六章 英雄を知る我覇王
第163話 西から
我がエインヘリアがギギル・ポーを併合してから一ヵ月程が経過した。
ギギル・ポーを併合したことにより、魔力収集装置を設置する人手が飛躍的に増え魔石収入は先月に比べて一気に激増。この分なら、来月にはエインヘリア内の全ての集落から魔石を回収出来るようになるだろう。
といっても、ドワーフ達が設置してくれている魔力収集装置はその殆どが簡易版なので、まだ自由自在に好きな場所に転移出来るようにはなっていない。
まぁ、オトノハやヘパイがフルバージョンの魔力収集装置の設置を教えても良い人材を厳選していっているので、そちらの設置も順次進んでいくことだろう。
……オトノハの事を考えると、ちょっともにょもにょした気分になるが……一先ず今日の所はそれは置いといて……素晴らしい、もはやエインヘリアは盤石だな!
何となくいたたまれなくなった俺は、立ち上がり無駄にシャドーボクシングをしながら心の中で喝采する。
いや……まだ他国の情報収集という点で完璧とは言い難いけど……。
流石に新規雇用契約書を使うには魔石が足りないし、今いるメイドの子を外交官にするには……うん、どう考えても新規雇用契約書を使うよりも魔石が必要になる。
以前メイドの子三人に『魔力収集装置の設置』を覚えさせた時とは、必要な能力値もアビリティの数もかなり違うからな。
そう簡単には外交官は増やせない。
一応こちらの世界の諜報員を見習いとして採用してはいるけど、流石にその力量は外交官達の足元にも及ばないからな……。
クーガーが言うには見どころのある人材も何人かいるそうだけど、やはり基本スペックの差は如何ともしがたいようだ。
まぁ、それでも外交官達の扱きによって、能力や技術はかなり上昇しているらしく、キリク曰くそこそこの働きくらいは見込めるとのことだった。
彼らには、今後も頑張って貰いたいと思う。
さてさて、情報収集と言えば諜報員だけの専売特許ではない。
情報と速さを重んじるもう一つの存在……商人だ。
商人達はそれぞれ独自の情報収集の手段を持っており、その情報収集能力は決して侮る事は出来ない。
一部の大商会や大手の商人達のギルドなんかは、国の機密情報にすら手が届くと言われている。
まぁ、そんな彼等でも、うちの機密には全く近づくことが出来ないみたいだけど……。
因みに、今エインヘリア内の商人が一番躍起になって情報を集めようとしているのは、魔力収集装置……さらに言えば、その転移機能だ。
魔力収集装置による転移機能は、俺達が許可を出した者が許可を出した拠点間でしか使用できない様に制限が掛かっている。
当然うちの子達はメイドの子達に至るまでフリーパスだけど、属国の王であるエファリアや代官に任じられているヴィクトルやカルモス達、俺が直接雇ったオスカーなんかも、業務に必要な場所にしか転移する許可は与えられていない。
そんな転移機能ではあるが、別に完全に秘密にしているという訳ではなく、俺達は公衆の面前でバンバン使っていたりするので、一般人であっても魔力収集装置の転移機能については知っている者も結構いたりする。
そして当然、商人達がそれに目をつけない訳がない。流通にしろ情報にしろ、全てが一瞬で移動できるのだ。垂涎どころの話ではないだろう。
それはもう、躍起になって魔力収集装置を調べようとしていましたとも。
いや、こっちに来てすぐ、簡易版の魔力収集装置についていた結界機能をフルバージョンの方にも搭載するように言っておいて正解だったね。
今の所破壊まではいかないまでも、何とか仕組みを探ろうと魔力収集装置に突撃をかました奴はかなりいる。まぁ、あんな重要な代物なのに誰も警備していないように見えるしね……突撃しちゃう気持ちは分からんでもない。
……全員捕まって処刑されたけど。
特に組織ぐるみでそれをやろうとした奴等は、末端の構成員に至るまで全員捕まったしね。
いや、流石に全員死刑ではないけどね?
でも見せしめの意味もあったので、かなり重い罰が課せられている。
うちの領土もかなり広くなったこともあり、一か所や二か所でそんなことが起こったわけじゃないのだが……今となっては魔力収集装置に突撃をかます奴は殆どいない。
そんな訳で非常にアンタッチャブルな魔力収集装置だけど、商人達はそんなことでは諦めないらしい。
調べるのが無理なら、今度は許可を貰えるように働きかけようって感じらしい。
いや、勿論真っ当な商人達は最初から許可が貰えるように頑張ってたけどね?
しかし、エインヘリア上層部は、はっきり言って一般の人達からすれば滅茶苦茶謎の存在だ。
式典等で見た事はある、名前も聞いたことがある……しかし、その所在がはっきりとしないのだ。
エインヘリアがルモリア王国を併呑して暫くの間は、旧ルモリア王都に面会の申し入れが殺到していたけど、そこに俺達が居ない事はすぐに知れ渡った。
でも窓口がそこしかないので、結局人は旧ルモリア王都に集まり、ヴィクトルはそれを捌くのにとても大変そうだった……ポーション飲みながら良く働いてくれたと思う。
商人達が躍起になって俺達とコンタクトを取ろうとする中、キリクはこの世界の貨幣を手に入れる為、城のよろず屋と手を組んで何やら独自の販路を作ってしっかりとお金を稼いでくれている。
っていうか、その辺詳しく知らないんだけど……代官たちのお給料やら公共事業に使っているお金をガッツリ稼いでいる辺り、中々凄まじい稼ぎを叩きだしているのだと思う。
ゲーム時代、よろず屋では魔石によって商品を購入する事が出来たから、それ等の商品を販売しているのだろうけど……稼ぎがえぐいよね……。
それはさて置き、キリクがそうやってお金を稼いでくれているのにはもう一つ狙いがある。使える商人の選抜だ。
今の所、国内の商人でキリクの眼鏡にかなったものはおらず、普通の取引の範囲内だけの付き合いだったようだが、以前の会議でキリクが報告してくれたようにようやく良い商人が見つかったとのことだ。
その後キリクから貰った資料によると、その商人はラーグレイ地方の更に西にある国ゾ・ロッシュ。その国の中でも有数の商会の会長、レブラント=アーグルという者らしい。
家名でもあるアーグル商会という商会を率いているらしいのだが、どうやらこの商会を立ち上げたのがこの商人本人らしく、一代で築いた商会にしては最大規模の物との事。
扱う商品も多岐に渡り、販路の方も国有数の商会となった今も精力的に拡大して行っているらしく将来性も非常に良いのだが、キリクが一番評価しているのはその情報収集能力だそうだ。
アーグル商会はその情報収集能力を駆使して、エインヘリアの外に極少量だけ流したポーション、それを生み出したのがエインヘリアの中枢であることを突き止め、遂にはエインヘリア城の場所にまでたどり着いたのだ。
そしてヴィクトルを通さず、直接うちの子……まぁ、ウルルだけど……に渡りをつけ、遂にキリクにアポを取り付けることに成功したのだ。
まぁ、キリク的には城下町までたどり着いて、自分にアポを取ろうとしたところまでで十分評価していた為、ウルルの方から接触させたんだけどね。
城下町に来た商会員も、そこで暮らすゴブリン達を見て驚いた様子を殆ど見せなかったらしく、中々人材も良い者を揃えているらしいことが分かった。
キリクが使えると判断したのだから、その辺り抜かりはないのだろうけどね……俺的には結構悪くない人材に思えたヒューイとか、イルミットはバッサリ使えないと判断してたし……キリクやイルミットが使えると判断した相手なのだから、俺如きが粗を見つけるのは無理だろう。
キリク達が代官に据えた人達は本当に優秀な人達ばっかりだしね……覇王的に、そういった人を見る目はしっかり持たないといけないのだろうけど……地位がある相手って、よっぽどポンコツじゃない限り大体凄そうに見えるんだよね……。
さてさて、そんなわけで本日はアーグル商会の会長さんがエインヘリア史上初……ではないか、アポを取った人もそうだし、良く考えればバンガゴンガ達ゴブリンもそうだ……転移を使わずに自らの足でエインヘリア城にやってくる日だ。
しかし、どうやら謁見ではないらしい。
謁見するしないが、どうやって決まってるのか知らないけど……他国のお偉いさんとかじゃないからってことなのかな?
因みにゾ・ロッシュという国は、西の商協連盟に加入しており、連盟の中では一番東にある国だ。
商協連盟と言うのは随分面倒な形態をしているらしく、大陸西方の国がいくつか加盟している連盟で、発足当初は各国の商業的な繋がりを強化することを目的とした組織だったらしい。
各国の代表には商売に明るい者……御用商人やその国でもトップクラスの商人達が選ばれ、連盟内でどんどん商業を活性化させていった。その結果、商協連盟に参加する国々はどんどん栄えて行くこととなる。
しかしまぁ、急速な発展はひずみを生むとはよく言ったもので、最初は商業的な繋がりを強化する為の組織だった連盟も、金や人が増える事で当然集まる力……権力が増大していくことになる。
当然の帰結だとは思うけどね。
その結果、連盟に加盟する各国では商人達の力が増大し、逆に貴族や王族の力は弱まっていった。
まぁ、貴族や王族……というよりも、国の力って結局暴力である軍隊と欲望である金を握っているからこそ威張れるわけであって、その内の片方……金をより多く握っている者が出て来た時点で威厳は保てないもんね。金があれば暴力は買えるし……国としてはどうしようもなかっただろう。
うちも気を付けないと……いや、武力で負けることはないだろうし、お金は……なりふり構わなかったら、多分いくらでも稼げる……と思う。
いや、個人レベルの収入じゃ太刀打ちできないからこそ、連盟加盟国の各国の王族とかは衰退していったんだろうけど……よろず屋で買える物の中には鉄鉱石とかもあるしな……人件費のかからない鉱山を持ってるようなもんだし……普通に負けないよね……?
まぁ、キリクとイルミットが管理してて、そう簡単にだし抜かれることはないと思うけど……油断は良くない。二人にはしっかり頑張ってもらおう。
まぁ、そんな感じで、商協連盟に参加している各国には王が存在するにも拘らず、実権は国を跨いだ商人達の集まりが握っているらしい。
国よりも力を持つ商人の集まりか……今までとはまた違った感じで厄介だよね。
今日うちにやってくる商人は、連盟の幹部って訳じゃないらしいけど……キリクが気に入るような相手だし……手強そう……というか、間違いなく手強い……というか、俺じゃ相手にならないよね。
でもそんな相手と今日俺は会わにゃならんわけで……ヴィクトルとかエファリアと初めて会った時もめっちゃ気が重かったけど……今日の人もきっついなぁ……。
あ、考えてたらお腹が痛くなって来た気がする。
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