第198話 会議は粛々と

 


「では、キリク。始めてくれ」


「はっ……それでは、本日の会議を開始いたします。まずは、新たにエインヘリアに加わった方の紹介を。ゾ・ロッシュにてアーグル商会を立ち上げ、その辣腕を揮いほんの数年で国有数の商会に成長させた傑物、レブラント=アーグル殿です。彼は今後、内務大臣であるイルミットの下についてもらい、主に国外との貿易関係を担っていただく予定です」


 俺が声をかけると、いつも通りキリクは会議の開始を宣言してから、今回初めて会議に参加することになったアーグルを紹介する。


 しかし、貿易関係って内務大臣じゃなくって外務大臣の管轄じゃないのかしら……?


 そんなことを思わないでもないけど、まぁウルルの部下よりもイルミットの部下って方がしっくりくるね。


「ただいま御紹介に与りましたレブラント=アーグルと申します。エインヘリアの商材はどれも魅力的過ぎて負けるビジョンを想像するのが非常に難しいのですが……私に大役を任せて下さった陛下と私を買ってくださったキリク様、イルミット様の顔に泥を塗らぬよう、全力で当たらせていただきます」


 そう言って深々と頭を下げるアーグル。


 キリクが色々仕掛けてまで手に入れた人材だからな……この人もめちゃくちゃ優秀なのは間違いない。


「引き抜いてしまった私が言うのもなんですが、アーグル殿とその商会は、あと数年もすれば有数の商会から随一の商会に……十数年後には商協連盟の中でもトップクラスの商会となったことでしょう。いや、残念でしたね」


「いや、ほんとそれキリク様が言います?ここまで育てた商会、あっさり手放させられたんですけど?」


 キリクの軽口にアーグルが乗る。


 やっぱり、アーグルはノリがいいタイプみたいだな……そしてやっぱりキリクはドSだ。


「皆、アーグル殿はとても頼りになる人物です。存分にこき使ってやってください」


「お手柔らかにお願いします」


 っていうか、キリクとアーグルは少し仲良くなっている気がするな。


 まぁ、良い事だね……うちの子にも友人が出来たのかと感慨深いものを感じる。


 寧ろ俺は友人とか作れるのだろうか?なんか立場的に、キリク達よりも難しいような気がする……。


 俺と対等な感じで喋る奴は……ヒューイとグラハム?


 いや、ヒューイはちょっと違うな。アレはなんていうか皮肉屋なおっさんって感じで……まぁ、ストレスなく話せる相手ではあるが。


 グラハムは……俺よりもジョウセンの方が仲良くしてそうだし、これもちょっと違う。


 後は……オスカーの禿は論外だな。


 アレは女の敵で男の敵だ。


 ……うん、バンガゴンガだな。よし、今度遊びに誘ってみるか。


「さて、それでは現状共有を始めます。まずは新たにエインヘリア領土となったソラキル地方、クガルラン地方についてですが、オトノハ、魔力収集装置の設置状況を」


「あいよ。あたい達は、現在ソラキル地方の北側の国境沿いを最優先に、魔力収集装置の設置を進めているよ。来週にはソラキル地方の北国境沿いでの作業は終わって、次はソラキル地方の東西とクガルラン地方の西側での作業に移行。ソラキル地方の北側と違って、こっちは要所要所を埋めていく感じだね。それと、魔力収集装置の設置を教えたドワーフ達は、ソラキル王国内で簡易版の設置を進めてくれているよ」


「ありがとうございます。ソラキル地方の北側への設置が終わった後の各地への設置優先度は、既に資料に纏めてあるのでそちらで進めて下さい」


「あいよ」


 オトノハの報告が終わり、キリクが次への指示を出す。


 ソラキルの北側を最優先か……まぁ、そりゃそうだよな。


 流石に俺でもその意図は分かる……ソラキル地方の北には小国がいくつかあるだけだけど……更にその北は英雄を幾人も有していると言われている大帝国がある。


 その小国だって大帝国の属国……キリクによってソラキル王国から大帝国へ今回の戦争時の情報は届かないようにされていたが、それも戦争開始から決着までの間だけだ。


 その封鎖していたのも援軍の要請や戦況の報告等、国から国への連絡だけで、大帝国の諜報員や一般人の移動の制限をかけていたわけではない。どんなに遅くとも、そろそろ大帝国はソラキル王国が潰れた事を知った筈だろう。


 南側の盾として存在していたソラキル王国が無くなったことで大帝国がどう動くのか……恐らく今日の会議でキリクが所感を述べるはずだ。


「次はイルミット」


「はい~。まだ魔力収集装置の設置は済んでいないので~魔石収入はそこまで増えていませんが~、今回増えたソラキル地方には~約一千二百万~、クガルラン地方には百十万程の人口がいると見ております~」


 一気に一千三百万も人口が!?


 イルミットの報告に俺は衝撃を受ける。


「ルフェロン聖王国の人口も合わせると~人口が二千万を超えましたね~」


 お、おぉ……一ヵ月の収入が二億……ゲーム時代ではありえない数字だけど、現実となった今では何の問題も無く九桁の収入が……。


 これはそろそろ魔石の使い道を本格的に考える時が来たかもしれない……いや、全てを新規キャラやメイドの子達の強化につぎ込むことは出来ないけど……それでも色々と夢が膨らむじゃないか!


「やはりソラキル王国は中堅国の中でも最大と言われているだけはありますね。人口が今までの小国の十倍程……戦に動員してきた兵の数も今までとは桁が違いましたしね」


「そうですね~。でも~ソラキル王国は結構税が重かったみたいで~民はあまり裕福とは言い難い状況でした~。ですので~、代官の選出を急ぎ進め~エインヘリア基準の税率に順次変更を進めて行っております~。ですが~土地が広く~まだ自在に転移が出来る状況ではないので~布告はしているのですが~ソラキル地方全域に適用されるまでには~まだ少し時間がかかりそうです~」


「一気に中枢を落として降伏させた弊害ですね。この状況は想定内ですが、国境を固めないと今後に差支えが出ますからね。中々新体制が適用されない民達には申し訳ないとは思いますが、代官達の選出を急いで、出来る限り早く適用していく必要がありますね」


 キリクの言葉に頷いたイルミットは報告を続ける。


 ハイ潰した!明日から新体制ね!とはいかんよねぇ……そもそも情報の移動速度が圧倒的に遅いし……国土もアホみたいに広いし、ソラキル王国が潰れた事すらまだ知らない民の方が多いんじゃないだろうか?


「それと~農村部では食料が足りず~明日の食事にすら困った民が~野盗化したりしているみたいですね~」


「貧困からくる村ぐるみの野盗ですね。エインヘリア統治下でそんなことが横行しているのは非常に業腹ですが、陛下どうしますか?」


「彼らに罪が無いとは言わないが、自分達が生き残るためだからな……多少情状酌量の余地は与えるが、無罪放免ともいかない。罪についてはしっかりと調査して、最低でも一定期間の無償労働を課せ。罪が重い者は国法に則り刑を執行しろ。それと、困窮している村落には急ぎ食料の供給をしてやるように」


「畏まりました」


「すぐに手配いたします~」


 二人が俺の言葉に頷くけど……多分イルミットの事だから既に配給の手配はしているんだろうね。


「クガルラン地方については~ソラキル地方程問題はありませんね~ただ~治水技術が低いみたいで~雨季が来る前に工事に着工しなくては~面倒なことになりそうですね~」


「クガルラン地方については、道の敷設よりも治水工事を優先した方が良いでしょうね」


 そう言ってキリクが伺うように俺の顔を見たので頷いておく。


 治水か……ダム作ったり堤防作ったりすんのかな……?よく分からんけど委細任せた。


 そんな俺の想いが通じたのか、キリクが工事計画については別途イルミット、オトノハと打ち合わせをしてから話を進めるとのことで決着した。


 それにしても、今回の件で国土が倍以上に膨れ上がったから、流石に国内の話だけでも議題が多く時間がかかる。


 内容もややこしい物が多いし……キリクやイルミットがいなかったら一瞬で国が崩壊しそうだよな……ふむ、新しくキャラを作る時には内政系に特化したキャラにした方がいいかもしれないな。


 二人の負担がかなり大きいし……正直戦闘系の子は現状で十分過ぎる程いるしな。


 外交官も必要なんだけど……外交官はまだ見習いって形で人員が補充できている反面、内政に関してはキリクとイルミットの二人にまかせっきり……代官達は自分達の担当している集落だけで手一杯だしね。


 勿論二人の手足となって働く文官はこっちの世界の人達を登用しているんだけど……あくまで実務に関してのみのサポートだからな。


 うん、新規雇用するのは、キリクやイルミットをもっと広い範囲でサポート出来る人物にしよう。


 最低五億って話だから、あと数か月は二人で頑張ってもらう必要はあるけど……今も魔石の在庫は四億近くあるはずだし……この際スキルや魔法は完全に捨てて、内政系のアビリティと能力値に特化……いや、危険の多い世界だし最低限の武力は必要か……。


 ……これは中々悩む感じになりそうだな。


 出来れば最初はジョウセンの妹にしてあげたいんだが……ジョウセンに聞き取りをして内政系として採用できそうか確認してから考えるとするか。


 そんな風に俺が新規雇用について考えていると、いつのまにやら国内に関する報告と方針決定が終わっていた。


 やばい……後半の話ほとんど聞いてなかった……大丈夫だろうか?


「それでは次に、国外の話です」


 そう言ってキリクが立ち上がり、エインヘリアとその周辺国が描かれた黒板の横に移動した。


 うん、余計なこと考えてないで真面目に話を聞こう。


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