第271話 それぞれの王?
View of フィリア=フィンブル=スラージアン スラージアン帝国皇帝
「エインヘリアとの農業協力……これの何処をどう取ったら『協力』なんて言葉になるのかしらね」
「陛下、あまり卑下される物ではありませんぞ?」
私が飛行船の窓から見える光景を見下ろしながら呟くと、私の向かい側でお茶を飲んでいたディアルド爺がため息をつきながら応える。
「いや……協力って言葉の意味を考えてよ。力を合わせて物事に当たる事でしょ?少なくともエインヘリアは全力で力を使ってるけど、帝国は全く力出してないじゃない」
「ほっほっほ。今更気にすることもありますまい?今回に限らず、何か一つでもエインヘリアに勝り、恩を着せられるようなことがありましたかな?」
「『至天』第二席の台詞じゃないわね……それくらいしか言い返せないのが辛いわ」
「まぁまぁ、クッキーでも食べて落ち着いて下され。それに農業をするうえで人足と土地を出しているのだから何もしていないという事はありますまい?」
ディアルド爺がテーブルの上に置いてあるお皿を私の方へと押しやりながら言う。
「収穫物は全部帝国で消費するのよ?何処からどう聞いても手を貸してもらっているだけじゃない……」
私は不満気に言いながら、お皿に乗っているクッキーを一口齧る。
「……このチョコチップって……何なのかしら?」
「さて?私は菓子の類はとんと知りませんからのう。ラヴェルナ殿であったら分かるのでは?」
「確かにあの子なら分かるかも知れないけど……うん、凄く気になるし、確認しておきたいから帝都に戻ってもいいかしら?」
「ほっほっほ、勿論ダメですじゃ」
「……」
今私達が乗っている飛行船は、エインヘリアのソラキル地方に向かって飛んでいる。
この後また帝国に行くのだから、一々エインヘリアまで行かなくても良くない?っていうか転移の許可くれれば良くない?
わざわざ飛行船でのんびりいかずとも、一瞬で移動する手段があるのだからそっちで良くない?
なんかこう……こちらを慮っているようで、自分達の優位性を見せつけている様な……なんか底意地の悪い物を感じるわ。
今回の式典もそうよ。
元々式典とかは予定されていなかったのに、突然農業における相互協力開始の式典と銘を打って式典の開催を通達された。
おかげで、ラヴェルナ達はスピーチの原稿を用意したりそれ以外の準備で遅くまで……勿論私も原稿を覚える必要があったし、衣装合わせだなんだと準備を急いでする必要があった。しかも通常業務の合間にだ……どんな遠方からでも連絡が一瞬で出来るからと、ふざけているとしか思えないスケジューリングだ。
国家間の式典を開催三日前に通達してくるのおかしくないかしら?ちょっとお茶会をしようってレベルじゃないのよ?
ラヴェルナ達が必死に準備をしてくれたから何とか間に合ったけど……皆、ほぼ寝ないで準備してくれたから、私が城を出た時……はっきり言ってボロボロと言った様相だった。
しかも協力と銘を打っている割に、内容は帝国への施し……厭らしさが滲み出ているとしか言いようがない。
「ほんっと、エインヘリア王って性格悪いわ」
「ほっほっほ。極上の才を持っておる事は間違いありませんな。こうしてぎりぎりのラインを見極めて通達してくるのですから……まぁ、こういう一手をおもむろに打って来るあたり、付き合っていく中で一切油断が出来ないとも言いますがのう」
「……なんか、言葉の内容の割に嬉しそうじゃないかしら?」
妙に上機嫌なディアルド爺に私が言うと、笑みを深めながらディアルド爺が口を開く。
「陛下がそれほどまでに他人の事で感情を露にすることは珍しいですからな」
「それだけイライラさせられる相手って事ね」
「そこまで酷い相手ですかな?確かに一見すると居丈高ではありますが、傲岸不遜と言った感じではありませんし、こちらへの配慮は手厚いものじゃと私は思いますがのう?」
「……でも、あの絶対優位を確信しているニヤニヤした顔がむかつくわ」
「陛下は、そのような事で人の好悪を決める方ではなかったと思いますがのう」
呆れたようにディアルド爺がため息をつく。
「エインヘリア王との仲は、親密である事に越したことはありますまい?」
「そんなことは分かっているけど……」
……どうも子供の頃から知っているラヴェルナやディアルド爺の前では、皇帝としてよりも私個人としての感情の方が強く出てしまう。
我ながら子供っぽい事を言っている自覚はあるけど……。
「ふぅむ……ラヴェルナ殿から聞いてはおりましたが、陛下はやはりエインヘリア王陛下の事になると子供っぽくなりますのう」
「!?」
「やはり、そうなのですかな?」
「な、何がよ?」
ラヴェルナ!
あの娘、ディアルド爺に何を言ったのよ!?
「ラヴェルナ殿が言うには、陛下はエインヘリア王の事を殊更意識しておられると」
「……あれ程強大な国の王ですもの。意識して警戒するのは当然でしょ?」
「ふぅむ?至極もっともな意見ですが……それだけですかの?」
「どういう意味かしら?」
私はディアルドから視線を逸らしつつ、お茶を一口飲む。
「好きなのですかな?」
「!?」
思わず紅茶を吹き出しそうになった私は、全力でそれを堪え……その結果鼻の方にお茶が逆流しそうになり慌てて抑える!
何でどいつもこいつもそう言うのよ!
そんなんじゃないわよ!
View of フェルズ 昼は覇王
うぁー。
やっちまったー。
何がって?
式典ですよ式典。
先日の会議が終わった後、ふと気になって確認してみたら……元々式典の予定はなかったけど急遽ねじ込んだって……。
せめて、あの会議の当日に確認しておけば……そうすれば式典なんて止めることが出来ただろうに……俺がその事に思い至ったのは数日経ってから……既に帝国にも通達済みだったというタイミングだ。
いや……ほんといらんし……式典とか、誰が喜ぶん?
参加者も開催者も……なんも楽しくないやろ?
いや、お金は動くから何処かが儲かるんだろうし、その人達は喜ぶんだろうけど……はぁ……まぁ、今更ぐちぐち言っても仕方がない。
俺の演説は二回……開始と終了の時だな。
まぁ、両方とも帝国とエインヘリアの友好と繁栄を願って~的なヤツでいけばいいやろ。
帝国の皇帝さんはこういうの慣れてそうだし、ぱぱっとやっちゃうんだろうけど……俺には厳し過ぎるよ……。
キリク達も演説内容は俺に任せるって感じだし……いや、キリク達からすれば、式典を望んだのは俺だからってのがあるんだろうけど……いや、望んでないからね?
覇王そう言うの得意じゃないからね?
……うん、結局ぐちぐち言ってしまうな。
でも皆、もう少し覇王に優しくしてくれてもいいんじゃなかろうか?
皇帝さんは……なんか俺を見る目がどんどん険しくなっているというか……寧ろ宣戦布告しに行った時の方が友好的だったのでは?って感じの眼力だし……。
リズバーンは、ほっほっほってな感じで穏やかに笑ってるけど、いまいち何考えているのか分からんし……。
『至天』第一席は、いつの間にかジョウセンに弟子入りしているし……。
キリク達は、俺だったら何があっても大丈夫って思ってる感じだし……。
俺に出来るのは、ルミナに色々芸を教えるくらいじゃよ……?
そんなことを考えながら窓の外に目を向けると、遥か遠くの空に黒い点が見えた。
……来たかぁ。
間違いなくアレは皇帝さん達を乗せた飛行船だろう。
今は胡麻粒のような大きさだけど、左程時間もかからずにここまでやって来るのは間違いない。
俺は今日の段取りを反芻しつつ、窓から視線を外す。
それと同時に部屋にキリクがやって来た。
「フェルズ様。帝国の方々がそろそろ到着いたします。御準備をお願いします」
「分かった。すぐに行こう」
俺は内心を一切表に出さずキリクにそう答えると、憂鬱な想いをその場に捨て、覇王力を全開にしながら式典へと挑んだ。
覇王の戦いはこれからだ!
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