第199話 今後についての会議・対商協連盟



「まずは、直接隣接しているゾ・ロッシュおよび商協連盟ですが……」


 キリクが黒板の中央に描かれているエインヘリアの左側、ゾ・ロッシュを示しながら言葉を続ける。


「商協連盟については、以前から何度か説明しておりますので簡潔に。商売に関する協定を国家間で結びそれを商人達に任せきりにした所、商人達にあっさり金と力を握られて各国の王家は有名無実化している国の集合体……いえ、巨大商会の集合体ですね。当然優先すべきは己の利益、横のつながりは紙切れ一枚で断ち切る事が出来る程脆い物ですし、内々の仲の悪さも折り紙つきです」


 利益によって簡単に裏切るし、連盟内の足の引っ張り合いも日常茶飯事……それなのに連盟は崩壊せずに大国の一つとして数えられる強大さを保っていると。


 お金を稼ぐって能力がどれだけ強力な物なのか物語っているよね……。


「脆そうで脆くない、外敵ともあっさり手を組み身内を攻撃する癖に連盟はけして潰れない。気付いたら外敵は消えるか、連盟に新たな席が用意され組み込まれるか……実に面白い相手ですね」


 いや、絶対敵に回したくないよ?それ……一欠けらも面白い話無かったよね?


「さて、そんな商協連盟なので連盟全体が一つの方向を向いて動くということ……連盟の歴史上一度も無いですね」


 仲悪すぎだろ……いや、商売上のライバルが顔を突き合わせているから利益相反になりやすいんだろうな。


「彼らに共通しているのはただ一つ、もっとお金を稼ぎたい。これですね。連盟のトップ連中はそれぞれ得意分野が違い、ある程度住み分けが出来ているのですが……そんな彼等が協力すると、非常に手ごわい相手になります。それは外征を繰り返し、領土をこの大陸最大の大きさにまで広げた大帝国の前皇帝が、商協連盟の攻略を諦める程です」


 商協連盟って大帝国に勝ってたのか……だから南方の盾としてソラキル王国があったって事ね。


「まぁ、当時の大帝国は戦争を繰り返し、経済的には今ほど強くありませんでしたからね。国土の広さを生かし切れていなかったという弱点がありました。そこを商協連盟に突かれ、攻め切る事が出来なかったと言った感じですね。」


 お金がなくちゃ戦争は出来ないからなぁ……普通は。


 いや、うちも兵糧や装備は必要だけどね?


 まぁ、将の分だけだし……兵糧って言うよりお弁当って感じだ。


「以上が簡単ではありますが商協連盟の情報となります。さて、ここからはこの先の話になります。私の予想ではありますが、次に動くのは今話していた商協連盟だと思います」


 キリクのは予想って言うか、もう予定だよね?


 なるほど……つまり次の戦争は商協連盟ってことか。


 一枚岩じゃないからこそ、分断工作……?キリクならそういうの得意そうだけど……でも、大帝国もそこが弱点だと分かっていた筈だ。その上で負けたのだから、やっぱり一筋縄ではいかないってことだよねぇ……。


「まぁ、動くと言っても戦争という訳ではありません。少なくとも当面は彼らと武力で事を構える事は無いでしょう」


 なるほど……俺の『つまり』が全く先を読めてない事だけは理解した。


「暫くは商談という形でちょっかいをかけて来るでしょう。なのでアーグル殿、初仕事は商協連盟をやり込めることになります」


「……そら……初っ端から、中々の大仕事ですわ」


「勿論、私やイルミットもお手伝いしますよ。相手の数は多いですしね。あぁ、手加減はしてくださいね?商協連盟は潰しませんから」


「……了解ですわ。手加減……出来るかどうかは分かりませんが、きっちりあの狸共の相手させて貰いますわ」


 エインヘリアに参加後いきなりの大役抜擢なのに、中々余裕のある受け答えをするアーグル。


 いや、ほんと何処かの覇王と違って頼もしいわ。


「よろしくお願いします。商協連盟の探りは以前から我が国に入って来ていましたが、ソラキル王国を潰した以上、本格的に手を出してくる筈です。戦争を繰り返す我等は、連盟の商人達にとって脅威であると同時に、是非とも取引をしたい上客です。それに……ソラキル王国を潰した事で、大帝国も動き出す……取り込むなら今この時、そう考えている事でしょう」


「方針的には、付かず離れず……適度に振り回すって感じですか?それとも首根っこ掴んでガックガクに振り回します?」


「表側の商人に関しては適度に良いお付き合いをしましょう。ですが、裏側の商人に関しては、いくつか潰してもらって構いません」


 なんかキナ臭い事言い出したぞ?


 何?表とか裏って……そんな情報聞いてないんだけど?


「いくつか言いますと……」


「薬関係と非合法の人身売買関係ですね。外交官一人と見習いを何人か付けるので、好きに使ってください。それと、正規の手続きを取っている奴隷商人に関しては、今のところ放置で構いません」


「そら、気合入りますわ。そっちは全力でやっても?」


「えぇ、構いませんよ。それらを扱っている商人達も、我々の事を恨んでいるでしょうしね」


 二人が笑みを浮かべながら不穏な言葉を交わす。


 裏ってそういう系かぁ……そういう商人も大手を振って歩けるのが商協連盟ってことだろうか?


 しかし、なんでうちがそんな奴らの恨み買ってるの?


 いや、国内ではそういうの取り締まってはいるけど、別に商協連盟の縄張りまで出向いてそういうことは止めなさい的なうざったい主張はしてないんだけど……。


 いや、今回裏系ぶっ潰す的な感じになってるから主張しているとも言えるか……。でもそれはこれからの話で、今までの話じゃないしな。


 そんな俺の疑問が伝わったのか、キリクがアーグルだけではなく全員に向かって口を開く。


「薬関係と人身売買関係の商人にとって、ソラキル王国の貴族達は上客だったのですよ。それに、薬に関してはソラキル王国が供給源……というか、色々な薬の扱いに長けた家がありましてね。今一番人気の薬は、その家が作り商人に卸していたものなのですよ」


 つまり、供給源やお得意様をエインヘリアがぷちっと潰したから恨んでるって事ね……逆恨みじゃね?


 まぁ、悪い事を生業としてる奴なんて、基本逆恨みしかしないか……。


「その家は?」


 家って、つまり貴族家ってことだよね?


「当主は先の戦争でエスト方面に攻めてきましたが、既に死んでいます。親族に関しても既に処刑済み。その際、薬のレシピに関しては全て回収しております」


「そうか……医療に転用できそうなものは残せ。使えない物は焼け……と言いたいが、禁書として残しておくか。何が役に立つか分からんからな。それと薬の製法に関しては流出していないか徹底的に洗え、もし流出していた場合は……適切に処理しろ」


「畏まりました。そのように手配いたします」


 俺がキリクに命じると、末席の方に座っているアーグルが少し嬉しそうな表情に変わるのが見えた。


「アーグルは、薬が嫌いなのか?」


「は、はい!あんなもんで商売をやっとる気になっとる奴ごと嫌いです!」


 俺が声をかけると、若干驚いたような表情になりながらアーグルが答える。


「商売した気になっている、か……アーグルは薬の売買は商売ではないと言うのか?」


「えぇ。一時の快楽を引き換えに身も心も壊す……そんなもん売りさばいて何が商人って話ですわ。私にとっての商売とは、売り手も買い手も幸せになるってことです。売り手だけ、買い手だけが利益をむさぼる事は商売ではありません。それは搾取です。それに……」


 そこでハッと気づいたように言葉を切るアーグル。


 なんかマズい事でも言いそうになったのだろうか?


「構わん、続けろ。俺はお前の正直な考えが聞きたい」


「……はっ!その……なんと言いますか、死んだり、心を壊してしまったら……それ以上お金さんを稼いでくれなくなりますし、そしたらこっちがどんな良い商品を売りに出しても、買うてくれませんやろ?」


 そう言ってアーグルは肩を竦める。


「くくっ、なるほど。生かさず殺さず金を稼いで持ってこい……そういうことだな?」


「いやいや、陛下!それは人聞きが悪すぎますわ!私はただ、お客さんは心から満足して幸せ、私はお金さん一杯払ってもらって幸せ……そういう幸せの共有をモットーに、商売をしとるんです!」


「それは素晴らしいモットーだな。是非エインヘリアでも、その志のままに頑張って貰いたいものだ」


「それはもう、エインヘリアでしたら阿漕な事せんでも、私もお客さんも今まで以上に幸せになれると確信しとります。全力で、皆を幸せにしたりますわ」


「期待しているぞ、アーグル」


 俺の言葉に、いたく気合を入れた表情になったアーグルが深々と頭を下げる。


 その姿を見た俺は、キリクの方に顔を向けて口を開く。


「すまんな、キリク、中断させてしまって。会議を続けてくれ」


「はっ!商協連盟に関する情報や対応については以上となりますが、質問はありますか?」


 キリクの言葉に、俺は商協連盟について頭の中でざっと纏める。


 メインで対応するのはアーグルでキリクとイルミットがサポート……表側の商人とは仲良く、裏側……特にやべー薬関係と非合法人身売買をやっている商人相手は徹底的にやると……。


 表向きは友好的に付き合いつつ、裏では火花を散らす……商協連盟とはそんな間柄になりそうだな。


 ……ちょっと商協連盟に関しては、俺は戦力になりそうにないが、新加入のアーグルやキリク、イルミットに任せるとしよう。


 ……気付いたら商協連盟崩壊したりしてないよね?


 そんな恐ろしい予感を覚えつつ何も言わずにいると、誰も質問が無いと受け取ったキリクが口を開く。


「それでは、次に進みます。次はスラージアン帝国……通称大帝国の話です」


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