第132話 王を知ろう・次
「グラハム……とりあえず訓練場には来たが……なんで戦う必要があるんだ?」
「さっき言っただろ?お前の力に納得出来たら俺は貴様に従う。だからお前の力を見せてみろと」
両手持ちのごっつい模擬剣の重さを確かめる様にしながら、俺の問いに答えるグラハム。
なるほど……いう事を聞かせたかったら、殴っていう事をきかせてみろと……。
なんで……?
「お前を殴り飛ばしたところで、王としての強さや国としての強さは関係ないだろ?お前が俺に従う理由になっていないと思うんだが?」
倒したらむくりと起き上がって仲間になりたそうにこちらを見る感じなの?
名前はグラリンになったりするの?
「存外細かい事を気にする奴だな。馬車で移動するより自分で歩いた方が良いとぬかすような奴だから、こういう手っ取り早い方が好みなのかと思ったんだが?」
「分かりやすい方が好みではあるが、この流れは納得しがたい」
呆れた様に俺がそう言うと、手にしていた両手剣を地面に突き立てたグラハムが満面の……獰猛な笑みを浮かべながら言う。
「まぁ、いいじゃねぇか。いっちょやろうぜ?」
「……」
いや……それは俺的に非常に困るのだ。
「……そんなに気が乗らねぇのか?あまり王の威厳とか気にするタイプじゃねぇみたいだが、ここまで来ておいてそりゃねぇだろ?」
王の威厳とかを気にした上でこれなんだよ!悪かったな!似非で!
ってそれはどうでも良い。
それよりもこの脳筋の相手をどうするかだ。
何故俺がここまでグラハムとの手合わせを渋っているかというと……俺は別に戦闘に慣れている人間ではない。
勿論、訓練はしている。
フェルズの身体能力は、はっきり言ってやりすぎなスペックだ。それを訓練せずに動かすのは、非常に危険だと思ったからなのだが……。
走れば車並み……いや、悪路を走破する力を鑑みれば車以上。
力はゴリラを通り越してゴ〇ラくらいあるんじゃないかといった……いや、流石にそれは言い過ぎだが、とりあえず壁ドンをしたら石壁にドカンと大穴が開くくらいの力がある。
知性は……これは言うまでもない。我が知略は85をマークしている。
……そんなわけで!かなりの高スペックを保持しているフェルズ氏ではあるが、それを動かすパイロットはそんなに戦闘慣れしていない。
ゴリラ以上ゴ〇ラ未満の機体は非常に手加減が難しいのだ。
グラハムがどのくらい強いのかは分からないけど、俺がうっかり攻撃を止めそこなって真っ二つになられるのはマズいし、手を抜きすぎて一本取られるのもマズい。
ここは……仕方ない。
「グラハム。俺の力を見たいというのは理解した。だがな……俺は手加減が非常に苦手なんだ」
「ほう?」
俺の完全に挑発にしか聞こえない言葉に、小さく怒気を見せながら相槌を打つグラハム。
こうやって戦闘を望む以上腕には自信があるのだろうけど、これも真っ二つにしない為だから許していただきたい。
「すまんな、グラハム。お前を侮辱するつもりは無い。ただ俺の腕が未熟だと言っているだけだ。だから、という訳ではないが、少し体を温める時間を貰えるか?」
「……構わんが、何をする?」
問いかけてくるグラハムには答えずに、俺は訓練場を見渡す。
「少々模擬戦をな……ジョウセン!俺の相手をしろ!」
「はっ!」
目的の人物を見つけた俺は、訓練用の模擬剣を片手に訓練所の中央に進み出る。
「グラハム、少し待ってくれ。なんだったら、お前も適当に見繕った相手と手合わせをしてもいいぞ?」
「それも興味はあるが、今は見学させて貰おう」
そう言ってグラハムは少し離れた位置で腕を組みながら観戦モードとなる。
よし、予定通り……多分グラハムは手合わせよりも俺の戦闘力の方が気になると踏んだんだが、正解だったな。
まぁ、もし、誰かと手合わせをしたいというようであったら、俺達の後でやってもらうつもりだったのでそれはそれで問題はない。
グラハムには体を温めると言ったが……俺の目的は、前回キリクがルフェロン聖王国相手にやったことと同じことをすることだ。
つまり、俺とジョウセンで派手な立ち回りを見せつけてグラハムの戦意を挫く……まぁ、戦闘狂だったりしたら逆に盛り上がる可能性もあるけど、その場合は手加減が出来ないことを理由にグラハムの攻撃を俺が防ぐだけ、みたいなルールをつけるとしよう。
そんなこと考えつつ、俺は模擬剣を片手に体をほぐす様に動かす。
因みに、いつも俺が身体を動かす時は、リーンフェリアかジョウセンに相手をして貰う事が多い。
今日は、流石に護衛であるリーンフェリアに相手をさせるのは色々と問題がある気がしたのでジョウセンを選んだが、戦闘を派手にするという点でもジョウセンの方が良い人選だと思う。
リーンフェリアは防御寄りの戦い方をするから、攻防入り乱れるというよりも俺が攻め続けてリーンフェリアが防ぎ勝つって感じになるからな……リーンフェリアの凄さの方が目立つんじゃないかな?
まぁ、ジョウセンはジョウセンで剣の腕が半端ないし、俺が良いように転がされるって感じではあるけど……短時間なら打ち合いの激しさとか色々見せつけられるはずだ。
願わくば俺の未熟さが露呈しないといいのだけど……ジョウセンはその辺の塩梅を上手くやってくれるはず!結構面倒見のいい奴だからね!
「とりあえずジョウセン、今日は一本で頼む。五合打ち合ったら速度を上げるからそのつもりで」
「承知。最近殿と打ち合っていなかったので少し楽しみでござるな」
「程々で頼むぞ?今日はまだ公務中だしな」
「はっはっは!おまかせあれ!」
俺とジョウセンが武器を構え向かい合ったところで、周囲の音の一切が消える。
これは別に、俺が深く集中したことで周りの音が聞こえなくなったとかではない……ただ単に俺が剣を振るという事で、訓練所に居た皆が注目して静まり返っただけだ。
さて、グラハムに見せる為に派手にな戦いにするつもりだが……それはそれとしてちゃんと集中してやらないとな。
俺はゆっくりと深呼吸をしてから軽く踏み出し、持っていた剣を軽くジョウセンに向けて振り下ろす。
当然、ジョウセンはそれを軽い様子で受け止め、更に逆袈裟に剣を切り上げて来る。
それを打ち払い今度は俺が横薙ぎ……それを受け止めたジョウセンが剣を両手持ちに変えて真っ直ぐ振り下ろしてきた。
先程よりも少し力の入った一撃を、こちらも剣を両手持ちに変えて受け止めてから、俺は徐に前蹴りを放つ。
「殿!?」
まだ五合まで打ち合っていないにも拘らず、突如攻撃を変化させた事にジョウセンが抗議の声を上げながらケリを避ける。
その様子を見ながら俺は口元に笑みを浮かべつつ、片手持ちに戻した剣で少しだけスピードを上げて振り払うように薙ぐ。
と言ってもそこまで速い動きではなく、多少不意を突いたが体勢を崩したわけではないジョウセンにあっさりと受け流される。
「殿、少々卑怯ではござらぬか?」
咎めるように言いながらも、若干口元をほころばせながら、ジョウセンが袈裟懸けに剣を振り下ろしてくる。それに合わせるように俺も袈裟斬りを放ち鍔迫り合いの形に持っていく。
「おっと、すまないな。数え間違えていたようだ」
鍔迫り合いながら俺が力を籠めると、押し返す様にジョウセンも力を籠める。
「殿は確か、算術は得意だったはずでござったが?」
これが五合目、ここから一気に俺達の動きは加速する!
因みに、言う程俺は計算得意じゃないよ?
心の中でそんなツッコミを入れていると、ジョウセンが鍔迫り合いから、俺を弾き飛ばす様に踏み込んできた!その動きに逆らわず俺が後ろに飛ぶと、一気に距離を詰めながらジョウセンが横薙ぎを放って来る!
その一撃を救い上げる様に剣を振るい弾いた俺は、手首を返しすぐに斬り下ろす。
逆Vの字切りと言った感じだが、剣を弾かれたジョウセンはそれをくるりと回転しながら躱し、その回転の勢いのまま再び薙いでくる。
先程とは違い、今度はその横薙ぎを剣で受け止め押し返す様にしながら、再び俺は蹴りを放ったが、それよりも一瞬早くジョウセンが俺の懐に入り肩をぶつけて来る。
蹴りを放って片足が宙に上がっていた俺は、ジョウセンのタックルを受けてバランスを崩して後ろに倒れ込みそうになる。タックルの為体を捻り、利き手を引き絞った体勢のジョウセンが、必殺と言わんばかりの突きを体勢を崩した俺の顔面目掛けて放つ!
「くそがっ!」
俺はまだ辛うじて地面に接地していた軸足に力を籠め、片足で強引に後ろに飛んでその突きを躱し、同時に『フレイムアロー』によって弾幕を張る!
魔法によって一瞬足止めをした俺は、すぐに体勢を整え再び剣を構えた。
ジョウセンは俺の撃った魔法を事も無げに斬り払った後、その場で静かに剣を構えている。
今の攻防は完全に俺の負けだな……ジョウセンが魔法を斬り払いながら追撃して来ていれば体勢を立て直す前に終わってた。
どうも足癖が悪い俺は、すぐに蹴りを放ってしまうのだが……基本的にジョウセンにはそれが効いた試しはない。
でも何故か蹴っちゃうんだよな……ジョウセンに誘われているのだろうか?
まぁ、純粋な剣技でジョウセンに勝てるはずもないから、泥臭く行ってしまうって感じもあるのだけど……この程度じゃまだまだグラハムは納得しないだろうし、もっと激しく行くとするか!
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