第307話 異世界召喚?
俺は久しぶりに玉座に座っている。
最近はなんだかんだと忙しかったけど、他国の使者が謁見とかってなかったし……帝国とのやり取りは旧ソラキル王城を使っていたしね。
だから玉座に座るのは結構久しぶりだけど、玉座は相変わらず俺に冷たい……後硬い。
正直、早くも辛くなって来たので早々に用事を済ませたい所だけど……今日は謁見とはまた違ったプレッシャーのあるお仕事だ。
今日は……新規雇用契約書を使い、新しいキャラクターを生み出す日。
使用する魔石は五億と少々……いや、およそ六億だな。
これだけの魔石を一気に消費してしまう事も恐ろしいが、一番恐ろしいのは新しくキャラを……いや、生命を誕生させてしまうという事だ。
ちゃんと成功するだろうか?
何も出て来なければ……失敗ではあるが、たとえ魔石が五億減っていたとしても流石にキャラクターエディットは無理だったんだなと納得出来る。
しかし新規雇用契約書の使用が成功して、新たな人物が誕生してしまったらどうだろうか?
自我が無かったらどうしよう……とか。
大人の身体ではなく赤ちゃんとして誕生したらどうしよう……とか。
記憶が無かったらどうしよう……とか。
記憶はあってもうちの子達と齟齬があったらどうしよう……とか。
いう事を聞かなかったらどうしよう……とか。
そもそも、ちゃんとした人として誕生してこなかったらどうしよう……等々、心配だらけである。
心配し過ぎて、お腹どころか心臓が痛い気がする。
……とはいえ、リーンフェリアやジョウセンの事を考えると、新規雇用契約書の実験は必要だ。
可能なら可能、不可能なら不可能……そういった答えが欲しい。
まぁ、今回失敗してしまうと実験を行ったことを知っているリーンフェリアには申し訳ない事になるけど……俺の護衛という立場上、実験の事を隠しておくのは不可能だしな。
護衛から暫く離れていろってのも怪しいしな……。
……さて、そろそろ現実に目を向けるか。
玉座の間には、既に役職持ちの子達が集まっている。
参謀のキリク。
内務大臣のイルミット。
外務大臣のウルル
近衛騎士長のリーンフェリア。
大将軍のアランドール。
宮廷魔導士のカミラ。
開発部長のオトノハ。
大司祭のエイシャ。
それぞれが重責を担い、エインヘリアにおいて絶対に欠かすことが出来ない八人。
彼らは皆、真剣な表情で一段高い位置……玉座に座る俺の事を見上げている。
「忙しい中、皆よく集まってくれた」
本当にそう思う。
キリクとイルミットは内政やら外交やらで滅茶苦茶忙しそうだし、アランドールとカミラは治安維持関係で各地に散っている戦闘部隊の統括。
オトノハとウルルは各地を飛び回っていて、会議や呼び出した時以外で会う事は殆ど無い。
エイシャは……実はあまりよく分からないけど、各地方の宗教関係と色々話をしているらしい。問題があったら報告してくる筈なので、まぁ大丈夫だろう。
リーンフェリアは言うまでも無く、四六時中俺の傍で護衛をしている。
俺自身はのんびりしていても、リーンフェリアは常に周囲を警戒していて休まる時がないだろう。
「今回の実験は、エインヘリアにとって何より優先するべき事かと思います。かつてのエインヘリアがどうなっているかも……気にならないと言えば噓になりますし」
キリクの言葉に、集まっている全員が真剣な表情で頷く。
かつてのエインヘリアがどうなっているか……か。
この子達にとって、かつてのエインヘリアは実在した物ではあるが……フィオの言葉を信じるのであれば、俺達はソードアンドレギオンズというゲームを基にした存在。
当然、かつてのエインヘリアという物は存在しないし、そこに住んでいる人達もいない。
この事は……自分達が儀式によって作られた存在だという事は、彼らに伝える必要はないだろう。
アイデンティティを崩壊させるだけで一つも良い事がないしね。
だから今回の件もその辺りは注意が必要だけど……恐らく問題はない。
新規雇用契約書を使い、元の世界から召喚する……このこと自体は皆が信じてくれた。
そして今キリクが言った、かつてのエインヘリアが気になるという話だが……彼等には申し訳ないけど、それを知る事は出来ないだろう。
俺達がこの世界に来てから一年以上経過しているが、儀式によって参考とされたゲームの情報に時間経過という物は存在しない。
エンディングの後日譚的なタイミングで呼び出されている俺達と同様、これから生み出すキャラクターもそのタイミングでの記憶を持っている……筈だ。
……う、そんなことを考えていたらまた心臓が痛くなって来た。
本当に大丈夫だよな……?
「そうだな。それと呼び出す者の条件だが……これで良いのだな?」
俺はキリクに頷いた後、オトノハに向かって尋ねる。
「あぁ。仕官はしていなくても魔力収集装置の設置が出来る職人は、元のエインヘリアには多いからね。今回は、個人を特定するような条件は付けないってことだし、そのくらいの条件でいいと思うよ?」
「……よし、ではこれから召喚を始める。暫く俺は動けなくなるから、その間の事は頼むぞ」
「「はっ!」」
全員が真剣な表情で返事をしたのを確認した俺は、新規雇用契約書を手にしたまま意識を集中させる。
すると、すぐに俺の視界は見慣れた新規キャラエディット画面へと切り替わった。
エディット内容は、既に会議で皆の意見を聞きその通りに設定していく。
無論、皆に任せていない部分もあるけど……名前、容姿、設定に関する部分だな。
さて……それじゃぁ久しぶりに、キャラクターエディットと行きますか。
能力値は初期値のまま、スキルと魔法は無しでアビリティは開発関係のものを一通り完備。
これでゲーム的な能力で言えば、開発部に配置することでオトノハ達と遜色ない働きをしてくれるだろう。
容姿はランダム生成にして……髪と目を属性ルールに当てはめて変更っと。
最後に名前を決めて……決定。
最終確認画面で最終チェック……名前と容姿は、まぁ別に問題ない。
能力値も動かしていないから大丈夫、大事なのはアビリティだけど……よし、不備はなし。
キャラクター設定も……よし。シンプルな物だし、おかしなところはない。
消費魔石量は五億五千万……うん、アビリティ追加分がそのまま加算されているだけだね。
……よし、問題ないな。
最終チェックを終えた俺の心臓が、大きく跳ねる。
あぁ……緊張とはちょっと違うけど、めっちゃ内臓の具合が変だ。
この世界に来て緊張することは今まで何度も……他国の王様やら重鎮やらと会うたびにしてきたけど、今日のこれは……緊張というよりも、恐怖だと思う。
いや、ほんと上手くいってください!
神様……いや、魔王様!
ほんとお願いしますよ!?
意を決した俺は、キャラクターエディットを確定させた。
次の瞬間、開かれていたメニュー画面が閉じられ、俺の視界は玉座の間へと戻る。
そして俺達の見守る中、光の粒が玉座から少し離れた位置に集まって行く。
記憶の中にあるレギオンズの画面では、こういったエフェクトは存在しなかったけど……大丈夫……だよな?
光の粒が集まり、やがて人の形となって行く。
その様子を皆は真剣な様子で、俺は内心不安でいっぱいになりながらも無表情を維持しながら見守る。
時間にしてほんの数秒の事だとは思うけど……俺にとっては数分以上にも感じられた時間を経て光が弾けるように消えた。
光が消えたその場に立っていたのは、一人の人物。
……少なくとも、見た目はエディット画面で見た人物と寸分違わぬと言える。
俺が設定した性格通りであれば、責任感が強く仕事に関しては一切手を抜かないが、普段は非常に穏やかな人物……。
幼いころから職人見習いとして働いていた為、若いながらも熟練の職人に負けない腕を持つ……って感じだ。
容姿はランダムなので全くの偶然ではあるが……長い銀髪に隠れがちの目は少したれ目になっており、優し気で穏やかな印象を受ける。
それにしても……流石の美形具合だと言えるね。
この場にいる人物は俺を含めて恐ろしく美形ばかりだけど、今現れた人物も負けず劣らずと言える。
因みに……今回エディットされたのは、男性です。
いや、俺は男女どちらでも良かった……という事にしておくが……会議に参加した女性陣から、男性を熱望されたのだ。
アランドールはどちらでも良さそうだったけど、キリクも男性を召喚することに賛成していたのでこの世界での初のエディットは男性となった。
イルミット達は……彼氏でも欲しいのかしら?
いや、まぁなんでもいいけどね?
……くそぅ。
「……」
この場に生み出された男性は訝しげに辺りを見渡した後、玉座に座る俺を見て、その瞳を真ん丸にする。
「エインヘリア王、フェルズ様の御前である」
キリクがそう宣言すると、男性は凄い勢いで平伏した。
……どうやら言葉は問題なく通じているようだし、知識的にも問題無さそうだ。
「まずは名を……」
「キリク、待て。俺が話す」
「はっ!」
高圧的に事を進めようとしているキリクを俺は止める。
警戒しているのは分かるけど、彼は他国の人間という訳ではなく、俺がエディットした子だ。
実験という形で生み出してしまったこともあるし、俺としては丁重に扱ってやりたいと思っている。
「俺の都合でお前をこの場に呼びだしてしまった事を、まずは謝らせてくれ。今の事態に混乱しているとは思うが、名前を聞かせて貰っても良いか?知っているかもしれないが、俺はエインヘリアの王フェルズだ」
「わ、私はケインと申します。勿論、フェルズ様の事は存じております」
うん、エディットした時の名前で間違いないね。
受け答えも問題なく出来ているし、俺の事も知っていると……。
「ケイン、頭を上げろ。そして楽にして貰って構わない。これから何が起こったか説明させてもらう。いきなりの事で混乱するだろうが、とりあえず話を聞いてくれるか?」
「は、はっ!」
平伏しているケインがそう言って、恐る恐るといった様子で立ちあがる。
「ここはエインヘリア城の玉座の間だ。突然お前がこの場に現れたのは、俺がお前を召喚したからだが……体に違和感等はないか?どんな些細な事でも構わない。何かあったらすぐに言って欲しい」
「畏まりました。今の所……違和感のようなものはありません」
「そうか。何かあったら、俺が話している途中でも構わないからすぐに言ってくれ。お前には非常に申し訳ないと思うのだが……今回お前をこの場に呼んだのは実験でな」
「じ、実験、ですか?」
「あぁ、その辺りも含めて説明しよう」
そう言って俺は、フェルズとしてこの世界に来てからの事を要約して語り、何故ケインを呼び出したのかをキリク達に説明した通りに伝えた。
そして、全ての説明を終えた俺はそこで言葉を切り、ケインがその内容を消化できるまで待つ。
「……今いるここは、私の知るエインヘリアとは違うエインヘリア……そしてかつてのようにエインヘリアは戦火に巻き込まれている……」
戦火に巻き込まれているというか……どちらかと言うと火をつけて回っているという方が正しいけど……まぁ、その辺は追々理解してもらおう。
「私をここに呼んだのは、元のエインヘリアから人材を召喚する実験の為……ありがとうございます。理解出来ました」
「……そうか」
飲み込むの早いなぁ……。
俺なら一日単位で……いや、意外と突然調子に乗って一、二時間くらいで覇王ムーブかましたりするかもしれないけど。
俺がちょっと過去を思い出していると、ケインはおもむろに涙をこぼした。
な、何事!?
俺がその事に動揺すると同時に、ケインが膝をつきながら頭を下げる。
「フェルズ様の御帰還。心よりお慶び申し上げます。そして、私のような一介の職人に過ぎぬ者を呼んで下さり感謝いたします。このケイン。まだまだ未熟にございますが、一意専心で仕事に臨み、フェルズ様に忠義を尽くさせていただきます!」
キリク達は当然といった様子でケインの姿を見守るけど……初めてこの玉座の間でキリク達と顔を合わせた時と同等の熱量で忠誠を誓うケインの姿に、俺はちょっと驚くどころではない。
キリク達には、レギオンズというゲームの中でフェルズと共に世界を統一したという記憶があるから、その忠誠心も信じられたけど……それと同じレベルで、今生み出したばかりのケインが忠誠を誓うとは……。
レギオンズには調略のコマンドはあったけど、味方が調略されることってなかったからな……デフォルトで忠誠心マックスってことなのだろうか?
いや、この状況では非常に助かるけど……。
「ケイン、お前には開発部に所属してもらうが、当面は魔力収集装置の設置を行ってもらう。分からないことは開発部長のオトノハに聞いてくれ。だが、仕事に就く前に一週間程は城内で勉強してもらう。この世界の事、俺達の立ち位置、それからいくつか俺もケイン自身に聞きたい事があるからな」
「畏まりました」
膝をついたまま、再び頭を垂れるケインを見下ろしながら俺は玉座から立ち上がる。
「召喚は成功した。だが、俺達の都合で呼び出してしまったケインの事は、皆気にかけてやってくれ。特にケインは元のエインヘリアでは一般人だったのだからな」
俺がそういうと、キリク達もケインと同様にその場に膝をつく。
「今後、魔石の溜まり具合を見ながら何度か実験を行う。当面は開発部やメイド、実験が進めば外交官となり得る人材を召喚していくつもりだ。最終的には、皆の肉親を指定して召喚したいと考えている。必要な魔石量が魔石量だから数年単位で時間はかかるだろうが、意見があったらどんなものでも良いから届けてくれ」
皆を見ながら俺はそう宣言する。
……遂に新しい生命を生み出してしまったな。
子を成す……というのとは違ったそのやり方に、色々と思う所はあるけど……今後のエインヘリア、そして家族の事を想ううちの子達の為に、これは必要な事だった。
フィオの願いを叶える事と同じくらい……俺はうちの子達に幸せになってもらいたい。
今日新たにケインという新しい子がエインヘリアに加わったが、勿論ケインの事も幸せにする義務が俺にはある。
フィオの願いを叶え、うちの子達を幸せにする……それが俺の願いであり、必ず成し遂げなくてはならない目標だ。
それを邪魔するやつは、物理的にぶっ飛ばす!
俺はフェルズ……覇王フェルズだ。
何の因果か紙切れ一枚と税として得た五億の魔石を使って新たな人物を生み出し、そのプレッシャーに心臓を傷めながらも必ずその責任を取ろうと改めて誓った覇王だ。
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