八章 モノとカネとヒトを操る我覇王

第269話 エインヘリアと帝国のこれから



 先日のキリクとの入浴は大浴場に到着してすぐキリクがのぼせてしまい、鼻血が止まらなくなった為お流れとなった。


 っていうか……アレは大丈夫な量なのだろうか?


 俺、キリクの事を働かせすぎているのかもしれない……そう思いはするのだけど、キリクとイルミットを外すなんてことは正直恐ろし過ぎて出来ない。


 一日くらいは大丈夫だと思うけど……いや、やっぱり怖い。


 いやいや、分かってますよ?一日やそこらでここまで大きくなったエインヘリアが揺らぐことはないって。


 でもその揺るがない国を作り上げ、そして支えているのはあの二人と言っても過言ではない。


 そんな二人に休みを……いや、やらんといかんよね?うんうん、当然だ。


 休みは大事だ……キリクのこの前の惨状だって、過労から来た物ではないと否定出来る材料はない。あの二人が倒れることがあれば、それこそ休みだなんだと言ってはいられない。


 もしそんなことになろうものなら、はっきりいってエインヘリアは滅びにまっしぐらと言った感じだろう。


 ポーションを使って疲労や体力を回復しているのは知っているけど……精神的な疲労は癒せないし、病気には効かない。まぁ、病気に関しては万能薬はあるけど……重鎮達が軒並み薬漬けというのもな。


 当然、会社勤めと俺達……キリクやイルミットの仕事の意味合いが違う事は十分理解しているつもりだけど、それでもやはり休みは必要だ。


 当然定休なんかはあげられないけど……うん、どうにか休みは取ってもらおう。いや、俺達の場合は生活そのものが仕事みたいな感じだし、休みを取るって中々難しいよなぁ。


 そんなことを考えながら、会議室に向かって歩いていたのだが……いつものように、俺の護衛として傍にいるリーンフェリアが目に入る。


「リーンフェリア」


「はっ!」


 俺が呼びかけると、気合十分な返事が帰って来た。


 先日のお出かけ以降……リーンフェリアが今まで以上にやる気に満ちているような気がする。


 いや、気がするじゃないな、間違いなくやる気に満ちている。


 気のせいか全身から光を放っているようにも見える……。


「リーンフェリアは……ちゃんと休んでいるか?」


「はい!毎日よく眠れています!」


 いや、そうじゃない。


 そうじゃないけど……俺の聞き方が悪かったのか?


「そうか……もし疲労が溜まっている様だったら遠慮なく言ってくれ」


「?はい……畏まりました」


 若干首を傾げたリーンフェリアだったが、すぐに俺の言葉に頷く。


 でもなぁ……多分、疲れていても絶対に俺にそんな事言わないよなぁ……どうしよう?


 ……駄目だな、俺が考えても良い案は出そうにない。イルミット達に相談しよう。


 他人任せ……しかも心配している対象に任せるという本末転倒な感じだが……結果的にそれでみんなが休める様な案が出るのであれば、問題は何もない。


 なんとも情けない限りではあるが、俺ならこんなもんだろう。






 リーンフェリアの開いた扉に入ると、そこには既にキリク、イルミット、レブラント、ロブ、そしてバンガゴンガが揃っていた。


 全員が座ったまま目礼をする中、俺は会議室の奥に用意された椅子に向かう。


 いつもの事ながら部屋に最後に入り、更に皆が礼を示す中部屋の奥まで歩いて行くのは……めっちゃ気まずいよね。


 いや、そこそこ慣れてきたつもりではあるんだけどさ。


 そんな思いを抱えつつ椅子に座った俺は、会議の出席者の顔を見渡す。


 キリク、イルミットがいるのは当然として……レブラントもそんなに珍しくはない。しかし、バンガゴンガと、レブラントの片腕であるロブがいるのはかなり珍しい。


「それでは会議を始めさせていただきます。まずは帝国との農業協力について……こちらは帝国より打診があったエインヘリアの農作物輸入に関連しているのですが、一部特産品を帝国領内にて生産することになりました。品目は資料に書いてある四種になります」


 キリクの言葉に、置かれていた資料の一枚目に目を落とす。


 リンゴ、ミカン、ぶどう、バナナ……見事に果物オンリーだな。


「随分とラインナップに偏りがあるようだな。帝国の希望か?」


「はい。帝国には既に何カ所もの広大な農地があり、一か所や二カ所で凶作となろうとも他でそれを支えるだけの生産力があります。ですので、主に欲しているのは嗜好品となり得る果物ということです」


「なるほど。まぁ、向こうが求めているのだから問題ない」


「はっ、それではこの品目で進めさせていただきます。バンガゴンガ殿、貴殿には農業指導者として帝国へと行ってもらいたい。といっても農地となる場所には魔力収集装置を設置するので、二ヵ月程通っていただく感じになりますが、大丈夫ですか?」


「問題ありません」


 キリクの確認にバンガゴンガが二つ返事で頷く。


 流石、俺の中で頼りがいナンバーワンの呼び声高いバンガゴンガ。実に男前である。


「よろしくお願いします。作業に関しては問題ないと思いますが、種の扱いに関してだけ十分注意してください」


 種か……いや、アレは確かに超危険だよね。


 特産品の種……アレはどの種類の農作物であろうと、収穫を終えた翌日、その農作物の生えていた場所にポツンと二つ残されるのだ。


 大根であれば大根を抜いた土の上に、リンゴであればリンゴの木が消えてその場所に……とんでもねぇ代物である。しかも倍々で増えるし。


 因みに、種だけ植えても発芽しないので、俺がかつて心配していた、種を盗まれて他所で栽培されたらという問題はある程度解決している。


 俺は知らなかったのだが、特産品の生産には魔石が必要だったらしい。


 無論魔石ごと盗まれたら魔石が尽きるまでは育てられるだろうし、種は一ヵ月で倍になるしで碌なことにはならない。魔石以外で育てる方法が研究されるかもしれないしね。


 だからエインヘリアでは種の管理は非常に厳重なものとなっており、帝国に生産させる一番の懸念点はそことなる。


「魔石と種の管理に関してはマニュアル通りにお願いします。それと他国になるので、増加した分の種はこちらで回収する手筈となっております。普段の在庫管理業務に帝国の分も増えますが、国営農場程の規模ではありませんので、そちらも通常業務と合わせてお願いします」


「畏まりました」


 種を数える仕事……うん、気が狂いそうだな。


 これに関しては、バンガゴンガが数えている訳ではなく、ゴブリン達が手分けしてやってくれている訳だけど……数もかなり多いし、相当地道な作業だ。


 文句ひとつ言わずにやってくれているゴブリン達は、本当に根気があると思う。特産品の危険性はゴブリン達も理解してくれているので、今の所手を抜いたり間違えがあったりという報告は聞いていないしね。


「魔石と種の扱い……この二つに関しては、もし流出するようなことがあればかなり大きな問題になります。無論、管理は帝国側に任せることになっていますが、その危険性はしっかりと現場にも伝えてあげてください」


 バンガゴンガが真剣な表情で頷くのを確認してから、キリクは俺へと向き直る。


「帝国への農業協力に関しては以上となります」


「ご苦労。バンガゴンガ仕事を増やして悪いがよろしく頼む」


「あぁ、問題ない。俺達としては色々と仕事を振ってもらった方が助かるからな」


 至極真面目な様子でバンガゴンガがそう言いながら頷く。


 ゴブリン達は俺達の庇護下にあるが、それは俺達からの一方的な施しとも言える。


 だからこそバンガゴンガは率先して色々な仕事を受け持ち、ゴブリン達の価値を高めようと努力しているのだろう。


 無論、俺にとってはゴブリン達が普通に暮らしているだけでも放り出す様な事をするつもりはないが……庇護を受けている側の立場で考えれば、自分達に役割がないという状況は、安心も納得も出来ないよね。


 まぁ、それでもバンガゴンガの仕事は多すぎる気がする……いや、俺が振りまくってるんだけど……バンガゴンガは色々と頼りになるからどうしても……ねぇ?


「次の議題ですが、先日フェルズ様より情報を集めるように言われていた、ハーピーの件に関してです。レブラント報告を」


「はい。南西にあるというハーピーの集落ですが、恐らく、フレギス地方の西に位置するベイルーラ王国。その南西部にある小さな山脈に住んでいるハーピー達の事だと思われます」


 レブラントが立ち上がりハーピーの件について報告を始める。


 非常にこき使ってしまっているバンガゴンガの願い事だ。俺的には最優先で対応したい案件だね。


 レブラントの報告を、俺とバンガゴンガは真剣な表情で聞いた。


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