第361話 さぁ、今後の話だよ!
パールディア皇国とシャラザ首長国の視察団がエインヘリアへと訪れてから、約半月程が過ぎた。
彼らは精力的にあちこちへと視察に行き、案内役であるシャイナに多くの質問を投げかけ、エインヘリアの事をかなり学んでくれたようだ。
そして本日、使節団帰国前の最期の会議がエインヘリア城にて行われる。
「短い間だったが、我が国はよく見て回れたか?」
「はい。エインヘリアで施策されている多くの政策。そのどれもが、民を第一に想ったものである。それが本当によく分かる視察となりました。まさか殆どの街にスラムが存在しないとは……驚嘆するより他ありません」
「それは確かに驚きましたな。スラムが残っているのは、商協連盟に加盟していた地域とベイルーラ地方のみ……つまり、ここ最近エインヘリアの領土になったばかりの土地にしかスラムが残されていないのですからな。驚くほどの治安の良さに景気の良さ……国を導く立場にある者として、これ程までに驚きに満ちた視察は未だかつてありませんでしたよ」
まずは、といった感じで視察はどうだったと尋ねると、皇王さんが穏やかな笑みを浮かべながら応え、やや力のこもった様子でエッダ首長が続く。
俺もそれなりに視察に付き合いはしたし、二人から視察中に結構質問はされたが、使節団の案内役だったシャイナは、この二人に加え視察に同道していた両国の大臣達からも質問攻めにあっていたらしい。
なんというか……シャイナはうちで一番本物の外交官っぽいよね。
見た目は一番外交官っぽくないけど……。
「俺としては、制度だなんだと言うものはここ以外を知らんから分からんが……戦士の強さと人の多さ、活気、それから飯の美味さが印象的だな」
二人とは若干違うテンションだが、それでも自分が感じた事をストレートに話すのはラフジャスだ。
今日の会議では、大陸南西部の今後についての取り決めや条約等を話し合うことになっているので、ラフジャスにも参加して貰っているのだ。
勿論ラフジャスから何かを提案できるわけではないけど、代表として話を聞いてもらうという寸法である。
「ふむ……確かに、その意見には私も同意するな」
ラフジャスの言葉にエッダ首長が頷く。
「食事は……見たことのない料理ばかりでしたが、非常に美味でしたね。それに使われている食材も……本当に素晴らしいものばかりでした」
「食事はともかく、食材に関しては支援物資として渡している物と同じ物だったが、気に入って貰えたなら何よりだ」
「なんと……支援物資として送って頂いた物と同じだったのですか?これは……民の舌が肥えてしまいそうで後が怖いですな」
「それは、頑張って品質向上に努めてくれとしかいえんな」
「これは、早急に対策を講じる必要がありそうですな」
俺が皮肉気に口元を歪ませながら言うと、皇王さんが軽口を言うように応え、会議室に軽い笑い声が響く。
「フェルズ……様。エインヘリアで勉強すれば、俺達でもあの野菜を作ることが出来るのか?」
ラフジャスの質問に、俺は少しだけ考えるようにしながら答える。
「不可能ではないが……エインヘリアの農業は二種類に分けられていてな。一つは普通の農業。もう一つは国営の農業だ。その内、皆がエインヘリアで食べた野菜は全て国営農場で作られたものとなっている。国営農場で作られている野菜に関してはそれなりに資格が必要で、誰しもが自由にという訳にはいかん」
「どんな違いがあるんだ?」
「作られるものが違うな。国営の農場でしか育てていない野菜や果物も少なくない。それと、お前も食べたから分かるだろうが、国営農場の方が同じ野菜であっても品質がかなり良い。それと国営の農場では徹底した管理が行われている。先程話したように国営農場で働くには国から審査を受けて適正確認が厳重に行われ、更にそこで働く者達には守秘義務がある……農場で知った情報をけして外に漏らしてはいけないという約束事だ。これに違反すると、最悪極刑もあり得る」
仕事内容としては……農業舐めんなと言われても仕方ないような作業内容だけどね。
基本的に種植えて水やれば出来る……間引きが必要だとか、雑草の除去とか、病気がどうだとか、天候不良がどうだとか、土の状態がどうだとか……そう言ったややこしい話は一切ない。
土、種、水、魔石……それがあれば問題なし。
一応肥料もあるよ……?使うと収穫量が倍になる素敵な肥料がね!
まぁ、そんな感じでエインヘリア式農業は……多分スティンプラーフの土地でも問題なく出来そうではあるんだけど……問題は種の管理をラフジャス達がしっかり出来るのかってところなんだよね……これを適当にされちゃうと大問題になる。
帝国のように国家機密として厳重に管理してくれるって言うならともかく、ラフジャス達にいきなりそのレベルを要求するのは無理があると思う。
それだけ危険な代物ってのも理解してもらえないだろうしね……だからこの辺は慎重に考えなくてはいけない。
「農業に関しては今後学ぶ機会を用意してやる」
「あぁ。楽しみにしておく」
俺がそう言うと、ラフジャスは嬉しそうに頷く。
こいつ、野菜がかなり好きなんだよな……食堂でも野菜系の料理ばかり頼んでいるし。
肉じゃないのかよ……と思わないでもないが、まぁ農業の出来ない土地に住むラフジャス達にとって、野菜の方が高級品だったらしいし仕方ないのかもしれない。
肉に関してもあまりとれなかったみたいだけど……そう考えると、よくあの土地で三十万もの人が暮らしていけたよな。
「さて、雑談はこれくらいにして、そろそろ本題に入るとするか」
俺の言葉に、皇王さんやエッダ首長はもとより、両国の使節団の人達も表情を引き締め会議室内にピリッとした空気が生まれる。
ラフジャスは一切変わらんが。
「まずは気になっているであろう両国への支援だ。現在両国に行われている物資、医療の支援。これは以前も話した通り今後も継続して行わせてもらう。それと環境整備に関してだが、こちらも最低限の設備が整うまではやるつもりだ。しかし、あまり我々が出しゃばってしまうと、両国の民の仕事を奪う事になる故、都度打ち合わせをしながら進めるとしよう。国内が安定すれば、仕事を求める民達が増えるだろうからな」
特に、パールディア皇国は滅亡寸前まで追い込まれているような状態だったからね。
シャラザ首長国よりも復興には時間がかかる。いや、蛮族の脅威がなくなったとは言え、下手をすればそのまま国が崩壊してもおかしくない状態だ。
しかし、俺達が支援して下地を作り、復興作業を牽引してやれば、いずれ自らの足で立つ事も可能。
周囲に敵対的な勢力は存在しないし、多少の問題であれば俺達の力で解決してやれるしね。
「それと支援した物資についてだが、返済の必要はない。どうしても返済したいというのであれば、俺達の支援を存分に活用して国を富ませ、交易という形で返してくれれば良い。あぁ、勘違いするなよ?俺が望んでいるのは健全な関係だからな。対等な立場での交易が一番だ」
「「……」」
とはいっても……何かしら対価を求めてあげた方が良いだろうね。
無形の貸し借り程借りている方にとって厄介なものはないし……。
現に、皇王さんもエッダ首長も難しい顔をしているし。
「ふむ、納得いかないといったところか?」
「納得できないと言いますか……」
「エインヘリア王陛下。我々はエインヘリア王陛下ひいては貴国全てに感謝しております。それ故、一方的に施して頂いている現状が心苦しくてなりません。しかし、エインヘリアという国に現状我々が何かを返すという事が出来るとは思えません。ですので、せめて……支援して頂いた物資を段階的に返還すること、お許しいただけませんか?」
「しかし、こう言っては何だが、支援している物資はかなりの量だ。無理のないように返還するとなったならかなりの時間がかかるだろう?輸送にかかる手間も考えれば、我々としては遠慮したい所ではあるな」
「……でしたら、金銭でのお支払いでは如何でしょうか?」
うーん、お金も必要とはしていないけど、この辺りが落としどころだろう。
俺が金銭での返還を受け入れると返事しようと口を開くより一瞬早く、エッダ首長が言葉を続ける。
「もしくは……エインヘリア王陛下。シャラザ首長国を貴国に併合しては頂けないでしょうか?」
……ん?
「お待ちください、エッダ首長殿。それは些か抜け駆けが過ぎるのでは?」
「申し訳ない、パールディア皇王殿。丁度良いタイミングであったのでつい、な」
非難する皇王さんに苦笑しながらエッダ首長が言う。
「エインヘリア王陛下。シャラザ首長国だけではなく、パールディア皇国もエインヘリアに併合して頂きたく」
しかし、非難していた皇王さんも、俺の方に向き直りそんなことを言いだす。
へ、併合!?
なんで!?
全力で支援するよ!?君達独立独歩……いや、完全に独立独歩とは言えないけど、それでも一個の国として十分やっていけるよ?
予想だにしていなかった展開に、俺は内心頭を抱えながらも覇王力を全開にしつつ知略85の力を振り絞った。
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