第279話 やられた!
View of レブラント=アーグル エインヘリア内務大臣補佐 貿易担当 元アーグル商会会長
わがくにをへいごう……ん?それはつまり……併合ってことか!?
って、あかん!止まるな!
「併合……それがベイルーラ王国の意志ですか」
「……情けない限りではあるが、我々にはもうこの国を立て直すだけの力が無い。今まではぎりぎりのところで国の体裁を保ってきたが、去年起きた野火……十日以上に渡り燃え続け、どんどん広がり続けたあの大火は我が国の基盤を燃やし尽くした。貴国から支援して貰えば、確かに立て直すことは出来るだろうが……それでも数年に渡り民達に苦労を強いるのは避けられぬし、多くの者が命を落とす事となる。我等では、我等の力ではもはや彼等を救うことは能わぬのだ」
それは……事実だとしても言うたらあかんやろ。
この国の民の多くは、偶々生まれたのがこの国だったからここに住んでいるだけやろうけど……それでも、国のトップが力不足だと言い切ってもうたら……。
……いや、そうやないか。
どんな状況に陥ろうと……為政者はより良き未来を、最大限幸福に満ちた未来を目指さなあかん。それが自らのものであれ、民のものであれや。そして、それが出来んくなったら為政者は終わりや。
ベイルーラ王も、力不足をただ嘆いとる訳やない。
ギリギリの部分で踏みとどまって、国も民も極貧ながらなんとかやって来とった……でも、災害によって遂に決壊してしもうた……その流れはもう頑張ればどうにかなるというもんやない。
後は坂道を転がり続けるように、いつか辿り着く国の崩壊という結果に辿り着くだけ。
その未来が見え取っても、必死にもがいとったんやろう……。
恐らく、エインヘリアが来んかったら……この王様はこんな風に諦めたりはせんかったはずや。
ただ、エインヘリア……いや、フェルズ陛下の提示した条件を受けて、彼我の力の差……器の差を思い知ってしまった。それが先程の台詞、想いとなって出て来てもうたんやろう。
その時……その考えに至った俺の背筋にぞっとしたものが走る。
……もしかして、フェルズ陛下は最初からこれを狙っとったんか?
ありえんくらいの手厚い支援……もし相手が暢気に支援を受け入れとったら、いくら無利子無担保で期限なしとは言え、余程厚顔無恥でもない限り実質エインヘリアの言いなりとなるやろう。
それは実質属国みたいなもんや……いや、ルフェロン聖王国の事を見れば属国よりも立場は悪そうやな。エインヘリアの属国支配は……少々特殊やからな。
っていうか、属国の扱いおかしない?手厚すぎやろ。
あの扱いやったら、下手な奴等に治められるより属国になった方が遥かに幸せになれるっていうか……エインヘリアの民と扱いなんも変わらんやろ。実質エインヘリアのルフェロン地方やで……あれは。
しかし、国を立て直す程の莫大な借金となれば話は別や。
エインヘリアの言葉に絶対服従となるのは確実……エインヘリアの意図がどうアレ、ベイルーラ王国からすれば、それは何よりも恐ろしい立場と言えるだろう。
つまり、ベイルーラ王国の取れる手は実質三つ。
滅びを受け入れ、それでも抗い必死に延命を図る。
エインヘリアの支援を受け入れ、エインヘリアの支配を受ける。
そして……国を終わらせエインヘリアに併合してもらう。
もしベイルーラ王や上層部が、エインヘリアに併合された国の民がどういった暮らしをしているかを知っていれば……そして、王や上層部に覚悟があれば併合を選んでもおかしくはない。
しかし、その覚悟が問題だ。
「民の暮らしを考えて併合を望むという話は分かりました。ですが、ベイルーラ王陛下や国の上層部の方々、それにこの場にいない貴族の方々がどうなるかは御存知でしょうか?」
「……以前、非公式にではあるが元フレギスの王、グラハム殿から話を聞いたことがある。エインヘリアでは貴族を認めていない……いや、貴族制そのものがないのであったな?」
「おっしゃる通り、我が国には貴族と呼ばれるものはおりません」
「我が国の貴族は全て廃爵、領地も没収となり、税収は得られなくなる。相違ないな?」
「はい。各地を治めるのは、国より派遣された代官の仕事となります。先程名前が出て来たグラハム殿は、エインヘリア、フレギス地方にある最大の街、旧フレギス王都の代官を任じられております」
「我が国の貴族達は皆代官となるのか?」
「それは各々次第です。エインヘリアは完全な実力主義。当然、街を治める代官にはそれ相応の能力が求められます。能力があれば当然取り立てられますが、能力が無ければただの民として生きていくことになるでしょう。それと、これは個人的なアドバイスですが……エインヘリアの人間に賄賂は絶対に送らないで下さい。間違いなく受け取りませんし、確実に評価を下げることになりますので」
「ふむ……」
エインヘリアは実直というか、曲がったことは許さへんって気質があるからな。
普通であれば口利きや心証を良くしようと賄賂を贈るのは当たり前やけど……そういった、感情を用いた判断を一切排除して処理を行っている。
ある意味冷たさを感じるが、これ以上無く公平とも言えるやり方や。
民に向けて無料で基礎教育を始めとるし、月日が進めばエインヘリアの国力はどんどん増していくはずや。元貴族であるから有利と言えるのは、あと数年……十年もすれば、どんどん優秀な人材が頭角を現して来るやろう。
とはいえ、キリク様やイルミット様……そして何よりフェルズ陛下の後を継ぐようなものがそう簡単には出てきたりせんやろうけど……っていうかフェルズ様の御世継ぎは……どうなっとるんかな?見た感じもう二十は過ぎとるやろうし、そろそろお世継ぎ必要やない?
って今それはどうでもええわ。
「アピールするなら自分の能力で……今まで良く領地を治めて来た方々であれば、何の問題も無いかと思います」
無論……アホな事しとったらそれまでやけどな。
正直、国を破綻させてもうたベイルーラ王や上層部の人らは……厳しいやろう。
無論、元々の国力や不慮の事故の件は考慮されるやろうけど……その辺りは俺にはなんとも言えん。
「……」
「能力が足りないからと言って、処刑されたりといったことはありません。無論酷い不正を働いていたり、非人道的な行いをしていれば罰せられますがね」
「……それは問題ないだろう。不正を行っていた者が全く居ないと言えないのは不徳の致すところだが、そういった者が裁かれるのは当然だからな」
そう言って鷹揚に頷くベイルーラ王は、俺が謁見の間に入って来た時よりも幾分か顔色が良いように感じる。
既に肩の荷が下りたような気になっとらん?
いや、とりなしはするけど……本番はエインヘリアに行ってからやで?
「併合に際しての細かい取り決めは、正式な使者を立てて交渉してからということになります」
私はあくまで、ベイルーラ王国の支援とその見返りにハーピーの件を許可して頂くためにここに参りましたので……そう続けようとしたんやけど、口に出す前に、俺の後ろに控えているヘパイ様の事を思い出す。
……え?
今回ヘパイ様を連れて行くように命じられたのはイルミット様……開発部であるヘパイ様が行うのは、当然何らかの開発や建設。
俺は当初、ベイルーラ王国の支援のためにヘパイ様の腕を使うのだと思っとったけど……そうやない……?
今回の併合の話は、ベイルーラ王と上層部の判断やが……恐らくこれはフェルズ陛下の策や。
イルミット様がこの策をフェルズ陛下からあらかじめ聞いとったかは知らんけど……イルミット様やったら普通に気付いてもおかしない。
その話が出た時点で……いや、支援を受け入れた時点でベイルーラ王国はエインヘリアの要求を断る事は出来ひん。
つまり、魔力収集装置を設置することは既に確定しとったっちゅうことや。
道理で魔力収集装置の設置を最優先に動いとるヘパイ様達がベイルーラ王国に派遣されるわけやな……。
……イルミット様、もうちょい説明しといてください。
あぁ、くそっ……だからフェルズ陛下もイルミット様も、俺に全て任せるって言うたんか。
これ、気付くの遅れとったら色々俺の評価落ちとったんちゃうん?
いや、めっちゃ怖いんやけど……ほんと気ぬけへんなぁ。
「ベイルーラ王陛下。既にお心はお決まりなのでしょうが、併合するにあたって細かい条件はともかく、概要だけでも説明しておいた方が良いかと思います。我が国の事ではありますが、エインヘリアは色々と規格外ですので。グラハム殿から聞いている事と重複することもあるかも知れませんが、良ければ別室で……お話しさせて頂けませんか?」
「ふむ……確かに先程の代官の話や賄賂について等、我が国と根本的な部分で違いが多くありそうだ。併合して頂くにあたって、もう少し話を聞いておくべきだろう」
表面的な部分……代官や軍の扱い、王族の今後と、魔力収集装置の件。
この辺りは事前に説明しとかんとあかん。
併合の件自体は、正式な場でベイルーラ王が口にした以上覆ることはない。だったら俺の仕事はこの併合がスムーズに終わるように、事前に説明をしておくことや。
書類も無ければ事前に準備もしとらん……それに、今はまだ併合前……表向きの情報しか伝えられん。
ベイルーラ王国の防諜には不安があるし、ベイルーラ王国に入っとる外交官見習いと連絡も取らな……そこはロッズ様に頼んで……繋ぎが取れたら魔力収集装置の設置を始めて……あかん、めっちゃ忙しくなってきたで。
誰や?相手の返答を聞くだけの簡単なお仕事なんて言うた奴は!
目玉飛び出るわ!
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