第101話 策を見破る瞳
「サリア、準備はいいか?」
『大丈夫であります!しかし、この舌戦って意味あるのでしょうか?』
「この辺りの仕来りだと言うのであれば仕方あるまい。それに、我等には関係ないが、自軍の士気を高めるために必要なのではないか?」
『なるほど!私達には関係ありませんが、言われてみると必要な気がしてきたであります!流石フェルズ様であります!』
俺は『鷹の声』を使用して非常に元気な女性……サリアと会話をしていた。
現在俺がいるのは、エスト王国を侵攻しているサリアの軍の本陣。そこでいつものように『鷹の目』を起動して戦場を俯瞰しながら、舌戦に向かったサリアとのんびりと会話をしていたのだ。
恐らくこの戦がエスト王国との最終決戦ということで、戦場まで来たのだが、『鷹の目』を使えば、別にエインヘリア城の中からでもこの戦場を見ることは出来る。
しかし、直接戦場に来てくれた方が気合が入るであります!とサリアに言われたので、戦場まで来た次第だ。
というか、俺としては観戦程度のつもりで現場まできたのだが……。
「しかし、サリア。本当に俺が指揮を執って良いのか?」
『勿論であります!フェルズ様に指揮を取ってもらった方が私だけじゃなくって皆も嬉しいに決まっているであります!』
「ふむ……」
サリアはそう言うけど……エスト王国侵攻はサリアを総大将にしてここまで進めて来たのに、最後の決戦だけ俺が掠め取る様で申し訳ない気がするんだが……寧ろ最後だからこそ指揮をして欲しいであります!と押し切られたのだ。
「まぁ、お前達がそうして欲しいと言うのであれば、この戦、俺が指揮を取ろう」
『よろしくお願いするであります!』
まぁ、総大将としてここまで頑張ってきたサリアの頼みだし、張り切って指揮を執るとしよう。
三国同時攻略作戦だったが、一番最初に国を落とすところまで言ったのはサリアだし、何かご褒美……恩賞?も用意しないとな……宝物庫からなんかあげるか?
サリアなら槍だろうけど……普通に一番良い槍を持たせているしな。
それ以上となると……専用装備くらいになるが……あれはその名の通りレギオンズの固定キャラクター専用の装備だからな。本人以外が装備するとデバフやら呪いやらなんやらかんやらが掛かって、凄い弱体化する代物だ。
俺の使ってる覇王剣もそうだし……。
うーん、そうなると何かあげられる物……って今考えることじゃないか。
「今回の相手は中々規模がでかいな」
俺は気持ちを切り替えいつもと同じように視覚を共有しているキリクへと話しかける。
「敵軍は五万……この世界での相手としては最大規模ですね」
「敵本隊は……鶴翼の陣ってところか?」
こちらに対してVの字の様に配置された陣形……確か防御向きの陣形だよな。
それに兵力数に差があるからこちらの攻撃を受け止めつつ包囲するように包み込める……って感じだよな。
まぁ、相手は防御側だし、数が多ければ有利な鶴翼を選ぶのは普通だろうけど……問題はそこじゃない。
敵が陣を構えている斜め前方……西側にある大きめの丘……そこにも敵は陣を構えている。
「丘に布陣しているのは約五千……ですがこちらの丘は要塞化しておりますね」
キリクの言う通り、丘にはそこかしこに柵が立てられ、弓を構えた兵が無数に配置されているようだ。
「うむ……攻め難く守り易そうな丘だな。しかも、アレは……投石機か?」
俺は俯瞰視点を少し動かして丘の辺りをズームしてみる。
そこには大型の投石機が設置されており、その狙いはこっちの陣営に向けられているのが分かるけど、投石機自体はこちら側からは見えない様に配置されている。
「そのようですね。攻城兵器をあそこに配置する意味は……」
「まぁ、どう考えても我等に向かって放つのだろうが……そこまで効果は無さそうだな」
投石機の数は三……まぁ、岩が飛んできたら確かに怖いけど……連発できるものではないだろうし、そこまでの脅威ではないよな?
「攻城兵器であって対人兵器ではありませんしね……大雑把な狙いをつけることは出来るでしょうが、狙いから数メートルずれることも珍しくないかと」
「……本陣を狙うつもりなのかと思ったが、流石にそこまでの飛距離はないか?」
「そうですね。高低差を考えてもここまで届く事は無いと思います。ですが投石機で飛ばす物が岩だけとは限りません」
……なるほど。
言われてみればそうだな。火炎壺とか、礫とか……広範囲に攻撃出来る物を飛ばしてくる可能性は高いな。
それでも連射は出来ないだろうし、どのくらい攻撃力があるのか分からないけど……まぁ、うちの子達がどのくらい被害を受けるものだろうか?
流石に城壁を壊すような一撃を喰らって無傷ってことはないだろうけど……でもなぁ……リーンフェリアはグラウンドドラゴンの尻尾攻撃をはじき返したし……投石機で飛ばされた物をあっさり跳ね返しそうだよな。
ジョウセンもドラゴンの攻撃を掴んでぽーんって感じで投げてたし……うん、あの投石機は鹵獲しよう。
うちの子達にとってアレがどのくらい脅威なのか調べる必要がある。
となると……どう攻めたものか……丘攻めは後回しにして、下に布陣している奴等から倒すべきか?
まぁ、普通に考えると相当厄介な布陣だと思う。
平地の軍勢とぶつかると丘に布陣している軍に側面を見せることになってしまうし、丘を攻めれば丘の上と下から挟み込まれることになる。
こちらの兵数が多ければ軍を分けて丘と平地の二面作戦でも良かったのだろうけど、残念ながらこちらは寡兵。
敵の五分の一しかいない状況で更に軍を分ける訳にもいくまい。
まぁ、兵の質が違うからな……分けても対処は出来るだろうけど、わざわざ戦力を分散する必要も無い。
丘の軍を放っておく理由としては、高所から矢を射かけられたところで、召喚兵達には殆どダメージが無いからだ。それは以前のルモリア王国との戦いでもはっきりしている。
丘から降りて横撃を仕掛けてくるようであれば、その時は普通にうちの左翼に任せてしまえばよいし、こちらが敵本隊に突撃、鶴翼で受け止められた後、背後を蓋するように丘の軍が動けば……本陣に残してある後衛で更に降りてきた軍の後背を突けばよい。
まぁ、うちの子達の圧倒的スペックがあるから出来るパワープレイだけど……それがうちの強みだから問題無し。
「投石機は一台で良いから鹵獲したいな」
「あの程度の物でしたら作成は可能ですが?」
俺の言葉にキリクがそう進言してくる。
「いや、彼らの作った物が欲しいのだ。どの程度の威力でどの程度の飛距離なのか、我等にとってどの程度の脅威足りえるのか、その辺りを調べたくてな。キリクが作ってしまってはあれよりも遥かに高性能な物が出来てしまうだろう?」
俺は肩を竦めてみせるが、よく考えたら視覚共有をしているキリクに俺の姿は見えなかったな。
護衛として天幕にいるリーンフェリアには見えただろうけど……ちょっと恥ずかしい。
「そう言う事でしたか。では投石機は実験用に鹵獲すると言う方向で……気を付けるべきは鹵獲を恐れた相手がアレを壊してしまわないかといったところですね」
それもそうか、ここで投石機を奪われたら、王都に向かって使われると考えるのが普通だもんな。優先して壊すに決まっている。
「まぁ、無理をしない程度に狙ってみよう。最悪壊されたとしても、彼らに新しい物を作らせれば良いだけだしな。素直に同じものを作るかどうかは……今後の我等次第だろう」
敗戦国が素直にこっちの言葉を聞き入れるかどうかは……中々難しいところかもしれない。
普通はルモリア王国の貴族達みたいに、スパッと切り替えられるとは思えないからね。
「フェルズ様の御威光があれば造作もない事かと」
そんなことはないよ?
キリクの根拠のない信頼に一瞬気が遠くなるような感覚を覚えたが、敵軍から旗を持った人物が進み出て来たのを見て気を引き締める。
どうやら舌戦が始まるようだね。
こちらから出るのはサリアだけど……大丈夫かな?
リーンフェリアがやっているのを聞いたことはあるけど、サリアはあれ程高圧的な事言えるのだろうか……?
サリアはどちらかというと素直な感じの子だからな……まぁ、指名したのは俺なんだが。
どんな煽りをするのか、拝聴させていただきましょうかねぇ……
「フェルズ様。こちらの右翼後方の森に伏兵が配置されているようです」
サリアの舌戦に耳を傾けようとした俺に、キリクが伏兵の存在を教えてくれる。
「右翼後方……この森か。数は分かるか?」
「およそ千といったところです。まだこちらに突撃してくる様子はありませんが。それと、その者達とは別に、我が軍の後方で身を隠す様に移動を続ける敵兵が……三百。こちらも恐らく奇襲を仕掛けるつもりでしょう」
キリクの指摘に俺は軍の後方にフォーカスを向ける。
……いた。確かにこちらから身を隠す様にしている小さな集団があるな。
俯瞰視点だと丸見えではあるけど、キリクに言われるまで気づかなかった。
三百人って、軍としてはほんのちょっとって感じだけど、それなりの人数だもんな……よく見つからない様に行動出来ているものだね。
因みに森にいる伏兵に関しては、俺の目には全く見えない。
木が邪魔で森の中の様子は一切見えないからだ。
同じ視界を共有している筈のキリクが伏兵の存在に気付くことが出来たのは、キリクの持つアビリティ『計略看破』のお陰だろう。
ゲーム時代ではこのアビリティを持つ者を参謀にしておくと、戦争パートで敵が計略を使う際に、事前に敵が何の計略を使おうとしているか教えてくれると言う代物だった。計略は効果が大きい分発動までに時間を必要とする者が多かったので、それを事前に教えて貰えると対処がしやすいのだ。
勿論正確に見破れるかどうかはそのキャラの知略次第なので、ぽんこつ参謀がそのアビリティを持っていても殆ど役に立つ事は無いが、我等が参謀キリクさんの知略は最大値の125である。
成長した覇王の1.5人前よりちょっと低いね。
まぁ、装備の補正があるから実際はもっと高いけど。
とりあえず、そんな感じで俺のアビリティである『鷹の目』だが、共有しているキリクにとっては俺以上の物が見えているのだ。
「森にいる千は、こちらから三百程出そう。後方の三百に対しては……本陣に突撃して来てから迎撃すれば問題ないな。見た感じ騎兵って訳でもないし、近づいてきたところに魔法を撃ちこめばそれでいいだろう」
「承知しました。森に向かわせる者はどうしますか?」
「リオに行ってもらう。森の中なら槍兵より剣兵の方がいいだろうし、他の者は前線にいるからな。問題ないか?」
俺は本陣の守備をしているリオを指名する。
普通は本陣の守備の責任者を出すなんてありえないだろうけど、本陣には俺とその護衛であるリーンフェリアもいるし、一応二人とも三百ずつ召喚兵を出しているのでリオが抜けても問題はない。
「畏まりました。本陣の守備に関しては問題ないかと」
キリクの許可も出た事だし、早速リオに指示をだそう。
「リオ、聞こえるか?」
『はっ!聞こえております!』
俺が声をかけると、生真面目って感じの女の子の声が聞こえてくる。
彼女はゲームの頃、戦争用のキャラとして育成した剣士の女の子だ。
エース級ばかりを集めた一軍には入っていなかったが、育成はしっかりとしているので別に一軍のキャラ達より弱いと言う事は無い。
因みにジョウセンと違って剣以外の武器を使う事は出来ないけど、彼はRPGパート用のキャラなので戦争パート用のキャラであるリオ達とは育成方針が違うから仕方が無い。
「俺達の軍の右翼側後方にちょっとした森があるのは分かるか?」
『はい!確認出来ております!』
「そこに伏兵が千いるようだ。舌戦が終わり次第、三百を連れて潰してこい」
『はっ!承りました!』
「隊長格は捕虜に、他の兵は特に捕虜にする必要はないが、戦闘不能にはしておいてくれ。死者はなるべく抑えてくれ」
『はっ!一人の死者も出さずに制圧してまいります!』
「……頼んだ」
まぁ、リオが出来るって言うのだから出来るのだろう。
とりあえず、後方の伏兵はこれで良し……それじゃぁそろそろ、サリアの方を……そう思って視線を前線に動かそうとした所、キリクから警告が飛んできた。
「フェルズ様!丘より投石機による攻撃です!」
キリクの声が聞こえてすぐ、俺は戦場にいる全員に声を飛ばす!
「全軍!左方の丘より投石機による攻撃あり!備えよ!」
俺の警告からほんの僅か遅れて、エインヘリア軍の前衛目掛けて無数の礫が降り注いだ。
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