第81話 生まれ落ちた意味



 ドラゴンの後処理はカミラ達に任せ、俺はリーンフェリアと共に城に戻った後、ヴィクトル達との謁見の続き……というか、場所を変えて会談を行った。


 俺が部屋に入ると大興奮のヴィクトル達に出迎えられたが、暫くすると落ち着きを取り戻し、非礼を詫びた。


 しかし、その後も彼らは俺達の力を褒め称え、この力があれば他の領主達も必ず納得するし、周辺諸国もそうそうこちらに手出しはしてこないだろうと喜色を浮かべていた。


 ドラゴンの首はこのまま氷漬けにして、エインヘリアの武威の象徴……周辺諸国を黙らせる為の神輿として飾ることを進められた。


 正直生首なんか飾りたくないし……お亡くなりになった後も見世物として首を飾られるドラゴン君には同情を禁じ得ないけど、それでエインヘリアが安定すると言われては、致し方なし……。


 体も頭も有効活用させてもらうとしよう。


 牙とか角も結構いい値段で売れるみたいだけど……まぁ、龍殺しの噂が蔓延して、周辺諸国の連中にある程度ドラゴン君の首を公開出来たら、素材なってもらって供養とすることにした。


 永遠に見世物となるよりはマシだろう。


 ドラゴンに関してはそのくらいだったが、今回ドラゴンを倒したのはあくまで個人の武勇……軍としての強さを見る必要が無いのか確認した所、軍の精強さは先の戦で十分知れ渡っていると言われた。


 俺的には軍の強さを見せつける為、うちの子達による軍事演習を考えていたのだが……今はそこまでしなくても良いと言われてしまったのが残念だ。


 まぁ、力を見せつける為じゃなくても、うちの子達に演習させるのは悪くなさそうな案なので、そのうちやろうと思う。


 とりあえず、会談で決まったのは……旧ルモリア軍の再編成、貴族制の廃止、禁足地『龍の塒』の開放とそれに伴う開発、一か月以内に全領主の招集、ゴブリンおよび他の種族への対応の発布、旧ルモリア王都の代官にヴィクトルが就任、旧ルモリア王国内全ての集落に魔力収集装置の設置、ドラゴン素材の売却と商人の誘致。


 他にも何やら細々と決まっていったみたいだけど、途中から俺は「許可する」の一言を喋るだけのマシーンとなっていた。


 正直、今日は良く働いたと思うので、部屋に戻ってルミナをもふりつつベッドにダイブしたかったのだが、俺がその会談から解放されたのは、真夜中近くになってからだった。


 せめて……休憩……しようぜ?


 唯一、疲れ果てた俺が部屋に戻った時、丸くなっていたルミナが飛び起き、尻尾をぶんぶん振りながら駆け寄って来てくれたのが癒しだった。






「随分とお疲れの様じゃな」


「……疲れているんだから、普通に寝かせろよ」


 ベッドにもぐりこんだはずの俺は、満天の星空が輝く荒野に佇んでいた。


「お主が疲れておる様じゃから、こうして癒しを運んできてやったのではないか」


「……癒しぃ?」


「うむ。卑しいお主は、私の様な美少女を見ることでご飯三杯はいけるじゃろ?」


 しなを作って見せるフィオに、俺はかぶりを振って見せる。


「いけねぇよ。少なくとも俺はそんな上級者じゃねぇよ」


 とは言ったものの……色々とあざといポーズをとるフィオは、ちくしょう……可愛い。


「ほほほ、欲情してもいいんじゃよ?するだけならのう。触れることは許さんが」


 ……見た目は可愛いが、中身がダメだな。


「なんじゃ、中身を見たいのかの?」


 蠱惑的な笑みを浮かべながらスカートの裾を摘まんだフィオが、ゆっくりとそれを持ち上げていく。


 ゆっくり……実にゆっくりとだが、徐々に足が露になっていき……膝を越え……遂に太ももが……。


「ここまでじゃな」


 そう言ってフィオが摘まんでいたスカートをパッと離す。


 当然スカートの裾は重力に逆らうことなく落ちてゆき……全てを覆い隠す。


「くそがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ありがとうございます!」


 ありがとうございます!くそがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 しゃがみ込んだ俺は全力で地面に拳を叩きつけた。


 一致しない口と心が、俺に訳の分からない行動をとらせる。


「いや、ドン引きじゃよ」


 そんな俺を見下ろしながら、ないわーって感じの表情を見せるフィオ。


 さて、茶番はこのくらいにするか。


 そう考え、俺は立ち上がる。


「いや、全力で悔しがりつつお礼を言っておったじゃろ。口だけじゃなく心の中でも……完全一致じゃったわ」


「……いつも時間がないとか言って肝心な事を話さないだろ?とっとと要件を話せ」


 訳の分からないことを言っているフィオに、俺はため息をつきながら言う。


「……まぁ、確かにいつも中途半端じゃったが……今日は結構時間があるのじゃぞ?」


「ほう?なら色々聞きたい事もあるし……椅子とか出せないのか?」


 何故かドヤ顔をするフィオの方は見ずに、椅子を要求する。


「空気にでも座っておれ」


「椅子を要求したら、空気椅子を強要してくる奴は初めてだ」


「……別に夢の中で疲れる訳でも無し、空気椅子でもなんでもいいじゃろ?」


「疲れないからってわざわざ空気椅子はやらねぇよ。せめて直立するわ!」


 疲れないって言われたが、精神的にはめっちゃ疲れるぞ?


「まぁ、冗談はさて置き……何でも聞くと良いのじゃ。答えられる範囲で答えてやろう」


 先を促す様に手をひらひらさせるフィオに、俺は真剣な表情で尋ねる。


「……何故俺をこの世界に呼んだ?お前の目的はなんだ?」


「ふむ……それを説明する前に、もう一度自己紹介をさせてもらうのじゃ。我が名はフィルオーネ=ナジュラス。今より五千年ほど前の魔王じゃ」


 キリっとした顔でフィオが自己紹介をする。


「へー」


「……」


「……」


「……それだけかの?」


「それだけだが?んで、目的なによ?」


「……いやいや、もっとあるじゃろ?我魔王ぞ?恐れるとか、慄くとかあるじゃろ?」


「いや、特に。それより目的、はよ」


 俺のうっすいリアクションにフィオが慌てる。


「……魔王ぞ?」


「それは分かったが……昨今、魔王なんてそんなに珍しくないだろ?一昔前ならラスボス感あったけど、最近じゃ実はいい奴ってパターンが殆どだし、逆に絶対悪って感じの魔王の方が珍しいくらいだわ。恐れる必要がどこにある」


「悪いとかそういうのは置いといて、もう少し何かあるじゃろ?」


 不服そうに口を尖らせながらフィオは言うが……。


「俺覇王だし?魔王とか中ボス感覚で倒してきてるし?」


「それはゲームの話じゃろ?私は本物の魔王だぞ?」


 どうやらもっと反応が欲しいらしい……仕方ないな。


「……とりあえず、最低でも五千歳な事には驚いた」


「……そろそろ時間じゃな。さらばじゃ」


 俺の言葉に一気に無表情になったフィオが、踵を返しどこかに歩き去ろうとする。


「待て待て、お前がなんかリアクション取れって言うから捻り出したんじゃねぇか。落ち着けよ、ばーさんだなんて思ってねーよ。よっ!目麗しい魔王フィルオーネ=ナジュラス!相変わらずとってもキュートだね!かわうぃねー!」


「気持ちわる……もう、良いのじゃ。呼び出した目的じゃったな。それは、私を助けて欲しかったのじゃ」


 なんか大きくため息をつきながらフィオが言う。


 失礼な奴だ、大仰なまでに反応してやったというのに……。


「助ける……?何から?」


 とは言え、俺は大人な対応で話を先に進める。


「……何から、というか……魔王の魔力の事は知っておるじゃろ?」


「軽くだが……魔王からあふれ出た魔力で、あまりそれを取り込んだりすると狂化するんだろ?」


「大体そんな感じじゃ。魔王とは、ただ存在するだけで他の生物に害をなす生物なんじゃよ。私はそれをどうにかしたかったのじゃが、その解決手段として呼び出したのがお主じゃ」


 魔王の魔力をどうにか……あぁ、魔力収集装置か。


「うむ。五千年前……私は大陸中に蔓延していた魔王の魔力全てを使い、解決策、若しくは魔王の魔力に対抗できる手段を持った存在をこの世界に呼び出そうとしたのじゃ。その儀式自体は上手く行ったのじゃが……大誤算があってのう」


 フィオは色々抜けてそうだからな、きっと盛大にやらかしたのだろう。


「……実際そうだから反論はすまい。儀式に必要な魔力量を見誤ったのじゃ。使用した魔力は、当時大陸中に蔓延していた物に加え、私の中にあった全ての魔力、そして私が儀式を行ってから先、数千年分の魔王の魔力じゃ」


「未来から前借したって事か?」


「いくら私が、賢くて可愛くても未来から前借なんて出来ないのじゃ。必要な魔力に達するまで、儀式が発動待機状態になっただけじゃよ」


「……なるほど」


 面倒だからツッコまないぞ。


「しかも、儀式を発動した時点で私の魔力は全部持っていかれたから、そのままぽっくり逝っちゃったのじゃ」


「……」


「それで、魔王って死ぬとすぐに次の魔王が生まれるんじゃけど……次の魔王が生み出した魔王の魔力は全部儀式が持って行っちゃって……私以降の魔王はすぐに死ぬことは無かったんじゃが、物凄く虚弱体質で生まれてくることになって……それが五千年くらい続いたわけじゃ」


「……」


 ……まぁ、見方を変えれば魔王の魔力をどうにかするっていう目的は叶っている気がするな?


 虚弱に生まれた魔王達にとっては超迷惑だっただろうが。


「そ、そうじゃろう?凄いじゃろ?なんだかんだで、魔王の魔力を何とかするという願いを自力で叶えておったわけじゃからな!」


「……続きは?」


 なんか色々問題があるのだが……ツッコみきれないのでとりあえず最後まで話を聞こう。


「う、うむ。それで……今代の魔王の魔力が凄くての?儀式に魔力を奪われながらも、じわじわと大陸に魔王の魔力を広げていってのう。今代の魔王が生まれたのは百年程前なんじゃが、それでここ最近になって、狂化という現象が蘇ってしまった訳じゃ。そんな中、必要な魔力量に達した儀式が遂に発動、魔王の魔力をどうにかする手段として、異世界のゲーム『ソードアンドレギオンズ』に目を付け、それをこの世界に具現化したわけじゃ」


 それが、俺……俺達がこの世界に呼び出された原因であり理由……?


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