第270話 ベイルーラ王国と商協連盟



「ベイルーラ王国南西部の山脈にあるハーピーの集落ですが、月に一度近くの街にやって来て山脈で採れる鉱物資源の取引をしているそうです。取引量としてはそんなに多い物ではありません」


 レブラントが、まずはさわりといった情報を教えてくれるが……その情報によるとハーピー達はベイルーラ王国にとって、そこまで利益を生む相手という感じではなさそうだな。


 まぁ、鉱石の取引だけであればだけどね。


 ハーピーは空を飛べるってことだし……普通に戦力として考えても相当強いし、伝令とかでも馬を使うよりかなり早い筈。


 戦場で考えるなら俯瞰視点で偵察が出来るし……うん、どう考えても国に引き入れるメリットしかない気がする。戦闘力は分からんけど、種族全体がリズバーンみたいなもんでしょ?


 でも、そんな優良種を抱えている割に、ベイルーラ王国は大して強力な軍を有しているという話は聞いていないな。領土もかなり狭いし……。


「山脈自体はベイルーラ王国の領土ではありますが、山には魔物も多く、管理しているというわけではありません」


「鉱石が採れる山なのだろう?鉱山開発はしないのか?」


「ベイルーラ王国は極貧というのが相応しい国で、鉱山開発をして稼働させるといった……数年先の投資に割く余裕がないというのが正しいところです。恐らくそこに手を出せば回収する前に国が破綻するかと」


 俺が尋ねると真剣な表情でレブラントが答える。


「その辺り、商協連盟が利権を求めて手を貸したりは?」


「流石に鉱山開発ともなると初期投資が凄まじくかかりますし、ベイルーラ王国は商協連盟加盟国ではありませんしね」


「なるほどな。何が採れるかも分からんし、リスクの方が大きいか。ハーピー達が交換する鉱石はあまり貴重なものがない感じか?」


「鉄鉱石だけのようですね。銅や銀が少しでも流れていれば、商協連盟も動いたかもしれませんが……」


 採算がとれるかどうか分からない鉱山開発に国の命運はかけられないし、商人達も手を出し辛いか。鉄が採れるならある程度元は取れそうだけど、埋蔵量も分からんし、魔物が多いなら調査も大変だろうし……割が合わないってのも分かる気がする。


「そうか……説明の邪魔をしたな。続けてくれるか?」


「はっ!以上の事からベイルーラ王国としては、その山脈自体の扱いに困っているといったところです。またハーピー達に関しても自国の民という目では見ていないようです」


「では、ハーピーの集落に魔力収集装置を置くのはともかく、ハーピー達をエインヘリアに連れてくることは問題ないか?」


「民として保護している訳ではないので、文句を言われる筋合いはありませんが……ベイルーラ王国としては良い顔はしないと思われます。たとえ自分のモノではなかったとしても、手元にある物を奪われたら良い気分ではないでしょう。無論ベイルーラ王国がエインヘリアに文句をつけられるとは思いませんが」


「妙な軋轢を生むつもりはない……まずはベイルーラ王国に話を通すとしよう。話を通すことは可能か?出来る限り早くだ」


「はっ!アーグル商会を通じてベイルーラ王国の上層部との繋ぎは作ってあります。御許可を頂ければすぐにでも」


 流石はイルミットの部下だ……レブラントはさも当然というように頷く。


 キリクがほぼだまし討ちみたいな感じで引き込んだだけの事はある。


「よし、すぐに繋ぎを取れ、交渉はレブラントに任せる。分かっていると思うが、こちらの要求はハーピーだけだ」


「恐らく何らかの支援を要求されると思いますが……」


「金や物資であれば、俺が考えるよりもレブラントの方が上手く交渉出来るだろう?武力的な支援であれば、一度だけ費用こちら持ちで助けてやる」


「中々大盤振る舞いですね……」


「俺達が軍を動かした時の費用は知っているだろう?」


 俺が皮肉気に笑って見せるとレブラントは苦笑する。


「それはそうですが……エインヘリアの武力を一度借りることが出来るということは、どんな状況からでも勝利出来るってことですし、破格どころの条件ではないかと」


「くくっ……確かにそうだな。だが、気にする必要はない。ハーピー達の件は出来る限り急ぐ必要がある、その程度の対価で済むなら安い物だ」


「承知いたしました。ベイルーラ王国の件は早急に進めます。それと、これはベイルーラ王国のハーピーと関係あるかまだ分からないのですが……商協連盟内で非合法的に妖精族の奴隷を売買している組織があるようです。先日よりロブに探らせていますが、まだ詳しい所までは分かっておりません」


 レブラントの言葉に、隣に座っていたロブが小さく頭を下げる。


 なるほど、だから今日珍しくロブが会議に参加しているのか。調査で忙しいだろうに……中々ロブもハードスケジュールだな。


 そんなことを考えつつ、俺はレブラントに尋ねる。


「違法奴隷というヤツか?」


「はい。自分や家族が身売りをする借金奴隷、戦争捕虜もここに含まれることが多いですが……違法奴隷は彼らと違って犯罪に巻き込まれて強制的に奴隷とされた者達です。多くは自由を奪われ監禁されているような状態で、正に飼われているといった扱いを受けているようです」


「……そこにハーピーがいる可能性があると?」


「人の嗜好というのは業が深いですので……相手が同じ人族であろうと妖精族であろうと、嗜虐心を満たせれば関係ないのでしょう。まだハーピーが居るという確認は取れていませんが、人族や妖精族の奴隷を扱っているという話は出て来ております。」


 趣味嗜好は他人に迷惑をかけない範囲で満たして欲しいよな……何処の世界でも他人の迷惑を考えない輩は多いけど、多分、脳がゲル状になっているんだろう。


 うちの捕虜とはえらい違いと言える。彼らはめっちゃ幸せそうにご飯食べてたしな……いざ解放されるって時に、ちょっと嫌そうな顔してたって話だ。それは、捕虜としてどうなん?って思うけど、そんな捕虜に育て上げたのは俺だからな……まぁ、これはアレよ。うちの捕虜になったら良い待遇を貰えるという話が広がれば、戦いに負けても無理に最後まで粘ろうとせず、投降するだろうっていう深慮遠謀よ。


 それはさておき、違法奴隷ね……出来ればそっちも何とかしてやりたい所だが……今のご時世、妖精族を取り扱うのは結構危険だと思うんだよね。


 なんせ突然狂化する可能性があるわけで……買われていった先で狂化しても問題だろうし、売れる前に狂化しても問題だろうし……リスクが大きすぎると思う。


 まぁ、そんな事を商売としているような奴等の事なんかどうでもいいけど、違法奴隷というのは面白くないな。他国の話とはいえ……放置しても百害あって一利なし。


 いや、そいつらにとっての商品の調達が誘拐だなんだって感じであるなら、エインヘリアの民にも被害が出ないとは言い切れない。


 よし、潰そう。


「レブラント、ロブ。その違法奴隷の件、全力で調べろ。外交官見習いを使って構わんし、必要なら外交官を使っても構わん。キリク、イルミット、問題ないな?」


「ございません」


「フェルズ様~宜しければその件~私に預けて頂けないでしょうか~?」


 俺の言葉に、キリクは二つ返事で頷いたがイルミットがそんな風に尋ねて来る。


 うーん、イルミットが担当してくれるなら心強い事この上ないけど、レブラントが見つけてくれた件だしな……上司とは言え、それをイルミットに投げるのも良くないと思う……。


 俺がそんな風に考えているのが分かったのか、イルミットが言葉を続ける。


「この件は~商協連盟相手に仕掛ける良い切っ掛けになりそうなので~。一枚岩ではない商協連盟は~多方面から手を打つ必要がありますし~出来れば任せて頂きたいのですが~」


「ふむ……レブラント、お前達の功績を奪ってしまう形になるが、イルミットに預けても良いか?」


「えぇ、勿論構いません。イルミット様でしたら私よりも上手くこの件を使ってくれるでしょうし、エインヘリアの為になります」


 そう言ってくれたレブラントに頷き、俺は結論を下す。


「分かった。では、この件はイルミットの預かりとする。レブラントの方はベイルーラ王国の方を頼む。ロブは引き続き奴隷の件に従事して貰いたいが、構わないか?」


「問題ありません。イルミット様、適当にこき使ってやってください」


「助かるわ~」


 どうやらロブはレブラントに売られたようだ。まぁ、最初に話を振ったのは俺だけど……。


「では三人とも、その方向で頼む」


「「はっ!」」


 イルミットとレブラント、ロブの三人が深く頭を下げる。


 よし、彼等に任せておけば、バンガゴンガに頼まれていた件もすぐに解決できるだろう。


 俺がそんな風に結論付けて満足気にしていると、キリクが纏めを言うように口を開く


「では、商協連盟については引き続きイルミットが、ベイルーラ王国の件はレブラントが受け持つという事で進めさせていただきます。それと、先程の帝国への農業協力の件ですが、今週中には帝国と話をつけ、早ければ来週には動き始めることになると思います。その際にフェルズ様にもご足労頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」


「あぁ、構わん。友好のアピールといったところか?」


「はい。おっしゃる通りです。旧ソラキル王都で帝国の使者を迎え、そこから飛行船で移動となります」


「移動先は農地か?式典等は?」


 式典とかあると面倒なんだけど……その辺はどうなっているのだろうか?


 出来れば、何も面倒な事はせずに現地に行ってしまいたい所だけど……そう考えながらキリクに尋ねたが、段取り的なことはまだ決まっていないのか、少し申し訳なさそうな表情をしながらキリクは言葉を続けた。


「申し訳ありません。式典等についてはまだ決まっておりませんが……飛行船で向かうのは、おっしゃる通り農場予定地となります。幸い秘匿性の高い場所を事前に見つけることが出来ていたので、そこを提案させて頂きました」


「ん?帝国が決めたのではなく、キリクからの提案なのか?」


「はい。フェルズ様から頂いた種であれば土地の良し悪しは関係ないので、秘匿性を重視させて頂きました」


「なるほど……分かった。日程が決まったら教えてくれ。バンガゴンガ、ベイルーラ王国の件が進むまでは帝国の方を頼む」


「畏まりました」


 俺の言葉を最後に、この日の会議は終わった。


 ……終わってから気付いたんだけど、俺が式典の事を言ったせいで予定していなかった式典を開催するとか……ないよね?


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