第91話 あいるびーばっく
ラーグレイ王国の使者がキリクと会ってから一ヵ月が過ぎた。
当然俺は会っていないし、使者がどうなったかは……気にしないことにした。
多分というか、確実にラーグレイ王国は絶賛キリクが仕掛け中だろうし、完全に任せた以上そちらの詳細を俺がいちいち確認するべきではない。
……いや、ラーグレイ王国がとんでもないことになっている可能性を否定出来ないから、ちょっと怖くて確認出来ないとか……そういうことでは断じてない。
さて、それはともかく……今日は、先日報告のあったルフェロン聖王国の使節団が旧王都の方に到着する予定だ。
といっても、今日一日はヴィクトルが使節団の歓待をしてくれるらしく、俺がその使節団と会うのは明日となっている。
因みに使節団の殆どは護衛らしいが、それでも総勢二十人程度しかいないらしい。
ヴィクトルが降伏の使者として俺の所に来た時は、見るからに文官って感じの人達だけでも十人以上居たって考えると……今回の使節団は随分小規模なのか?
摂政派がしょぼいのか、うちが重要視されていないのか……まぁ、会えば分かるか。
「大将、ちょっといいかい?」
「オトノハか?入れ」
「失礼するよ」
ルフェロン聖王国の使節団について考えていると、開発部長であるオトノハが執務室へとやってきた。
「執務室に来るとは珍しいな。何かあったのか?」
「報告と相談がちょっとね。今いいかい?」
「構わない。聞かせてくれ」
俺がペンを置き手を組みながらオトノハの話を聞く体勢になると、オトノハが少し気まずげな表情を見せる。
「あー、大将。前に話を貰った、魔力収集装置の設置をうちの連中以外に教えるって件なんだが……」
「……上手く行かなかったか」
「本当にすまない。ゴブリンや人族の研究者や技術者連中に教えて来たんだが……それぞれ問題があって、ちょっと厳しいかもしれない」
本当に申し訳なさそうにオトノハが頭を下げる。
適当に指示を出したのは俺だから逆に申し訳なくなるな……。
「技術的な話は俺も分からないが……どういった点がダメだったか聞かせてくれるか?」
「あぁ……まず、人族の研究者や技術者なんだが、魔力の感知能力が低すぎて装置を組みながらの魔力調整が出来ない。あれだと、通信機能も転移機能も使えないし、何とか現地の魔力を収集は出来たとしても、大本になっているこの城の魔力収集装置に送ることが出来ないんだ」
それは……使い物にならないね。
「現地の魔力に合わせた調整を行って、大本の装置とパスをつなぐ……魔力感知が出来ないと一番大事なこの作業が出来ないんだ。助手にするのも無理だと思う」
「……例えばだが、魔力を扱うに長けた技術者……魔導技師や、技術はないだろうが軍に所属していた魔法使い達はどうだ?」
「そいつらにも試してもらったけど駄目だった。ただの技術者よりはマシだったけど、それでも魔力収集装置を一から組み上げるのは無理だね」
「なるほど……」
魔法が得意な連中がダメなんじゃ、人族では厳しいだろうな。
「人族に関しては……少なくとも今うちにいる人材で、魔力収集装置の設置を任せられる奴は居ないと思う」
「まぁ、仕方ないな。それでゴブリンの方は?」
「ゴブリンの方は、魔力の感知や操作は少し時間をかければ物に出来たよ。でも手先が器用じゃなくてね……大工仕事なら問題なかったんだけど、精密機器の組み立てとなると中々上手く行かなくって……人族と違って絶対に無理というレベルじゃないけど、一人前になるには年単位で時間がかかると思う」
「年単位か……それはきついな。今開発部に所属している者達も、教育に付きっきりになれる程時間に余裕があるわけではないしな」
というか寧ろ、時間が足りない部署ナンバーワンだろう。
しかし、手先の器用さか……年単位で時間がかかりそうってことは、恐らく俺が想像しているよりも遥かにレベルの高い器用さが必要なんだろうな。まぁ、ゴブリンが相当不器用って可能性もあるが。
「例えばだが、ゴブリンが魔力の感知や操作を行い、人族が組み立て作業を行うといった感じで、作業を分担しつつ組み立てる事は不可能なのか?」
「無理だね。魔力の操作は少しのずれも許されない作業だし、機械を組むのも、その地域の魔力に応じて組んで行かなきゃいけない。がわだけ見れば全部同じ魔力収集装置なんだけど、その中身はその土地その土地に合わせて作った一品ものなんだ。それを他人の感覚で組まなきゃいけないっていうのは……あたいでも厳しいもんがあるよ」
「そうか……簡単に組み立てているように見えていたが、やはりオトノハ達技術者は凄いな。お前達が居てくれるからこそ、俺達はこうやって生きていくことが出来ている。本当に頭が下がる思いだ」
感謝の告げながら俺が笑いかけると、オトノハが慌てた様に手をぶんぶんと振りながら口を開く。
「止めとくれよ大将!あたい達はやれることをやっているだけさ!そんな大層なもんじゃないよ!」
「そんな事は無い。お前達が居なければ、俺達は早晩、身動きが取れなくなるのだからな。戦闘部隊の様に派手な活躍というのはあまりさせてやれていないが、俺はお前達に感謝している。お前達こそこの国の土台であり要だ」
「た、大将!そのくらいにしとくれよ!ほんと……もう、無理だから!腰が砕けちまう!」
真っ赤になった顔を手で隠す様にしながら、オトノハがフラフラとおぼつかない足取りで動く。
本当に倒れ込んでしまいそうな様子だが……まぁ、大丈夫だろう。
「……分かった、これ以上は言うまい。だが、俺が心より感謝している事は覚えておいてくれ」
「あふ……」
俺がそう言うと、オトノハがぺたんと床に尻もちをついてしまった……一瞬ちらりとおみ足に目線が言ってしまったが、それを狙ったわけでは断じてない。
「大丈夫か?」
「ほんと、勘弁しとくれよ大将……」
恨みがましそうに、上目遣いでオトノハがこちらを睨んで来る。
そんなオトノハを見ながら、俺は机に肘をつき拳を頬杖にする。
「くくくっ……中々面白い物を見せてもらった」
おみ足の事じゃないよ?
「うぐ……最近大将はちょっと……性格が悪くなってやしないかい?」
「そうか?嫌な思いをさせたのなら、悪かったな」
「いや、別に……嫌ってわけじゃないけどさ……」
手をもじもじとさせながらオトノハが立ち上がり、やはり恨みがましそうにこちらを見ていたが、やがて気を取り直すように咳払いをして話を始める。
「……続きを話すよ?人族もゴブリンも魔力収集装置の設置を任せるには適正不足……ここまではいいかい?」
「あぁ、問題ない」
魔力感知の出来ない人族と器用さが足りないゴブリン……中々上手く行かないものだな。
「それでどうした物かと頭を悩ませていたんだけど、バンガゴンガから一つ話を聞かせてもらってね」
「バンガゴンガから?」
「あぁ、妖精族の中に、手先が器用で魔力の扱いに長けた種族がいるらしいんだ」
「ほう……もしかしてドワーフか?」
「知ってたのかい?」
俺が先回りして言うと、オトノハがキョトンとした表所になる。
あ、イカンな……こういうのはちゃんと相手に言わせるようにしないと……感じも良くないし、色々と問題も出る。
「いや、勘だ。ドワーフという種族が居ると言う事だけは以前バンガゴンガから聞いていたから、もしやと思っただけだ」
「やっぱり大将には敵わないね。これだけ忙しそうにしながらもしっかり情報を集めているんだから」
机の上に重ねられた書類にちらりと視線を送りながら、オトノハが苦笑する。
「勘と言っただろ?それより、詳しく話を聞かせて貰えるか?」
「あいよ。さっきも言った通り、ドワーフってのは魔力の扱いに長けて手先が器用、そして魔道具とは違った系統の魔法の道具ってのを作れるらしいんだ」
「ほう?」
「それに身体が屈強で、劣悪な環境下でも生きていくことが出来るらしい。バンガゴンガが言うには妖精族最強の種族だってさ。毒を摂取しても平気だし、溶岩に落ちても平気だとか、海に沈んでも海の底を歩いて陸に上がって来るとか……」
何そのトンデモ種族。
ターミ〇ーターですら溶鉱炉は無理だってのに。
「あくまで噂だけど、自分達の肉体があまりにも強すぎるからこそ、モノづくりに傾倒していったとかなんとか……」
ドワーフ怖いな。
俺のイメージでは、酒飲み、髭もじゃ、身長は低いけどガタイはいい、鉱山とかに住んでいる、魔法はあまり得意じゃない……そんな感じだったんだけど。
この世界のドワーフはちょっと……いや、かなりぶっとんだ生物らしい。
聞いた限りだとドラゴンより強そうだよな。
「そのドワーフを引き込んで、魔力収集装置の設置をさせるというわけか」
「あぁ。教えてみなきゃ使えるかどうかは分からないけど、バンガゴンガだけじゃなく人間の研究者達もドワーフならばって意見だったよ」
「引き入れてみる価値はありそうだな。ドワーフのいる場所は分かっているのか?」
「あぁ、人族の間でも有名らしいよ。エインヘリアから見て北東の方にドワーフ達の国があるらしいんだ」
「ほう?ドワーフは国を持っているのか」
妖精族は人族に虐げられているのかと思っていたけど、アレはゴブリンだけだったのかな?
まぁ、それはさて置き、北東か……えっと、今攻めてる国が確か北東だったよな?ドワーフの国ではない筈だけど、その国よりももっと先ってことだよな?
北東の国は……何て名前だっけ?攻めてるのはサリアの軍だったはずだけど……国の名前は……うん、一気に攻めたから思い出せんな。
まぁ、どうでもいいか。
それよりも大事なのはドワーフの国だな。
彼らが魔力収集装置の設置が出来たとして……十数人程でも雇い入れることが出来れば、かなり助かる。
ドワーフも妖精族なんだし、狂化に悩まされている可能性はあるし……っていうかさっき聞いたスペックだと、ドワーフが狂化したらどえらいことになりそうな気が……。
うん、早めにドワーフ達と国交を結んだ方がいいかもしれない。
「狂化の件もある。早めにドワーフと繋ぎを作りたいな。ドワーフの国の正確な位置は分かるか?」
「今攻め込んでるエスト王国。そこからさらに一つ国を跨いだ先にドワーフの国があるみたいだね」
北東はエスト王国か……そう言えば聞き覚えがある気がする。
「間に国が二つか……まぁ、一つはあってない様な物だが……面倒だな。国交の全くない国の使者を素通りさせてくれるかどうか……」
うちの子達なら強行突破するのは簡単だろうけど……流石に国を代表する使者がそれじゃマズいだろうし……かと言ってドワーフの所行きたいからって理由で戦争は吹っ掛けられないしな……。
その国も三国みたいに誘いに乗ってくれるなら話は早いが……どいつもこいつも考え無しって事は無いだろうし……どうしたもんかねぇ。
こそっと外交官をドワーフの国に送るって手もあるけど……いや、正式に国交を結ぶのであれば裏からこそっと手を回すのは世間体が悪い。
いや、覇王が世間体を気にしてどうするって気もするが……別に全部が全部敵ってつもりはない。
今回だって、ちょっと隙を見せたくらいで襲い掛かって来た方が悪い訳で、俺から攻め込んだわけではない。
礼儀知らずの国に対しても……表立って俺が何か仕掛けているわけではない。
まぁ、ラーグレイ王国は大変な事にはなっているのだろうけど……最後に兵を率いて王都に行けばいいって言われましたからなぁ……その時点で、絶対相手の王様、色々終わってると思う。
それに攻めてこなかったルフェロン聖王国の使節団は、ヴィクトルが今頃歓待している頃だろうし、実に平和的に動いていると……言うには周辺四国で血生臭い香りが蔓延しているが、概ね俺の周りは平和だ。
「ドワーフの国については少し協議が必要だな。今は四国相手に動いているし、今日もルフェロン聖王国の使節団が旧王都の方に到着した。個人的にはドワーフは優先したいが、まずは足元を片付けてからにするべきだな」
「うん、分かったよ」
「すまないな、折角意見を持って来てくれたというのに」
「いや、あたいも今の状況でドワーフまで手を伸ばせるとは思ってなかったさ。ただ、早めに大将の耳に入れておかないと、どんどん次の手を打っちまうだろ?今ならまだ次の手を打つ前に滑り込ませられるかなぁってね」
いや……そんないくつも同時に物事考えられませんよ?
今回偶々複数のタスクが同時進行しているだけで……なんなら指示だけ出して、そのまま忘れたりしていること多分沢山あるからね?
「そうだな……ドワーフというか、魔力収集装置の件は優先したい事柄だし、早めに情報を持って来てくれたのは助かる」
「すまないね……あたい達が、もっと早く魔力収集装置を設置していければ良かったんだけど」
「専門家……いや、オトノハが最良と言って出している工数だ。そしてお前は、俺が見出した最高の技術者だ。これ以上の数字を出せるもの等この世界には存在しないし、俺はこれよりも早く設置できると言ってくる奴がいたらそれを疑うぞ?」
俺がそう言うと一瞬顔を赤くしたオトノハだったが、頭を掻いた後、大きな笑顔を見せた。
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