土増やしてもってついこの前考えたばかりやん?
それに、下手にちょっかいかけてバレでもしたら、大国に押しつぶされるって考えるのが普通だよね。
国力が同じくらいの国であれば、ちょっかいをかける良い切っ掛けになるかもしれないけど、国力が圧倒的に上な相手に対し仕掛けるには、餌としては不足過ぎるかな?
今俺が優先しなければならないのは、国内と帝国、そして今回属国になった二か国に魔力収集装置を完備すること。
隙を見せて誘い受けなんてする必要は何処にもない。
かと言って逃げる連中を始末するってのもな……まぁ、俺達にとっては毒にも薬にもならぬ連中だ。
やっぱり放置で良いやね。
まぁ、何にしても……人の頭の中は分からないからね、連中の動きに関係なく、いつ何時うちにちょっかいを出してくるかなんて読める筈がない。
……いや、キリクとかイルミットなら、予定通りですね、とか言いそうだけど……普通は読めない。
そう、普通は会議室で未来からやって来たの?と言わずにはいられない程、今後についてこれからどうなって結果どうなる……みたいなことを確定事項のように言えないのだ。
なので、今日の会議も覇王は次はこんな風に動きますよ、的なことを言うつもりはない。
今回それで危なかったからね……ほんと。
そんな訳で、これからうちの子達と会議です。
「それでは、本日の会議を始めます。まずは魔力収集装置の設置状況の報告を、オトノハ」
「あいよ」
いつも通り、キリクの宣言を皮切りに会議が始まる。
まずはオトノハの進捗報告……作業時間も移動時間も分かっているので、こちらは何の問題もなく予定通りに進められているようだ。
一応、大陸南西部にも新たに設置していかなければならなくなった為、スケジュール調整が必要なようだが……これに関しては数か月前から分かっていたことなので、特に問題はない。
既にシャラザ首長国やパールディア皇国には設置が始められているし、大陸南西部の場合海沿いと東の山脈沿いを最優先に設置すれば良いので、優先順位でもめることは殆ど無いしね。
そして次にアランドールから治安に関する報告。
ベイルーラ地方と旧商協連盟圏の治安はかなり向上、特に商協連盟の裏の顔役であるムドーラ商会を押さえたので、裏社会の方も実に秩序だった動きのようだ。
そしてそれ以外の地方では大きな問題もなく、治安は良好……特にソラキル地方以前よりうちの統治下にあった辺りは、狂化した魔物どころか普通の魔物による被害も皆無となっているそうだ。
これが魔力収集装置によって起こされたものなのか、それとも街道警備の賜物なのか……今後もしっかりと観察する必要があるだろう。
なんにしても、各地の治安維持部隊が頑張ってくれているというのは朗報だ。
今後とも彼らには自分達の住む場所をしっかりと、健全に守ってもらいたいと思う。
次はアーグルによる貿易に関して。
ドワーフ製品を始めとする加工品の輸出は非常に順調。
食料品の輸入は軒並み低下、逆に鉱物資源や魔石の輸出は上昇。
食料品の輸入に関しては、国内に十分食料が行き渡っているという事もあるけど、微妙に国外の食料品の値段が上がってきているらしい。
また鉱物資源や魔石に関しては、急騰ともいえるくらい価格が上がっているという。
その辺りは関税をかけるなりして、国外への輸出を多少制限した方が良いだろうとの結論だった。
儲けられる時に儲けた方がいいんでないの?とは思ったが、やり過ぎると国内の物資不足に繋がるという事らしい。
まぁ、鉄鉱石等の鉱物資源は、うちのよろず屋でいくらでも買えるから、多少不足しても問題ないけどね。
因みにドワーフ達に確認してみたところ、よろず屋で購入した鉄鉱石とかはかなり高品質らしく、鉄の含有量が凄い事になっているらしい。
それと、話に出た魔石だけど、俺達が魔力収集装置を使って生成しているものではなく、オスカー達が魔道具を作るのに使っている、この世界産の魔石の事だ。
だからこちらに関しては、輸出量を絞らないと確実に国内で不足することになるだろう。
レギオンズ産の道具は効果は凄いけど、残念ながら生活に役立つ物っていうのはあまりないので、オスカーのような人族の魔道具技師やドワーフ達の作る魔道具は非常に重要なのだ。
その大事な素材である魔石が不足するような事態は避けたい。
これに関しては推移を注意深く見守ると共に、国内でも少し備蓄する方向で動くことに決まった。
アーグルの報告が終わり、バンガゴンガから農業と漁業、それと妖精族についての報告。次いでウルル、バークスから国内外の色々な情報が報告され、それと合わせてキリクとイルミットから国内の総評について語られた。
うん。
エインヘリアの統治は正に順風満帆といった感じのようだね。
これも全て、キリクやイルミットによる如才ないやり口のおかげだ。
メイド達を強化してキリク達の補佐に着けるって話を、忘れずにしておこう……。
そんなことを考えている間に一通りの報告が終わり、最後にといった感じでキリクが俺を見ながら口を開く。
「フェルズ様。北の教会がそろそろ接触してきそうですが、如何なさいますか?」
「教会か……」
それを聞いた俺は少し憂鬱になる。
出来れば宗教関係とは関わりたくなかったのだけど、国土で言えばうちは大陸で二番手の広さを持つ国。
寧ろ、今まで教会がちょっかいをかけてこなかったことの方が信じられない話だ。
腰が重いだけか、それとも布教にはあまり力を入れていないのか、それともこちらの様子をずっと窺っていたのか……まぁ、何にしても面倒なことこの上ない。
いや、分かってますよ?
世の中の宗教の全てがアレな感じではないって。
無宗派の俺からすれば、宗教関係の人はちょっと意味が分からないと遠ざけてしまう感じだけど、そんな俺でも記憶の中では神頼みというか、神社とかにお参りとかはしていた訳で、毛嫌いするのは良くないと思う。
……思うんだけど、やはりこうイメージ的に……宗教戦争だとか、一向宗だとか、聖地奪還だとか……そういうめんどくさそうなことばかり思いついてしまう訳ですよ。
もうね、信じる人だけ救って、信じていない人は放っておいて欲しいんですよね……マジで。
「教会についての情報は既に集めているな?」
「はい。抜かりなく」
「では今まで以上に監視は厳重にしておけ。キリク、イルミット、エイシャ。それからバークス。この四名は後日教会についての打ち合わせをするからそのつもりでいろ」
「「はっ!」」
面倒だからと言って放置は出来ないし……とりあえず後でキリクから資料を貰って確認をしておこう。
確か、教会関係はキリクが担当してたんだっけ?いっそのこと丸投げして思想ごと更地に……いやいや、過激すぎるぞ。
とても穏やかな宗教かもしれないじゃないか。
苦手意識から極力教会関係の話を避けていたせいで、今の所情報が全然ないけど……ちゃんと勉強しておくか。
次から次へとやって来る面倒事に辟易としながらも、覇王らしい余裕を滲ませる俺は、ルミナをもふりたい衝動を堪えながら会議に参加し続けた。
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