第344話 激突直前の王達

 


View of ラフジャス スティンプラーフ王 蛮族王






 俺達の土地に侵入した軍の情報を聞いて、俺は少なくない驚きを覚えた。


「ワドラだけじゃなくデギンソもやられていたのか」


 予想以上だな。


 いやワドラはあまり強い戦士ではないが、デギンソはかなりの腕利きだ。


 俺には遠く及ばないが……俺を除いた全部族の戦士を競わせたら、恐らく一番か二番か……三番、四番くらいには最低でも入るだろう。


 そう簡単にやられるような戦士ではないと思うが……もし一対一で敗れたのだとしたら、その相手とは是非戦ってみたいところだな。


 まぁ、それは機会があればだな。


 どうやら敵は四万以上いるらしいし、いくらデギンソが強者であっても四万に飲み込まれればひとたまりもないだろう。


 俺は……四万に勝てるか?


 流石にそんな数と戦ったことはないからな……まぁ、試してみれば分かるだろう。


 勝てなきゃ死ぬだけだ。


 連中はすぐ近くまで来ているらしいし、結果はすぐに分かる。


 因みに集まった戦士の数は七千程。


 伝令を出したのが十日程前、それから集まったにしては相当な数と言える。


 連中は恐らく、俺が戦う以上負けはない……そう考えて、多少無理をしてでもここに来たのだろうな。


 それに、戦士共は基本的に戦う事自体が好きな連中だが、今回はそれ以上に物資を大量に抱え込んだ奴等が乗り込んできたわけだからな。


 遠征に行くよりも遥かに楽に物資や奴隷を得られるとなったら……張り切って参加する気持ちも分かるってもんだ。


 俺は逸る気持ちを抑えつつ愛用の鉄棒を手に取った。


 ただ太く長くしただけの鉄の塊だが、普通の斧や剣だと俺がぶん回すと一撃で壊れちまうからな……これが手に入るまで丸太をぶん回していたことを考えれば、まともな武器といえるだろう。


 更にいくつかのナイフを腰にさして準備を終えた俺は、戦士たちが集合している集落の外にある平地に向かう。


 これから行うのは略奪ではなく戦だ。


 しかも、俺が未だかつて戦ったことが無い程の規模……敵は気が遠くなるほど多い。


 どんな戦いが、そして強敵がいるのか……実に楽しみだ。






View of フェルズ 援軍にきたエインヘリアの王






 三か月以上に渡るスティンプラーフ攻めも、いよいよ佳境といったところだ。


 これから戦う軍……集団?の中に蛮族王がいるとクーガーから連絡があった。


 まぁ、蛮族王の拠点近くまで攻め寄せているわけだし、出てくること自体は予定通りと言える。


 寧ろ、なんでここまで攻め寄せられるまで出てこなかったのか不思議なくらいだね。


 しかし、三か月は長かったな……。


 ファザ将軍の戦略に従いあっちに転戦こっちに転戦と繰り返し、蛮族たちの拠点をバンバン潰していった。


 街やら砦やら城やら、とにかくこの三か月戦いまくった。


 幸いというか、一つの拠点にいる蛮族たちの数はそう多いものではなく、戦争が始まった直後に相対した三万以上の数に遭遇することはなかった。


 まぁ、だからこそ厄介というか時間がかかったわけだけど。


 寧ろ、俺達……いや、エインヘリア的には三十万の蛮族が一気にどんと来てくれた方が楽だしね……。


 なんにしても長かった戦争もこれで一段落……と行けばいいんだけど。


 大きな街にはそれなりの数の蛮族と奴隷が住んでいたこともあり、そこを制圧してから魔力収集装置の設置をしている。


 これによって蛮族たちは捕虜に、奴隷となっていた者達は解放してそのままその街で保護。別の住むには適していない場所から人を連れて来て、街の復興作業をして貰っている。


 まぁ、エインヘリアから支援物資を大量に届けているから、作業は大変だろうけど困窮はしていないはずだ。


 蛮族の奴隷という響きから、えぐい目に合っているのかと思っていたけど……大半の奴隷はそれなりの格好でそこそこの生活を送っている様だった。


 勿論健康状態は良好とは言い難かったけど……蛮族たちにとって奴隷は大事な労働力という考え方だったらしく、基本的に滅茶苦茶な扱いはしないらしい。


 反抗的であったりすればそうとは限らないらしいし、やはり欲望の捌け口として使われることがあるのは確かなので、待遇が良いとは決して言えないけどね。


 街を攻めた時に人質みたいな感じにされたこともあったし、扱い的には人というよりも所有物と言った感じのようだ。


 まぁでも、商協連盟で取引されていた違法奴隷とかソラキルの貴族が裏でやっていた非人道的な扱いに比べればかなりマシではある。


 それでも奴隷としてこき使われている人達からしたら、ふざけんなって感じだろうけどね。


 そんな奴隷を労働力として使っている蛮族たちだけど、かなり生産性に乏しく……奴隷という労働力を十全に使いこなせてはいなかった。


 北の方の元ヤーソン王国領とかでは農業をやらせているところもあったけど、それでもあまり大規模な物ではなかったし、奴隷はおろか蛮族たちもあまり良い生活をしているとは言い難かった。


 まぁ、それでも南の方にいる奴隷たちの状態に比べれば、北の方の奴隷はかなりマシだとは思うけど。


 南の方の奴隷は相当栄養状態が悪かったし……虐待とかするまでもなく危ない状態の人も少なくなかった。


 そういう危険な状態で保護された奴隷は、飛行船でパールディア皇国へと送っている。


 最終的にどうするかは個人に任せるけど、蛮族たちに捕まる前の場所に戻るのか、それともエインヘリアや他の国に行くのか……どちらにしてもそれなりの支援が必要だろう。


 何にしても、余程理由がない限り蛮族たちとは離して保護する必要があるね。


 蛮族たちについては……色々と教育が必要だろう。


 接してみて分かったけど、彼らは他の国々で言われている様な殺戮を好む野蛮な連中というよりも、奪う以外の方法で生きる術を知らない……規模は違うけど、スラムにいる孤児のような感じだ。


 なまじ戦闘力に長けていたせいで他の民族……文化と交わることなく、ここまで略奪一本で来てしまったのだろう。


 海側に住んでいる連中はもう少し文化的な生活をしているみたいだけど、主な交易品が略奪物だし……五十歩百歩といったところだね。


 蛮族の事や奴隷たちの事……戦後の事を考えると中々大変そうだ。


 是非とも戦後はパールディア皇国やシャラザ首長国のお偉いさんたちに頑張ってもらいたいと思う。支援はします。


 そんな三か月の遠征ではあったけど、俺はその間に何度かエインヘリアに戻っている。


 俺が遠征に出ていても当然エインヘリアではキリクやイルミットが国を運営してくれている訳で、俺が決裁しないといけない案件も少なくはない。


 フィリアとの会合もあったし、新たにエインヘリアの領土となった元商協連盟傘下の地方の事もある。


 それと、バークスの作った新しい諜報機関の運用が始まって、国内の情報が今までよりも集まりやすくなったこともあり、今まで気付いていなかった問題とかへの対処も増えた。


 その上、毎日午前中に書類仕事をしていた普段と違って、数日分の書類ががっつり溜まっていることもあり……この世界に来て初めて一日中書類仕事をする羽目になったね。


 まぁ、魔力収集装置を何拠点かで設置できたから、行き来はかなり楽に出来たけど……こまめに帰って、書類はあまり溜めないようにしようと心の底から思いました。


 さて、それはそうと……今は目の前の事に集中しないとな。


 蛮族王が率いて来る数は八千弱。


 陣形を組んで進軍してくるわけではなく、蛮族王を先頭にぞろぞろと歩いて来ているらしいけど……後三十分もしないで俺達からも見える距離に来るそうだ。


 この辺りは岩と砂って感じの地形で、荒野というのが相応しい土地だ。かなりでこぼことしているので、岩の陰に隠れて相手の姿が見えなくなっているようだね。


「失礼します、エインヘリア王陛下。敵軍が近づいてきていると報告がありました」


「そのようだな。どうやら蛮族王が率いているようだ」


 天幕に入って来たファザ将軍が、蛮族たちが近づいてきたことを報告してくれる。


「蛮族王の相手は、本当にエインヘリア軍にお任せして良いのですか?」


「あぁ。蛮族王は英雄と言う話だったからな。俺達が相手をしなかったら無駄に犠牲を出してしまうだろう?」


「申し訳……いえ、感謝いたします、エインヘリア王陛下」


「気にするな」


 俺がそう言うと、ファザ将軍は深々と頭を下げる。


 なんこう……最近ファザ将軍だけじゃなく、同盟軍の兵達も様子がおかしい。


 まぁこの遠征中、エインヘリア軍は援軍としてかなりがんばったからな。


 蛮族の奇襲を防いだり、別動隊として門を落としたり、危ない部隊を助けたり……陰に日向に頑張った。


 その結果が……これだけ向けられる信頼って奴だろう。


 そういえば、一度俺達エインヘリアに頼りすぎて同盟軍内がだらけた感じになっているとファザ将軍に言われて、完全に軍を分けて動いたこともあったな。


 あの時、同盟軍にはかなり被害が出たんだけど……その時ポーションを配って重傷者を治して回ったりもしたんだよね。


 アレ以降、なんか俺が同盟軍の方に顔を出すと歓声が上がるようになった……まぁ、ポーションの効果は凄いしね。大怪我をしても一瞬で治ると分かれば、そりゃ喜ぶだろう。


 特に四肢の欠損とか……この世界では致命的過ぎる怪我も、さくっと治せるのだから……即死さえしなければ問題ないってのは、かなり安心できる話だ。


 そんなことを考えていると、天幕にクーガーが入って来た。


「フェルズ様、蛮族約八千が姿を見せたっス。歩いてこちらに向かって来ているっスけど……陣形を組んだりしないと思うんで、多分このまま突っ込んでくるっスよ」


「そうか……ならこちらも急ぎ準備をしないとな」


 四万以上いる俺達に、陣形も整えずそのまま突っ込んで来るか……。


 帝国の英雄……『至天』の二つ名持ちなら四万相手でもなんとかなりそうだけど、下位の連中だと一般兵相手でも四万は無理じゃないかな……?


 蛮族王がリズバーン達よりも強いとは思えないけど……さて、どうやって相手をしたらいいかねぇ。


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