第162話 ご褒美・後編



「分かってはいたが……何処に行ってもとりあえず酒だな」


「あはは、そうだね。もう流石に匂いに浸かり過ぎて酒の匂いは分からなくなったよ」


 俺とオトノハは雑談をしながら目抜き通りを歩く。


 こうして二人で話しながら歩くことにもようやくオトノハも慣れて来たようだ。


 右も左も前も後ろもとにかく酒を飲んでいるドワーフだらけ、ついでに言えば、あっちで殴り合いこっちで殴り合いが発生している。


 そうか……街長達が喧嘩っ早いって訳でもなかったんだな。これがドワーフ達のコミュニケーションなのだろう。


 あっちこちで酒を浴びるように飲みながら殴り合いが発生しているにも拘らず、全然殺伐とした雰囲気じゃないことだけは凄いと思うが……。


「しかし、これは祭りというよりも街ぐるみの宴会と言わないか?」


「確かにそうだね。でもほら、一応酒以外の出店もあるみたいだし……」


「ふむ……アレは、チョコバナナ?」


「それっぽいけど……なんか違う気もするね」


 正直、あちこちから漂う酒の匂いで鼻が馬鹿になっていてあの料理の香りすら分からないけど、見た目はチョコバナナに見える……若干反ってないというかストレート気味……フランクフルトのチョコ掛けかもしれない。


「折角祭りに来たのだし、試してみるのもいいな」


 若干謎料理ではあるけど、見た事のない料理に挑戦するのも外国の楽しみ方の一つだろう。


 俺が屋台に近づきチョコバナナもどきを二本頼むと、店主であるドワーフが串に刺さっているチョコバナナもどきを差し出しながら話しかけて来る。


「やぁやぁ、人族のお客さんは珍しいね」


「そうなのか?」


「あぁ、人族は大体中央の街以外にはこないからね。ここまで来るのは大変だっただろ?」


「まぁ、それなりにな。ところでこれは何て料理なんだ?」


 人の良さそうな笑みを浮かべながら話しかけて来る店主に、俺は曖昧に答えながら尋ねる。


「お?知らないで買ったのかい?これはボロックって料理だよ。名物料理って程じゃないけど、祭りの出店では定番の料理だね」


「へぇ……甘味じゃないのか?」


「甘くはないかな、肉料理だしね。がぶりと一気に齧るのがお勧めだよ」


「分かった。ありがとう」


 やはりチョコバナナではなかったのか……俺は隣にいるオトノハにボロックを一つ渡してから屋台の前を離れる。


「どうしてどんな味か聞かなかったんだい?」


「その方が面白そうだろ?とりあえず甘味じゃないことだけ分かっていれば問題ない。甘いと思って齧ってみて別の味がしたら吹き出しそうだからな」


 オトノハの質問に肩を竦めながら答える。


 まぁ、なんとなく甘味じゃないことは分かってたんだけどね。周りのドワーフが酒のつまみにこれを食べている様だったから……いや、ドワーフが甘い肴を好む可能性もあるけどね。


 そんなことを考えつつ、俺は手にしたボロックという料理にかぶりつき……思いっきりむせた。


「ぼはっ!?か、かっら!」


「たいしょ、フェイ!大丈夫かい!?」


 あふれ出た肉汁の様なものが口内に飛び散った瞬間、とんでもない衝撃が俺を襲った……これ滅茶苦茶辛いぞ!


 吐き出したりはしなかったが、口の中も唇も針で刺されたような痛みが……俺の防御を抜くとは相当な火力だな!このボロックとか言う料理!って、アホなこと考える余裕がないくらい辛い!


「だ、大丈夫。だが、何か飲み物……」


 そう言って俺は辺りを見渡したが……駄目だ、酒しか売ってねぇ!?


「フェイ、酒でもいいかい!?」


「い、いや……酒はちょっと……」


 エインヘリアで飲んでいる様な酒ならともかく、ドワーフ達の酒じゃ別の意味でまた火を吹く羽目に……街長達から、基本的に出店に出ている酒は人族は飲まない方が良いと言われているし……多分スピリタスみたいなアルコール度数なのだろう。


 フェルズの酒耐性は普通に飲める程度なので、正直祭りに蔓延する酒の香りだけで酔いそうなのだけど……ドワーフ達が美味そうに飲んでいる酒を口に含めば、オトノハと街を周るどころではなくなってしまいそうだ。


 俺は必死に口の中の物を飲み込んで唇、口内、喉に断続的に与えられる痛みに耐える。


「フェイ、ポーションを……!」


 そう言ってオトノハがポーションを俺に差し出してくる。


 ……そう言えば辛みってのは、味じゃなくって痛みってどこかで聞いたことが……つまりこれは怪我をしていると言っても過言ではない……?ポーションで治りそうな気がするな!?


「すまん……!」


 オトノハから受け取ったポーションを出来る限りゆっくりと半分ほど飲むと……じんわりとひりひりした感じが引いていく。


「……助かった。ありがとう、タマモ」


「あぁ、驚いたよ。そんなに辛かったのかい?」


「いや、少し油断してただけだ。辛いと分かって食べれば平気じゃないかな?」


 勿論嘘である。


 恐らくこれは腸詰……フランクフルトをこの黒い激辛ソースに浸けたものなのだろう。一口噛んだ瞬間、中から肉汁が飛び出しソースと絡んで問答無用に口内を辛みが侵食する……口に含んでしまった以上逃げ場が無くなるのだ。


 味が濃かったり辛かったりする方が酒は進むが……これはやり過ぎだろ。


 ドワーフはアルコール度数も味付けもやりすぎるようだな……酷い目に遭ったぜ。


 まぁ、それはともかく、何故嘘をついたかと言うと、この辛さをオトノハにも共有して欲しいと思ったからだ。


「そっか。ふふっ……それにしても、フェイがあんな顔をするなんて、驚いたよ。ふ、ふふっ」


 オトノハは、俺の慌てっぷりを思い出して笑いをこらえる様にしながら言うが……是非ともオトノハにも味わっていただきたいと思う。


「中々刺激的な味であったことは確かだが……分かっていて食べれば、結構いけるな」


 そう言いながら、俺は手にしていたボロックを口に入れ、味わうように噛み締める。


 ポーションによって癒されたはずの口内が、一瞬でいがぐりでも頬張ったかのようにズタズタにされる。


 これ、血とか出てない?


 そんな刺激に堪えながら、俺は微笑を浮かべつつボロックを嚥下していく。


 ぽ……ポーション飲みたい……!


「……どうだ?タマモも一口。少々辛いとは思うが、結構うまいぞ?」


 若干声がしゃがれたかもしれないが、頑張ってオトノハを誘う。


「あー、いや、あたいはちょっと辛いのは無理でね。そうだ、フェイが気に入ったのなら、あたいの分も食べてくれないかい?」


「う、うん?」


 オトノハさん!?


「えっと……その、ほら。あ、あーん」


 オトノハさんっ!!?


 恥ずかし気にぷるぷると震えながら、串に刺さったボロックを差し出してくるオトノハ。


 紅潮した頬も、こちらに料理を差し出してくる仕草も、可愛らし過ぎてヤバイとしか表現できないのだが、差し出してきている料理は非常にヤバイ。


 今更『タマモが辛さに悶える様を見たかっただけなんだ、ははっ』なんて台詞は言えない。


 どうする覇王?いや、フェイ!?


 差し出されている料理はデスソースたっぷりの謎肉フランクフルト……噛んだ瞬間口の中にハリセンボンが爆誕するような代物だ。


 しかしそれを差し出してきているのは、可愛いの塊になったオトノハ……駄目だ!これ以上考えるな!


 間を開けるは愚策!


 考えるな感じろ!


 俺はオトノハの差し出しているボロックに思いっきりかぶりつき、ゆっくりと咀嚼……笑顔で嚥下する。


 ……考えなくてもめちゃくちゃ痛みを感じる……こういう事か……。


「あ、あはは。な、なんか恥ずかしいね、これ」


 照れているオトノハは素晴らしく可愛いが、今の覇王はかなりピンチなのでそれを愛でる余裕はない。


「……中々刺激的な味わいだったな。リーンフェリア達に土産として帰り際にでも買って帰るか」


 もう、誰でもいいからこの辛さを共有して貰いたい……。


「あはは、そんなに気に入ったのかい?なんだったら他の出店のも試してみるかい?」


 とんでもない提案をオトノハが始める。


 俺は首を巡らせながらこっそりとポーションを口に含みつつ、オトノハの気を逸らせられる良い屋台はないか探す。


 さっきの店主は定番って言っていたし、恐らく探すまでもなくあのデスフランクフルトは売っている筈……早くいい感じの屋台を探さねば……そんな思いから目を皿の様にしつつデスフランクフルト以外の店を探していると、食事や酒系ではない店を発見した。


「タマモ、あの店を見てみないか?」


「ん?アレは、アクセサリーかい?」


 俺が指差した先には、よく路上で売られている怪しい露天商みたいな店構えのアクセサリーショップがあった。


 あそこなら何を間違っても辛い目には会うまい……。


 俺は素早くオトノハをエスコートしてアクセサリーショップの前へと移動する。


「やぁ、店主。見せて貰ってもいいかな?」


「いらっしゃい!奥さんへの貢物かい?お安くしとくよ?」


「おきゅ!?」


 オトノハから不思議な音が聞こえてきたが、俺は店主に肩を竦めながら返事をする。


「ははっ、プレゼントを値切るような真似はしないさ。今日の記念に何かを贈ってあげたくてね」


「ひゅー、お兄さん太っ腹だね!おねぇさんも、良い旦那さんを貰ったね!」


「だんにゃ!?」


 店主の言葉に腰が砕けそうになりながら悲鳴を上げたオトノハの腕をそっと支える。


 先程の様に気絶するのはマズいしね……。


「まだ新婚で妻はそう言った言葉に敏感なんだ。手加減してやって欲しい」


「ははっ!初々しくて可愛いねぇ!お兄さん、ここでアクセサリーをプレゼントするのは良い判断だよ!十年もしたら奥さんにおざなりに扱われるようになるだろうけど、ここで買ったアクセサリーは決して色あせないからね!」


「そ、そんなことしないよ!」


「おっと、おねぇさんごめんよ!これはただの一般論さ!おねぇさんは楚々とした雰囲気だし、もしかしていいとこの御令嬢か何かかな?おねぇさんだったら、十年後には日に影に旦那さんを支える、素敵な奥さんになっているだろうさ」


「……あぅ」


 オトノハが湯気を出さんばかりに顔を真っ赤に染め上げる。


 俺の隣にいる事には慣れたみたいだけど、こういった言葉はまだまだ受け流せないらしい。


 それにしてもこの店主……ドワーフっぽくないというか、随分口が回るな。


 っていうか、よく見たらドワーフにしては細身だな……身長はドワーフと同じくらいだけど。


「そのくらいにしてやってくれ。本当に倒れてしまいそうだ。ところで、店主はドワーフではないのかな?」


「あぁ、俺はスプリガンさ。あ、でもこのアクセサリーを作ったのはドワーフだから安心していいよ」


 スプリガン……バンガゴンガが前に言っていた妖精族の一種族だな。


 妖精族ではあるけど人族の中でも普通に暮らしている種族だと聞いていたが、ギギル・ポーにもいたのか。


「確かに、見事な細工だな」


「手に取ってくれて構わないよ」


「良いのか?じゃぁ、失礼して」


 そう言って俺は一つの指輪を手に取る。


 リングの部分に細かい装飾が施されているな。嵌められている石を邪魔しない、寧ろ引き立たせるような装飾は……植物を何処か想起させるような複雑な模様を描いている。


「これは宝石か?」


 指輪に嵌められている赤い宝石を見ながら店主に尋ねる。


「いや、それは魔石だよ。火属性の魔石。ただのアクセサリーじゃなくって魔道具でもあるからね。その指輪は寒い時に使ったら体が温まる効果があるよ」


「ほぉ」


 これがこの世界の魔石か。


 オスカーの作る魔術回路は、これを溶かし込んだインクを使うって話だったが……あれ?確かオスカーが魔石は取り扱いを間違えると爆発するとか言ってなかったか?


「……魔石は爆発すると聞いたことがあるんだが」


「爆発……?あぁ、人族の遣う魔道具用のインクの話かい?アレは魔石を砕いて粉末状にして特殊な薬液と一緒にインクと混ぜ合わせるんだけど、粉末にする時に失敗すると溜まっていた魔力が連鎖的に爆発するんだよ。魔石の状態だったら安定しているから大丈夫さ。例え割ったりしても爆発するような事は無いよ」


「なるほどな。すまなかったな、変な事を聞いて」


「いいよいいよ。爆発するかもしれないアクセサリーなんか、大事な奥さんに渡せないだろうしね。これを作ってくれた職人の名誉にかけて危険なんてない事を保証するよ」


「お前自身にかけていない当たり、不安をあおって来るじゃないか」


「あはは!お兄さん細かいね!でもさ、商売人のスプリガンより、職人のドワーフの方が信頼できるでしょ?」


 手をパタパタさせながら笑うスプリガンの店主。


「それは人それぞれだろ?俺は商人も信用が第一だと思っているしな」


「あはは!確かにね!商人の信頼の先にはお金がある。でも職人の信頼の先には矜持があるんだ」


「面白い意見だ。店主、名前を教えてくれないか?」


「俺はキーポっていうんだけど……それよりお兄さん。綺麗な奥さんを放っておいて、俺なんかをナンパしてていいのかい?」


「……それもそうだな。キーポ、良かったら今日の店じまいの後にでも『黒鉄』って宿に来てくれないか?カウンターで名前を言えば通してもらえるように手配しておく」


 『黒鉄』というのは俺達が滞在している宿だ。折角見つけたスプリガンだし、少々繋ぎを作っておくのもいいだろう。


「『黒鉄』?随分高級な宿だね……もしかして本当に御曹司と御令嬢だったりするのかい?」


「それは来てからのお楽しみだ。さて、そろそろ妻を放置する訳には行かないからな。どれにするか……タマモ、欲しい物はないか?」


「え、えっと……あたいにアクセサリーなんて……」


「俺が贈ってやりたいんだ。遠慮しなくていい。それに、アクセサリーはそれを身につける者の良さを引き立たせるものだ。男である俺からすればアクセサリーはただの装飾品に過ぎない。美しいのはアクセサリーではなく、それを身につけたその人だ。タマモには、きっとよく似合うと思うぞ?」


「「……」」


 俺の台詞にオトノハだけでなく、何故かキーポも絶句している。


 そんなに変な事をいっただろうか……?


 俺が内心首をかしげていると、キーポは何やら小声でぶつぶつと呟き、オトノハは消え入るような声で俺に話しかけてくる。


「じゃ、じゃぁ……フェイが……選んでくれたのが、いいな」


「ん?そうか?ならば……」


 俺は並べられているアクサセリーを改めてみる。


 正直そう言ったセンスは俺には無いので、似合うとか似合わないとかよく分からない……ただ、着飾っているオトノハは可愛いと思うのは嘘ではない。


 ……実用的な面から考えよう。


 オトノハは職人といっても過言ではない。ならば指輪は邪魔になるだろう……普段使いするならだけど。


 同時に腕輪も邪魔になったり違和感があるかも知れないからパス……。


 オトノハは普段髪を結い上げているからイヤリングは良いかもしれないけど……今の髪型だと耳はほとんど見えないな。


 邪魔にならないしネックレスとかにしておくか?


 よし、となると次はデザインと石の色だな……これ結構大変だぞ……。


 俺は色々と頭を悩ませながら、オトノハへプレゼントするアクセサリーを選んで行った。






「フェイ……大将、今日は楽しかったよ」


「それは何よりだ。まぁ、俺もかなり楽しませてもらったが」


 俺とオトノハはなんだかんだで祭りを堪能し、今は帰路へと着いていた。


 まだ遠くの方では、本番は日が暮れてからだと言わんばかりにどんちゃん騒ぎの喧騒が聞こえてくるが、俺達が泊る宿のある辺りは高級店というだけあり、周囲は既に静かになっている。


 周りには人影もないのでオトノハも呼び方を普段の物に戻したのだろう。


「大将は、結構悪戯好きだよね。結構からかわれた気がするんだけど……」


 若干オトノハがジト目になりながら非難して来たので、俺は肩を竦めてみせる。


「うん?そうだったか?オトノハの反応が可愛かったからな、少々羽目を外してしまったかもしれないな」


「う、うぅ……」


 顔を赤らめながら俯くオトノハ。


 結局最後までオトノハは恥ずかしがりっぱなしだった。普通に歩いているだけなら問題なかったのだけど、ふとした拍子にすぐ真っ赤になっていたからな。


「落ち着いて周るというには、周りの雰囲気が随分騒がしかったな」


 何処に行っても酒と殴り合いが目に入らない事が無かったからな……今この辺りが静かなのが物凄く違和感があるくらいだ。


「……でも、楽しかったよ」


「そうだな。オトノハの言う通り、楽しかった。エインヘリアでも何か祭りを開催してもいいかもしれないな。イルミットに相談してみるか」


「あはは、それも楽しそうだね……」


 ここまでずっと続いて来た会話がそこでぷっつりと途絶えた。


 遠くから聞こえてくる喧噪がこの付近の静けさをより一層際立たせている。


 俺達の歩く音だけが辺りに響くのだが、不思議と気まずさはない。祭りの余韻みたいなものを感じているといったところだろうか?


 そのまま無言で暫く歩いていると、俺達の泊る宿が遠くに見えて来た。


 オトノハとの外出もこれで終わりだな……若干名残惜しさのような物が去来する。もしかしたらさっき歩いていた時、今日が終わるという寂しさを感じていたせいで無言になっていたのかもしれないな。


 そんなことを考えていると、隣を歩いていたオトノハが立ち止まった。


「……大将」


「どうした?オトノハ……」


 二歩ほど先に進んでしまった俺が振り返りながら尋ねた瞬間、俺の胸に暖かくて柔らかい物が飛び込んで来た。


「……」


 オトノハがしがみついて……いや抱き着いてきた。


 お、おぉ?


 え、え、え?


 だ、だき!?やわらか!?ふぁ?


 わ、吾輩は、ど、どうすれば?


 そ、素数!?


「……た、大将。今日は、本当に楽しかった。ありがとう……出来れば、また……」


「……あぁ」


 どどど、どうする?どうすれば?どうする時?どうしよう?


 柔らかいとか暖かいとかいい匂いとか……情報量が多すぎて処理しきれない!?


 と、ととと、とりあえず……俺もだ、だきしめ……たり、するのか!?


 覇王力を総動員してオトノハの背中に手を回そうとした瞬間、オトノハが俺からパッと離れる。


 その顔……いや指の先まで真っ赤に染まっているように見える。


「あ、あはははは!じゃ、じゃぁ!あたいはもう寝るよ!おやすみなさい!じゃぁ!おやすみ!大将!おやすみ!」


 めちゃくちゃおやすみの挨拶をしながら、オトノハがダッシュで宿へと戻っていく。


 そんなオトノハを、俺は呆然と……いや、硬直したまま見送る。


 俺の胸には、まだオトノハの感触が残っていた。


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