第207話 光か闇か

 


View of ランディ=エフェロット 元ハンター協会ソラキル王都本部所属四級ハンター






「なぁ、ランディ。やっぱり無謀じゃないか?」


「そうかもしれないけど、俺達がやらないとあの村が大変なことになるかもしれないだろ?」


 ラッツの言葉に、俺は頷きながらもやるしかないと答える。


 俺はランディ。


 一ヵ月程前までソラキル王国の王都でハンターをやっていた男だ。


 自分で言うのもなんだが、俺達……俺とラッツの二人は腕利きハンターとしてそれなりに名が売れていた。


 しかし、ソラキル王国が戦争に敗れ、エインヘリアという国が俺達の住む国を支配するようになって俺達ハンターは一気に仕事を失ってしまった。


 ハンターの仕事は街の雑用から血生臭いものまであるが、中級と呼ばれる俺達四級ハンターは、どちらかというと血生臭い仕事をメインにしていたのだが……エインヘリアという国は治安維持に力を入れているらしく、今まで俺達ハンターが対処していたような魔物退治や野盗退治を国が積極的に対処していったのだ。


 勿論、悪い事ではない……寧ろこの国に住む者達にとってはとても嬉しい話だろう。たった一ヵ月かそこらでハンターへの仕事が激減する程の活躍なのだ。


 無限に湧くと思っていた魔物や野盗が排除されたのだから、驚異的な活躍とも言える。実に素晴らしい事だろう。


 とはいえ、その結果……俺達が仕事にあぶれてしまったのも確かだ。


 一か月前にようやくその事に気付いた俺は、相棒の誘いに乗って活動拠点を大帝国へと変えることにした。


 今までの実績は大帝国のハンター協会では意味を成さないが、その経験は無駄にはならない。以前よりも遥かにスムーズに実績を積むことが出来るはずだ。そんな考えもあり、俺とラッツは大帝国を目指し北に向かって旅を続けて来た。


 王都を出て一ヵ月、ようやく国境付近の村までやって来ることが出来たのだが、その村では問題が起こっていた。


「そりゃそうかも知れないけど……準備も下調べも無しで、面子も俺とランディの二人だけ……村人たちの話から、魔物は一匹や二匹じゃないだろ?」


「あぁ、だから……とりあえず下調べをしよう。相手にもよるが、俺達だったら複数相手でもほぼ問題ないだろ?村人が目にしたのはイノシシや熊を一回り大きくした魔物……魔猪と魔熊だろ?油断さえしなければ偵察くらいは問題ない筈だ」


 村で起こっていた問題、それは近くの森に巣を作った魔物達だった。


 そんな村に偶々滞在することになった俺は一宿一飯のお礼に、可能であれば魔物の討伐、難しければ魔物の脅威度を調べる事を引き受けた。


「まぁ、それはそうだが……脅威度を調べるって言っても、こっちの方でもハンター協会は殆ど機能してなかっただろ?何処に報告するんだよ?」


「それは、とりあえず村長に伝えておけばいいだろ?エインヘリアって国は治安維持に積極的って話だし、俺達の調べた情報を伝えたら討伐もスムーズに行くってもんだろ?」


「……だが、村長は既に何日か前に国境沿いにある砦に救援を求める使いを出したって話だろ?噂が本当なら遅かれ早かれ討伐隊が送られてくると思うぞ?」


「そりゃそうだが……それでも討伐隊が派遣されるまでの時間が不安だから、こうやって俺達に相談して来たんだろ?いいじゃないか、魔物を処理出来れば問題無し、俺達が無理なら情報を集めて国の助けを待つ」


 俺がそう言って肩を竦めると、ラッツは顔を顰めながらため息をつく。


「倒すのは止めとこうぜ?軍の連中は縄張りを荒らされることに対して過敏だからな。俺達も村の連中も何をされるか分かったもんじゃない」


「あー、その場合は通りすがりのハンターが、村の連中が知らない内に処理したって事して貰えばいいだろ?どうせ俺達は大帝国に行くんだからな。この国の軍に恨みを買おうが構いやしないってもんだ」


「いや、そりゃそうだが……はぁ……帝国まではまだ国を一つ越えなきゃいけないんだから、あまりトラブルの種を蒔くのは勘弁してくれよな?どうせあれだろ?魔物の脅威度を調べたら、今度は討伐隊が派遣されてくるまで村に残るとか言い出すんだろ?」


「……ダメか?」


 俺が苦笑いをしながら尋ねると、ラッツはこれ見よがしにわざとらしいため息をつく。


「ここで俺がダメって言ったらお前一人で残るって言うだろ?お前が残って俺が先に行く……結果俺達はそれぞれ路頭に迷う結果になるだろうよ。いつも言ってるだろ?俺達は得手不得手がはっきりしてるが、二人だと上手い事不得手を補って得手を伸ばせるって。ここでお前と別れて俺に何のメリットがあるんだよ」


「苦労かけるなぁ」


「ほんとな……」


 俺が冗談めかして言うとラッツは半眼になって言葉を返してくる。


 まぁ、口では否定的なことを言うけど……俺もコイツも貧乏な農村の出だ。こういった村が困っていると、どうしても自分の家族の事を思い出して手を貸してしまうのは……俺に限った事ではないの。


 暫くそんな風に文句を言うラッツを宥めながら森を歩いていると、俺は魔物の痕跡を発見した。


 因みに、森などの自然環境での追跡や調査に関しては、ラッツよりも俺の方が得意としている。逆にラッツは街中での追跡や人間の仕掛けた罠への対処が得意だ。


 戦闘に関しては俺の方がやや上で、頭脳労働に関してはラッツの方が遥かに上……先程話していたように、上手い事お互いを補えるバランスと言えるだろう。


「ラッツ止まれ。多分魔猪の足跡だ……サイズ違いが四つ……最低でも相手は四匹で……その内の一匹はかなりデカい……っていうか化け物みたいなサイズだな。小さめの小屋くらいはありそうだぞ?」


 足跡や折れた枝などから魔物の数と大きさを予想した俺は、その内の一匹のデカさに愕然とする。


 この場所は森の奥という程の場所ではない。


 木々の間から村が見える程の距離という程ではないが、それでも森歩きに慣れている者や魔物であれば、軽々と村までたどり着けるほどの距離だ。


「……俺達二人で戦うのは止めた方がいいな。ただの魔猪なら四匹くらいだったら何とかなるが、その規格外のデカさの奴はどう考えてもやばいだろ」


「そうだな……出来れば足跡だけじゃなく姿も確認したかったが……」


「深入りはしない方が良い。村の連中には悪いが、脅威を確認しただけで我慢して貰おう」


 真剣な表情で言うラッツの言葉に俺は頷く。


「村の北側で見たって言う熊の魔物も確認しておきたいが……こんな化け物がいる森に長居するのも危険だな。村の人達には国の助けが来るまで森の出入りは厳禁だと伝えておくか」


「いや、お前の言ったような大きさの魔物がいるのであれば、村から逃げることも考えた方が良いだろう。正直、俺達が村に残って守ろうとしたって、そんな化け物が襲い掛かってきたら何も出来んぞ」


「村から逃げるか……それが難しい事は分かってるだろ?」


「まぁ……そうだな」


 こういった小さな村は常に生活がギリギリで、食料にも金にも余裕はない。


 もし一時的な物だとしても村から離れてしまっては……例え短い期間で戻ってこられたとしても、畑は動物に荒らされ収穫は絶望的……かと言って村を完全に捨てて逃げたとしても、村人全員を受け入れることが出来る村は近隣には無いだろうし、彼らは街で生きていく術を持たない……。


 ここに残ろうと出ようと……彼らに待っている運命は……。


「うわあああああああああああああああああっ!?」


 ラッツと話していると、突如子供の叫び声が聞こえて来る。声の感じからして、そう遠く離れてはいない!


 叫び声が聞こえてきたと同時に、俺とラッツはすぐに武器を構え周囲を警戒する。


「ランディ!」


「聞こえて来たのは俺が見ている方角……距離は、そんなに離れていない!どうする!?」


 俺はそう問いかけながらも、声が聞こえた方に駆け出す。


「……確か村長の話では森で魔物を見かけたのは村の狩人で、その日から子供は森に絶対に入らないようにって話だったはずだが……」


 当然の如く駆け出した俺の後について走りながら、苦虫を嚙み潰したような顔をしてラッツが言う。


 話を聞かない子供か、危険と知りながらも森に入ってしまった子供か……どちらにしても厄介なことに変わりはない。


 ただの魔猪なら問題ないが、先程痕跡を見つけた化け物がいれば最悪だ……俺は、そんな規格外の魔物がこの先にいないように祈りながら走り、少し開けた場所へと飛び出す。


 だが、俺は分かっていた……祈っている時点で、この目の前の光景を予想していたのだと。


「……まぁ、想像通りだな」


「……そうか?子供がこちら側で腰を抜かしているところは、想像よりも遥かにマシな状況だぞ?」


 森から飛び出してきた俺達に一切動揺する気配を見せず、こちらを睥睨してくる巨大な魔猪。


 そして、俺達のすぐ傍で腰を抜かして座り込んでしまっている子供が一人、その傍には手提げの篭とその中に薬草が入っているのが見える。


 なるほど……この場所は薬草の群生地ってところか?


「そりゃ、よかった……じゃぁ、ラッツ……その子供を村まで連れて行ってくれ」


「あ?」


 俺が魔猪から視線を外さずにラッツに言うと、怒気を交えた返事をラッツが返してくる。


 いや、その反応はもっともだけど、魔物を刺激しないでくれ……。


「この場合、森での活動に慣れてるお前が逃げて、俺が足止めした方がいいだろうが」


「いや、こんな化け物相手にまともに足止めが出来る訳がない。その子なら村までの道は分かる……そして俺なら別方向にアレを引きつけながら逃げたとしても、自力で村に戻れる。でもラッツは俺かその子がいないと村まで戻れないだろ?」


 魔猪が動きを見せないからこそ、俺達はこんな悠長に話していられる……勿論武器を構え魔猪から目を逸らさず、警戒を最大限にしている状態ではあるが……。


「……絶対に逃げ切れよ?」


「あぁ、そっちも帰りに気をつけろ。少なくともあと三匹は魔猪がいるはずだ」


「……助けに戻ってこられないからな?」


「大丈夫だ。適当にアレを撒いたら戻る」


 俺がそう言うと、未だ腰を抜かしたままの子供の襟首をラッツが掴み引きずるようにしながら後ろへと下がって行く。


 その間、魔猪はこちらに襲い掛かってくる素振りを見せなかったが……ラッツ達の気配が遠ざかって行くと鼻を鳴らし、若干身を低くした。


 くそ……俺の事も見逃してくれるかと期待したんだが……そうはいかない様だな。


 こんなデカブツ相手に盾なんか役に立たない……盾ごと押しつぶされて終わりだろう……そう考えた俺は、左手に持っていた小盾を地面に落とす。


 それと同時に、まるで放たれた矢の如き速度で魔猪が俺に向かって突進して来た!


 その素早さこそ予想外だったものの、動き自体は読んでいた為俺はその突進を難なく躱す!


 すれ違いざまに剣で斬りつけてみたが、堅い体毛に覆われた体を傷つける事は出来なかったようだ。


 俺は魔猪が態勢を整える前に急ぎ距離を取る。


 ダメージこそ与えられなかったが、反撃をしたことにより魔猪の方も俺を完全に敵と見なしたようで、そのままラッツ達を追いかける様な事はせず、のそりとした動きながら再び俺の方へと向き直る。


 はぁ……ハンターを止めてからこんな大物と対峙する羽目になろうとはな……こんなのと戦った実績があれば三級に上がる試験は確実に受けられるだろうし……大帝国の協会に登録した後だったら一気にランクアップ出来てたかもしれない。


 ほんと、タイミング悪いな、コイツ。


 そんな思いを乗せて俺が笑みを浮かべると、馬鹿にされたと感じた訳ではないだろうが、再び魔猪が俺に向かって突撃をして来る。


 いくら相手が素早く巨体であっても、適切な距離と一対一という状況であれば攻撃を躱すのはそこまで難しくない。


 問題は、反撃が意味を成さない事と、緊張感からかたった二度の攻防で急激に体力が削れていることだ。


 ある程度時間を稼いだら何とかしてここから離脱しないといけないのだが、敵の素早さが想定以上なこともあり、ただ逃げるだけでは一瞬で追いつかれてしまう。


 この辺りの木々は幹もそこまで太いものではなく……コイツであれば易々と薙ぎ倒せるだろうが、俺からしたら立派な障害物……どう考えても真っ直ぐ逃げるのは無理だ。


 幸い、森の中でも使える非可燃性の煙玉をいくつか持っている。


 動物系の魔物は火を嫌う傾向があるからな……煙玉にはたき火の様な匂いが付いているので、上手く使えば怯ませることが出来るだろう。


 そう考え腰のポーチに手を伸ばした瞬間、俺の後ろで茂みががさりと音を立てた。


 一瞬、ラッツが戻って来たのかと考えてしまったが、魔猪の攻撃を躱し俺の立ち位置は最初と真逆の位置に変わっている……つまり俺の後ろの茂みは森の奥へと続いているわけで……。


 マズいと思うのとほぼ同時に、茂みから大きな影が飛び出し俺へと飛び掛かって来た!


 それは二匹目の魔猪!


 対峙していたものに比べ遥かにその身体は小さいが、それでも牛程の大きさだ。当然その突撃を喰らえばただでは済まない。


 辛うじて体を捻り、二匹目による不意打ちを躱したが、俺は体勢を崩してしまった。


 その瞬間を狙っていたのだろう……巨大な魔猪が俺目掛けて突進を始める!


 その瞬間、時の流れがゆっくりになったような感覚に陥る……。


 矢のような速さで動いていた魔猪の身体がゆっくりと近づいてくる……残念なのは、それを認識することが出来ても、俺の体までゆっくりになっている為、魔猪の攻撃を躱すことが出来ない事だ。


 ……すまん、ラッツ。


 帝国には一人で行ってもらうことになりそうだ……。


 まだ諦めてはいない……そう言い聞かせながらも、頭の片隅ではラッツに詫びの言葉を告げている。


 避けるのが無理ならせめて相手の突進に合わせて剣を突き立ててやろうと、ゆっくりと進む時間の中、体を捻り剣を突き出そうとして……突如横合いから現れた黒と赤の旋風に目を奪われた。


「すまんな、横から割り込んで。だが、流石にマズそうだったのでな」


「……え?」


 その旋風は人だった。


 森で活動するには不向きそうな黒い鎧に赤いマント……手にしている剣は非常にシンプルな造りだが、見ていると引き込まれそうな美しさがある。


 そして何より、この危険な状況にあって街中で列に横入りしてしまったかのような軽い様子で謝る男はこちらを見ながら首を傾げる。


「君は……あの村の者かな?背後からの不意打ちは見事に躱していたが、怪我はないか?」


「あ、あぁ」


「それは良かった。……それにしても、俺も手加減が上手くなったな」


 俺に向かって笑いかけた後、独りごちるように呟きながら巨大な魔猪の方に視線を向ける男。


 って、そうだ!こんな悠長に話している場合では!


 現状を思い出した俺は、慌てて魔猪の方に視線を向け……その身体を真っ二つにし、横倒しになっている巨大な魔猪を発見した。


「……はぁ?」


「……猪だから食えるのか?だがデカい奴は大味だってよく聞くよな。大味ってどんな味なんだ?美味しくないって意味だろうが……」


 この場にあって、とんでもなく場違いなことを言っている男だが……俺は彼に何と言えば……。


 味についてか……それと手加減の部分に突っ込むべきか……そもそも誰なのかを聞くべきか……?そこまで考えた俺は、まず最初にしなければならないことを思い出す。


「……助けてくれて感謝します」


「気にする必要はない。仕事だからな」


「……仕事?」


 いまいち要領を得ない男の台詞に首をかしげていると、茂みから出て来た女性がこちらに近づいて来た。


「フェルズ様、辺りの魔物の処理が終わりました」


「何がいた?」


「猪の魔物が五匹程。フェルズ様が倒された二匹を合わせて計七匹です」


「村の北側に居た熊より数が多いな。これで全部か?」


「周囲五キロまでは安全が確認出来ております」


「ふむ……」


 巨大魔猪に目を奪われていたが、気づいたら俺に不意打ちを仕掛けて来た魔猪も既に絶命している……この女性の言葉を信じるなら、それもこの男……フェルズと言ったか?……この人が倒したと言う事になる。


 いつの間に……?


「あの……あなた方は……?」


「ん?俺達は……エインヘリアの治安維持部隊の者だ。この村から連絡を受けて魔物退治に来た」


 何故か若干考えるそぶりを見せた男がそう答える。


「治安維持部隊……?」


「あぁ。さて、歩けるならば村まで送ろう。そうそう、子供ともう一人の男性も無事だぞ?ここから少し行ったところで猪に襲われているところを助けてな。君の知り合いだろう?ここで君が襲われている事を教えてくれたのも彼等だ」


「……彼らは無事……いえ、危ないところだったのですね。彼らの事も助けて下さってありがとうございます」


 あの巨大魔猪がラッツ達を見逃したのは、既に仲間を回り込ませていたからだったか……魔物の癖に随分と狡猾な相手だったようだ。


「何度も言うが気にする必要はない。彼らも君も村までしっかり護衛するから安心してくれ。村長に報告に行くついでだから気にしなくて大丈夫だ」


「……ありがとうございます。ですが、私は村の者ではなくハンター……いえ、旅の者でして。魔物が居ると聞いて様子だけでもと調べに来たのですが……」


「そうだったのか。すまないな、我等が遅くなったせいで危険な目に合わせてしまったようだ」


 助けてくれた恩人に頭を下げさせるわけにはいかない……慌てて俺は彼の謝罪を止める。


 それに遅くなったと言っているが……村長が砦に使いを出したのが数日前……馬車で数日かかる距離との話だったので、彼らは砦に使いが到着してすぐにこの村に出発したはずだ。


 馬を走らせれば恐らく一日と掛らない距離なのだろうが……それでも早すぎる到着と言える。


 誰に聞いても遅いとは言えないだろう。


「い、いえ、とんでもない。全て自分達の実力不足が招いた結果です」


「相手の力量を確認した上で、子供を逃がすために戦力を分けたのだろう?誰にでもできる事ではない、立派な行いだ。そういう者にこそ治安維持部隊に入って貰いたいな。旅人という事だが……どうだろうか?治安維持部隊に入ってみないか?」


「あ、いえ、その……えっと……」


 突然の惨事と勧誘に、俺は情けなくしどろもどろになってしまった。


「くくくっ……すまない。突然こんなことを言われても困るだけだな。気が向いたら……そうだな、砦の方に顔を出してくれないか?フェルズの紹介だと言えば話が通るようにしておく。無論君の仲間も一緒にだ。考えてみて欲しい」


「……わかりました。お誘いいただきありがとうございます」


 まさか、こんな場所で国に仕えないかと誘われるとは……恐らくこの人は、先程のやり取りから察するにそれなりに地位の高い人なのだろう。


 それでありながら偉ぶる様子も無く、素性のしれない俺の様な物にも気さくに話す……不思議な方だ。


 だが、ハンターという職を失い、協会や国から見放されたような気がしていたが……協会はともかく国は違ったかもしれない。……我ながらちょろいな。


 協会でジーネさんに聞いた話も、旅の間聞こえて来たエインヘリアという国の評価も、胡散臭いくらいに良い噂ばかりだったが……こういう人が上役として存在している国ならば、民の為にという噂も嘘ではないのかもしれないと思える。


「名前を聞かせて貰っても良いか?俺はフェルズだ」


「ランディと申します。その……以前はハンター協会でハンターをやっていました」


「ほう?先程もチラッと言っていたがハンターか。どのような仕事をするのか聞いてもいいだろうか?南の方の国にはそういった生業は無かったのでな」


 そう言って笑うフェルズ……様の顔に、思わず見とれてしまう。


 いやいや、俺にそっちのケはないぞ?ただ、今になって気付いたが、フェルズ様もその横に控える女性もめちゃくちゃ美形だ……。


「……えっと、わかりました。俺、あ、私で良ければ」


「くくくっ……無理をして丁寧に話す必要はない。話しやすい言葉で好きなように語ってくれ。この場の処理は兵に任せる故、俺達は村へと向かうとしよう、道中話を聞かせてくれ、ランディ」


「分かりました……」


 少しだけ……俺は、大帝国に行かなくてもいいのではないかと思い始める。


 治安維持部隊に入るかどうかはともかく……もう少しエインヘリアという国について知りたい……そう思った俺は、村でラッツと合流したら今後についてもう一度相談しようと心に決めた。


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