第124話 富める者、貧する者
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覇王フェルズは数か月前、城にいる全ての者に厳命を下した。
「一日最低二回の食事をとる事。それと一日に一回は風呂に入る事。遠征等の仕事で風呂に入ることが出来ない時は、せめて体を拭くくらいはするように。城にいる者は絶対だ。因みに最低一回だから、何度か入りたい者は日に何度入っても良いからな?」
この命令は、城にいる多くの者を戸惑わせた。
何故なら今まで食事は週に一回……そして風呂なんてものは入ったことが無かったのだから。
しかし、フェルズの言葉に逆らうものはこの城に存在しない。
全ての者がフェルズの言葉に従い食事を口にして……多くの者が愕然とした。
えもいわれぬ満足感……いや、満腹感。
今まで味わったことのない満ち足りた気分と漲る力……。
全ての者は理解した。
食事って凄い……そしてそれを教示して下さったフェルズ様凄い……。
全ての者がフェルズの偉大さを再認識する一方で、もう一つの命令には多くの者が首を傾げた。
何故一日一回風呂に?
無論、全員命令通り風呂に入った。
しかし、今回は食事の時とは違う。
風呂には入ったが……何かが変わったような感じはしない。
いや、覇王フェルズの深謀遠慮は自分達の理解の及ぶ範疇にはない……そもそも、やれと言われたならばやる以外の選択肢は無い。
きっと食事と同じように風呂にも何かしらの効果があるはずなのだ。
そして、一部の者達は時が経つにつれて気付く。
汗をお湯で流す心地良さを。
雨に濡れ、冷えた体を温めるお湯のすばらしさを。
サウナと水風呂を交互入り、血行を促進した後の痺れるような心地良さを……。
そして、一部の者達も時が経つにつれて気付く。
常に身綺麗にしておくことで、いつ閨に呼ばれても良いようにしておけと言われているのでは、と。
そしてその気付きは、いつしか大半の者にとっての共通認識となる。
ここはエインヘリア大浴場……彼女らの主の想いとは多少違った方向に気合を入れる、戦士たちの憩いの場であり戦場だ。
「あ~気持ちいいですね~」
「そうだな。以前はこんなこと気にしたことも無かったが……訓練の後に入る風呂は、何とも言えない充足感を感じられるんだ」
「あ、私も訓練後のお風呂は最高だと思うであります!」
「私は~訓練はあんまりですが~、書類仕事で凝り固まった体をほぐすのに~お風呂は最高だと思います~」
「……イルミットの身体が凝り固まっているのは、運動不足のせいだけなのでありますか?」
「原因はそれだけではないかもしれません。良ければその湯船に浮かんでいるそれ、もぎましょうか?」
「あたかも荷物を持つようなノリで~もがないでくれるかしら~?エイシャもその内この苦労が分かる日が来るかもしれませんよ~?」
「……」
「まぁ、大きければ良いという物でもありませんよ?押さえつけると苦しいですし、かと言ってしっかり固定しておかなければ動くと痛いですし……」
「私は~リーンフェリア程運動はしませんが~城内を移動する時に小走りをする程度でも~、付け根の血管が千切れて内出血することがありますよ~?」
「それは恐ろしいであります……」
「もいだほうがよろしいのでは?」
「エイシャ……これは着脱式ではないので、もいだりくっつけたりは出来ないのですよ」
「……あら、そうでしたか。ではもぎましょう」
「エイシャ、ちょっと怖いであります」
「サリアも私の気持ちが分かるはずでは?」
「いや、まぁ……自分は普通でありますから……」
「……マリーはまだお風呂にこないのでしょうか?」
「ん?どうしたんだい?エイシャ。なんだか難しい顔をしてるね?」
「……オトノハ。貴方も、もぐべきです」
「もぐ?何をだい?」
「……その脂肪の塊です」
「……脂肪って、これかい?あーなるほど、そういうことかい」
「エイシャがダークサイドに落ちたであります」
「いや、エイシャは普段からこんなもんだろ。まぁ、自分でも、結構もぎ取りたくなる時はあるよ?」
「そうなのですか?お手伝いしますよ?」
「いや、エイシャに任せたら本当にもぎ取りそうだからやめとくよ……」
「オトノハは、どんな時に邪魔だと思うでありますか?リーンフェリアやイルミットは運動するときに邪魔って言ってましたが……」
「あー、あたいの場合は……汗を掻くんだよね……こことか、こことか」
「それ、わかりますね~。後、書類仕事をしていると良くここが汚れているんですよ~。自分では見えないので困りますね~。まぁ一番つらいのは~肩こりですが~」
「肩こりか、あたいは結構体を動かすからか、まだ肩がこった事は無いけど……肩甲骨を動かすといいらしいよ?」
「肩甲骨って~どうやって動かしたらいいのかしら~?」
「背中を意識しながら肩を回すとかですね。イルミットは書類仕事で余計に肩がこりやすいのだと思いますが」
「ですよね~。あ、でも仕事しながら机に乗せると、結構楽だったりしますね~」
「それあたいも良くやるよ。細かい物を作る時とかさ、体が安定するし軽くなるしで、かなり楽なんだよな」
「そうなのですか?」
「リーンフェリアは基本立ち仕事ですし~椅子に座っていても姿勢がいいですからね~」
「でもリーンフェリアは、足元が見えなかったりするだろ?」
「え、えぇ……そうですね。死角が出来るのは少し困ります」
「もきーーーーーー!!」
「え、エイシャ!?どうしました!?」
「さっきから大人しく聞いていれば何なのですか!不幸自慢に見せかけたストレートな自慢にしか聞こえませんけど!?」
「い、いや、あたい達は別にそういうつもりじゃ……」
「持たざる者にとって、持つ者の言葉は全て煽りにしか聞こえません!肩がこる?私はまったくこりませんけども?汗が溜まる?とっても風通しがいいですけども?視界が悪い?足首までばっちりみえますけども!?」
「え、エイシャ~?」
「いえ、そもそも、それってただの脂肪の塊な訳ですし……私に必要かと問われれば……まぁ、将来的には必要になるかも知れませんが、現時点では特に必要ないわけですし……だからと言って、なくても良いかと問われれば否な訳で……」
「エイシャ、落ち着くのです。顔が赤いですし、のぼせてしまいますよ?そろそろ出た方が……」
「だからと言って、カミラさんの様に幻の魔法を使うと言うのも違うと思いますし……まぁ、私に幻属性の適正はありませんし、空しいだけなのでやりませんが……」
「今カミラの事は言わないで上げて欲しいであります」
「いえ!そんな事よりも大事なのは
「フェルズ様は……」
「うーん、大将は……」
「フェルズ様は~大きいのはお嫌いではないかと~」
「っ!?」
「そうなのでありますか!?」
「えぇ~。ですが~、そこだけを重要視している訳でないですね~」
「……そうなのですか?」
「もしフェルズ様がそのようなお方でしたら~私なりリーンフェリアなりオトノハなり~誰かしら既に伽に呼ばれているはずです~。ですが~、残念なことに~メイド達を含め~呼ばれたものは誰一人としておりませんし~」
「「……」」
「最近のフェルズ様はとても変わられましたが~、そう言った部分は~以前のままですね~」
「ふぇ、フェルズ様が房事に耽るなど、あるはずがないだろう!」
「そ、そうだよな!大将は真面目な人だし、そういうのは……うん、そうだよな!」
「あら~?確かリーンフェリアは~、フェルズ様が御戻りになられてすぐの会議の後~」
「止めろイルミット!アレは違うのだ!アレはアレだ!フェルズ様が御戻りになられて色々と感極まり過ぎて……」
「あぁ……あの時はあたいもびっくりしたよ……リーンフェリアとカミラが……同時にだもんな」
「何の話でありますか?」
「会議の終わりに、突然リーンフェリアとカミラが発情したという話です」
「エイシャ!なんて言い方を!」
「うぅ……
「……ウルルに調べて貰えば分かるでありますが……不敬であります」
「カミラは大きい方が好みだと思っているから、あんな幻を纏っていると思うのですが……何か確信があるのでしょうか?」
「カミラに聞いてみます~?」
「……カミラは、以前湯船に浸かった際、コレが浮いていない事をイルミットに指摘されて……一緒に入ることが無くなりましたからね」
「それは、流石にあんまりではありませんか?」
「そんなつもりは無かったのよ~。それにカミラの事は皆も知ってるわけだから~」
「そりゃそうだけど……それでカミラは風呂に誘っても来なかったのか」
「無性にカミラに逢いたくなりました」
「自分もであります」
「へくちっ」
「カミラちゃん大丈夫なの―?」
「えぇ、大丈夫よぉ。誰かが噂でもしてるのかしらぁ」
「訓練でかいた汗が冷えたのかもなの!お風呂で温まるといいの!」
「そうねぇ。でも、今の時間はちょっと人が多そうねぇ」
「……お風呂……入る?」
「あ、ウルルちゃんなの!」
「マリーも……一緒にいく……?」
「行くなの!」
「あ、あらぁ?えっとぉ、私はもう少し後にしようかしらぁ?」
「……用事?」
「汗はお風呂で流したほうが気持ちいいの!カミラちゃんも一緒に行くの!」
「……先に二人で行っててくれるかしらぁ?ちょっとイルミットに用事があるのよぉ」
「丁度良い……今、イルミットは……お風呂」
「イルミットちゃんが出ちゃうから早く行くの!」
「……」
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