第66話 主人公



「兄貴!いや、神兄貴!いや、髪兄貴!こちらです!」


「その呼び方はやめろ」


 元スキンヘッド君、現ロン毛君が目をキラキラ輝かせながら俺の事を兄貴と呼んでくる。


 いや、兄貴はともかく、髪兄貴ってなんだ……どんな兄貴だ。尊敬の念が一ミリも感じられない呼び名だろ。


 まぁ、呼び名はさておき、ロン毛君は意気揚々と俺達の事を案内してくれている。


 どうやらこのロン毛君はゴロツキではなく、魔道具技師と呼ばれる職人だったらしい。


 因みに二号は革職人、三号は細工職人、スキンブルーは木工職人と若いながら自分の店を持つ、ちゃんとした職人の集団だったらしい。


 ロン毛君以外は妻帯者なので、同じスキンヘッドでも格差はあるようだけど……今のロン毛君は希望に満ち溢れた顔をしているし、顔もかなり良いのできっと幸せになれる事だろう。


 それと、ロン毛君の名前はオスカーと言うらしい。


 名前と言い、顔と言い、髪型と言い……どこまでも耽美な感じで行くらしい……性格は下っ端のごろつきだけど……。


 そんなオスカーに案内されて向かっているのは、彼の店兼工房だ。


 魔道具とは、なんか魔法の道具的なもので……街灯とか噴水とか……なんか色んなものに使われているらしい。


 うん、かなり適当な説明をしている自覚はあるが、カルモス達に聞いても魔法の道具で便利なものです、くらいしか教えてくれなかったのだ。


 まぁ、でも……俺も電化製品って何ですか?って聞かれても……電気で動く便利な道具だよ、としか説明できない気がするし、さもありなんって感じだ。


 専門家であるオスカーに聞けば教えてくれるだろうけど……あまり専門的な言葉をツラツラと並べられても分からないからな……職人やエンジニアはそういう所あると思う。


 何故魔道具に興味を持ったかというと、街を歩いている時に街灯を見て思ったのだ、アレの動力源はなんなのだろう?と。


 疑問に思った俺がウルルに聞いてみたところ、あれも魔道具の一種で、動力源は魔力らしいと教えてくれた。


 それを聞いて、俺の知っている電化製品を魔道具で再現できれば、国の良い収入源になるかも知れない……そう考えた俺は魔道具の事を調べようと思っていたのだが……そんな時にオスカー達に絡まれて……今に至るという訳だ。


「髪兄貴!遠い所、ご足労いただき申し訳ありません!ここが俺の店です!」


「……思っていたより立派だな」


 オスカーが立ち止まった店は、少し大きめなコンビニくらいのサイズの店舗で二階建てだった。


 個人経営の古本屋みたいにこじんまりした物を想像していたのだが……外から中の様子を見ることは出来ないが、中々立派な建物なのは間違いないだろう。


 隣のパン屋と比べても倍くらいの敷地面積がある。


「ありがとうございます!一階が店舗で、二階が工房兼自宅です!」


「まさに自分の城だな。凄いじゃないか」


「へへっ!恐縮です!」


 手に職もあり、家もある……スキンヘッドではあったが、顔もかなりイケメン……何故モテない?中々の優良物件だと思うのだが……性格に難ありか?


 酔っぱらって知らない人間に因縁をつけるような奴だからな……そこまで感じの悪いタイプではないと思うが……まぁ、どうでもいいか。


「髪兄貴達のお役に立てればいいんですが……あれ、鍵が……またアイツか」


 鍵を開けようとしたオスカーが、ため息をつきながら扉を開けて中に入っていき、店の奥に向かって声を張りあげる。


「おい!パティ!勝手に鍵開けて入んなって言ってんだろ!」


「あ、オスカー!昼間っからお店閉めて何やってんのよ!っていうか朝からいないって……誰!?」


 大きな声で返事をしながら、店の奥にある階段から女性が下りてくるが……その途中でオスカーの姿を見て固まる。


「朝までフェルナンド達と酒呑んでたんだよ」


 そんな女性の様子を気にもせず、オスカーは肩を竦めながら答える。


「……オスカー?」


 対して女性は、眉間にしわを寄せながら、訝し気にオスカーの名前を呼ぶ。


 っていうかフェルナンドって……その話の流れからしてあのチームスキンヘッドの誰かだよな?


 めっちゃ高貴な感じのする名前じゃない?グスコと替えてあげて欲しい。


 俺がそんなことを考えている間に、オスカーと女性の会話は進んでいる。


「ん?何言って……あ!……ふっ。勿論、俺がオスカーだが、何か?」


 そう言って、オスカーは髪をかき上げる。


 ぶっちゃけ、その恰好はかなり似合っている……とてもつい先程、女性にふられ、地面に寝ころび泣きじゃくっていた奴と同一人物とは思えない。


「ど、どうしちゃったのよ?え?カツラ?」


「ふっ、何を言っている?地毛に決まっているだろう?」


 手でふぁさっと髪を靡かせるオスカー……ちょっとうざくなって来た。


「え……そんな……もしかして、女の子にふられてショックで生えて来たの?」


「そんな夢みたいなことある訳ないだろ!?その程度で生えて来るなら、世の中禿なんていねぇんだわ!?」


 一気に激昂したな……まだ禿は禁句らしい。


「じゃぁ、なんで一日でそんなことになってるのよ……仮にそれが地毛だったとしても伸びるの速すぎるでしょ」


「ふっ……それは、こちらの髪兄貴のお陰だ!」


 バーンとでも効果音がなりそうなポーズをとりながら、オスカーが俺の事を紹介する。


 いや、紹介はしてないな、これっぽっちも。


「え?何?髪……?」


「髪兄貴だ!愚か者!」


「誰が髪兄貴だ!愚か者!」


 俺は思わずオスカーの頭を叩く。覇王になってから初めて誰かに突っ込んだかもしれない。


 勿論、手加減は全力でしているが……気軽に突っ込みも出来ない体になってしまったな。


「か、髪兄貴……頭は……頭は御勘弁くだせぇ……」


 涙目になったオスカーが俺に懇願するように言ってくる。


 そんなオスカーにため息を返した俺は改めて名乗ることにする。


「俺の名はフェイだ。次変な呼び方をしたら毟り取るからな?」


「こちらフェイの兄貴だ!そしてこちらが奥方であるリーンの姉御だ!控えおろう!」


 即座に呼び方を変えたオスカーが俺とリーンフェリアの事を紹介する。


 控えおろうって、俺は何処の黄門様だ……いや、現役の覇王様だから黄門様より上だな。


「えっと……私はパティです。初めまして。そこのソレとは昔馴染みです」


「私はフェイ、彼女は妻のリーンです。縁あってオスカー殿と知り合い、店を構えているということで、魔道具について色々とお話をさせてもらおうと思い伺った次第です」


「あ、なるほど……ってオスカー、お客さんって事じゃない!何ぼさっとしてるのよ!早く奥に案内して!私はお茶を用意してくるから!」


 そう言ってパティさんは慌ただしく階段を駆け上がっていく。中々元気な女性だが、しっかりしているようだ。


「すみません、兄貴。煩い奴で」


 申し訳なさそうな表情をしながらオスカーが頭を下げる。


「いや、それは構わないが、彼女は従業員か?」


「違いますよ。隣のパン屋の娘です。昔から家族ぐるみで付き合いがあったんです」


「へぇ……」


「うちは早くに両親が亡くなっちまって……パン屋のおじさん達には昔から世話になっているんですよ。その延長って感じで、飯作ってくれたり、色々家事とかやってくれる……まぁ、妹みたいな奴ですね」


「へぇ……」


 なんだコイツ?ギャルゲーの主人公みたいな設定持ち出してきたぞ?


「っと、すみません、兄貴。奥へどうぞ、小さいけど応接室があるんで」


 そう言って店の奥に進んでいくオスカー。


 え?コイツそんな女の子が傍に居るのに、他の女に振られたとか言って泣いてたの?


 ふざけているのかしら?その髪やっぱ毟り取ろうか?


 いや、もしかしたらパティさんは既婚者って可能性も……無いか……いくら家族みたいな相手とは言え、男の世話を甲斐甲斐しくするなんて、旦那さんが許すとは思えない。


 まぁ、パティさんもオスカーの事を、世話の焼ける弟くらいにしか思っていない可能性もあるか……。


 実情がどうであれ、傍から見れば爆発しろ案件なのは間違いないと思うが……オスカーはイケメンだし、パティさんも可愛らしい感じの人だ。お似合いではあるが爆発して欲しい。


「……お、おくがた……つ、つま……」


 俺は真っ赤になってぷるぷる震えているリーンフェリアを再起動させてから、オスカーの後を追った。


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