第280話 ベイルーラ地方……?



 な……何を言っているか分からねーと思うが俺も分かんねぇ……いや、ほんと分んねぇ……。


 バンガゴンガの為にもハーピー達を助けようと思い、ハーピーの住んでいる山を領土としている国に色々と許可を貰う為に部下を派遣したら……その国がうちの領土になったんだぜ?


 え?どゆこと?


 ちょっと意味が分からないんですが……?


 そんな俺の内心の動揺を他所に、若干疲れを見せながらもレブラント苦笑するように肩を揺らす。


「いや、ほんとびっくりしましたわ」


「ふむ……」


 俺は現在進行形でびっくりしてるよ?


 とは思うけど……俺がこの話を聞いてから実は既に二日が過ぎている。


 昨日はベイルーラ王国から王とお偉いさんが数人来て、エインヘリアに臣従を示したのだ。


 いや……昨日の俺はめっちゃ頑張ったと思う……全然予想していなかったタイミングで起こった事態だったということもあり、事前に気合を入れて挑むことが出来なかったのだ。


 ただでさえ他国の王様の訪問でびっくりしたのに、イルミット達が謁見の準備を整えていたことに更にびっくり……いや、これは多分事前に連絡があったのだろうけど……俺には無かったよ?


 しかも来訪して速攻、併合してくださいときたもんだ。


 思わず聞き替え返さなかった俺は、神懸っていたと思う。


 後はまぁ……なんかトントン拍子に併合の話が進んで行って……晴れてベイルーラ王国は滅亡して、エインヘリアのベイルーラ地方となった。晴れて……でいいのかな?


 そして最後にびっくりだったのは……なんか、今回の併合話が俺の仕込みだったと言われたことだ。


 もうなんていうか、びっくりし過ぎて覇王の心臓が弾けちゃうよ?


 一瞬、俺がルミナと遊んでいる間に、もう一人のフェルズが現れて仕事をしてたのかと思ったけど……話を聞いてみると、完全に俺の仕業だった。


「いや、最初ベイルーラに行った時に教えてくれんかったのは、分かるんですわ。最初の時点で陛下の策を知っとったら、何かしら悟られていたかもしれんし……いや、そのくらいの腹芸は出来るつもりですけどね?」


 そう言って不敵に笑うレブラント。


 いや、それは凄いね……俺だったら絶対作戦が顔から滲み出ると思う。


 っていうか、そんな作戦考えているんだったら確実に伝えていましたよ?


「でも、二回目ん時は教えてくれといても良かったんやないですか?一瞬、頭真っ白になってまいましたわ」


 うんうん、その一瞬って、本当に一瞬だったんじゃろ?


 覇王の一瞬よりかなり短かったんじゃろ?


 俺も一瞬……真っ白になったからね?


「しかし、上手く立て直せたのだろう?」


「そらもう、必死で頭回しましたわ。それで、話しとる最中に陛下の策やって気付けたんですわ」


「なるほどな」


 それは、頭回し過ぎてネジがどっか飛んでっちゃったんじゃない?


「イルミット様が、ヘパイ様を一緒にベイルーラ王国に連れて行くように言った時点で気付くべきでしたわ。てっきり支援の為かと……」


 あー、なるほどね……俺はてっきり、ベイルーラ王国に許可貰って、その足でハーピーの集落か、その直近の村だったか街だったかに魔力収集装置を設置するのかと……。


 そっか……支援の可能性もあったのか。


 なるほど……だからレブラントは俺の仕込みだと勘違いしたって訳か。


 昨日詳しく話を聞いたところによると、何かベイルーラ王国は滅茶苦茶苦境に立たされていて、明日をも知れぬ状態だったらしい……そんな時に好きなだけ支援してあげるよって言ってきたら……普通は裏があると思う所だけど、ベイルーラの王はその辺を一切ぶっ飛ばして、併合してくれって言ってきたからなぁ。


 それだけ切羽詰まっていたんだろうけど……思い切り良過ぎというか、責任感どこ行ったというか……もう少し慎重になっても良かったのでは?と思わないでもないけど、イルミットはしっかりベイルーラがどう動くか読んでいたみたいだし、他にも何かあるのかもね?


 そんな状態の相手に、条件は好きに受け入れて良いから任せるって言われたレブラント……そりゃ、俺がそれを狙ってたと考えるのも無理はないかもしれない。


 まぁ、何にしても結果としてうちは領土を広げて、ベイルーラ王国……いやベイルーラ地方の民は俺達によって救われるのだから、誰も損はしていない。


 いや、ベイルーラの元為政者達は、これからイルミットによる仕分けを受けるのだろうから、中には利権をすべて失って途方に暮れる奴も出るだろうけど……それだけ国が窮地に立たされている状態で、自分だけ利権を確保しているような奴は……まぁ、悪い奴ではありそうだけど優秀であることは間違いないか。


 よっぽど悪いことしていない限り、イルミットだったら有効活用しそうだね。


 っと……それはそれとして、今は大仕事を終えたレブラントを労わなくてはな。


「くくっ……だが、上手くいったのだろう?」


「そらまぁ……そうですけど」


「俺はお前であれば上手くやれると思い、全てを任せたのだ。そして結果は……何も問題ないだろう?」


「はぁ……めちゃくちゃ手のひらで踊らされた気分ですわ」


 それは勘違いですよ?


「ふむ……俺はハーピーの件を手早く進めたかっただけなのだがな?どうしてこうなったのやら」


 そう言って俺が肩を竦めると、レブラントがうへぇといった感じの表情を見せる。


「そんなん言います?ほんま、怖いお人やわ……」


 いや、本心ですよ?


「くくっ……大仕事を成し遂げた事に違いはあるまい?落ち着いたら褒賞を出す故、楽しみにしておけ」


 褒賞の内容はイルミットに任せよう……。


「ははっ……それは楽しみですわ」


「それで、魔力収集装置はいつ完成するんだ?」


 あまり策略云々のネタを引っ張るとぼろが出そうなので、次の話題に進むことにする。


「旧ベイルーラ王都は十日程で、ハーピーの集落がある南西部の街は、ヘパイ殿が作業しとるんで後三日です」


「ならば、三日後からハーピー達の件を進めるとするか。人選はどうするか……」


 バンガゴンガは確定として、後はヘパイが現地にいる筈だからヘパイだな。


 あまり大人数で行っても仕方がない。交渉はバンガゴンガの仕事だしね。


 となると……後は俺とリーンフェリアでいいか。


 ……俺が行くって言ったら反対されそうだけど……ハーピーを見てみたいし、ここはゴリ押しで行かせて貰おう。


「レブラントはどうする?」


「あー、私はベイルーラ地方の立て直しを任せられとるんで……」


「あぁ、そうだったな。ならば、ついでという訳ではないが、火災があった辺りは良く調べておいた方が良いだろう。出来る限り早めに手を打った方が良い」


 穀倉地帯での火災は相当なダメージだっただろうけど……早めに土を起こせば焼畑的な効果も得られるんじゃないかな?


 うちの種を使えば土の栄養とかは考えなくてもいいけど、商協連盟に近いからアホみたいに密偵が送り込まれそうだし、何より民の国に対する忠誠が低そうだからあっさり裏切りそうだし、いきなり投入は出来ない。


 暫くは、飛行船を使った物資輸送に留めておいた方が良いだろう。


 上が変わって期待されている今が一番、今までの辛い生活からの変化を感じやすい時期。だからこそ国からの手厚い支援に感謝はするだろうけど……逆に他国からの流言飛語とかも一番効く時期とも言える。


 災害被害のあった場所は、ベイルーラ地方でも一番苛酷な事になっている筈……急いで手を回すべきだろうね。


「火災があった場所……あぁ、そういう事ですか、了解しましたわ」


 俺の指示に、何か思い至ったらしいレブラントがすぐに頷く。


 これからは間違いなく商協連盟との情報戦が激しくなると予想される。


 攻めに守りに大活躍している外交官や見習い達だけど、守る範囲が広がればそれだけ穴は出来やすい……まぁ、皇帝の話ではエインヘリアの防諜に関して、隙が全く見つけられなかったって話だったけど。


 でも、だからと言って今後も同じとは限らない。


 軍人と同じくらい商人は情報を重要視するだろうし、扱いにも長けているだろう。


 エインヘリアが帝国とぶつかり、そこで北進を止め……今度は西進を始めたと、外から見れば見えるこの状況。


 商協連盟は、必ずエインヘリアにちょっかいを出してくる筈だ。


 まぁ、こっちは既に手を出しているし、向こうも色々調べようと躍起になっているだろうけど……それが本格化する切っ掛けとなるには、今回の件は十分過ぎる話だ。


 商人相手かぁ……王とはまた違った強かさというか、口の上手さがありそうだよねぇ。


 相手するの嫌だなぁ……。


 ……ま、まぁ、とりあえずハーピーだな。


 今はそっちに集中しよう!


 いやぁ、楽しみだなぁ、ハーピー!


 今の所、敵方の空中戦力ってリズバーンくらいしかいなかったけど、今後もそういった手合いが出てこないとも限らないし、対空はともかくこちらも空中戦力は保有出来るならばしておきたい。


 まぁ戦力にならずとも、妖精族はしっかり魔力収集装置の傍で暮らしてもらうことが……フィオの願いでもあるしな。


 こちらの提案を拒みはしないだろうけど……問題は、バンガゴンガの友人が無事であるかどうかだな。


 こればかりは運頼みでしかないけど……本当に無事だといいんだが。


 真面目で気の良い友人が、辛い想いをしなくて済むよう願うばかりだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る