第139話 ここでも大変



「想像していたよりも大きな街だな」


 俺はきょろきょろとしない程度に抑えながら、ドワーフの街を見渡す。


 ギギル・ポーの領内に到着した俺達は、クーガーの案内の元、ギギル・ポーの中心と言われる街へとやって来ていた。


 山の中にある街と言う事で、もっとごみごみした狭苦しい感じの街を想像していたのだが、意外と道は広く、建物も綺麗な感じ……寧ろ人族の街よりも洗練された感じというか……瀟洒しょうしゃな感じがする。


 しかし、ドワーフは予想通りというか……身長は低くて骨太って感じの体格だな。


 身長は高くても百四十センチ弱といったところだろうか?


 男性は比較的髭を生やしている者が多いが、全員が全員髭を生やしているという訳でもなさそうだ。


 因みにドワーフの女性は……ロリっ娘系……ではなく、男性を若干ふくよかにした感じの樽体系の女性だ。


 まぁ、ロリっ娘に見えないこともないが……どちらかというと、ちっちゃいおばちゃんって方がしっくりくる感じだね。


 まぁ、若い子も結構いるけど……そこはかとなく、体格的に腕っぷしが強そうな感じがする。


 総評すると、男性も女性も身長は低いがとても逞しそうだ、といった感じだね。


 しかし、人族である俺達がこうして歩いていてもじろじろと見られるような感じはないな……人族が珍しくないと言う事か、それともドワーフは他人に無関心なのか……。


「建物のサイズは意外と普通だな」


 道行くドワーフ達から建物へと視線を移しながら言うと、隣を歩くクーガーが苦笑しながら頷く。


「そうっスね。でも、扉とかはちょっと小さめっス。バンガゴンガは……入るの、かなりきついかも知れないっスね」


「確かに……建物は大丈夫そうだが、あの扉は……中々厳しいな」


 扉の高さは多分百七十センチもないくらいだ。


 リーンフェリア達はともかく、俺は少し屈まないと扉を潜れない。


 バンガゴンガは中腰でようやく入れると言ったかんじだろうか?たかがドアを通るだけで中々の苦労だ。


 しかも今は大きな荷物を背負っているし……カバンを背負ったままじゃドアを通るのは無理そうだな。


「天井が高いのは幸いだったっスね。まぁ、迎賓館を用意してくれているみたいスから、そっちは多分人族サイズだと思うっスよ」


「そうあって欲しいものだな」


 しみじみとバンガゴンガが言う。


 ドワーフと交渉を始める前から、バンガゴンガが大変な目に遭いまくっている気がするな。


 いや、半分以上は俺達のせいだけど……。


「街を視察しておきたい気もするが、ドワーフ達から何か接触があるかもしれないし、宿は空けられないか」


 っていうか、俺一応王様だし……あまり勝手にフラフラしない方がいいかもしれない……。


「フェルズ様、私が宿で寝て……留守番する」


 レンゲが眠そうな目で告げて来るけど……寝てたら駄目じゃね?


 って言うか、君護衛だからね?


「いや、その必要はない。まだこの段階で自由に動くのはやめておいた方が良いだろう。視察は議会とやらと話をした後で公式にさせて貰おう。だが、情報は必要だ。この街の事は良く知っているだろうし、クーガー、情報収集は任せて良いな?」


「うっス!フェルズ様を宿に案内したら早速出掛けてくるっス!もし迎えが来て迎賓館に移動する場合は、おいて行ってくれて構わないっス。場所は知ってるんで後から合流するっス」


「分かった。議会とやらの様子を詳しく頼む」


 クーガーの言葉に頷いた後、小声で指示を告げる。


「承知っス!あ、先に注意しとくっス!宿に着いたら多分サービスで酒が出されると思うっスけど、相当強い酒なんで気を付けた方がいいっス。甘口なんで油断して飲むとぶっ倒れるっスよ」


「ほう?」


 やはりドワーフは酒好きなのか……っていうかウェルカムドリンクで客を潰すとか……ドワーフ凶悪過ぎるな。


 一応フェルズの身体は酒にそこそこ耐性があるみたいだけど、流石に覇王的にぶっ倒れる訳にはいかんしな……興味はあるけど止めておこう。


 ゼロ歳だしな。


 ……っていうか、俺だけじゃなくうちの子達みんなゼロ歳だったわ。


 元々ちんまいエイシャたちを除いて、ほぼ皆酒飲んでるけど……まぁ、肉体的には問題ないか?


「それを知ってるってことは、クーガー飲んだ?」


「調査の為っス」


 レンゲの質問に、至極真面目な表情でクーガーが答えるが……コイツの場合真面目な表情をしている時の方が不真面目に見えるから不思議だ。


「そういった、俺の身体を張った調査があったからこそ、こうやって事前に注意する事が出来るっス。まぁ、興味があるなら飲んでみるといいっスけど、ぶっ倒れたくなかったら舐める程度にしておいた方がいいっスよ」


「そこまで言われると逆に興味が湧いてくるが、折角身を挺してクーガーが調べてくれたのだ。大人しく止めておくとしよう。あぁ、お前達は個人の判断で好きにしろ」


「私は護衛なのでやめておきます」


「アタイは……ちょっと興味があるから飲んでみようかね」


「私はベッドに直行」


「俺も興味があるな……折角だから試してみるぜ」


 俺と同じくリーンフェリアとレンゲは飲まない、オトノハとバンガゴンガは飲むと……誰かが飲んで感想を言うと、飲みたくなるよな……自制心が試されそうだ。


「チャレンジャーなお二人さん、いざという時は万能薬を飲むといいっス。一気に酔いが醒めるっスよ」


 へぇ……万能薬で酔いが治るのか……レギオンズには酔っ払い的なバッドステータスはなかったんだが、そういうのも治るのか……これは、万能薬の効能の範囲も調べておいた方がいいな。


「っと、そこの宿っス。紹介して貰った宿ではあるっスけど、元々予約しておいた宿でもあるっス。予約の名前はポチョムキンっス」


 クーガーの偽名なのだろうか……何故ロシア語?


「部屋は一人一つ取ってるっス。フェルズ様は最上階の部屋を使ってくださいっス。同じ階に護衛や侍女の待機部屋があるから、リーンフェリアかレンゲはそこに詰めるといいっス」


「分かった。レンゲ、私はフェルズ様の護衛に着く。オトノハ達の事は任せたぞ?」


「了解。ベッドの上で待機する」


 リーンフェリアの言葉にレンゲが力強く頷くが……護衛の待機場所が斬新すぎるな。


 そう思ったのだが、リーンフェリアもオトノハも突っ込まないし、問題ないのだろう。


 バンガゴンガは、元々こういう時口を挟んでこないしな。


「それじゃぁ、俺はそろそろ行くっス」


「あぁ、頼んだ。問題ないとは思うが、何かあったら連絡を入れる」


「了解っス!」


 俺の言葉にサムズアップをしてみせたクーガーが、すぐに人ごみに紛れて消えた。


 ……その人ゴミ、ドワーフ達だし……身長差がかなりあるからもろ見えの筈なんだが……やはり外交官達は謎でいっぱいだな。


 そんな消えたクーガーから視線を移し、俺達は宿へと向かう。


 クーガーが選んだだけあって扉のサイズも普通サイズだ……バンガゴンガも少々屈む程度で扉を潜れる。


「いらっしゃいませ」


 宿に入ってすぐ、パリっとした服装のドワーフが折り目正しく頭を下げ俺達を出迎える。


 髭はなく、髪はオールバックに整えられており、道行くドワーフよりも若干細身の様な気がするな……シュッとした雰囲気のせいだろうか?


「四名様でいらっしゃいますか?」


「いや、ポチョムキンの名で予約をしている者だ」


「失礼いたしました、ポチョムキン様。お待ちしておりました、すぐにお部屋にご案内いたします」


 パリっとしたドワーフがそう言うと、何処からともなく数人の男性ドワーフが俺達の傍にやって来る。


 皆髭はなく、髪をオールバックに整えているけど、出迎えてくれたシュッとしたドワーフの様にスマートな印象はない。


「お荷物をお預かりいたします」


「い、いや……」


 近づいて来たドワーフがバンガゴンガの背負っている荷物を受け取ろうとするが、その申し出にバンガゴンガが狼狽える。


 まぁ、バンガゴンガの背負っている荷物はかなりの大荷物だし、小柄なドワーフに渡したりしたら潰れそうな気がするし、その気持ちは分かる。


 しかし、まぁ彼らも仕事だ。渡してやった方が話は早いだろう。


「バンガゴンガ、構わん。運んでもらえ」


「分かった。壊れやすいものが入っているから丁重に頼む」


「畏まりました」


 バンガゴンガが荷物を下ろし、丁寧に荷物持ちのドワーフに渡すと、慎重な様子を見せながらそのドワーフは荷物を持ち上げる。


 自分の身体よりも二回りほど大きな荷物を平然と持ち上げるさまは、中々衝撃的だな。


 伊達に妖精族最強と言われていない訳だ。


 そんな逞しいドワーフを見てふと気付く……バンガゴンガが荷物を渡すのを躊躇ったのって、ドワーフを心配したんじゃなくて俺達の荷物を渡すことに躊躇ったのでは?


 真面目なバンガゴンガならそっちの方がありそうだな。


「それではポチョムキン様、こちらへどうぞ」


 バンガゴンガ以外は預けるような荷物が無い為、他のドワーフ達が少し俺達から離れると、パリっとしたドワーフが上品な笑みを浮かべながら案内を始める。


 しかし、名前を伝えただけで受付で本人確認的な事も、チェックイン処理もしていないのだけど、大丈夫なのだろうか?


 予約した時にここに来たのは俺ではなくクーガーだし、本人確認は出来ていないと思うのだけど……もしかしてドワーフは人族の見分けがつかない?


 いや、だったら尚更本人確認はするよな……?


 でも何となく、このパリっとしたドワーフがその辺抜けてるようには思えないし……中々謎だな。


 でもまぁ……俺が気にすることじゃないし、ポチョムキンの名前で予約しているのは間違いなく俺達だし、問題ないか?


 微妙にもやもやしたものを覚えつつ、俺は案内してくれるドワーフの後ろをついて行った。


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