第123話 ギャルゲーVS覇王~よかろう!ならばそのフラグ、全て叩き折ってやろう!~



 この世界において、主人公が居るとすればそれは俺ではない。


 コイツだ。


 魔導技師オスカー。


 元スキンヘッドの小物と見せかけたギャルゲーの主人公……。


 ギャルゲーの主人公がスキンヘッドって斬新すぎる?


 確かに俺もそう思う……だが今のコイツはふさふさロン毛のイケメンだ……ギャルゲーよりも乙女ゲーの攻略対象の方が似合いそうな気はするが、コイツは攻略される側ではなく間違いなくする側の人間だ。


 何故ならコイツは良く注意書きされる、ただしイケメンに限る……これをスキンヘッド時代から易々とこなしていたのだ。


 いや、スキンヘッドのイケメンは確かにいるよ……?


 でもさ……そういう人達って渋みというか……生き様というか……そっち系のイケメンやん?


 甘いマスクのスキンヘッドって……どういうジャンルなの?坊さん系?


 とは言え……オスカーを若禿の呪縛から解き放ったのは何を隠そうこの覇王である。それによって主人公力がアップしてしまったのであれば、俺は……オスカー以外のこの世全ての男の為に戦わねばなるまい。


「……それで、オスカー今日はどうした?」


「す、すみません兄貴!本来王様である兄貴に相談するような事じゃないんですが……他に頼れる人が居なくて……」


 そう言って俺の向かいに座るオスカーが深々と頭を下げる。


 そして、何故かオスカーの隣に座っている女性も同じように頭を下げる。


 ……この娘、どちら様?


 以前オスカーの私生活を探った時には居なかった女性だが……何?追加ディスクの新キャラでも登場しましたか?それとも2ですか?


「まずは事情を話せ。ここに来ていきなり頭を下げられても訳が分からんぞ」


「すみません……実は……相談って言うのは、この娘の事なんです」


 まぁ、わざわざ連れてきているのだからそうだろうけど……新しい娘とゴールインしますって報告だったらどうしよう?


 あ、でもそれでいくと……今までの娘達がヤンデレ化して、オスカーを刺すってパターンがあるな。


 惜しい人物を失くしたものだ。


「結婚するのか?」


「違いますよ!?なんでいきなりそんな話になるんですか!?」


「違うのか」


 クリア報告かと思ったが、どうやらまだイベント途中のようだな……チッ、オスカーはまだ刺されないらしい。


「えっと、実は彼女……何も覚えていないらしくて」


「どういう意味だ?」


 脈絡が無さ過ぎて分らんわ。


「すみません……えっと、自分の名前も、出身地も、今まで何をしていたかも……何もかも覚えていないらしいんです」


「き、記憶喪失だと……?」


 俺はオスカーの隣に座る少女に改めて視線を向ける。


 真っ白な長い髪に瞳は赤……肌も物凄く白いので儚げな印象を与えて来るが……日の光に弱そうだな。この世界にヴァンパイアは今の所いないっぽいけど……アルビノって可能性はあるな。


 年齢は……二十歳くらいか?その歳で何も覚えていませんとくれば……記憶喪失か犯罪者かの二択だろう。その表情は不安そうなものだが……それが記憶がない事への不安なのか、いきなり王様の前に連れてこられたが故の不安かは分からない。


 だがオスカーよ……相談する相手がおかしくないか?


 我覇王ぞ?


 記憶喪失の女の子連れて相談に来る相手じゃないだろ?医者のとこにいけよ!?


 まぁ、確かに?主人公は、そんな相談を王様相手にするか?みたいな感じで軽々しく王様とかに相談とかするけどさ……くそっ……オスカーワールドにおいて、俺は頼りになる王様ポジションってことか!?


「……もう少し情報が欲しいな。どういう経緯で知り合ったんだ?」


「五日前、開発用のインクが切れそうだったので、なじみの店にインクの注文に行ったんですが……その帰りに曲がり角でこの娘とぶつかったんです」


 ベッタベタやな……。


「慌てて助け起こしたら、何か顔を隠した三人の男が突然襲い掛かって来て……成り行きで助けたんですけど、その直後に気絶しちゃったんですよ。それで、とりあえず家に連れて行くのもマズいので近くの宿屋に連れて行って……目が覚めた後に何も思い出せないって話を聞いたんです」


 しかもバリバリ訳アリですね……街歩いてるだけでそんな王道展開ある?


「お前がその女性にぶつかって記憶を飛ばした訳じゃないんだな?」


「はい。それ以前からだそうです」


「その襲い掛かってきたってヤツの事は知っているのか?」


「いえ、記憶がないまま街を歩いていたら突然追いかけられたと……」


 完全なる禿ロン毛ミーツガール……いいだろう、この覇王が相手になってやろうじゃないか。


 だがその前に……。


「……お前な、世が世なら女性とぶつかる、それだけで衛兵に捕まってもおかしくないんだぞ?」


「ぶつかっただけで!?」


「当然だ。それが嫌ならもっと注意して歩け。どうせお前の事だから、女性と曲がり角でぶつかるのはこれが初めてじゃないだろ?」


「よ、よくご存じで……」


 俺の指摘を受けて、オスカーが気まずそうに頭を下げる。


 ぶつかるなら馬車とぶつかれ……いや、コイツの場合その馬車からお嬢様が下りてくるパターンになりそうだな。


「ぶつかった相手が身重だったりしたらどうする?そうでなくてもお前みたいに体格のいい奴がぶつかれば、小柄な女性だったら怪我をしかねないんだぞ?」


「は、はい」


「曲がり角の傍では最短ルートで移動しようとするな。余裕を持った距離を保てば、そんなぽんぽん人にぶつかったりはしない」


「……すみません、おっしゃる通りです」


「それにお前、気絶した女性を宿に連れ込むって、それ完全に犯罪者だからな?」


「……」


 主人公特性持ってなかったら一発アウトだからな?いや、いっそのこと牢にぶち込んだ方が皆の為か?


「まぁ、今後は気を付けることだな。さて、説教はこのくらいにして、そちらの女性の話だ。お前の事だから、既に知り合いの伝手を使って調べたりしたんだろ?」


「はい……衛兵の友人や情報通な友人なんかにも頼んで色々調べてみたんですが、一切手がかりが見つからなくって……でも、手がかりになりそうなことが一昨日ありました……まぁ、顔を隠した奴の襲撃だったんですけど。今は衛兵の詰所にある牢屋で尋問して貰っています」


「……分かった。手を貸してやろう。ウルル」


 当然の如く、俺が唐突に名前を呼んでもすぐに現れてくれるウルル。


 もしかしたらウルルは『鷹の耳』と俺の傍への転移能力を持っているのかもしれないな。


「……はい」


「この女性の過去、名前、出身地を調べてくれ。それと何故襲われるかもだ。ヨーンツ領都の衛兵詰所に襲撃犯を捕らえているらしい」


「……了解」


 現れた時と同じようにスッとどこかへ消えるウルル。それを見たオスカーと記憶喪失の女性は目を真ん丸にしている。


「彼女に任せればすぐに情報は揃う。エインヘリア国内の出身だったら、明日にでも家に帰ることが出来るはずだ」


 オスカーとは全く違うベクトルで、ウルルも理不尽な性能をしているからね。


 今日中にはこの娘の情報を洗い出してくれるだろうし、襲撃犯の方に関しても秒で全部吐かせてくれるだろう。


 オスカーが順序良くイベントをこなしていけば、この娘をちゃんと救えるかもしれんが……俺は覇王力によってそれを上回って見せよう。






 翌日、俺の言った通り、記憶喪失の子の素性も名前もバッチリ調べてくれたウルルに案内されて、エインヘリア国内のとある村へとやってきた。


 勿論オスカーと記憶喪失の娘も一緒だが、その他にエイシャとリーンフェリアも同行している。


 正直、オスカーをうちの子達に近づけたくないのだが、何かあった時の為にウルルとリーンフェリア、そして回復魔法である聖属性のスペシャリストであるエイシャに同行してもらったのだ。


 因みに記憶喪失の娘さんは……村に着いた直後、頭を抱えてぶっ倒れたので自宅に運んで彼女の母親に引き渡したり……その後目覚めて記憶を取り戻したり……なんやかんやとイベントがあったけど、その辺は全スルーした。


 オスカーは付き合っていたが。


 とりあえず、記憶喪失だった彼女はこの村で巫女的な一族らしいのだが……祀っているのは、この村の北側に広がる平原に住んでいる龍らしい。


 因みに……この村はエインヘリア城の南方というか……龍の塒の南側に位置している。


 まぁ、危険なモノを祀る信仰みたいなのは結構あるみたいだし……グラウンドドラゴンも天災みたいな認識だったし、アレを祀る人達が居てもおかしくは無いだろう。


 ……祀ったところで御利益は全く無さそうなアホ蜥蜴だったけど。


 っていうか、サクッと倒しちゃった事を伝えるべきか否かちょっと悩んだけど……まぁ触らぬ神に祟りなしってことでその辺は放置だ。


 他人の信仰にケチをつけるつもりは無いし、好きなモノを信仰すればいいと思う……だからエイシャがフェルズ様と呼んでも別に俺は気にしない。


 まぁ、他所の宗教と仲良くするつもりは無いけどね……エイシャが暴れそうだし。


 宗教と言えばもう一つ……記憶喪失の彼女を襲っていた奴等だけど、どうやらこっちはこっちで別口の龍信仰の輩だった。


 よく分からないけど、この村の巫女を攫って生贄に捧げることで、死した龍を蘇らせるとかなんとか……いや、素材を取りつくして原型なんて欠片も残っていないあの蜥蜴を蘇らせてくれるのであれば、もう一度美味しくいただくだけなので別に構わないのだが……流石に生贄捧げたところでアレが蘇る事は無いと思うし、そもそも素材の為に生贄の許容は出来ない。


 一応オスカーやヴィクトル、エファリア辺りに、そういった蘇生に関する魔法や儀式みたいなのが存在するのか確認はしたけど、そういった眉唾というかオカルトチックな物は存在しないらしい。


 蘇生魔法が無いのは残念だが……まぁ仕方ない。ゲームじゃないんだからね。


 とりあえず信仰を弾圧するつもりは無いけど、暴走して人様に迷惑をかけるような信仰はエインヘリアで認めるつもりは無い。


 そんな訳で、彼女が意識を失っている間に、ウルルに案内してもらってその怪しい宗教団体兼犯罪者集団の本拠地を俺達だけでサクッと潰してきた。


 中々おどろおどろしい雰囲気の場所で、とても清く正しい信仰をしている様には見えなかったし、壁や床のどす黒い染みは血の跡ではないでしょうか?って雰囲気だった。


 まぁ、なんちゃって邪教の鶏の血の儀式って可能性もあるけど……我が国は専制君主制なので俺が邪教と言ったら邪教である。


 いや、一応ウルルがちゃんと非合法組織の証拠は集めてくれているけどね?


 そんな訳でサクッと本拠地や支部を潰して構成員も一網打尽にしたのだが……一つ誤算が生じた。


 邪教殲滅後にエイシャがぼそりと「やはり信仰の対象は統一するべきですね」と小さく呟いたのだ。


 オスカーのフラグをブチ折りたいが為に、変なフラグを立ててしまったかもしれないけど、色々と後の祭りと言えよう。


 まぁ、そんな訳で記憶喪失の女の人を実家に送り、記憶を取り戻し、誘拐組織をぶっ潰し今後の危険を排除……するついでに信仰対象も排除した……というかしていた。


 これで彼女にまつわる一連のイベントは、まるっとクリア出来た事だろう。これでは流石のオスカーもこれ以上フラグを立てることも出来まい。


 ……っていうかノリでここまで突っ走ったけど……ここは現実であってゲームじゃないんだから、フラグもイベントもくそもないのだけど……なんかオスカーが絡むと、妙にギャルゲーチックな世界が展開されるから、色々と暴走してしまったようだな。


 誰が悪いと聞かれれば、胸を張ってオスカーが悪いと答えるが。


「兄貴……迷惑をかけてすみませんでした」


 そんな騒ぎの元凶……俺にとってはだが……が申し訳なさそうにしながら、俺の元へやってきた。


「気にするな。お前がこの件を持ち込んだおかげで、訳の分らん犯罪組織を一つ潰せたんだ。エインヘリアに暮らす民が、安心して暮らしていけるようにすることこそ俺の仕事だからな」


「兄貴の事はずっと凄いと思っていましたけど……今回はまた今までと違った凄さを実感した気がします」


 まぁ、一日で一人分のエピソード解決したしな……ってゲームじゃないっての。


「色々強引な手は使ったが、無事解決出来て良かったな。あの娘を攫った奴等も片付けたし……今後おかしなことにはならないだろう。俺達はそろそろ帰るが、お前はどうする?」


「一緒に帰ります。もうあの娘は大丈夫みたいですし、挨拶はちゃんとしてきましたから……」


 そう言って、何故か遠くを見るような目であの娘の家の方に視線を向けるオスカー。


 なんかすげぇぶん殴りてぇ……出会って数日で、なんでそんな雰囲気出してるの?いやこれもギャルゲーあるある……。


 しかし、俺のそんなどす黒い内心には気付かず、オスカーがこちらを向いてにっこりと笑みを浮かべながら口を開く。


「あ、今度新しい研究成果持っていきますね」


 一瞬で切り替えて来やがったが……これは強がりとか空元気的な奴なの?そのテンションちょっとよく分らんから元気づけたりせんよ?


「分かった……なら五日後でどうだ?」


「分かりました。それじゃぁ、五日後に回路持参で伺わせて貰いますね。自分で言うのもなんですが、今回の成果はかなり兄貴の要望に応えられていると思いますよ」


「ほう?楽しみにしておこう」


 そんな感じでその日はオスカーと別れたのだが、その五日後……オスカーは約束通り城にやってきた。


 何故か見知らぬ女性と共に……。


「あの、兄貴……数日前、この娘が森で傷だらけになって倒れているところを見つけまして……」


 なんなん?こいつ……。


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