第321話 同盟三国とは
「まずは……パールディア皇国……。エインヘリアのベイルーラ地方……その南に国土を持つ……商業も農業も……これといって特筆するべきことはない……軍はずっと……スティンプラーフの脅威に晒されているから……練度は悪くない……。でも数が少ないし……一人一人の強さは……スティンプラーフに劣る……。同盟三国の中で……一番被害が大きい……。度重なる襲撃で……国境線も北に押し上げられている……」
国境が……?
恐らくだけど、国境付近は度重なる略奪によって補給もままならなくなり、国境や砦を放棄した……とかかな?
それだけ危険な国境なのだから、当然パールディア皇国としては厳重に守りを固めていた筈。
しかし、敵は大規模な野盗集団みたいなもの。
ある程度進軍ルートが予想出来る軍隊とは違って、侵入を防ぐのは容易ではないだろうし……現に国境警備をすり抜けて略奪を受けている状態だ。
無論スティンプラーフの連中は、略奪した物を自分達の集落まで持ち帰らないといけないのだから、行きと同じ道を使って帰るのは難しいかもしれないし、出来る限り移動しやすいルートを通る筈。
にも拘らずパールディア皇国はスティンプラーフの略奪を防げていない……余程スティンプラーフの悪路踏破能力が高いのか、パールディア皇国の警備がざるなのか……意図的に見逃されているか……もしくは……。
スティンプラーフの略奪項目の中には人ってのもあるみたいだから、あまり険しい場所を捕虜を連れて通る事は出来ないだろうし……色々キナ臭い感じがするね。
「パールディア皇国の……保有する戦力は……およそ二万……本格的にスティンプラーフが攻めて来たら……半年も持たない……」
崖っぷちだな……。
戦力二万って……今までうちが戦ってきた小国でも、その倍くらいはいたと思う。
長年略奪を受けて、戦い続けて……ぎりぎり堪えている感じ……相手がほんの少し本腰を入れれば瓦解してしまう、表面張力ぎりぎりって感じだな。
ギリギリ潰さない様に……略奪する為の物資を生産するように生かされているって線もあるけど。
「今回の三国同盟は……パールディア皇国の呼びかけによって……成立した……。今代の王は……有能ではないけど……自分は前に出ず……家臣に支えられている……良く言えば人を使うのが上手い……」
人を使うのが上手いか……同盟の発起人でもあるようだし、確かに上手そうだね。狸親父系だろうか?
「パールディア皇国については……以上……」
「ウルル。謁見の時に第二皇女の言っていた、スティンプラーフが宣言したという言い分とやらは調べがついているか?」
謁見の時に皇女さんが言っていたことが気になった俺は、ウルルに尋ねてみる。
恐らくウルルの事だから調べはついている筈だ。
「はい……六年ほど前……スティンプラーフが……パールディア皇国の皇女を……嫁に差し出せと……」
「皇女を……?第二皇女か?」
第二皇女……六年前っていったら……エファリアよりもちょい上か、ほぼ同じくらいって感じじゃないか?
えー、蛮族王ロリコンかよ……二次元のロリは大好物ですが、リアルのロリはちょっとないわー。
いや、貴族とか王族が、婚約やら結婚が早いってのは知識としては知ってますが……いやぁ、きっついわぁ。
「いえ……姉の……第一皇女です」
「……」
ごめん、蛮族王……。
「でも……第一皇女は……結婚が決まっていた……というか……結婚式の当日に……そんなことを言ってきた……」
……今謝ったのを返して欲しいわ。とんだクソ野郎でしたわ。
「第一皇女の相手は……公爵家の次男……国として中止出来るものではない……当然スティンプラーフの要求は……黙殺」
そりゃ、当然そうなるよね。
パールディア皇国からすれば、何をとち狂った事言ってんだって感じだろうし。
そもそも、以前から何度も略奪を仕掛けて来ている様な相手に娘を嫁がせる親はいないだろ……降伏の条件とかならともかく。
「……結果……自分の嫁となる筈だった皇女を……他の男に嫁がせ……王に恥をかかせた……それが開戦の理由……」
恥をかかせたって、存在そのものが恥のようなものなのに今更何を言っているのか……やべぇな蛮族王。
美人局より強引に行くやん……エインヘリアもびっくりな絡み方やで……。
やっぱヤクザより蛮族の方が蛮性は上か……。
「それで正統性を保てると考えているのであれば、正に蛮族だな。ウルルすまなかった、開戦の経緯は分かった。話を先に進めてくれ」
「はい……次はスティンプラーフ西の……ヤギン王国……。この国は……農耕が盛ん……でも……スティンプラーフの被害は……一番少ない」
農耕が盛んなのに被害が少ないのか……食料とか真っ先に狙われそうなもんだけど……そうでもないのか?
海側の民による商取引で食料は十分……とは思えないな。
陸路ならともかく、海路での取引となれば輸送料や頻度にも限界がある。
流石に、複数の部族の食糧全てを輸送できる程大型船や船団を動かすのは……商協連盟……恐らくはその中のいち商会には厳しいものがあるだろう。
っていうか、多分採算が取れない。
食料程度だったら、多少値段を上乗せしたとしてもぼろ儲けとはならないだろうしね。
速度は速いのだろうけど、輸送にかかるコストは陸路以上だろうし……それで運ぶメインが食料じゃぁ、儲かるものも儲からないだろう。
赤字覚悟でスティンプラーフの為に運んでやる義理はないだろう。
略奪した品で物々交換だとしても……そうそう金銀財宝が略奪出来る筈もない。
となると……食料生産に強いヤギン王国があまり襲撃されていないってのは、ちょっと不自然じゃないかねぇ?
被害が全く出ていない訳ではないみたいだけど……。
「……ヤギン王国……軍は六万……練度は低い……スティンプラーフとの国境沿いの守りは……固めてはいるけど……軍としての衝突は殆ど無い……特に……ラフジャスが王になってからは……略奪は年に数回行われているけど……他の二国に比べると……どれも被害は小規模……」
怪しさ満載だな……まぁ、そういう疑心暗鬼を植え付ける為のスティンプラーフの策って可能性もあるけど……パールディア皇国は自国の事で手一杯で、ヤギン王国の被害の少なさに気付けているのかどうか……。
「……今は……ヤギン王国と……ラフジャスの繋がりを調査中……」
流石ウルルさん……俺程度が疑問に思う事はしっかり調べてくれているようだ。
これで、仮にヤギン王国が裏切ったとしても問題なく対処出来るだろう。
まぁ、証拠を押さえて裏切る前に対処するのが一番だけど。
「最後に……スティンプラーフ東……シャラザ首長国……。略奪の被害は……パールディア皇国と比べると少ない……でも……軍事的な衝突は……ここが一番……激しい……」
東側はシャラザ首長国……ここはがっつりやり合ってる感じのようだね。
「軍は……五万……騎兵を中心に……弓騎兵もいる……練度も士気も……三国で一番高い……」
中々強そうではあるけど、いかんせん数が少ないな……ヤギン王国が裏切って無かったとしても、同盟三国とスティンプラーフの間には倍くらいの戦力差がある。
守りも置かなきゃいけない事を考えれば、倍では済まないくらいの戦力差がある場所を攻めるのはちょっとどころじゃなく無謀だね。
しかし……パールディア皇国はベイルーラ王国にどれだけ期待していたんだろうか……?
俺の知るベイルーラ王国は、パールディア皇国並みにボロボロだったから……多分一万も出せない……というか援軍そのものを出すのが無理って感じだったと思うけど。
その辺のことも知らなかったのだろうか?
まぁ、それはどうでもいいか。
現実として、援軍要請を受けたのはうちだからな。
「パールディア皇国とシャラザ首長国は攻勢を受けて被害は大きく、ヤギン王国は内通の疑いあり……同盟軍が行動を開始するよりも前からボロボロだな。包囲網と言えば聞こえはいいが、スティンプラーフがその気になればあっという間に突き破られる程度の代物。エインヘリアの援軍が叶わなければそう遠くない内に瓦解するだろうな」
「では……」
俺がそう纏めると、キリクが委細承知といった表情になる。
これだけピンチって感じだし、恩を売るには丁度良い塩梅と言えるね。
「あぁ。援軍を派遣しよう。無論、三国がこちらの条件を飲むならだがな。ウルルの報告を聞いた限り、ヤギン王国が条件を飲まない可能性が高い。その辺りの事をふまえた上でどのように対処し、どの程度援軍を派遣するか決めねばな」
今回の戦争、あくまで俺達は援軍……戦力的には完全に主力だけど、名目上は援軍だ。
少なくとも開戦直後は同盟軍の顔を立ててやらねばならない……かと言って、敗走させるわけにもいかない。
その辺りを臨機応変にやるのであれば、俺とキリクは現地に向かった方がいいだろうけど……国交すらなかった国の援軍に王自ら行くってのはどうだろうか?
いや、今更そんな事、気にする必要はないかもしれないけどね。
そのことが原因で俺の事やエインヘリアを舐めるようであれば、物凄い後悔することになるのは間違いないし……誘い受けとしては悪くない餌だろう。
「何にしても、まずは使節団に援軍の派遣を決定したことを伝え、パールディア皇国に向かい正式に約定を交わす必要がある。こちらの使者は……シャイナに任せよう」
この場にはいないシャイナを使者として指名する。
まぁ、外交官だし問題はないだろう。
「キリク、シャイナへの説明は頼む」
「畏まりました」
「今回の戦いは少々いつもと勝手は違うが、皆よろしく頼む」
俺の言葉を最後に会議は終了する。
……。
……終了してしまった。
やっべ……皇女さんの事話すの忘れてた……どうしよう。
返答をすると約束した日まであと二日……。
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