第103話 死蔵品

 


 エスト王国の事をさくっとキリク達に丸投げした俺は、エインヘリア城に戻って来ていた。


 それにしても、今回の戦争はいつもと違って相手が色々仕掛けて来て勉強になったな。


 計略……まぁ、ゲームでは火計だったり水計だったり……落とし穴や奇襲なんかもそうだったけど、基本的に知略系のキャラが得意としていた戦争系のコマンドだったのだけど、今までの戦争ではそういった策を使ってくる相手はいなかった。


 伏兵や落とし穴と言った仕掛けを、こっちの世界でもキリクが看破出来ると分かったのは特に嬉しい情報だ。おかげで、今後の戦争もかなり有利が取れる事が分かったしね。


 まぁ、今の所、兵のスペックだけでゴリ押しできるんだけどさ……今回なんてあちこちに罠やらなんやら仕掛けられていたけど、こっちがやったことと言えば、まっすぐ行ってぶっ飛ばす……これだけだからな。


 いや、一応相手の奇襲を潰したり落とし穴を回避したりはしたけど……最終的には、盾兵をぶっとばして敵本陣目掛けて力押し。


 勢いそのままに本陣をあっさり制圧、指揮官達を捕虜にして敵兵に降伏を迫ったと……まぁ、流石に止まらない相手も結構いたけど、そういった相手はサリアに千程兵を率いさせて物理で黙らせた。


 そういえば、何故か本陣よりも後方に配置されていた魔法使いの部隊が、何かの準備をしていたけど……アレは何だったのだろうか?この世界の魔法は弓よりも射程が短いみたいだから、結構前の方に配置されることが多いみたいだけど……最後尾に置いての遊軍って訳でもなさそうだったし、アレはどんな意味があったのだろうか?


 その辺の情報は後で確認しておいた方がいいだろうな。


 わざわざ貴重な魔法使いを戦闘参加させず、最後方に配置していたんだ……何かしらの意図があったのは間違いない。


 恐らくだけど、何らかの切り札だろうね……どんな威力があるのか調べておかないとな。


 俺達にとっても脅威となるような物だとしたら……魔法先進国と言われている魔法大国と戦うことになった際、危険かもしれない。


 まだまだこの世界は未知で溢れているからな……多少は強者としての自覚はあるけど、油断なんてもっての外だ。調子に乗らず慎重に……注意は必要だ。


 そういえば……開戦前の舌戦、あの最中に飛んできた投石機での攻撃……アレはキリクでも事前に察知出来なかったよな。


 あれは奇襲には……あぁ、そうか、この世界基準ではあの攻撃は不意打ちになるのだろうけど、ゲームには舌戦なんてなかった訳だし、反応しなくてもおかしくは無いのか?


 いや、そもそも何処からが奇襲で何処からが普通の攻撃……?


 っていうか、開戦しているとかしていないとかの判断は……うん、分からんな。


 この辺をもうちょっとしっかり調べておいた方がいい気もするな。


 そんなことを考えつつ、俺は宝物殿の扉を開く。


 相変わらず、宝物庫手前のこの部屋は何のためにあるのか分からん……警備がいるわけでもないし……。


 まぁ、どういう仕組みか知らないけど、俺しか宝物殿には入ることが出来ないって話だから警備が薄いのだろうか?だからって一応お宝が収められているのに警戒していないってことはないだろうけど……。


 ところで、この部屋に入ることが出来ないって制約は、この世界の人にも適用されるのだろうか?城に出入りしている人達がフリーパスで入れでもしたら……あまり良くないよな。


 今度オスカー辺りを実験台にするか。


 そんなことを考えながら宝物庫に足を踏み入れた俺は、所狭しと置かれた武具や貴重なアイテムを眺める。


 何度来てもここは心が躍るね。


 さて、とりあえず今日の所はあまり時間もないし、さっさと用事を済ませておこう。


 俺は宝物庫の中を進んでいき、固有キャラ専用装備が置いてある一角で足を止めた。


「さて……どれにするかな……俺が装備するんだから剣じゃないと駄目なんだが……出来る限りそのキャラじゃなくても装備時のマイナス効果が痛くなくて、かつ効果が分かりやすい剣……難しいな」


 俺は、トロフィーのように飾られているレギオンズの固有キャラ達の専用装備を確認しながら頭を悩ませる。


 俺が何故宝物庫に来たかというと、この死蔵されている数々の専用装備達を有効活用出来ないかと思いやってきたのだ。


 まぁ、開戦前にサリア達の褒美をどうするか考えていた時に思いついた訳だが。


 今うちの子達が装備しているのは、武器とアクセサリーを一種類ずつ……これはゲーム時代の装備枠がその二カ所しかなかったからだ。


 例えば俺が装備しているのは覇王剣ヴェルディアと状態異常無効の指輪なのだが、このうち覇王剣は専用装備、状態異常無効の指輪は汎用装備となる。


 ゲーム時代であれば、専用装備はその固有キャラ以外が装備するとデメリットがガツンと入る為、うちの子達に装備させる事は無かった。


 その分、汎用装備で一番良い物を装備させたりしているわけだが、やはり専用装備に比べると多少劣る部分がある。


 まぁ、一概にはそうとも言えないのだが、それでも専用装備はぶっ飛んだ性能の物が少なくない……例えば、今俺の目の前にある紅蓮剣アグニ。


 ゲーム中では赤の国デンテル帝国の皇帝専用装備だが、武力と指揮の補正値が相当高い上、攻撃した時に追加で炎のダメ―ジを食らわせるのだ。


 攻撃時に炎の追加ダメージがある剣と言えば、以前手に取ったフレイムソードに同じ効果があるけど、アレとは威力が比べ物にならない。


 フレイムソードのあれは、本当にオマケというか……追加の炎は微々たるダメージしか入らない。


 具体的に言うと、通常攻撃の二十分の一のダメージだったかな?


 しかもそこに攻撃した相手の属性抵抗による軽減が入るのだから、もはや「これいる?」って程度の趣味武器だ。


 しかしコイツは違う。


 まず、攻撃した際に敵の炎耐性値を少し下げた上で追加の炎ダメージが発生する。


 その倍率は脅威の十割……通常攻撃と同じ威力の追加ダメージが入るのだ。


 炎が弱点の敵なら、通常攻撃より追加ダメージの方が威力が高いという訳の分からない性能である。


 しかし、そのアホみたいな性能もデンテル帝国の皇帝が装備してのことだ。


 別のキャラが装備すると、まず武力と指揮の補正値が二割程度落ちる。


 更に知略にマイナス補正が入る……アホの子になる剣なのだ。


 更に更に、自分の炎耐性がもりっと下がり……通常攻撃時に追加で炎ダメージが発生する。自分自身にね!


 覇王剣ヴェルディアのマイナス効果も酷いものだけど、紅蓮剣アグニも極悪である。


 それならいっそのこと、装備出来ないようにしろよと思わないでもないけど、何故か装備出来るのだ。


 恐らくアクセサリーと組み合わせてデメリットを軽減すれば使えない事もない、そんな感じなのだろうけど、貴重なアクセサリー枠を潰してまで専用装備を使うくらいなら、普通に最上位の汎用装備を使う方が良い。


 そんな訳で死蔵されている専用装備の数々だけど、はっきり言って勿体ない。


 この世界に来て数か月……今更ながらこれらの専用装備……いや、装備全般の実験をして、有用そうなものは褒美と称して放出しようと考えたのだ。


 コレクション的な意味しかない宝なんて、言葉通り宝の持ち腐れだろう。


「放出するには、まずマイナス効果の実験をしないといけないんだけど……うん、紅蓮剣はあり得ないね。丸焼けになる趣味はない……うーん、しかし、他も碌な物がないな」


 数々の専用装備を眺めながら、少しでもマシなデメリットの武器を探すが……流石に周回しまくった記憶があるとは言え、全ての武器のマイナス効果を覚えているわけではない。


「装備の詳細を見たい……フィオ、装備の詳細だ。アイテムの詳細な効果を見る機能が欲しいぞ」


 恐らく、今この瞬間も俺の事をストーキングしているフィオに要望を伝える。


 まぁ、フィオがどこまで要望を叶えられるのかは分からんけど、要望は出してみないと通るかどうか分からないからな。


 それに出すだけならタダだ。


「こういう特徴的な奴なら覚えているんだが……」


 飾られている毒々しい色の短剣を見つめながら呟く。


 レギオンズには短剣ってカテゴリーは無かったから、これも普通に剣って扱いなのだけど……この武器は暗殺者キャラ……まぁ、外交官だね……そいつの専用装備で、とにかく状態異常に特化した武器だ。


 しかしまぁ、お察しの通りというか……ソイツ以外が使ったら、敵も自分も状態異常のオンパレードだ。なんなら偶に死ぬ。


 いや、現実となったこの世界で即死効果とか危険極まりないでしょ。


 状態異常無効の指輪じゃ即死は防げないし、即死無効の指輪を装備すると状態異常をもろに食らう……あれ?


 よく考えたら、アクセサリーの類って複数装備出来るんじゃないか?


 指輪なんだし、複数個装備してもいけるんじゃね……?


 いや、だからってこの短剣を試したりはしないけど……そもそも武器やアクセサリーは、ゲームでよくある、装備しなけれは意味は無いって代物だからな。


 どういう理屈か知らないけど、手に取っただけでは装備の効果は発揮されない。


 つまり専用装備のデメリット効果も手に取っただけでは発動されず、その武器を使うと意識して初めて効果が表れるのだ。


 そこでハタと気付く……状態異常無効の指輪って、常時効果発揮されているのだろうか?


 状態異常……例えば毒をくらってから、状態異常無効の指輪装備してるもんねって意識しても色々遅いのでは……?ゲームでは状態異常くらってる最中にアクセサリーを替えても、治ったりはしなかったしな。


 いかん……そんなこと考えたら急に怖くなって来た。


 ちょっと真面目に装備やアイテムについて実験しよう。


 調べるのは、専用装備のマイナス効果について、アクセサリーの効果発動の条件に付いて、複数個のアクセサリーを装備して効果があるのか。


 後は何かあるかな……ポーションと毛生え薬以外の消費アイテムの効果も確かめないとか……。


 今まで色々と忙しかったってのもあるけど、アイテム関連をほったらかしにし過ぎたな。


 ちょっと俺の業務の中に、アイテムの調査も入れておいた方がいいと思う。


 でも、今日はもう時間がない。


 俺はこの後、エファリア達との会談予定だ。


 外交官が調べてくれた情報とエファリア達の話を擦り合わせ、ルフェロン聖王国に対して今後どういった対応をするのか、そういった大事な事を決める話し合いだ。


 それが終わったらエスト王国との戦争の件も話さないといけないし……アイテムの件、いつ取り掛かれるだろうか……?


 折角宝物殿に来たのに眺めるだけで終わっちゃったな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る