第104話 会談開始
ウルルの報告を改めて聞いた俺は、心の中でため息をつく。
「ご苦労だった。聞きたいことが出来たらまた尋ねるから暫く楽にしていて良い」
「……はい」
ウルルの報告の内容は、ルフェロン聖王国の現状とソラキル王国との繋がり、宰相がこれまで何をしてきたか、その辺りのまとめだ。
現在会議室にいるのは俺とキリクとウルル、そして護衛として俺の傍に控えているリーンフェリア。
それとルフェロン聖王国から、エファリアとヘルディオ伯爵。それから名前は忘れたけど、ルフェロン聖王国の文官が一人。
因みにエスト王国の戦後処理は、キリクの代わりにイルミットがヴィクトルを連れて向かってくれた。
まぁ、向こうの心配は必要ないだろう。
イルミットとヴィクトルなら上手い事やってくれるに違いない。
俺はこちらの会談に集中するように気合を入れる。
「間違いないだろうと考えてはいたが……今聞いた通り、そちらの話の内容が真実だったと裏付けが取れた」
因みに、当然ではあるけどウルルからルフェロン聖王国に関する報告を聞いたのは、今が初めてではない。
同じ内容というか、より詳細な内容をこの会談の前に聞いている。
この場で改めて報告してもらったのは、エファリア達にこれだけの内容を調べて裏付けが取れたという報告の為だ。
「私達でも確信出来なかった情報や、把握出来ていない情報も含まれているようですが……」
ウルルの口頭での説明に加え、紙に書かれた報告書もエファリア達には渡してある。
そこに視線を落としながら、ヘルディオ伯爵が戦々恐々とした様子で口を開く。
その隣にいるエファリアも資料を見て目を真ん丸にしている。
「うちの外交官は優秀だからな。特に交渉が得意らしい」
「交渉が得意ですか……外交官に必須の能力とは言え、まだ正式に調印を行った友好国という訳でもない相手からこれほどの情報は普通得られないと思いますが……いえ、情報の内容からすれば、そもそも他人に話せるような内容では……」
うちの外交官の
「どれだけ注意を払おうと、一度起こった出来事を隠し通すことは難しいと言う事だ。エインヘリアの外交官にかかれば、そういった事を暴き出すことは難しい事ではない」
まぁ、うちの外交官がどんな風にお仕事をしているのかは分からないし、苦労をしていないとは思ってないけど、全幅の信頼を外交官達に置いていると言ったニュアンスは、ヘルディオ伯爵にもウルルにも伝わっただろう。
いつも通りの無表情だけど、ウルルがそこはかとなく嬉しそうだし。
「しかし、宰相派は中々ソラキル王国との癒着が進んでいるようだな。次代の聖王についても既に誓約を交わしているようだ」
「……」
俺の言葉にルフェロン聖王国の三人は非常に表情を暗い物に変える。
しかし、この宰相。
国の上から二番目……いや、摂政がいるから三番か?まぁどちらにせよ比肩する者が片手で数得られる程度にしかいない地位であるはずなのに、国を売り払うような真似良く出来るよな。
これで自分が王になりたいって言うならまだ分からないでもないんだが……ソラキル王国に国を売り渡した上で、またルフェロン聖王国の宰相に残るらしいし……意味が分からん。
ルフェロン聖王国よりも大きな国であるソラキル王国で、それなりの地位に就きたいって訳でもないようだし……流石に宰相が何故そんなことをしようとしているのかって理由までは外交官達も調べてきてはいない。
もしそれを知りたいのであれば、宰相と直接交渉しないと駄目だろう。
別にそれをしてはいけないって訳じゃないけど……そこまでして宰相が売国したい理由を知る必要はないしな。
どうせ俺達が介入した時点で宰相の運命は決まったようなものだし……敵にもこんな理由があったとか別に知りたいとは思わない。倒すべき敵には圧倒的悪者で居て貰った方が精神衛生上とても良い。
っていうか、国を売り払うって意味では、トップである聖王がうちにそれをやろうとしてたわ。宰相からしたらお前が言うなってところだろうな。
「このまま行くと、次の聖王はソラキル王国から迎え入れる噂の王子か……その者に関しての報告もあるが……ふむ、これが聖王になっては、国は一瞬で崩壊しそうだな」
表ざたにはなっていないようだが、王宮で働く侍女を孕ませただの、奴隷を購入して狩りと称して殺しているだの……まぁまぁ、十六歳のクソガキにしては内容がえぐすぎるな。いや、この世界だと成人になるのか?まぁ、どうでもいいけど。
しかし王宮で働く様な侍女って、結構地位の高い家柄の娘だったりするって聞くけど……ソラキル王国でもそうなのかね?
もしそうだとしたら、とてもじゃないけど隠蔽出来るような話ではない気がするが……。
まぁ、何にしても……これを王配として迎え入れるのも、王として迎え入れるのもダメだな……確実にクーデターコースだろ、これ。
ふむ……となると、宰相は国を滅ぼしたいのか?
若しくは、誰がどう見ても邪悪な王を倒して次の王になりたい……?
いや、この王子を殺したらソラキル王国が黙ってないだろうし、それは違うか?それに迂遠過ぎる気もするし……。
まぁ、代々聖王は名君って呼ばれる人が多いみたいだし、他所からアホを連れてこないと打倒するような大義名分は中々得られないだろうけどね。
……いや、宰相の思惑はどうでもいいんだ。
「ヘルディオ伯爵達には秘密にしていたのだが……」
「……?」
俺の言葉に三人が顔を向けて来る。
「現在、そちらの摂政と聖王殿の影武者には、陰ながら護衛をつけている」
「「っ!?」」
三人が一斉に驚いたような表情となり、そのタイミングがものの見事に揃っていたのを見て、思わず吹き出しそうになったのをぐっと堪える我覇王。
「それは我等の王城に手の物を……?」
「入り込ませている。あぁ、勘違いはして欲しくないのだが、ルフェロン聖王国の王城に手の物を潜入させたのは、貴女達が我が国を訪れてからの事だ。無論、簡単な情報はそれ以前から集めさせてもらってはいたがな」
「……この期に及んでそれを咎めるつもりは無い。だが、一つ聞かせて欲しい、摂政達は無事なのか?」
エファリア……いや、この場合は聖王か。彼女が至極真剣な顔をしながら俺に尋ねて来る。
「あぁ。問題ない。だが、影武者の方には二度ほど暗殺者が送り込まれたようだな」
これは、先程渡した資料には記載していなかった情報。事前にウルルからこれを聞いた時は、色々な意味でほっとしたものだ。
しかし、ヘルディオ伯爵はそうではなかったようだ。
「暗殺者!?」
思わずと言った様子で叫び、中腰を上げるヘルディオ伯爵。
その隣にいた文官も、叫びはしなかったものの目玉が零れんばかりに目をひん剥いている。
しかし、二人ともすぐに我を取り戻したようで頭を下げる。
「申し訳ありません、取り乱しました」
「気にする必要はない。その驚きは当然だからな。もう少し我が国に来るのが遅かったらと思えば、平静ではいられまいよ」
「「……」」
本当にエファリアはギリギリだったようだ。まぁ、暗殺者を送り込まれた影武者の方はもっと際どかったけどね。間に合って本当に良かったと思う。
影武者とは言え……向こうもまだ幼い女の子だし。良く聖王の影武者なんか出来ていると感心するくらいだ。
「因みに襲撃に関しては表ざたになっておらず、摂政にも知らせてはいない。こちらから摂政に接触するのは今日の会合が終わってからになるだろうからな」
「……襲撃が表ざたになっていないと言う事は……未然に防いだという事ですか?」
「あぁ。襲撃の直前で無力化。そのまま捕虜にして自害も出来ない様に閉じ込めてある」
「何と……」
「襲撃犯に関してはこちらで情報を搾り取っても良いし、そのまま何もせずそちらに引き渡しても良い。勝手に王城に手の物を忍び込ませているからな。謝罪代わりに無条件で引き渡そう」
「い、いえ……そこまでしていただくわけには……」
若干困惑を見せながらヘルディオ伯爵が首を横に降ろうとするが、俺はそれを遮るように言葉を続ける。
「物のついでという奴だ。聖王殿が我が国にいる間に、本国の方で影武者が殺されるようなことになったら厄介だからな。妙なことにならぬように予防線を張っておいたまでの事よ」
俺が何でもないといった雰囲気を出しながら言うと、真剣な表情でヘルディオ伯爵が尋ねて来る。
「……仮に、情報をそちらで得る様に動いて貰った場合、その暗殺者は生きていられるのでしょうか?」
「ウルル」
「……問題……ない。治して……忘れさせれば……元通り……」
物騒!?
治して忘れさせて元通り!?そんな元通りある!?
……壊して治して相手が忘れれば元通り……か?……元通り……かも……元通りな……気がしてきた……うん、元通りだわ。
よかった元通りだ。
ウルルの言葉に一瞬葛藤を覚えたものの、概ね納得できたのでそのままスルー。
ヘルディオ伯爵も微妙に難しい顔をしていたけど、どうやらそのまま飲み込んだらしい。
「……私共がやるよりも、効率よく捕虜から情報を得る事が貴国であれば可能かと存じます。ですが、宜しければ、情報を吸い出した出涸らしで構いませんので、生きた状態で捕虜の身柄を譲っていただけないでしょうか?勿論相応のお礼はさせていただきます」
「ふむ、こちらとしては全く問題ない。無条件で渡すと言ったであろう?」
「いえ……今後の事を考えますと……」
あまり借りを大きくしたくないと言う事だろうか?
でもまぁ、それは今更過ぎるんじゃないかな?
問答無用というか、だまし討ちのような形で王様もうちに避難させている時点で色々手遅れ過ぎる。
「ならば、これからの話をするとしよう。我等エインヘリア、そして貴国ルフェロン聖王国の今後の事だ……以前聖王殿が口にした話、覚えているかな?」
「無論、聖王として一度口にした言葉だ。違えるつもりは無い」
「考えは変わらないか」
非常に頑固な様子のエファリアに、俺は若干苦笑するように相好を崩す。
「当然、と言いたい所だが……寧ろ、この国を知ることでより一層その想いは増したと言える」
「聖王の言葉とは思えないな。自国を売ると言っているのだぞ?」
「民の事を想えば、より良き国、より良き王に導かれる方が幸せであろう」
そう言ってにこりとほほ笑むエファリア。
随分と肝が据わっているみたいだが……まぁ、こちらもとりあえず聞いただけって感じだしな。
既にキリク達とルフェロン聖王国をどうするかは話し合っているからね。
「では、こちらからの要求を伝えよう」
俺が表情を引き締めて言うと、エファリア達の表情が緊張した物になる。
「我等エインヘリアは、ルフェロン聖王国を属国として統治下に迎え入れよう。聖王殿、それが貴女の言葉に対する答えだ」
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