覇王になってから異世界に来てしまった！ ～エディットしたゲームキャラ達と異世界を蹂躙する我覇王～

第195話 降伏会談

View of プルト＝ロッセ　クガルラン王国侯爵　クガルラン王国将軍　臨時政権代表

　王家に対し反旗を翻した我等は、瞬く間に王城を制圧……陛下および王家の方々を拘束することに成功した。

　無論、王家の方々には一切の怪我をさせておらず、現在も軟禁という風にさせて貰っている。

　実の所、陛下には後宮で自由にして貰っているのだが……王妃殿下や王子殿下もそちらで不自由なく過ごしてもらっている。

　クーデター直後、陛下は憤死されるのではないかというくらい憤慨されていた。

　それも当然ではあるが……我々には他に方法が無かったのだ。

　国と民と陛下……この状況でその全てを救う事は不可能。故に、我等は民を最優先とし守ることにした。

　クガルラン王国という形は無くなり陛下も王という地位を失うが、民と陛下の事は我等が命を以て必ず守ると約束し、その担保として我等は家族を後宮近くに軟禁した。もし陛下が害されるようなことがあれば我々の家族も道連れとなる……そういう手筈となっている。

　……陛下は気付かれてはおられなかったが、陛下の側にいる近衛騎士達……彼らもクーデターに参加した側の者達だ。陛下がいざ我々の家族を害そうとした時……彼らはその命に従い動く事は無い。

　陛下を騙していることに罪悪感はあるが……民を守る為には致し方なかったのだ。

　無論、陛下の事も何としても守るつもりではあるが……今日これからの話次第では、陛下にも我等と共に死んでもらう事となるだろう。

　今日は、これからエインヘリアとの会談……既に降伏の申し入れは臨時政権から出しており、その受け入れと条件についての会談が本日行われるという訳だ。

「将軍……いえ、代表。そろそろ時間ですよ」

「……宰相。ありがとうございます……正念場ですな」

「えぇ。ですが、あまり肩に力を入れぬように。エインヘリアの統治を見る限り、民達は悪い事にはなりますまい」

「そうですな……制圧されていた街や村も民の被害は一切ないようですし……恐るべき規律ですな。とても侵略軍の行いとは思えません」

　その一面だけを見ても、エインヘリアの力が伺える。本当に我々は恐ろしい国を敵に回したものだ。

「一兵卒に至るまで完璧に統率された軍……実に理想的ですね」

「口で言う程簡単な話ではありません。戦時では理性よりも獣性の方が勝るものです。理性で統率された軍……対峙する上でこれ程厄介な相手はいないでしょうね」

　文官である宰相には恐らくそれがどれだけ困難な事なのか理解出来ないだろう。そう思った私は若干肩を竦めつつ返事をする。

「……代表。その考え、今だけは忘れて下さいね？」

「申し訳ない……責任を取る為とは言え、やはり私に代表は荷が重いですね」

　宰相に注意された私は苦笑する。

　確かに降伏した身として、今の発言は迂闊だったな。

　臨時政権の代表……全く持ってがらではないが、責任を被るには良い役職と言える。この老骨の最後の使い道としては上等なものだと言えるだろう。

「代表。御自分で思われているよりもその首は安くありませんよ？私も全力で悪あがきをするので、最後まであきらめないで下さいね？」

「生贄を求められれば差し出しますが、自ら死に飛び込むつもりはありませんよ。私も命は惜しいですからね」

　宰相に念押しされた私は、今度は苦笑ではなくなるべく含みの無いように宰相に笑って見せてから、会場へと移動した。

　会議室でしばしの時間、宰相と二人一言も交わさずに相手の到着を待つ。

　戦場で開戦の瞬間を待つ時とは違った緊張感があるな……緊張を紛らわそうにも、この場で鬨の声上げるわけにもいかぬしな……。

　隣に座る宰相は落ち着いた様子だが……ふっ、それに比べて私はまるで新兵のようだな。いや、こういった場に出るのは初めてなのだから新兵で間違いはないが。

　そんなことを考えていると会議室に二人の人物が入って来る。

　一人は以前戦場で見た人物……ジョウセンという将。

　そしてもう一人は青い髪をしている文官然とした男だ。

「お待たせして申し訳ない。すぐに話を始めたい所ですが、もう少々お待ちいただけますか？」

　文官然とした男がそう言いながら宰相の正面へと座り、ジョウセンは彼の後ろに控える。

　この会議室は長机が向かい合うように置かれており、私の座っている方が上座だ。

　つまりこの男よりも地位の高い人物が来るという事だろうが……。

「自己紹介は全員揃ってからにしましょう。二度手間になりますしね」

　そう言って、こちらの事を一切見ようとせず、持ってきた書類に目を落とす男。

　あまりにもこちらを軽視した態度だが、ほぼ全面降伏をしている我等が文句を言える筈もない。業腹ではあるが、こんなしょうもない事で揉められる程、我々には余裕がない。

　暫くの間、男が書類をめくる音だけが会議室に響く。

　なんというじれったい時間だろうか……これならば宰相と二人で黙って椅子に座っている方が遥かにマシな時間だった。

　そんな緊張感を孕んだ時間をどれくらい過ごしただろうか……書類から顔を上げた男が立ち上がり、扉に向かって頭を下げた。

　その様子は私達に見せていた慇懃無礼な様子は無く、心の底からの礼が傍から見ている私からも感じ取れ、先程までの態度を帳消しにして好感さえ覚えてしまう程だった。

　一体何が……私がそう思うよりも一瞬早く、徐に扉が開かれ一人の人物が姿を見せる。

　その瞬間、私は理解する……何故向かいに座っていた男が真摯な礼を見せているのかを。誰が部屋の中に入って来たのかという事を。そして、エインヘリアという国を。

　部屋へと入って来た人物は未だ一言も発していないにも拘らず、ただ姿を見せただけでこの部屋の空気を完全に支配している。

　彼が……いや、この方がエインヘリアの王に違いない。

「遅くなったか？」

「いえ、陛下。定刻通りです」

「そうか」

　軽く部屋の中の様子を窺ったエインヘリア王の問いに、顔を上げて答える男は先程まで私達の正面に座っていた者と同一人物とは思えない。なんというか……目が、まるで憧れの人物を前にした少年の様な、そんな純粋な尊敬の色を帯びているように見えるのだ。

　そんな視線を向けられる王は、一人の女性騎士を伴い颯爽とした様子で会議室の奥までやって来るとゆったりと椅子に腰かける。

　その瞬間、私と宰相は同時に立ち上がり机に頭をつけんばかりに礼の形をとる。

「クガルラン王国臨時政権代表、プルト＝ロッセと申します。此度は我等の要請にお応えいただき誠にありがとうございます」

「同じく宰相を務めております、グリー＝ヨルハンです」

「ロッセ代表、ヨルハン宰相。そこまで畏まる必要はない。そちらは降伏を申し出て、我等はそれを既に受け入れた。ここは既にただの会議、こちらからの条件を告げるだけの場だ。私が言っても不安だろうが、そう悪いようにはしない。無論、一切の痛みを伴わないという訳ではないが、命を差し出せというような要求はしないからその点は安心してくれ」

　エインヘリア王の言葉に、私は一気に力が抜け座り込んでしまいそうになる。

「……」

「ん？あぁ、すまない。紹介が送れたな。私はこのエインヘリアの王フェルズだ」

　私の沈黙に勘違いをしたのか、エインヘリアの王が名乗る。

　いや、違うか。ここで王であることを宣言し、同時に先程の言葉に嘘偽りがない事を宣言したという事か。

「ありがとうございます。エインヘリア王陛下」

　私は何とか絞り出した声でエインヘリア王に礼を告げた後、椅子に座る。

「さて、こちらからの条件だが……キリク」

「はっ、まず最初にご挨拶を。私、エインヘリアにて参謀を務めさせて頂いておりますキリクと申します。以後お見知りおきを。さて、早速ではありますが、降伏の条件について私から説明させていただきますが、まずはこちらの書類をご覧ください」

　そう言って後ろに控えていたジョウセンにキリクが書類を渡し、それをジョウセンが私と宰相の下へと持って来る。

　あれだけの将が従者のような働きをしている事に若干の驚きを覚えるが、本人に不満の色は一切見えず、寧ろこの場で働くこと自体を誇らしげにしているようにも見える。

　間違いなく、その根底にはエインヘリア王への忠誠があるのだろう。

　私も一切の二心無く陛下と国に仕えたという自負があったが、それはキリクやジョウセンの様に清廉ささえ感じさせるほどの物ではなかった。

　いや、陛下に反旗を翻した私に忠誠を語る資格は無いだろう……。

　私はキリクやジョウセンの見せる姿に若干の嫉妬と憧れを抱く。

「これが、降伏の条件……？」

　隣から聞こえてきた呟くような声に、私は意識を切り替え書類へと目を落とし……そこに書かれていた簡潔な条件に動揺を覚える。

　クガルラン王国全土の併合……降伏したのだからこれは当然だ。

　軍の解体、および治安維持部隊の再編制。クガルラン王国としての軍事力を殺すという意味では妥当な内容だろう。

　貴族制の廃止。エインヘリアには貴族制がなく、併呑された我等に貴族位があるのは認められるはずも無くこれも当然。

　各集落への魔力収集装置の設置……これは少し意味が分からない。字面から魔力を集める装置という事は分かるが……これを条件の中に入れるということは、エインヘリアにとってこれは優先度が高い案件ということだろう。

　そして、全ての集落に代官の配置。

　以上四点が降伏の条件としてここに書き記されている内容だ。

「戦犯の扱いや賠償金に関する内容が記されていないようですが……？」

　書類から視線を上げ私が尋ねると、邪気の無い笑みを見せながらキリクが口を開く。

「必要ありません。我々からの要求は以上となります」

「「……」」

　隣に座っている宰相が唖然とした表情をしているが……恐らく私も同じような表情をしている事だろう。

　敗戦国……いや、完全降伏し、既に全土がエインヘリアへと組み込まれることが決まった今、賠償金を国から支払う事に意味は無い。

　だが、個人資産の没収という形で、ある程度纏まった金を集めつつ、有力者の力を削るくらいの事は当然やって来ると思っていたのだが……それすらしないと？

「大まかな内容は以上となりますが、疑問もあるでしょうし各項目の説明と細かい条件に付いて説明をさせていただきます」

　キリクの言葉に呆けていた私達は背筋を伸ばす。

　この条件を見る限り、エインヘリアには一切の邪心が無いように見える。

　しかし、国とは善心だけで成り立ちはしない。

　降伏し、エインヘリアの一部となるとは言え、民に負担を強いることは出来ない……小さな毒すら見逃さず、この会談を終わらせなければならない。

　私は……いや、私と宰相は全ての言葉とその裏を聞き漏らさないように、全神経を集中させた。