第65話 H・A・G・E!
もはや涙も枯れ、虚ろな表情で仰向けに倒れているスキンヘッド君……そんな彼を心配そうに見つめるチームスキンヘッド。
俺はそんな彼らを少し離れた位置から見ている。
いや、別に立ち去っても良いのだが……丁度良い事を思いついたので、ウルルに一度城に帰ってもらい、ある薬を取って来てもらっているのだ。
「……お待たせ……持ってきたよ」
「御苦労……折角の機会だ、奴には実験台になってもらおう」
ウルルから薬を受け取ると、彼女はまた何処へともなく消える。
今俺がウルルから受け取ったアイテムは毛生え薬。宝物庫にあったアイテムではなく、通常アイテムが保管されている倉庫にあった物だが……ゲーム時代、このアイテムを持っておくと、敵軍に雇われている禿の傭兵を味方にすることが出来るというイベントアイテムだ。
因みに使い道はそれしかなく、仲間になる禿の傭兵も多少武力が高い程度で殆ど役に立たない。
まぁ、そのキャラ自体は嫌いじゃなかったので、毎回仲間にはしていたけど……ご多分に漏れず、覇王ルートの邪神編でさくっと敵に回るので、さくっとやってしまっている筈だ。
因みにこの毛生え薬、ゲームでは、禿の傭兵に渡した次の瞬間そいつのグラフィックが変わり、禿からもっさりアフロになるのだが……もしここでも同じくらい効果があるのであれば……開発部で作ることが出来るアイテムだし、量産すればすんげー儲かるかも知れない。
だって髪は長い友であって欲しいものだもの……蘇生出来るなら、是が非でもしたい友だもの……。
とりあえず、完全に魂も毛根も抜け去って真っ白になってしまっている彼に使ってみて、効果を確かめてみようと思う。
天然アフロになったら微妙だが……あのキャラがそういう髪質だったと思いたい。
俺はそんなことを考えつつチームスキンヘッドに近づく。
「まだ放心しているのか?」
「……」
「……ここにとある薬がある。お前の失った友人を蘇らせることが出来るかもしれない薬だ」
「……失った……友人……?何を……?」
真っ白になったスキンヘッド君が虚ろな表情のまま、少しだけ俺の言葉に反応する。
まぁ、漢字ネタは伝わる訳がないか……。
「……使えば解る。だが効果があるかどうかは分からない。酔い覚ましみたいなものだと思っておけ」
そう言って俺は、倒れているスキンヘッド君に毛生え薬をぶっかける……飲み薬じゃないよね?
「うわっぶ、だ、な、何しやがる!」
顔に液体をかけられて、スキンヘッド君が再起動して体を起こす。
口に入ったかもしれないけど……口の中に毛が生えないことを祈ろう。
「お前が何時までも呆けているからだろう?とっとと目を覚まして謝罪しろ」
「なんで俺が謝罪なんか!」
顔を拭いながら、反省の色が全く見えないスキンヘッド君が声を荒げる。
「そりゃ、俺達に迷惑をかけたからな。お前の友人からは謝罪されたが、肝心のお前からは一言も謝られていない」
「ちっ、謝る必要が……」
「ふぅ……お前はやけ酒に付き合ってくれた友人達にだけ謝らせて、それでいいのか?」
「ぐっ……」
呻いたスキンヘッド君は、周りで心配そうに見ているチームスキンヘッドを見渡したあと、地面に座ったまま深く頭を下げる。
「……くだらない真似をして悪かった。俺の事は衛兵に突き出す成りなんなりしてくれて構わねぇ」
「……まぁ、いいだろう。別にこっちも怪我をしたわけじゃないからな。それに薬の実験台にもなってもらったし、水に流してやろう」
俺がそう言うと、スキンヘッド君が頭を上げる。
「感謝す……ん?まて、薬の実験台ってどういうことだ?」
「あぁ、さっき気付け代わりにぶっかけたのはとある薬だ」
「はぁぁ!?ちょ、え?何してくれてんの!?どんな薬だよ!?実験台ってどういうことだよ!?」
スキンヘッド君が取り乱しながら立ち上がり、俺の胸倉を掴みかかろうとしたので先程と同じ要領で転ばせる。
「まぁ、落ち着けよ。別に体に害のあるものじゃない……多分」
「今多分って言ったか!?ごらぁ!?」
「それだけ元気なら問題ないだろ?っと……おぉ、効果が出てきたようだな」
地面に転がしたスキンヘッド君の頭皮から、ところてんが押し出されるような感じで髪の毛がにゅるっと出て来る。
はっきり言って、めちゃくちゃキモイ。
周りにいたチームスキンヘッドも驚きながら身を引いている。
俺も思わず掴んでいた手を離して二、三歩下がってしまった。
何が起こったか理解していないのは当人のみだが……周りのリアクションは見えている訳で、涙目になっている。
「え?ちょ、ちょっと待って!?な、何?何が起きているの!?いやっ!こわい!」
若干台詞が女の子っぽくなったスキンヘッド君が立ち上がり、二号に詰め寄るも、二号はスキンヘッド君の頭頂部を見ながら思いっきり飛び退る。
「ま、まって!え?何!?俺の頭どうなってるの!?」
そう言いながら自分の頭にばっと手を伸ばし……。
「ほぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
よくバラエティ番組とかでやっている、中身の分からない箱に手を突っ込んで、中に入っているものを当てるゲームをやった奴と同じようなリアクションを取るスキンヘッド君。
その間も髪はわさわさと伸びて行き……肩をこえ、胸元くらいまで届く長さになってようやく伸びるのを止めた。
「ひ、ひぇ……こ、これ、これは!か、か、かかか、髪!?」
胸元に伸びて来た髪を掬い上げ、目の前に持って行きながら元スキンヘッド君が叫ぶ。
「ふむ……実験は成功だな。いい具合に伸びているし……アフロでもない」
というか、さらさらと音がしそうなくらいの超ストレートの黒髪だな。
毛の量も問題無さそうだし……。
「おい、スキンヘッド君。ちょっとこっちを見てみろ」
「へ?」
地面に座り込んで俯き、手に取った髪を凝視している元スキンヘッド君を呼び、顔を向けさせる。
ふむ……他の顔の部分にも薬はかかっていたけど、眉毛も鼻毛も髭も特に伸びている様子は無し……っていうか、あれ?こいつめっちゃイケメンでは?
なんか乙女ゲームに出て来そうな、さらさらロングヘアの耽美な感じのキャラに変身したんだが?
整形効果は……ないよな?
ゲームの時は、アフロになっただけで顔はそのままだったし。
ひとまず薬使用後の問診でもするか。
「体調はどうだ?違和感とかあるか?頭や他の部分が痒かったりとかはないか?」
「え……?いや……ない、けど……」
「けど、なんだ?何かあるなら出来る限り詳しく教えてくれ」
「いや……その、これは、一体?」
取り乱した様子で元スキンヘッド君が俺、そしてチームスキンヘッドを見渡す。
彼が首を動かすたびに、髪がさらさらと音を立てて揺れる。
「鏡って持ってるか?」
俺が少し離れた位置にいるリーンフェリアに問いかけると、小走りに近づいて来たリーンフェリアが手鏡を渡してくれる。
「助かる……ほら、見てみろ」
俺が目の前に鏡を持って行くと、目をひん剥きながら元スキンヘッド君が絶叫する。
「俺の!髪が!ある!なんで!?」
「薬の効果だ」
「く、くしゅりしゅごい……あ!待って!頭頂部!頭頂部はどうなってるの!?」
そう叫びながら鏡に頭頂部を映そうとするが、鏡一枚でそれを見るのは難しそうだ。
……いや、首を素早く動かしても見えるもんじゃないからね?
俺の翳している鏡の前で、ヘッドバンキングを繰り返す元スキンヘッド君を見かねたのか、二号が声をかける。
「大丈夫だ、問題ない」
「大丈夫って何が!?あるの!?無いの!?」
「大丈夫だ、ちゃんとある」
「ちゃんとあるってどっちが!?髪が!?禿が!?」
若干しつこい感じになってきた元スキンヘッド君に、二号が軽く舌打ちした後口を開く。
「大丈夫だ。ちゃんと頭頂部にも髪はある、禿なんかどこにもねぇよ!」
「ふおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
歓喜の叫びが領都に響いた。
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