第130話 四国プラス一国について
「ひとまずこれで聖王国の方はこれで良いのか?」
「はい。当面、フェルズ様の御力を必要とすることはありません。あの演習を見学に来ていた者達は、積極的に軍の解体に賛同しているとのことです」
今日は会議室に集まり、色々な報告と今後の方針について決める重要な日だ。
今は先日の演習とルフェロン聖王国についてキリクから報告を受けているところだが、概ね問題なく進んでいるようだ。
「油断は出来ないが、ルフェロン聖王国に関しては一段落といったところだな」
「はい。ソラキル王国も、当面はルフェロン聖王国になにかを仕掛けるという動きは取れないでしょうし、このまま属国化を進めていけます」
「ソラキル王国の方はどうなっているのだ?」
「現在、次期国王を巡る対立が激化しているようです。ルフェロン聖王国から手を引いた直接の原因は、先に国内の権力を掌握しようと他国に派遣していた工作員を引き上げさせたという所ですね」
「国内の権力争いの為に、長年仕掛けて来た謀略をあっさり捨てるか」
それが本当だとしたら、随分と先の見えていない奴等が権力争いをしているみたいだね……。
まぁ、投資した時間と金をあっさり損切り出来るのは凄い判断力だと思うけど。
「ルフェロン聖王国に手を伸ばしていたのは元々当代の王だったようですが……現在、彼の国の王は病に臥せっているようで、後継者たちが好き勝手しているようです」
「後継者争いか……王太子は決まっていなかったのか?」
病気で寝込むくらいだったら、次期国王である王太子とかは既に指名しているもんじゃないのだろうかと思ってキリクに聞いてみる。
「ソラキル王国では王太子を敢えて決めず、王が退位、もうしくは崩御した際に継承順位の一番高い者が王位を継ぐと定められているそうです」
「……なんとも血生臭い話だな」
王が死んだ時点で順位が高い奴が王様になるって明言しているってことは……王様になりたかったら、自分より上の奴に継承権を放棄させるか殺せって言ってるようなもんだ。
そんな国で過ごせばロイヤルクレイジーになっても無理のない話か……同情はしないが。
謀略の国と呼ばれるだけの事はあるみたいだけど……骨肉の争いねぇ……多分血族としての情に薄いのだろうけど、健全とは言い難いね。
「優勢なのは継承順位一位の王子ですが、二位と五位の王子が結託して一位を追い落とそうとしているようです。三位である王女は継承権争いには不干渉というスタンスを取っていますが、継承権を放棄していないので関心がないという訳ではなさそうです。四位の王子は継承権を放棄する準備を進めているらしいのですが、この王子は現在中原の大帝国に留学中とのことです」
一位と二位はバチバチやり合っていそうな感じだな。
それと三位の王女は、キリクの説明ではちょっと狸感がある……。
「継承権六位の王子はまだ非常に幼いのですが、ここは母親である王妃が王位を狙って動いています……ですが、勢力的にはかなり弱いですね。恐らく早晩下手に動いて、何処かの勢力に潰されることになるかと。そして第七位の王子ですが、この者がルフェロン聖王国の情報局副局長の後ろに居た者です」
ルフェロン聖王国のお姫様の子供……エファリアにとっては従兄だが、お付き合いは御遠慮したい相手だ。継承順位は低めって言ってたけど……第七位か、確かに高くはないけど、滅茶苦茶低いって程でもない気がする。
ソラキル王国の在り方であれば、十分に王位を狙えるポジションではある。
だからこそ、ルフェロン聖王国から手を引いて自陣営の人を集めたのだろうけど……副局長はともかく、宰相はこの王子の派閥では無かったのかもしれないね。あっさり切り捨てているところを見ると。
「第七位は第一位と手を組んでいるようですね。裏切る気満々の同盟と言った感じですが……因みに第六位の母親である王妃をけしかけているのも第七位の手の者ですね。暴発させて排除するのが目的の様ですが、上手い事第二位の勢力を削れれば儲けもの程度の捨て駒としても期待と言った感じですね」
ほんとソラキル王国ってドロドロしてるよな……。
よく家臣はそんなどろっどろな骨肉の争いについて行けるもんだ。
「そんな状態であるなら、第一位は王の暗殺を狙っているんじゃないのか?」
「今の所、王の暗殺はしないみたいですね。二位以下からすれば今死んでもらっては困りますし、一位からすれば早く死んでもらいたいところでしょうが、暗殺という手を取れば確実に自分の仕業と言っているようなものですから……」
そう言う体面は気にするのか……いや、当然の事ではあるんだけど……なんかイメージ的にやったもん勝ち的な感じがしていたからちょっと意外だ。
「第一位としては第七位に王の暗殺をさせたい所でしょうが、それを受け入れる筈はありませんしね。とは言え、現時点で一番優位なのは第一位です。現王はもう先が長くないと言われていますし、現状維持でも王位を手にすることは出来るので」
「第一位が一番警戒しているのは、自分の暗殺や醜聞によって継承権を失う事か」
「然様でございます」
王の暗殺は犯人がほぼ確定されるけど、第一位の王子を殺したい奴は沢山いるってことね……。
いや、ほんと面倒な国だな……俺達が潰すことになったら……王族皆殺しルートになりそうだな……いや、第三位の王女とか継承権を放棄しようとしている第四位の王子がまともって可能性もあるけど……いざ取り込んだ時に制御しきれないような相手だったらシャレにならんよな。
「ソラキル王国についてはしばらく様子見だな」
「私はそれが良いと思っております」
「俺達が今優先すべきは前回の戦争で得た各地を安定させ、魔力収集装置の設置を進めることだ。ソラキル王国は動向を見つつ、もう少し混乱が広がってから動いた方が良いだろう。それも時間の問題だろうしな。今下手に動くと、ソラキル王国内を団結させる結果になりそうだ」
まぁ、団結した所で何とかする自信はあるけど……ってそう言えばソラキル王国には噂のアレが居たな。
「ソラキル王国の英雄とやらの調査はどうだ?」
「英雄と呼ばれる存在は確かにソラキル王国内に存在するようですが、どうやら王都には居ないようで、王位継承争いにも不干渉を貫いているようです」
「この世界の者達が口を揃えて言う化け物……早めにその実力は知っておきたい所だな。王城の監視とは別に英雄についての調査も進めておいてくれ」
「畏まりました」
まぁ、英雄ってカテゴライズされていたとしても、その中で強い弱いは当然あるのだろうけど……まずは基準となる、英雄と呼ばれるだけの強さを知っておきたい。
キリク達はそこまで重要視していないみたいだけど、今後版図を広げていくにあたって障害となる可能性が高いのは、その英雄という存在だろう。
英雄が、あの空飛ぶ蜥蜴くらいの強さだったら問題は全くない。
一応あの蜥蜴も、戦場に出てくれば戦局を一変させることくらいは出来るだろうしね。俺達にとっては何の問題もない相手だけど。
英雄がアレと同程度ならば戦闘力的には何の問題もない。
困るのは俺達と同等かそれ以上だった場合だが……もしそんな存在が居るとすれば、この大陸はとっくに統一されていると思うんだよな。
いや、個人がいくら強くても全ての敵を倒すことは出来ない。国同士の戦争で戦線が広がったら個人で対応するのは当然無理だから、一概にもそうとは言えないけど……でも、目下俺が敵として警戒しているのは、英雄って奴と今代の魔王、それからフィオの言っていた魔神って奴だな。
その辺りの連中の戦力についてはなるべく早く調べたい所ではあるけど、魔王とか魔神とかって連中はまだ遭遇までに時間がかかりそうだし、目下一番気にしないといけないのは英雄だ。
「ソラキル王国については以上になります。次に今回併合した四国についてですが、エスト王国は既に安定しており、代官の選出も済んでおります。国境付近の魔力収集装置の設置も既に完了しており、問題は今のところありません」
エスト王国は併呑したのが一番早かったということ以上に、なんか全体的に潔い人が多いというか……全員ユラン公国に対するヘイトが高すぎることを除くと結構話がしやすい感じなんだよね。
そのお陰か、併呑後の統治に関しても一番穏やかな感じに話は進んでいる。
囮としてソラキル王国にほど近い街に蟄居させた元エスト王も、なんか結構のんびり暮らしているみたいで、反抗勢力がそこに集まるといった事も特にないようだ。
前に聞いた話では、使える人材リストの一番上に居たエスト王国の第二王子って奴が随分頑張ってくれているらしい。
「エスト王国とは逆にユラン公国はあまり代官の選出が上手く行っておりません、使える人材が非常に少ない事と、エスト王国への対抗意識……そして自分達の後ろ盾としてソラキル王国がいると考えている事から、非常に反抗的です」
「カミラ率いる軍に徹底的に打ち負かされたというのに、まだ現実が見えていないのか」
「戦場に出ていた者は比較的大人しいのですが、後方で指示を出していただけの高位の文官は軒並み反抗的ですね。一部恭順を示している者も、ソラキル王国の援軍待ちといった心が透けているので代官としての登用は出来ません」
「……元エスト王国の貴族を派遣すると問題が起こりそうだし、元ルモリア王国の貴族で使えそうな者を代官に据えるか?」
「少々人数が足りないかもしれません」
元ルモリア領土も結構広いし優秀な人材は既に登用済みだしな……。
「ならば貴族に限らず、管理能力の高い者を登用する必要があるが……」
学校とか一般人の登用制度が殆ど無かったせいもあり、優秀な人を探すのって結構大変なんだよな……。
外交官と開発関係の人材不足に頭を悩ませていたけど、ここに来て代官も不足か……。
「代官が足りないのは元ラーグレイ王国も同様です。こちらは上層部の腐敗によりクーデターが起こった状態ですので……統治自体は問題ないのですが、やはり人材不足は否めません」
クーデターか……ラーグレイ王国はキリクが外交官見習いを大量投入して、戦争をせずにぶっ潰したんだよね……。
まぁ、元々国民の不満が溜まっていたからこそ、クーデターなんてものが起こったわけだけど……それを先導したのはキリクだ。
圧政からの開放という名目で反乱は起こったが、当然ラーグレイ王国としてはそれを鎮圧する……こういった世界だ、当然そこで発生するのは武力衝突で……それをとにかく国のあちこちで発生させ、全国規模で革命運動を起こさせ……貴族の中にも反乱軍側に回る者も出て来て……ラーグレイ王国内はそれはもう荒れに荒れた。
そして良きところでエインヘリアから、ラーグレイ王国の虐げられている民を救済する為の軍が派遣され、人道的支援を行いつつ、非道を行う王国軍から民を逃がし、エインヘリア国内に保護して……そんな活動をしつつ、革命軍の主導者と渡りをつける。
国を憂いている革命軍に、真に救うべきは虐げられし民なのだと説きながら革命を成功させ、その上で交渉につかせた。
一度交渉が始まってしまえば後はキリクの独壇場……元々エインヘリアは、革命軍以上に手厚くラーグレイ王国の民を保護しており、交渉前から絶大な支持を取り付けている。
後はキリクから最初に依頼された通り、俺が軍を率いてラーグレイの王都に入れば……本当にキリクが言った通り、それだけでラーグレイ王国はエインヘリアに併呑された。
さらっと纏めると、あっさりしていながらもちょいちょい外道感が顔を出しているけど、エインヘリア的には概ね平和的にラーグレイ王国を併合したと言える。
革命軍には基本的に統治能力に長けた人はいなかったし、民を救うために支援していたエインヘリアに統治を任せるのは仕方のないことだもんね。
「元ラーグレイ王国側にはエスト王国の人間で回せるものを回すのが良いだろう。元ユラン公国にはフレギス王国から人材を派遣するのが良いのではないか?フレギス王国の統治は順調だと報告を受けているが」
「はい。フレギス王国もエスト王国と同様にこちらの統治を受け入れていますが……向こうも少し問題があります」
「ふむ?」
あれ?フレギスは特に問題はなかったと記憶してたけど、違ったっけ?
「申し訳ありません、統治に問題はなく、ユラン公国への人材派遣も問題ありません。ですが、元フレギス王国国王が少々面倒な事を言っておりまして……」
「聞かせてくれ」
「実は、元フレギス王がフェルズ様に拝謁したいと申しておりまして」
「ほう?別に構わないが?」
確かにフレギス王国やユラン公国のトップとは顔を合わせた事が無かったな。ユラン公国のトップはもう処刑が決まっているみたいだけど、フレギス王国の王様は確か登用する手はずだったはず……別に会うのは問題ないと思う。
というかエインヘリアの王として元王に顔を見せることはやっておくべきじゃないかな?
「フレギスの元王は少々特殊な人物でして、フェルズ様が不快になるのではないかと……」
特殊な人間……キリクがそんな風に言うと逆に気になるな。
「別に話をするくらい構わんが、どういった人物なのだ?」
「一見すると粗野なタイプですが、その実計算高いです。ですがその計算も直感的と言いますか、唐突に結論を出すので、周りにはその過程が読み取れないと言った人物です。豪放磊落と言った感じですが、臣下や民には非常に慕われているので処刑すると後が面倒になりそうです」
「なるほど……」
がははって笑うタイプだろうか?
キリク的に処刑すると面倒だけど、俺に会わせるのも不安があるって感じらしい。
しかし、直感派か……そう言うタイプはこちらの世界に来てあまり見た記憶がないが……会っておいた方が良さそうだな。
俺の事を気に入らなかったら簡単に反乱とか起こしそうな気はするけど、その時は徹底的に潰せば良い。
まぁ、国民から随分人気があるみたいだし、殺してしまうと厄介なことになりそうだけど……いざ反旗を翻した時は、王を殺さずに負かし続ければ行けるんじゃないかな?
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