覇王になってから異世界に来てしまった！ ～エディットしたゲームキャラ達と異世界を蹂躙する我覇王～

第155話 覇王はちょっとめんどくさい

　フィオの指摘に俺が首をかしげる。

　何で俺がフィオの願いを叶えてやりたいか……勿論フィオには感謝している訳で、恩を返したいと思う気持ちはある。

　しかし、果たしてそれが理由の全てかと改めて聞かれると……何か少し違う気もする。

　うーん……あれだ、最初はこの世界に生み出してくれたことの感謝と、結果的に自分の命を投げ打ってまで、自分以外の魔王や世界の為に願いを叶える儀式を行ったフィオの在り方に心を打たれた……そんな感じだったと思う。

　俺は、魔王の魔力に対抗する為に行われた儀式の結果生み出された存在ではあるけど、魔王の魔力をどうにかしなければならないみたいな使命感は欠片もない。

　勿論、バンガゴンガ達ゴブリンやドワーフ達が苦しんでいる場面を目の当たりにしている以上、どうにかできる手段があるのだから助けてやりたいとは思うけど、それはあくまで俺の目に見える範囲での話だ。

　今この瞬間、エインヘリアの城下町やギギル・ポーで誰かが狂化によって苦しんでいるのならばそれは助けてやりたくはあるが、それ以外のゴブリンやドワーフ、それにまだ見ぬハーピーやエルフやスプリガンと言った妖精族や魔族等、全く知らない相手の為にわざわざ手段があるからと助けに行ってやるといった気にはならない。

　ドワーフ達だって、魔力収集装置の設置が出来るかもしれないと言った期待が無ければ、わざわざ助けに来たりはしなかっただろう。

　これは別に偽悪的に言っているわけではない。

　俺にとって最優先はエインヘリアであり、俺やうちの子達、その次に友人知人、それからエインヘリア国民だ。それ以外の人々は当然俺にとって優先度が下がる、人間である以上当然の考え方……いや、主義主張は人それぞれか。まぁ、少なくとも俺にとっては、この考え方が正しいと言える。

　そんな訳なので、魔王の魔力に苦しんでいる人達を救いたいとかいう謎の使命感はない。

　……フィオへの感謝でも義務感でもなく、妖精族や魔族への憐憫でもない……ならば……なんで魔王の魔力に対抗したいのか……。

　いや、あちこちに魔力収集装置を設置するのは魔石をより多く手に入れる為だし、魔石をより多く手に入れたいのはエインヘリアを守る為だ。

　その結果、偶々俺達が支配した地域で魔王の魔力が抑えられている……ただそれだけ……か？

　……そうではない。

　俺は間違いなくエインヘリアをより盤石にする為と言った目的以外に、魔王の魔力をどうにかしたいという思いを持っている。

　それも結構真剣にそう考えていると思う……でもその理由が……俺はそんなものはないと思っているが、もしかしたら儀式によって謎の使命感でも植え付けられているのか……？

　俺は目を瞑り、深呼吸をして……自分の中に埋没していくように、自分の考えを整理していく。

　何かに強制されている……？分からない。

　魔王の魔力をどうにかしたいと本当に思っている……？思っている。

　それは俺の為か……？違う。

　エインヘリアの為……？違う。

　妖精族や魔族の為……？違う。

　フィオの為……？そうだ。

　俺はそこで一度目を開く。

　そう、ここまでは間違いない。特におかしくもない……フィオが魔王の魔力を何とかしたいと心の底から思っているから、だから俺が何とかしてやろうと思った。

　俺はちらりとフィオに視線を向ける。

　先程ため息をつきながら俺に問いかけて来たフィオは、俺が答えを出すまで静観するつもりなのか、何も言わずにこちらを見ている。

　何故か微妙に不機嫌そうにこちらを睨んでいる様な気もするが……まぁ、さっきまで言い合っていたのだから仕方ない……何故か瞳の険しさが増した気がするが、まぁ今は置いておこう。

　それよりも思考を進める……俺は再びゆっくりと目を閉じて自問していく。

　何故フィオの為に動く……？

　義務感か……？それはない。

　感謝しているからか……？それもあるが全てではない。

　フィオの想いに心を打たれたから……？確かに心は打たれたし、力になってやりたいと思ったが……少し違和感を覚える。

　何処に違和感を覚えた……？フィオの想いに心を打たれ、フィオの代わりに魔王の魔力を処理する……どこもおかしく無いが、やはり違和感がある。

　少し戻ろう……フィオの想いに、俺はどう思った……？

　あの時……自分が死んだにも拘らず、この願いは自分の為だけではなく……魔王として生まれてしまった者がただ普通に生きて行けるようにと言ったフィオを見て、俺はその気高さを尊いと思うと同時に……むかついた。

　そうだ。

　確かにあの時、俺達がこの世界に生まれた原因を聞かされて……その事自体には感謝しながらも、フィオが命をを落としてまで行った儀式……その原因となった魔王の魔力にむかついたのだ。

　フィオは良い奴だ。

　ちょっと頭のおかしい所や、抜けてる部分はあるし、突然俺の事を攻撃してくることもある上、大事な事を言わないことが多いが……良い奴なのは間違いない。

　目を閉じながら考えている筈なのに、なんか物凄い圧力の様なものを感じるが、今は気にしない。

　なんにせよ、そういう良い奴が、訳の分らん魔王の魔力とやらに振り回され、最終的には命を落としている……だが、当の本人は、魔王の魔力で苦しむ者が居なくなるならそれで良いという始末。

　むかつくだろ？むかついて当然だ……だからそれをどうにかしたいと考えた。

　それにアレだ。

　ドワーフ達が、魔王の魔力によって苦しんでいると知った時のフィオの様子。

　苦しそうに、無理をしながら儚げに笑みを浮かべるフィオを見て、これ以上無いくらいにむかついたのだ。

　そうだ、俺は魔王の魔力とかいう訳分らん物が心底気に食わないから処理したいんだ。

　結論の出た俺は目を開き、目の前で憮然とした表情で俺を見ているフィオに言う。

「全部聞こえていたんだろうが、結論を言わせてもらう。俺は何か調子こいてる魔王の魔力とやらが心底気に入らない……だから魔王の魔力を処理、可能であれば根絶したいんだ」

「……」

　俺が至極真面目にそう言うと、フィオは俺から視線を外し自分の髪を弄りつつため息をついた。

「……あー、なんというか……アレじゃな」

「なんだ？」

　微妙に歯に物が挟まったような物言いをするフィオに俺が首をかしげると、再び憮然としながらフィオがこちらを向く。

「……お主を見ておると、色々悩んでいた自分が馬鹿らしくなったのじゃ」

「なるほど。まぁ、お前頭の良い馬鹿だもんな」

　俺がさもありなんと頷きながら言うと、フィオが眉尻を上げながら口を開く。

「心底馬鹿なお主に言われたくないんじゃが？」

「誰が心底馬鹿だ！この残念魔王が！」

「私の何処が残念魔王じゃ！どこからどう見ても美魔王じゃろうが！」

「見てくれの良さだけは認めてやってもいいが、中身は完全にダメ塩魔王だろうが！」

　今この状況で認めるのは非常に業腹ではあるが、見た目だけは確かに美女と言っても過言でない事だけは確かだ。

　しかし中身は残念極まる！

　何かと言えば底意地の悪さが滲み出ている笑みを浮かべ、口から出る言葉はこちらの神経を逆なでするような物ばかり。

　落ち込んでちょろっと儚げな姿を見せていたが、一皮剥けばこれである。

　……落ち込ませたままの方がしおらしくて良かったかもな。

「とんでもない人でなしじゃな。人の心を何処に忘れて来たんじゃ？」

「あるわ！人並外れた繊細で優しい心が！」

「人並外れている時点で人でなしじゃろ？」

「……」

「……」

　確かに……その通りだな。つまり、良い意味で人でなしという事に……。

「恐ろしいまでのポジティブシンキングじゃな……」

「覇王に必要なのは強靭なメンタルだからな」

「なんちゃって覇王じゃが、その図太さだけは大したものじゃな。無論褒めてはおらぬが」

　こちらを小馬鹿にするような笑みを浮かべながら言うフィオを見て、改めてしおらしいままの方が良かったと思う。

　あの時は妙にイラついたが、儚げでしおらしいフィオはその見た目も相まって割と悪くない感じであったと言えなくもない。

「それにしても何じゃな……お主が私の事をそんな風に思っておったとはのう」

「……何がだ？」

　突如にんまりとした……色々と含みのある笑みを浮かべながら、フィオが何やら言い出す。

「なんやかんやと色々心の中で理由をつけておったが、つまりはそう言う事じゃろ？」

「だから何の話だ？」

　ニヤニヤと言葉を続けるフィオだが……本気で何の話だ？

「いや、あれだけ綺麗どころに囲まれて、頭の中では色々考えておるむっつりスケベの癖に、一向に手を出さんからおかしいとは思っておったのじゃが……なるほどのう、そういうことじゃったのか……」

　何やらうんうんと一人で納得したように言っているが……それよりも聞き捨てならないこと言いやがったぞ？

「誰がむっつりだ！」

「お主以外におらんかろう？レンゲ相手に色々妄想を爆発させておったのもしっかり見ておったからのう」

「ぐっふ！」

　 そそそ、そんなんしてねーし！

「まぁ、しかし……お主の本命が私だったとは……美し過ぎるのも罪じゃな」

「……はぁ？」

　本命って……コイツハナニヲイッテルンダ？