第362話 す、全て計画通り……

 


 落ち着け……大丈夫だ。


 俺は冷静だ。


 よし、まずは状況の確認だ。


 まだ慌てる段階じゃない。


 今二人は何と言った?


 併合して頂きたい……。


 なるほど、併合っちゅーと、あれやね?


 パールディア皇国とシャラザ首長国を俺に治めて欲しいと……なんで!?


 おかしい……俺は今回後ろに下がり、出来る限りサポートに徹していた筈。


 ……まぁ、冷静に思い返してみれば、ちょっと全力でサポートし過ぎた気もするけど……でもあのくらいサポートしないと、かなりマズい状況だったしな。


 俺は悪くないと言える。


 うん……問題は、その結果、国家元首……いや、両国の首脳陣がうちに併呑されることを望むくらいやっちまったってことだ。


 やっぱ俺が悪いの……か?


 いや、でもなぁ、悪くは無いよねぇ?


 だって、やらなきゃやられていた訳だしね?


 うん、やはり問題ないな。


 心の中で深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


 では次だ。


 俺がどうやってきたにせよ、彼らが併呑を望んでいる事は事実。


 俺としては大陸南西部を併呑するつもりは全く無く、予定では彼らは彼らで自国を治めてもらい、同盟国として仲良くやって行くつもりだった。


 しかし……その予定はここに来て大きく変わってしまった。


 仮に二国……いや、ヤギン王国領とスティンプラーフもって話だろうから……約六国分の領土が広がったとして、問題は……内政が色々追いつかないってことだ。


 ……本当に追いつかないか?


 現時点で仕事量がパンクしているという訳ではない。


 エインヘリアに組み込んだ地域は、各署が忙しいながらもしっかりと管理しているし、代官や役所なんかも上手く機能している。


 魔力収集装置の設置は……併合しようがしまいが結局設置はするのだからこの際関係ない。


 問題としては代官以上……つまり、キリクやイルミットに並び立つような人材がいない事。


 それと、バンガゴンガに妖精族関係の細かい管理を全部丸投げしている事……こちらに関しては、ゴブリンの隠れ里はあるかも知れないけど、妖精族関係の仕事自体そこまで増えることはないか?


 最近はリュカーラサも勉強を進めていて、バンガゴンガのサポートをしてくれているようだし、各部門にリーダーを……バンガゴンガの下に部門管理者を作るように命じたから、もう少しすれば仕事も楽になる筈だ。


 それと、キリク達のような内政特化の子に関しては……カンストは厳しくても、知略100前後に設定して、内政系アビリティを詰め込んだ子なら呼び出すことも可能だし、メイドの子達を強化して内政に回すことも可能だ。


 メイドの子を強化して内政に回し、新しくデフォルト状態の子を新規雇用してメイドにすれば、自己研鑽でステータスが上がっている分、魔石消費量を抑えることが出来る。


 まぁ、億単位から見れば微々たる数字かもしれないけど。


 帝国方面や商協連盟方面に魔力収集装置の設置が進んでいるので、もうそろそろデフォルト状態の子であれば毎月呼ぶことも可能になってきている。


 勿論、内政にも結構魔石を使っているわけだから、強化や新規雇用にばかり魔石を使う訳には行かないけどね。


 とはいえ……人手不足に喘いでいるエインヘリアだけど、状況の改善はそう遠くはないかもしれない……まぁ、年単位はかかるだろうけど、国家運営規模で考えるなら遠い未来ではない。


 よし、人手の件は……恐らく何とかなる。


 しかし……だがしかし!


 俺は忘れてはいない……そう、あれは援軍を送る前……援軍派遣は決まったものの、そこからどう動くのかといった会議をキリク達としていた時のことだ。


 全てをエインヘリアの名のもとに統治すれば良いというものではない。多様性というものは大事だぞ?的な感じで、俺は覇王ムーブをかましてしまっているのだ。


 もしこのまま大陸西部を併合してしまった……この前高らかに語っていたのはなんやったん?とかキリク達に思われてしまう!


 それだけは絶対にノー!


 ここは……譲歩を引き出すべきだな。


「併合?あまり面白い冗談とは言えない様だが?」


 全力で頭をぶん回しながら、気合を入れて俺は口を開く。


 併合だけは阻止せねば……覇王の面子が立たんのだよ!


「い、いえ、けして冗談などでは」


 先程までと違い、はっきりと緊張した様子を見せながら、皇王さんが弁解するように言う。


 緊張した感じなのは皇王さんだけじゃなく、エッダ首長も同様みたいだね。


 ……なんか、ラフジャスも顔が強張ってるけど、どうした?


「支援の対価を金銭で払うか国そのもので払う……そう言ったのだろう?国を導く二人が口にするには、随分と質の悪い冗談に聞こえるが?」


「エインヘリア王陛下、ご不快な思いをさせてしまい深く陳謝させて頂きます。ですが私も、エッダ首長殿も決して冗談でこのような事を口にしたわけではございません」


「……」


 皇王さんの言葉にエッダ首長も何も言わない。


 しかし、真剣な表情でこちらを見据える二人が、軽い気持ちや……ましてや冗談で自国を併合して欲しいと言ったわけではない事は分かる。


 分かるけど……覇王は引けないのですよ。


「今回エインヘリアを訪れるよりも以前より、私とエッダ首長は会合を重ねておりました。その内容は……エインヘリア王陛下に我々の国を導いて頂きたい。そういったものです」


「我々の力不足恥じ入る限りではありますが、我々の国は今、エインヘリアという国の御力に頼らなければ、いち国家としての形を保てない程に疲弊しております。これは私、そして国の上層部の者全ての責にございます。ですが、私が首長の座を辞したとしても、それは混迷極める国を見捨てるだけで、何の解決にも至らない……もはや我が首は、責任すら負う事が出来ない程度の代物に成り下がっているのです」


「隣国に踊らされ、スティンプラーフの者達の襲撃から民を守れず、挙句の果てに国の全てを失う寸前の所を、これまで一切国交の無かった国に助けられたのです。エインヘリア王陛下も我が国やシャラザ首長国を訪れた際に、エインヘリアを迎え入れようとする民達の熱狂する姿を見られたかと存じます。あれが民の総意なのです」


「民は英雄を、自分達を導く絶対的な存在を望んでいるのです。自分達が最も苦しい時に、颯爽と助けに現れ、自ら軍を率いて仇敵を撃ち滅ぼしてくれた王。そんな、物語の英雄が現実に目の前に現れたのです。感謝、尊敬、憧憬、崇拝。民のそんな想いがエインヘリア王陛下に向かっているのです。道行く者にエインヘリアの民になりたいか無作為に聞いたとしても、九分九厘の民がなりたいと答える筈です」


 凄まじい力と熱量を込めて二人が一気に語る。


 その目からは、絶対に引いてなるものかというような強い意志を感じる……いや、絶賛され、求められて悪い気はしないよ?でも、どうしてもその提案を受け入れることは出来んとですよ!


「二人の……いや、両国の意思は分かった。だが、それでも俺は、貴国等を併合することは出来ない」


「何故、でしょうか?」


「くくっ……何故エインヘリアがその申し出を受け入れられないか。言わずとも分かっているだろう?」


「「……」」


 俺が全力を持って普段通りの笑みを浮かべながら言うと、二人は黙り込んでしまう。


 よし……この感じなら押せる!


「今回我々は、パールディア皇国に請われて援軍を出し、戦った。この事はルフェロン聖王国やスラージアン帝国も知る所だ。それに我がエインヘリアの動向は、近隣諸国から非常に注目されている。その状況下で請われて援軍を出し、その結果その国を併合したとあってはな」


「「……」」


「我々エインヘリアは侵略国家。戦争を繰り返し、他国を併呑することでのし上がった国だ。まぁ、こちらから先制攻撃を仕掛けた事は殆ど無いのだがな。売られた喧嘩、降りかかる火の粉を払っていただけなのだが、それを信じる者は殆どいない」


 そう言って俺は、軽くため息をつきながら肩をすくめてみせる。


「今回も同じだ。両国から請われ、友好的に国を譲られたのだとしても……他国から見れば、援軍と称して他国に向かい、その国を併呑した侵略国家。殆どの国はそういった目で見るだろう」


「そんなことは!」


「あるだろう?」


「「……」」


 淡々とそう告げると、二人は黙り込んでしまう。


 まぁ、そういう評判をされたところで、別に痛くも痒くもないんだけどね?


 しかし、こう言われてしまっては、二人の立場でこれ以上併合してくれとは言えない。


 ふっ……勝ったな。


 勝利を確信した俺だったが、余裕の笑みを見せてしまうと色々問題があるのでそのまま無表情を貫き通す。


 しかし、少しゆとりを持った俺は気付いてしまった。


 一瞬、皇王さんとエッダ首長が目配せをしたことを。


 まさか……ここから逆転の手があるのか?


「承知いたしました、エインヘリア王陛下。確かに、大恩あるエインヘリアに侵略者の汚名を着せるのは、我等としても望むところではありません」


 と思ったけど、エッダ首長が素直に聞き入れてくれましたよ!


 完・全・勝・利!


 今夜はすき焼きだな!


「ですので……エインヘリア王陛下、併合ではなく、属国ではどうでしょうか?」


 と思ったけど……次の手を即座に打ってきたヨ!


「……属国か」


「はい。エインヘリアは以前、ルフェロン聖王国の聖王殿に助けを求められ、結果属国として庇護下に置かれることを了承されました。その事は広く知られており、また属国の支配が非常に穏やかであることもルフェロン聖王国によって広く発信されております」


 エファリア……そんな事発信してるの?どうやって?SNSとかしてるの?


「聖王殿から、エインヘリアの属国統治がどのようなものであるか、事細かに確認させて頂いております。勿論、全てがルフェロン聖王国と同条件とは考えておりませんが、どうか、属国化の方向で考えては頂けないでしょうか?」


 属国……ならば、ギリ有りか?


 キリク達にはルフェロン聖王国を例に出して、エインヘリア統治下でなくても民は幸せに生きることが出来ると説明した記憶がある。


 援軍を派遣しておきながら属国化して帰るってのも大概のような気はするんだが……エインヘリアの属国になるという事のイメージ戦略はエファリアが頑張っているらしいし、併合するよりはマシ……なのか?


 まぁ、なんでもいいか……俺が本当に気にしているのは、他国にどう思われるかではなく、キリク達にどう思われるか……その一点だけだからね。


 併呑はしない……南西部の独自性を保ったまま友好関係を築く……属国として傘下に組み込んじゃってはいるけど……何とか面目が立っている……よね?


 最初の予定では、同盟を結ぶ感じだったんだけど……予想以上にパールディア皇国もシャラザ首長国もボロボロだったからな。


 パワーバランス的にも、国内の情勢的にも……うん、この辺りが落としどころだろう。


「分かった。両国の要望を受け入れよう。我がエインヘリアはパールディア皇国、シャラザ首長国の二国を属国とし、傘下に加える。細かい条約の内容については後日場を作り話すとしよう。基本的にはルフェロン聖王国と同等の内容となるがな」


「ありがとうございます、エインヘリア王陛下。不躾な願いであったにもかかわらず受け入れて下さったこと、国を代表してお礼申し上げます」


 二人は安心したような表情を見せながら深く頭を下げる。


 属国化って喜ばしい事ではないと思うんだけど……まぁ、本人達が満足そうだからいいか。


「後は、スティンプラーフとヤギン王国の扱いだな。ラフジャス達は俺達が暫く面倒を見る予定なのは変わらんが……スティンプラーフの地はシャラザ首長国に、ヤギン王国領はパールディア皇国に任せたかったのだが……」


「申し訳ございません、エインヘリア王陛下。我が国の現状を考えますと新しい土地の管理まで手が回らないかと」


「我が国も同様に……いえ、寧ろ国力を考えれば、我が国とヤギン王国領では力関係が逆転してしまっている為いらぬ火種が生まれることになるかと」


「やはりそうなるか……」


 王太子達がいらん事したせいで、俺のプランが完全に狂ったな……。


 三国の内ヤギン王国だけは国力を保っていたから、うまい事スティンプラーフを分割して治めるくらいは行けると思っていたんだが……肝心のヤギン王国がぽしゃったからな……。


「ならば、ヤギン王国とスティンプラーフはエインヘリアが引き受けるしかないな」


 王太子達の処刑と合わせてエインヘリアへの併合……それと、スティンプラーフの連中の罪も俺達が面倒を見ることになるが……まぁ、労働力の派遣と二国への手厚い支援でなんとかって感じかな。


 なんか貧乏くじって感じがするけど、二国に押し付けるのは現状無理があり過ぎるもんな……。


 それにしても属国が二国と占領地が四か国分かぁ……少々予定とは違うけど、まぁ良しとする……しかないよねぇ。キリク達にはまた苦労を掛けるけど……ほんと、ごめんね。


 宣言した内容からかけ離れた着地点という訳でもないし……うん、俺はよくやったよ。


 なんだかんだで領土を増やしつつ属国を増やし、魔力収集装置を大陸南西部に広げることが出来たんだ……あれ?寧ろ結果だけ見れば完璧じゃない?


 俺はそんな風に自身を誤魔化しつつ、大陸南西部の今後について会議を進めていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る