第190話 覇王 on the ベッド
「ぐあーーーーー」
俺は自室のベッドの上で大の字になりながら、うめき声を上げていた。
いや、本当に疲れた……今日はホント疲れたよ……。
本日のイベントは……処刑前の死刑囚との面談。その後場所をソラキル王城に移して新王の演説があり、その中で正式にソラキル王国はエインヘリアに降伏。
ソラキル王国全土はエインヘリアに併呑された。
そして俺は、元ソラキル王国の臣下達の前で演説をして、これからの統治について語り、その後元ソラキル国民達の前に出て演説……今後の統治やエインヘリアの民の在り方を語った。
今回の演説をするって事はキリクから事前に説明を受けていたのだけど……演説二発は本当にきつかった……。
普通こういう式典の演説とかって、誰か台本とか用意してくれるもんじゃないの?
キリクはここまでの流れを完璧に作ってくれたのに、演説内容は『お任せ』ってどういうことなの?
いや、演説は俺の言葉でしろってことなんだろうけど……本当にしんどい……正直数日は何もしたくない。
そんなことを考えつつ深く息を吐いていると、大の字になっている俺の腋の下で丸くなっていたルミナが顔を上げる。
俺のため息が気になったのだろう。
俺は横に伸ばしていた手をルミナの頭に添えると、親指で頭の後ろを掻くように撫でる。
しばらくそうしながらルミナの顔を眺めていると、その目が段々と細くなっていき撫でている頭も再び体の中に潜り込むように下がって行く。
そのままゆっくりと撫で続けていると、暫くして小さな寝息が聞こえて来たので俺はそっと撫でるのを止める。手が離れる瞬間、ルミナの耳がピクリと動いたが……顔を上げることなくそのまま眠り続けているようだ。
そんなルミナの様子を見て、じんわりとすり減った精神が回復するのを感じる。
やはり精神的な疲労には、ペットセラピーが一番だな。
丸まって眠るルミナから、再び視線を天井へと戻す……いや、天蓋付きのベッドだから部屋の天井は見えないけど……。
それはそうと……あのソラキルの王……いや先代……かな?今代が既に退位しているんだから先々代……?いやでもその次の王がいる訳でも無いし、そもそも国が滅亡してるのだからやっぱ先代国王でいいのか?
まぁ、何にせよ……元ソラキルの王は、これから処刑される人間とは思えない程落ち着いた奴だったな。
あれが生まれながらの王族と言う奴なのだろうか?
エファリアとかもそうだけど、上に立つべく教育を受けているからか、立ち居振る舞いもそうだけど……精神的にも鉄の棒でも突き立ってるの?ってくらいしっかりとしたものがあるんだよな。
正直、なんちゃって覇王の俺が、今までよくあんなの連中と対等……いや、対等以上に接してこられたよな。
いや、違うか。対等以上の関係だからこそ接してこられたのだろうね。
もし対等だったり、こちらの方が下の立場として接していれば……彼らの様に芯のある態度で事に望むことは出来なかっただろう。
それに……あのソラキルの王。エファリアからサイコさんな話を聞いていたし、ウルル達の調べでも、ロクでもない事ばっかりやってる奴みたいだったから、もっとクズみたいなタイプだと思っていたのに、想像をはるかに超えて理性的な人間だった。
でも、だからこそ怖い。
超冷静に、超サイコな事が出来ちゃうタイプって事でしょ?キリクも彼の能力は結構買ってるみたいだったし、怖すぎるやん?
正直全力で部下に誘うのはノー!って感じだったんだけど、女王さんに頼まれちゃったからな……まぁ、さりげなくキリクに大丈夫か聞いてみたら、確実に断って来るので問題ないって太鼓判貰えたから誘えたけど……そうじゃなかったら、登用したとしても誰か一人外交官をべったりつけていたかもしれないな。
そんな風に若干警戒していたからか、自分でもよく分からないけど……これから死ぬって人に、ここで首切らないから安心しろって……覇王ジョークにも程があるだろ!?
口に出してから『あ、やっべ』って内心焦ったわ。不謹慎にも程があるってなっ感じだけど、あの元王は俺のそんな軽口をあっさりと流してみせた。
俺が逆の立場だったら……ぶん殴るか泣くかしてたかもしれん。
いつものパワープレイで戦争自体には勝ったけど、個人的なやり取りで相手をする様な事があったら……多分惨敗していたと思う。
なんせ事前に悪行を色々調べ上げているにも拘らず、いざ話してみるとサイコな感じは全く無く普通……いや、寧ろ立派な王って感じの人物に見えたのだ。
このフェルズの肉体なら、直接的な暴力や目に見える敵自体はそこまで怖くないのだけど、精神的に攻めて来るタイプとかの搦め手系は全力で怖い。
一見すると普通の人、話してみると立派な人……しかしその裏でとんでもない事をやっています……いや、怖すぎるでしょ。人間不信になるわ……。
彼はキリクが褒めるだけあって奸智に長けているらしく、裏で人を操り逃れられない罠に嵌め、絶望させた後で死に追い込む……そんな事を心の底から楽しんでいたそうだ。
いや、絶対味方に引き入れたくないよね!?何されるか分かったもんじゃない!
キリクと外交官達の監視があっても安心できない気がする……。
あぁ、怖い怖い……頭の良い人ほんと怖い……。
キリクとかイルミットとかに危険な趣味とか無いよね?
あの二人が裏で何か画策してたら……もうエインヘリアは終わりよ?
まぁ、あの二人に限ってそれはないと思うけど……俺が見限られる可能性はあるから、油断は出来ないよね……。
背中に気を付けるよりも、普段から気合を入れて呆れられない様にする方が肝心だ。
特にキリクは……相当なドSですからな……とんでもないことになりそうだ。
今回の件だって……始まる前にチェックメイトって言ったのよ?
多分相手まだボードに駒を並べてるくらいの段階よ?
戦とは始まる前に終わっているって誰かが言ってた気もするけど、それってつまりこういうこと?
……キリクが俺に反旗を翻したら……俺がそうだと認識した時点で俺はやられてそうだな……。
……。
……。
……物で釣るって訳ではないが、今回キリクは頑張ってくれたし、何か褒美とかあげた方がいいかもしれないな。
しかし……キリクって何をあげたら喜ぶだろうか?
キリクに限らず、うちの子達って基本的に仕事一筋って感じで、趣味とかそういうのって殆ど無さそうなんだよな。
誰かに相談してみるか……?
エファリア……いや、頼りにはなりそうだけど子供に相談してどうする。
グリエル殿……王ではないけど、摂政として上に立つ者の視点と臣下という下の立場という両面からアドバイスが貰えるかもしれない。
グラハム……悪くはなさそうだけど、どちらかというと武官寄りというか……勲功には武器とか防具を与えれば良いとか言いそう……でも一応候補に入れておこう。
ヒューイ……あいつはセンス無いからダメだな。
うん、今度聖王国に行ってグリエル殿に相談してみよう。
この世界の物品とかなら……あぁ、アーグル殿に頼めば良いな。
アーグル殿と言えば、キリクは開戦から一ヵ月でソラキル落とすって賭けをアーグル殿としてたけど……実際はあの時点でチェックメイトだったんだよな。
やっぱキリク怖いわ……。
キリクから話を聞いたところによると、キリクがソラキル王国に対して動き出したのは王位継承争いが始まってすぐの頃だそうだ。
最初にソラキル王国の騒動の話を聞いたのは……たしか聖王国のごたごたを片付けたばかりの頃……その時は動向のチェックだけをしていたみたいだけど、俺がギギル・ポーに行ってなんやかんやしている間に、キリクはあの女王さんと接触。
女王さんを味方に引き入れ、同時に今日までの流れを計画したのだそうだ。
まぁ、王位継承争いに関してキリクは手を出さなかったらしいけど……だから女王さんか先代の王か、どちらが王位についても良いように計画は練っていたらしい。
キリクと女王さんの密約の内容は、まず大前提としてソラキル王国の併呑。
その上で併呑までにソラキル王国内の不穏分子の一掃、大帝国の介入の妨害、ソラキルの英雄をエインヘリアとの戦場に送り込むこと、併呑前に国内の有力者を纏めておくこと、女王の領地に魔力収集装置を設置すること、併呑後女王は隠居すること。
大まかに言うとこんな感じだったそうだ。
計画は二人の働きで一つのミスもなく順調に進み、エインヘリアはソラキル王国を開戦から僅か半月という短時間で併呑してしまった。
いや、この結果も十分驚きだけど、計画に対して一つのミスもなく実行したってのがまた、化け物過ぎるでしょ……。
キリクが凄いのは十分知っていたつもりだったけど、それ以上だったし……それと一緒になって動いていた女王さんも相当だよね。
先代の王に女王さん……もし、この二人が本気で国の為に動いていたら……ソラキル王国は手が付けられないくらいやばい国になっていたかもしれないね。
キリクなら何かしら隙を見つけてくれそうな気はする。
まぁ、女王たちはいいとして……既にチェックメイト状態から賭けが始まったアーグル殿が非常に可哀想だ……。
キリクは既にアーグル殿に既に連絡していて、近い内に会うらしいけど……またキリクのドSっぷりが発動するんだろうなぁ。
アーグル殿……キリクに嵌められて、自分の作った商会を辞めさせられる的な話になっていたのだけど、大丈夫なのかな?
キリクの事だから恨みを買うような真似はしないと思うけど……あ、恨みと言えば……クガルラン王国の方も現在絶賛侵攻中だったな。
アランドールがソラキル王国のユラン方面軍を倒した後、エスト方面を守っていたカミラと合流してそのまま侵攻開始……この半月ほどで順調に各集落を落として行っているらしい。
こちらは侵攻しながら魔力収集装置を設置していくという従来のやり方なので、併呑まではまだもう少し時間がかかる。
クガルラン王国は、周囲をうちの勢力にかこまれてるからな……南はルフェロン聖王国、北をソラキル地方、北東をギギル・ポー地方、西をエスト地方……唯一東側にある小国はうちとは関係ないけど、キリクの話ではクガルラン王国に手を貸す事は無いとの事なので、完全に孤立無援と言った感じだ。
寧ろ、その状況でよく降伏せずに抗戦してるよね。
うちって占領後の統治は比較的緩やかだし、よっぽどあくどい事をやってない限り元の権力者達も代官や役人として登用されているから、負けが確定している状況でそこまで徹底抗戦しなくてもいいんじゃないかと、攻める側だと考えちゃうよね。
まぁ、責められる側からすればそんなの関係ないってところだろうけど……自分達の国が無くなるって言うのは……そんなに愛国心が無い人間でも嫌なものだろうしね。
命を賭けて国を守る騎士とか将軍とか……そう簡単には諦めないのだろう。特にソラキル王国という後ろ盾がいるうちは尚更だろうね。
今日ソラキル王国の降伏したことが伝われば……クガルラン王国の方も動きがあるかな?
ソラキル王国陥落の情報が伝わるのが先か、カミラ達が王都まで攻め寄せるのが先か分からないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます