第283話 途轍もない……事実
「カリオーテさん?何か……リュカーラサに問題が?まさか……狂化して……」
「あ、あぁ、いや、あの子は……少なくとも一ヵ月程前は狂化していなかった」
カリオーテは険しい表情のままバンガゴンガの言葉を否定する。
しかし……一ヵ月前か。
つまり、今はこの集落にはいないということか?
「一ヵ月前?リュカーラサに何かあったのですか?」
「……私達は、定期的に人族の街に行って、食料や色々な道具を鉱物や狩りで獲った毛皮等と交換しているのだが……一月半程前、人族の街に向かった仲間が襲撃されて、その時数人が行方不明になってしまったんだ」
「まさか、その中にリュカーラサが……」
「いや、リュカーラサはその時街には行っていない。だが、襲撃に遭った時に行方不明になった者達が出たと聞き……集落を飛び出してしまったんだ」
……中々義に厚いというか、暴走娘感があるな。
集落の長の娘としての責任感が強いとも言えるけど……一人で飛び出したのか?
「行方不明というのは……殺されたわけではないのですか?」
「逃げ延びた者の中に、同胞が捕らえられるところを見た者がいたんだ。それを聞いたリュカーラサが……」
「……アイツらしいと言えば、そうなんだが……既に一ヵ月以上経っているとなると……」
バンガゴンガが険しい顔をしながら唸るように言う。
うーん……里を飛び出して一ヵ月以上……カリオーテも心配している様には見えるが、人を出して捜索させたりはしていないみたいだな。
「何か手がかりは?」
「賊が人族の集団だったということくらいしか……」
「それは対象が広すぎますね……リュカーラサは何か当てがあって飛び出したのでしょうか?」
「少なくとも、逃げのびた者達から何か情報を聞けたということはないかな」
うん、二人の話を聞く感じ……バンガゴンガの友達は中々直情的なようだな。
捕まった仲間を探す当てもないのに集落から飛び出して……一ヵ月以上音沙汰無しか。
っていうか、その子は自分が人攫いに狙われた種族だって自覚は無いのだろうか……当てもなく放浪していても厄介だけど、木乃伊取りが木乃伊になっている可能性もあるよな。
そんな風に考えながら、俺はバンガゴンガの表情をちらりと盗み見る。
バンガゴンガとの約束は、ハーピー達の集落に魔力収集装置を設置して、ハーピー達を狂化から救う事だ。
生真面目なバンガゴンガの事だ。集落からいなくなった友人の事を俺に頼むのは筋違いとか……考えていそうだよな。
うん……先に言っておいた方が良さそうだ。
「バンガゴンガ。俺に遠慮する必要はないぞ?」
「……いいのか?」
「俺は友人としてお前の頼みを聞いたんだ。ここで終わりだなんて中途半端な事を言う訳がないだろう?」
「……すまん……いや、ありがとう、フェルズ」
「くくっ……気にするな。だが、ハーピーの捜索か……そう言えば、その友人……リュカーラサは空を飛べるようになったのか?」
普通に考えれば、空を飛べるハーピーの行動範囲は相当広くなるし追跡も難しい。
バンガゴンガの友達が、同朋の行方をどうやって追っているか分からないけど……普通は人里に入り込んで聞き込みとかするよな?
ハーピーが、どの程度民に受け入れられているかは分からないけど……人里に近づけば確実に目立つ。
うちの子達であれば、すぐに見つけることが出来るはずだ。
「リュカーラサは飛ぶことは出来ません。あの娘は母親の血を色濃く受け継いだようなので」
「母親の血……?奥方も飛ぶことが出来ないのか?」
俺が首をかしげると、カリオーテは言い忘れていたことに気付いたといった表情を見せる。
「私の妻はエルフです」
「そうだったのですか?」
俺ではなく、バンガゴンガが意外そうに聞き返す。
え?
カリオーテの奥さんはエルフ……?
エルフって……まだ俺はあった事無いけど……あのエルフよね?
「私の知るリュカーラサは、ハーピーの姿でしたが……」
「あぁ、幼い頃は私の血が外見にも色濃く出ていたので、ハーピーだと思っていたのだけど、どうやら娘はハーフだったみたいでね」
「なるほど……だから空を飛ぶことが出来なかったのですね」
俺が驚いている間に、カリオーテとバンガゴンガは平然と話を進めていく。
ちょい待って!?
色々理解が追い付かないんじゃよ?
「バンガゴンガ、いくつか聞きたいのだが……ハーピーとエルフは、子供を作ることが出来るのか?」
「ん?あぁ、勿論だ。同じ妖精族だからな」
驚愕の新事実なんじゃが!?
え?妖精族同士って子供出来るの!?
「ドワーフやゴブリン、スプリガンもか?」
「あぁ、当然だ」
そうだったのか……見た目が全然違うから、そういうのは無理かと思っていたんだが……。
もしかして妖精族にとって、ハーピーとエルフは国内の人と外国の人くらいの違いしかないって感じなのか?
「そんなに驚くことか?人族も地人種と天人種で普通に子供を作っているだろ?」
俺の驚愕が伝わったらしく、バンガゴンガが若干首を傾げながらそういう。
地人と天人……そう言えば、だいぶ前にオスカーが人族はそんな風に分けられるって言ってたような気がする。
「それもそうだな……ところで、ハーフというのは何だ?」
「本来、両親が違う種の場合、子供は親のどちらかと同じ種として生まれて来るんだが……稀に、両方の特性を引き継いだ子供が生まれてくることがあるんだ。それも成長していくに従って、どちらかの種の特徴が色濃くなっていくんだが……そういう子供の事をハーフと呼ぶんだ。リュカーラサの場合はエルフの特徴が色濃くなったという訳だな」
「あぁ。子供の頃はハーピーの翼やかぎ爪を持っていたのだが、今では翼はなくなり手となっているし、足もエルフと同じ感じになった」
バンガゴンガの説明に、カリオーテが娘の外見を教えてくれる。
っていうか、身体構造ごと変化するの……?
凄いな妖精族……。
子供の頃は背が高かったのに、大人になるにつれて縮んで行ってドワーフになる……とかもあるのか。成長とは一体……。
しかし、リュカーラサの話を聞いておいて良かったな。探す時にハーピーの特徴で探していたら、うちの子達でも発見出来ない……ことは無さそうだけど、発見が遅れた可能性はある。
「子供の頃は空を飛べないことを随分と気にしていたが……そうか、ハーフだったのか」
「ロンガドンガの村に居た頃の年齢であれば、まだ飛べない子は普通にいるから気にする程でもなかったのだがな。風を掴む感覚は……覚えるまで個人差がある。まぁ、あの娘の場合、外見的な特徴はハーピーだったが、身体の内側はエルフだったのだろうな」
「他のハーピー達と比べたら、食事量も我々に近かったですしね」
「そうだな。骨も頑丈だし我々に比べたら力強い。……だが、あの娘がハーフだと気付いたのは、翼が無くなった時だったな。最初は酷く取り乱していたが……母親の話をしたことで、変化を良く受け入れたようだった」
「……そうでしたか」
二人の口ぶりからして……カリオーテの奥さんであるエルフは、もう亡くなっているのだろうな。
もし母親が生きていれば、そこまで取り乱すことはなかっただろうしね。自分の身体がそんな思いっきり変化すれば、焦ったり狼狽えたりはするかもしれないけど……。
ハーピーの集落自体は関係ない……こともないけど、ここに来て驚くことばかりだな。
これが文化の違いというヤツか……。
「とりあえず、現在のリュカールサの外見的特徴、それと行方不明になった者達の特徴をしっかりと確認しておけ」
俺が纏めるように指示を出すと、バンガゴンガが真剣な表情で頷く。
「了解だ。カリオーテさん、出来れば行方不明になった者達の家族にも話を聞きたいのだが……」
「分かった。ここに来るように言おう」
商取引をしていたとはいえ、ハーピー達はあまり金銭を持っている訳でもないし……十中八九、その襲撃して来た人族の狙いはハーピーそのものだろう。
そして、身代金目当ての誘拐って訳じゃないのは間違いないし……恐らく以前聞いた商協連盟の違法奴隷とかが関わってそうだよね。妖精族の奴隷は扱いが難しそうだけど……いや、俺が知っている狂化の被害は状況は、集落や国単位の物だからな。
今まで奴隷として捕らえた者が狂化していない可能性もあるし、一人か二人程度が狂化したとしても、奴隷となったことを悲観して暴れたとか狂ったと取ってもおかしくはないか。
それにしても……奴隷として商協連盟に連れていかれて売られるか。
……数日前からではあるが、ここはエインヘリアだ。
ハーピーに限らず、エインヘリアから人を攫って奴隷として売り飛ばすとか、許すわけにはいかない。
既にベイルーラ地方がエインヘリアの物となったことは公布しているし……知らなかったで済ませるつもりはない。
きっちり落とし前をつけさせてやろう。
それに……バンガゴンガの友人は何としても見つけ出したい。
外見がエルフということなら、ハーピーよりは人族の街でも目立たないかもしれないし……変な事になっていない可能性も十分考えられる。
リュカールサの問題として寧ろ一番怖いのは、狂化だな。間違ってエインヘリア方面に来ていればその心配はないけど……それは希望的観測に過ぎるな。
だが、街で同胞たちの事を聞き込みとかをしているだろうし、意外と早く見つけられるかもしれない。
まぁ、ベイルーラ地方には魔力収集装置の設置がまだ出来ている訳じゃないから、移動時間を考えると数日で見つけるのは無理だろう……一ヵ月以上前にこの集落を出ているわけだし、聞き込みをしながらだとしても、移動できる範囲はかなり広い。
ベイルーラ地方に居ればいいけど……商協連盟の勢力圏まで行くことが可能な時間でもあるし……ふぅ、この辺りは俺が考えてもあまり意味はないか。
「バンガゴンガ。聞き取りが終わったら、一度エインヘリアに戻るぞ。すぐにお前の友人や、行方不明になっている者達を探す手配をする」
「……本当に良いのか?」
「勿論だ。今の所、商協連盟方面が怪しいが……奴隷売買をしているのはそこだけじゃないだろうし広範囲を調査する必要がでてくるだろう。極力先入観を挟まないようにしなければな。まぁ、お前も知っての通り……うちの諜報関係に従事している者達は優秀だからな。すぐに見つかるはずだ」
「あぁ……ありがとう、フェルズ。本当に……心から感謝する!」
「その感謝は……リュカーラサ達を見つけてからに取っておいた方がいいぞ?まぁ、俺は同じ感謝の言葉でも構わんがな?」
俺が皮肉気にそう言うと、バンガゴンガは歯を剥き出しにするようにして笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます